第21話 九角武丸、レアエネミーの以津真天と遭遇する


「蛇は北にむかってるね」

「地図ではなにもないな?」


 領主の館で見つけたマジムンの脅迫文。

 扶桑同盟の晴嵐人であるバクヤの術で脅迫文は蛇に代わり、持ち主の元へと向かっているのでそれを俺達は追いかけている。


「ここは………船の墓場か?」


 道中生産材料や野良MOBを倒しながらついていくと、島の最北端に辿り着く。

 そこは岩礁と沈没した船が無数にあり、船の墓場と言う言葉が似合う風景だった。


「バクヤの術が切れた?」


 蛇に変化していた脅迫文は船の墓場に辿り着くと元の手紙に戻る。


「このエリアから誘拐された領主の娘を助けろってことか」

「武丸ちゃん、あそこから行けそうだよ」


 ラウラが指差す方向には浜辺に乗り上げて座礁した船、マストが折れていて、それが橋のように次の沈没船にもたれている。


「あんた達クエストかい?」

「ん?」


 砂浜に乗り上げた船に向かおうとすると、声をかけられる。

 声のした宝方向に視線を向けると、お伽噺に出てくるような魔女のような外見の鉤鼻の老婆と、白髪眼帯軍服姿の老女エルフの二人組がいた。


 魔女の方はアリス・キテラ、エルフの軍人はゼノビアと名前が、名前の下には【フレッシュ! シルバーガールズ!!】と言うギルド名が表示され、二人のレベルは50レベルだった。


「フレッシュと言うより、枯れッシュな───」

「坊や、口は災いの元とママから教わらなかったのかい?」


 ラウラに耳打ちしようとすると、エルフの軍人であるゼノビアがいつの間にか俺のこめかみにフリントロックピストルを突き付け、葉巻の吸い口を噛み千切りながら此方をみていた。


「教わりました! お姉さん!!」

「ふっ、素直な子は好きだよ」


 本能的に逆らってはいけない気がしたので、両手を上げて叫ぶと、ゼノビアは俺に突き付けていた銃を葉巻の先に近づけ、引き金を引くとライターのように銃口から火が出る。


「で、話を戻すけど………二人はクエストかい?」

「はい、拐われた人質を助けにいくとこです! お姉さん達もですか?」


 ゼノビアの問いにラウラが元気良く答える。


「あたし達は以津真天と言うレアエネミー狙いだよ」

「レアエネミー?」


 ラウラの質問にはアリスが答え、俺はこんな初期エリアにレアエネミーが?と周囲を見回す。


「ああ、一定の確率で出現するモンスターで、ここだとその以津真天がレアエネミーに該当してね。出没条件が勢力クエスト進行中のみらしいと聞いてね。私達がクエスト受けた時は出なくて、他のプレイヤーを待ってたんだよ」

「そこに俺達が来たから話しかけてきたと」

「ご名答」


 ゼノビアが葉巻をふかしながら自分達の目的を話す。


「そこでだ、クエストを手伝うから以津真天が出たら一緒に討伐させてくれないか? 私たちは実績解除狙いだ」

「実績?」

「特定のモンスターを討伐したり、クエストなどクリアすると実績が解除されて二つ名が貰えたり、装備の染料貰えたりするんだよ、武丸ちゃん」


 実績解除と聞きなれない言葉を聞き返すと、ラウラが実績について教えてくれる。


「なんだい、そっちの坊やは初プレイかい?」

「ああ、ラウラに誘われて昨日始めたばかりだ」

「おやおやガチの初心者かい。ようこそエターナルクエストオンラインへ」

「ギルドの加入条件がなければ誘ってたのにねえ」


 ゲームを始めたばかりだと伝えると、ゼノビアとアリスは急に優しくなり、歓迎の言葉をくれる。


「ギルドって加入条件とかあるのか?」

「ギルドによって違うけど、うちはリアル年齢が65歳以上の女性であること、プレイヤーキャラクターは老婆であることが条件なんだよ」

(老婆なのにフレッシュって………)

「………いまなにか失礼なこと考えなかったかい?」

「いいえっ! なにも考えてませんっ! マム!!」


 アリスの自分達が所属しているフレッシュ! シルバーガールズ!!と言うギルドの加入条件を説明聞いて思わず口に出そうになった言葉を飲み込むが、その仕草をみていたゼノビアがジト目で此方を見つめてくる。


「話を戻すけど、どうだい? 以津真天がでなくてもこのクエスト最後まで手伝うよ」

「手伝ってくれるのは嬉しいが………ラウラ、レベル差的にどうなんだ?」

「そこは大丈夫だよ、武丸ちゃん! 大分前のアップデートで各キャラクターのレベルにあわせて敵の強さが変わるシステムになってるから」

 レベル差的に迷惑をかけないかとラウラに相談するとその問題は解決していると教えてくれる。


「どういうことだ?」

「つまり、私たちがチーム組んで以津真天と戦ったとする。君達からしたら9レベル相当の以津真天であり、私達からすれば50レベル相当の以津真天でもある」

そ「ゲームシステムが調整して、レベル差あっても問題なく遊べるとだけ理解したらいい」


 レベル差調整についてアリスとゼノビアが説明してくれる。


「問題ないならいいよな?」

「武丸ちゃんさえよければ私はいいよ」

「なら、お手伝いよろしくお願いします」


 ラウラに確認とって問題がないとわかれば俺はゼノビアとアリスの二人にチーム加入申請を送る。


「よろしく頼むよ」

「このクエストの間宜しくな」


 アリスとゼノビアが俺達のチームに加入し、砂浜に乗り上げた船の横っ腹に空いた穴から船内に入る。


「そういえば役割話してなかったな。私はガンナーだ」

「私は見ての通りの純粋魔法アタッカーだよ」


 アリスとゼノビアの二人は自分の戦闘ポジションを伝えてくる。


「私はヒーラーです。あ、バフをかけますね」

「俺は戦士物理アタッカー………タンクもやるべきか?」


 二人のポジションを聞いて、俺とラウラもポジションを答える。


「そうだね、悪いけど頼めるかい?」

「私がタンクやるには装甲が薄すぎるし、50レベル相当だと持たない」


 敵の攻撃を引き受けるタンクポジションがいないので、俺がそれを担当することにした。


「ところでガンナーって?」

「DLCで追加されたクラスで、銃器を使って攻撃する遠距離アタッカーだ。成長すると爆弾や大砲とかも使える」

「キャラ作成では見なかったな?」

「DLCのクエストクリアしないと転職できないからな」

「へー」


 ゼノビアの聞きなれないクラスについて質問すると、DLCで追加されクラスと答えてくれる。


「早速お出ましか!」


 そんな話をしていると、船内の周囲に散乱していた骨達が集まり、骨人となって襲いかかってくる。


「旋風撃!」

「爆破!」

「フレイムボム」

「マジックアローシャワー!」


 それぞれが攻撃スキルを使って骨人達を迎撃していく。

 ゼノビアは軍服のロングコートの懐からカートゥーン風な導火線に火が着いた黒い球状の爆弾を投げ、爆発させる。

 アリスはエネルギー状の矢を無数に産み出して雨のように降らして骨人達を蹴散らしていく。


 骨人達のドロップ品を回収しながら船内を進んでいき、甲板エリアに到達する。


「あれ? 空が暗い? というか灰色?」


 外に出たはずなのに日の光はなく、空は暗い灰色に覆われており、そして周囲には無数の彼岸花が咲いていた。


「これってもしかして………」

「ああ! 以津真天が登場する予兆だよ!」

「ビギナーラックかねえ?」


 おかしな風景に戸惑いながら、ゼノビアとアリスに視線を向けると、二人は興奮した様子で空を見上げている。


「いつまで………いつまで………」

「何だあり───おっと!」


 唐突に空から声が聞こえたかと思うと、空から巨大な鳥が行き先を塞ぐように降りてきた。


 鬼の顔に蛇の胴体、鷲のような翼を持つ大型トラックサイズの怪奇な出で立ちで以津真天と言う名前が虹色のネームカラーで表示されていた。


「よっしゃ! レアエネミー登場だ!」

「あんた達! 気合いいれて討伐するよ!!」


 探し求めていたレアエネミーの登場にゼノビアとアリスは興奮している。


「どうやらノンアクティブっぽいな」

「とりあえず、バフかけ直すので集まって!」


 以津真天は襲ってくる気配がなく、ラウラが全員にバフをかけ終えても動く様子はない。


「よし! タゲとります!」


 俺は太刀を抜いて以津真天に戦いを挑んだ。







──キャラクターデータ──


名前:九角武丸

種族:人間

キャラクターレベル:9レベル

クラス:ファイター12レベル

スタミナポイント:9レベル


パッシブスキル

刀マスタリー8レベル:武器種別刀を装備すると物理ダメージボーナス


豪腕:両手武器物理ダメージボーナス


獅子心:物理ダメージボーナス


剣禅一如:物理クリティカルボーナス


調薬:回復アイテムなどを作れる。


鍛冶:武器、重装防具製造可能


服飾:軽装防具製造可能


木工:魔法の杖、弓、盾、家具製造可能


装飾:アクセサリー製造可能


アクティブスキル

バッシュ3レベル:単体物理ダメージ


旋風撃3レベル:範囲物理ダメージ


アサルトダッシュ2レベル:敵に突撃する単体物理ダメージ


ノックバックストライク:対象を吹き飛ばす単体物理ダメージ、吹き飛ばした先に障害物などがあると追加ダメージ



名前:ラウラ

種族:人間

キャラクターレベル:9レベル

クラス:魔法使い12レベル

マジックポイント:9レベル


パッシブスキル

調薬:回復アイテムなどを作れる


鍛冶:武器、重装防具製造可能。


服飾:軽装防具製造可能


木工:魔法の杖、弓、盾、家具製造可能


装飾:アクセサリー製造可能


回復量修練:回復スキルの回復量ボーナス


詠唱時間短縮:魔法スキルの発動時間短縮


アクティブスキル

治癒の光8レベル:単体HP回復


爆破:範囲魔法ダメージ


ブレス:単体魔法防御力ボーナス


守護結界:単体物理防御力ボーナス


魔力の刃2レベル:単体物理ダメージボーナス


マスヒール2レベル:範囲HP回復


ライフシード2レベル:単体に一定時間HP自動回復


サモンモンスター:味方モンスターを召喚して戦わせる。


名前:ゼノビア

種族:エルフ

ギルド:フレッシュ! シルバーガールズ!!

キャラクターレベル:50レベル

クラス:ガンナー52レベル

スタミナポイント:65レベル


スキル:たくさん



名前:アリス・キテラ

種族:人間

ギルド:フレッシュ! シルバーガールズ!!

キャラクターレベル:50レベル

クラス:魔法使い53レベル

マジックポイント:65レベル


スキル:いっぱい

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