第3話 始まり
航を見ていると、お兄さんの雄大を思い出さずにはいられない……
航の兄の雄大とわたしは、同じ大学で同じ学部・同じ学科だった。
同じ学科の70人余りいる生徒の中で、お互い顔は知っているという程度だったのだけれど、それがある日を境に仲良くなっていった。
その日は朝から雨が降っていたものの、夜にはやんだので、バイト帰りの暗い夜道を、傘を武器にするかのように歩いていた。
駅の改札をぬけて、少し細い道に入ったところで、ずっと後ろから誰かがついて来ていることに気が付いた。
駅からマンションまでは歩いて10分くらいの距離だったけれど、一か所だけ暗いところがある。以前は工場だったところで、廃業になった後も建物がそのまま残っていて、明かりがなく、まわりに家もない。遅くなった日は、そこだけ怖くていつも早歩きをしていた。
わたしの方が少し先を歩いていたのだけれど、後ろから来る足音はだんだんと近づいていて、その工場の跡地のところまで来た時に、わたしは振り向いて、傘を相手に向けた。
いきなり向けられた傘の先端に男が驚いて、持っていたコンビニの袋を落とした。
袋の中からガムテープとビニール紐がのぞいた。
本気でやばいと思った。
「あ、同じ学科の……」
向こうが先に気が付いた。
そう言われてこちらも気が付いた。名前は知らなかったけれど、確かに顔は知っている。
その人は落としたガムテープとビニール紐をビニール袋に入れながら、急に笑い出した。
「ごめん。痴漢と間違えたんだよね? 持ってるのもこれってまさにやばい感じがする。僕、すぐそこのマンションに住んでるんだ」
指差した先にあるのは、わたしが住んでいるマンションだった。
「……わたしもそこのマンション」
「203号室に住んでる、嶋内雄大です」
「嘘……わたし202号」
「お隣さんだ」
「ごめんなさい。藤崎真帆です。駅からずっとつけられてると思って……」
「しかも、持ってたのガムテと紐だから驚かせたよね。まだ引っ越しの時の段ボールがそのままで、さすがにこの連休に片づけようと思って買ったんだけど」
ふたりで笑い合った。
一緒にマンションまでの道を歩き、階段を上がった。
そして、並んでお互い鍵をさして、ドアを開けた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
それが始まりだった。
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