第24話 九角武丸、拐われた領主の娘を見つける


「まずは怨霊弾!」

「ギャアッ!?」


 以津真天の頬面の口許から苦悶の表情を浮かべた人魂が発射されて、マジムン海賊の一人に命中し、半分近くヒットポイントが減った上に、徐々にスリップダメージで削られ死亡する。


(うっへ! マジックポイント半分近く減った上に、ディレイ時間が3分はきつすぎるぞ!?)


 実際にスキルを使って見るとデメリットが強く感じる。


「旋風撃!」

「ぐあっ!?」

「かはっ!」

「ぎゃっ!!」


 派生で攻撃範囲が通常の1.5倍になった旋風撃は、このエリアにいたマジムンの海賊全員を対象にしてダメージを与える。


「もう一回旋風撃!」


 駆け出しの防具セットのお陰で消費も少なく、ディレイ時間が減少しているお陰で連続攻撃として使え、マジムンの海賊のほとんどを倒す。


「くっ、死ね!」

「おっと! バッシュ!!」

「グハァッ!?」


 連続旋風撃から生き残ったマジムンの海賊が反撃してくるが、太刀で弾いてバッシュスキルを打ち込む。


「あ、倒してしまった………これじゃあスタン効果がわからないな」


 派生でスタンを追加したバッシュの効果を確認しようとしたが、威力が強すぎたのか倒してしまい、マジムンの海賊を全滅させる。


「武丸ちゃん、お疲れ様!」

「楽させてもらったよ」

「いい戦いっぷりだったよ」


 マジムンの海賊達が全滅すると、ラウラやゼノビア、アリスが合流してくる。


「なかなかいい動きだね。囲まれたら手助けしようかと思ったけど余計なお世話だったな」

「以津真天戦でも思ったけど、初心者の割りには動きにキレがあるし、躊躇も見えなかったね。リアルでも何か格闘でもやってるのかい?」


 ゼノビアとアリスは俺の戦いかたを誉めてくる。


「そりゃ、武丸ちゃんは九角流兵法術の門下生だもん」


 ラウラはふふーんと自慢するように胸を張って俺が学んでいる流派の名前を言う。


「………ごめん、知らない」

「検索したらホームページと動画チャンネルが出てきたけど、聞いたことないね」

「あれ?」


 ゼノビアとアリスは俺が学んでいる流派の名前を聞いてもピンとこないのか、リアクションが薄く、ラウラは期待していた違う反応を見せる二人をみて戸惑っている。



 武術界隈ならそこそこ有名だと自負しているが、世間一般ではゼノビア達のリアクションが普通だろう。


「とにかく、武丸はその武術を習ってるから動けるのだな」

「プロゲーマーの一部は格闘技も習ってゲームに活かしてると聞いたこともあるから納得だよ」

「それよりも先に進もう」


 俺は話を切り上げてクエストを進めるために、沈没船の船内へと足を踏み入れる。


「意外と綺麗だな」

「ゲームだからか、アジトとして使っているからかどっちだろうねえ?」


 ゼノビアとアリスが言うように沈没船の内部はボロボロの外見と違って綺麗に整理整頓されており、船内だけを見れば普通の船と勘違いしそうだった。


「ふざけるなっ! 話が違う!!」


 船内を探索すると、男性の怒鳴り声が聞こえてくる。


「何かクエストが進行したのかな、武丸ちゃん」

「かもな? 取りあえずラインルートにそって動くぞ」


クエストは船内を探索するから怒鳴り声の主を探すに変更されて、新しくクエストラインルートが表示される。


「ダントーイン帝国を裏切るつもりかっ!」

「お前の勝手で俺たちまで帝国に目をつけられるわけにはいかない」


 クエストラインルートにそって進んでいくと、怒鳴り声は複数人になり、誰かを糾弾しているような内容になる。


「仲間割れかな?」

「っぽいな。先に進む度に怒鳴り声が聞こえて情報が貰える感じだな」


 ラウラが俺の肩を叩いて話しかけ、俺は頷いて先に進む。 


「領主の娘には手を出すなとダントーインから言われただろっ!」

「難破した扶桑同盟の時とは違うんだ!」

「ダントーインとの約束を破れば俺達マジムンまで滅ぼされちまうぞ!」


 どうやらマジムンとダントーイン帝国は何らかの協定を結んでいたようだが、マジムン側の誰かが裏切ろうとして内紛になりかけている。


「ウルトル! 裏切るつもりかっ!!」

「なっ!? 何だそのアンデッドは!」 

「よせっ! やめろっ!! う、うぎゃあああ!!」


 争う音と断末魔が進行ルート先にある船倉エリアから聞こえてくる。


「ボス戦かもしれないからバフかけるね」

「よろしく頼む」


 ラウラがメンバー全員にバフをかけて、自分も手数を増やすためにサモンモンスターで石の狛犬を二匹呼び出す。


「お? 数か増えた?」

「サモンモンスターのスキルレベルが上がると、呼び出すモンスターをスキルレベル分改造できるの。今回は呼び出す数を増やしてみたの」


 ラウラはそう言って、呼び出した石の狛犬の頭を撫でる。

 石の狛犬達は本物の犬のように尻尾を振っていた。


「よし、行くぞ!」


 俺は扉を開けると、無惨に殺されたマジムンの海賊達の死体が無数に横たわる船倉の中心に、コレリア王国調査団で目撃した新人調査員に偽装していたウルトルと、額にお札を張った古代中国の死装束に身を包んだキョンシーと言うモンスターネームのアンデッドがおり、その二人の後ろには船の柱に鎖でヒロイン拘束された領主の娘がいた。


「ちっ、もう嗅ぎ付けたか! キョンシー! 奴らもアンカグアーの贄にしろっ!!」


 ウルトルはそう言って懐から取り出した転移石を叩き割って逃げ、キョンシーと呼ばれたアンデッドモンスターはウルトルの命令に従うように目が開き、両手を付き出してビョンピョンピョンと跳ねながら襲いかかってくる。


 それと同時にクエストも難破船を調べるからキョンシーを倒して領主の娘を助けるに内容が変わった。


「バッシュ! うわ、かった!?」


 キョンシーを迎撃するようにバッシュスキルで攻撃するが、物理防御力が高いのかあまりダメージが入らない。


「ウーッ!」

「おっと!」


 キョンシーは呻き声を上げながら突進してくる。

 俺はキョンシーの突進を横に烏跳びで回避し、すれ違い様に一撃を与えるがあまりダメージが通らない。


「武丸、キョンシーは物理防御力が高いから、怨霊弾などの魔法攻撃でダメージを与えるんだ」

「わかった。怨霊弾!」


 ゼノビアからキョンシーの特徴を教えられた俺は怨霊弾をキョンシーに当てる。

 バッシュスキルなど物理攻撃とはうってかわって魔法攻撃である怨霊弾はキョンシーにかなりのダメージを与え、さらにスリップダメージでどんどんヒットポイントが減っていくのが見えた。


「マジックショット!」

「ファイヤーアロー」

「爆破!」


 ゼノビアがフリントロックピストルで魔法属性ダメージを、アリスがスリップダメージ付きの炎の矢を、ラウラが魔法属性の爆発と、次々と魔法スキルで攻撃してキョンシーにダメージを与える。


「ガアアアーッ!」

「タゲがこっちに移ったか」

「させるかっ! ノックバックストライク!!」


 魔法ダメージを与えすぎたのか、キョンシーは俺を無視してゼノビア達に攻撃しようとするが、ノックバック効果のあるスキルでキョンシーを吹き飛ばして距離をあける。


「行けっ!」

「ワン!」


 ラウラの指示で二匹の石の狛犬がキョンシーに向かい、足に噛み付く。


「ウガァッ!」

「ギャンッ!?」


 キョンシーは自分の足に噛み付いてくる石の狛犬を次々と蹴る。

 キョンシーの蹴りにはノックバック効果があるのか、石の狛犬達を吹き飛ばす。


「アサルトダッシュ!」

「マジックショット!」

「アイスアロー」

「爆破!」


 俺は突撃スキルでキョンシーとの距離を詰めて攻撃し、ゼノビアとラウラは同じスキルを、アリスは移動力低下効果のある氷の矢を放ち、キョンシーのヒットポイントを削っていく。


「バアーッ!」

「あぶねっ!」

「キャイン!?」


 キョンシーは両腕を付き出したままその場で一回転して範囲攻撃を行う。

 俺はギリギリで回避したが、ラウラが呼び出した石の狛犬達は直撃を更けて粉砕される。


「ウガーっ!」

「ノックバックストライク! 行かせねえっつの!」


 狛犬達を粉砕したキョンシーは一番ダメージを与えてくるアリスに向かって真っ直ぐに突進していこうとするが、再度ノックバック効果のスキルで吹き飛ばす。


「お、アルティメットスキルのゲージが貯まったか。それじゃあ、お前で試させてもらうぜ! フェイタルブロウ!!」


 アルティメットスキルを使うのに必要なゲージが満タンになっていることに気づいた俺は、牙突と呼ばれる平突きの構えでキョンシーに向かって突撃して、太刀を突き刺しアルティメットスキルを発動させる。


「ガアアアァァァァっ!!!」


 それが止めとなって、キョンシーは断末魔をあげてボロボロと肉体が崩れ落ち灰となる。


「よしっ! 領主の娘さんを助けてクエスト進めるか」


 俺は柱にヒロイン拘束されている領主の娘を解放する。


「ううん、ここは? あなた達は?」

「俺達は扶桑同盟の者だ。あんたが拐われたと聞いて助けに来た」


 拘束から解放すると、領主の娘は意識を取り戻す。


「早く父の元へ戻らないとっ! マジムンの海賊とダントーイン帝国は手を結んでいます!!」

「よし、戻るか」

「私が転移石を使おう」


 領主の娘を解放すると、今度は娘を領主の元まで連れていくクエスト内容に変わる。

 ゼノビアがそう言うと、アイテムボックスから転移石を取り出して地面に叩きつけ、アコンの街へ戻る。


「ありがとうございます」

「こっちも目的の以津真天倒せたし、気にするな」

「あ、武丸ちゃん。そろそろ落ちる時間だよ」


 アコンの街に転移してゼノビアにお礼を言っていると、ラウラが俺の袖を引っ張りながらログアウトする時間だと教えてくれる。


「俺達はそろそろ落ちます」

「そうかい? おつかれさん」

「お疲れ様」


 現実時間を確認すると同時に俺のVRカプセルにセットしたアラームが鳴り響き、ゼノビアとアリスに別れを告げてチームを解散する。



「あ、ゼノビアさん、アリスさんフレンド登録いいですか?」

「ああ、構わないよ」

「俺もいいか?」


 ラウラが思い出したように手を叩いてゼノビアとアリスにフレンド申請送り、俺も便乗して登録する。


「それじゃあ、お疲れ様でした」

「お疲れ様です」


 俺とラウラは挨拶をしてログアウトした。






──キャラクターデータ──


名前:九角武丸

種族:人間

キャラクターレベル:10レベル

クラス:ファイター13レベル

スタミナポイント:13レベル


パッシブスキル

刀マスタリー8レベル:武器種別刀を装備すると物理ダメージボーナス


豪腕:両手武器物理ダメージボーナス


獅子心:物理ダメージボーナス


剣禅一如:物理クリティカルボーナス


調薬:回復アイテムなどを作れる。


鍛冶:武器、重装防具製造可能


服飾:軽装防具製造可能


木工:魔法の杖、弓、盾、家具製造可能


装飾:アクセサリー製造可能


アクティブスキル

バッシュ5レベル:単体物理ダメージ


旋風撃5レベル:範囲物理ダメージ


アサルトダッシュ2レベル:敵に突撃する単体物理ダメージ


ノックバックストライク:対象を吹き飛ばす単体物理ダメージ、吹き飛ばした先に障害物などがあると追加ダメージ


アルティメットスキル

フェイタルブロウ:クリティカル扱いで対象単体に防御無視で大ダメージを与える。



名前:ラウラ

種族:人間

キャラクターレベル:10レベル

クラス:魔法使い13レベル

マジックポイント:13レベル


パッシブスキル

調薬:回復アイテムなどを作れる


鍛冶:武器、重装防具製造可能。


服飾:軽装防具製造可能


木工:魔法の杖、弓、盾、家具製造可能


装飾:アクセサリー製造可能


回復量修練:回復スキルの回復量ボーナス


詠唱時間短縮:魔法スキルの発動時間短縮


アクティブスキル

治癒の光10レベル:単体HP回復


爆破2レベル:範囲魔法ダメージ


ブレス2レベル:単体魔法防御力ボーナス


守護結界2レベル:単体物理防御力ボーナス


魔力の刃2レベル:単体物理ダメージボーナス


マスヒール2レベル:範囲HP回復


ライフシード2レベル:単体に一定時間HP自動回復


サモンモンスター2レベル:味方モンスターを召喚して戦わせる。


アルティメットスキル

大復活:範囲内の戦闘不能になったプレイヤー全員を復活させる。


ゼノビア

種族:エルフ

ギルド:フレッシュ! シルバーガールズ!!

キャラクターレベル:50レベル

クラス:ガンナー52レベル

スタミナポイント:65レベル


スキル:たくさん



名前:アリス・キテラ

種族:人間

ギルド:フレッシュ! シルバーガールズ!!

キャラクターレベル:50レベル

クラス:魔法使い53レベル

マジックポイント:65レベル


スキル:いっぱい

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