第10話 九角武丸、一旦ログアウトする
「次のクエストに………っと、家族から呼び出しだ」
「もうすぐ夕飯の時間だからじゃないかな?」
俺は次のクエストの目的地に向かおうとするが、視界に現実世界から呼び出しコールが来ていますと言う文字が表示されて足を止める。
ラウラが言うように、現実時間を確認したら夕食の時間帯だった。
「仕方ない、一旦ログアウトするか」
「ログアウトするなら村とか安全な場所でするといいよ」
「なんでだ?」
「システムが設定した安全地帯以外でログアウトすると、キャラクターが五分前後その場に残るの。この間にMOBやエリアによってはPKに殺されたり、危険なエリアに押し出して殺して落としたアイテムとか奪ったりするの」
「せこいな」
ラウラから安全地帯でログアウトしないといけない理由を聞いた俺は思わず呆れる。
「まあ刀とか落としたくないし、村でログアウトするか」
「それがいいよ」
俺とラウラは薬師がいた村まで戻るとログアウトする。
「ふう………おっと!?」
現実世界に戻り、起き上がるときに無意識に右腕側に体重をかけてバランスを崩しそうになる。
「そっか、こっちでは動かないままなのか………」
力を込めても一ミリも動かない右腕を見て、ため息をつく。
「武丸ちゃん、ログアウト出来た?」
コンコンとVR機器を叩く音とスピーカー越しにラウラが呼び掛けてくる。
「ああ、大丈夫だよ」
「お義母様がご飯用意してるから早く来てって」
VR機器のカプセルを解放して中から出るとラウラが出迎えてくれる。
「武丸、VRMMOはどうだった?」
家族で夕食を食べていると、じいちゃんがゲームについて聞いてくる。
「凄かった! ゲームの中なら右腕も動くし、刀もしっかりと握れた! それにモンスターに対して九角流兵法術が使えた!」
「そうかそうか」
俺が身振り手振りでエターナルクエストオンラインの話をすればニコニコと上機嫌で笑みを浮かべて頷く。
「ゲームもいいけど、学業や勉学もちゃんとしなさいよ。引きこもりニートなんかになったら追い出しますよ」
「わかってるよ」
母親は苦笑しながら釘を刺してくる。
「いざとなったら私が養います!」
「さすがにそれは男としてちょっと………」
一緒に夕食を食べてるラウラがふんすと鼻息荒く養う宣言してくるのをやんわりと断りながら夕食を終えると、再度エターナルクエストオンラインにログインする。
「ラウラは………」
「武丸ちゃーん!」
ログインしてラウラの姿を探していると、道の先から大声で俺の名前を呼びながら抱きついてくるラウラ。
「えへへ」
「やれやれ、甘えん方だな」
グリグリと俺の胸に顔を埋めるラウラの頭を撫でていると、周囲から舌打ちや何か呪うような視線でこちらを睨んでくるプレイヤー達がいた。
「さて、クエストの続きをやろうか」
「うん!」
ラウラを連れてクエストラインルートを進んでいくと、難破船だらけの海岸に比較的マシな帆船が修理を受けていた。
「ん? くそ海賊のマジムンにも見えねえし、扶桑同盟の兵士でもないな? お前はこの島の住人か?」
帆船に近づくと、木の板に羊皮紙を挟んで羽ペンで何か書いていた船員が話しかけてくる。
「おお、獣人だ!」
「すっごいもふもふでしょ?」
話しかけてきたのは二足の足で立つ柴犬の頭に柴犬の胴体の船乗りの服を着た獣人だった。
「扶桑同盟の兵士が何者かによって殺されたんだ。明智と言う人物から警告を伝えてくれと言われた」
「そうかい。さっさとおさらばしたいのは山々だか、船の修理が間に合ってないし、修理が完了しても舵輪が壊れてるし、方角を知る羅針盤も嵐で海に落ちて方角もわからないから動かせないぞ。お陰で船長の機嫌もすこぶる悪い」
柴犬の船員はお手上げとばかりに両手を上げる。
「部品を見つけてきたら出発できるのか?」
「船旅には水や食料もいるんだぜ? そいつが終わらないと俺たちゃ海の上で干からびちまう。まあ、舵輪と羅針盤が手に入らなきゃ、それ以前の問題さ。とにかくあんたが探してくれるなら………危険だが、マジムンの船が一隻修理のために停泊しているのを斥候が見つけた。そこから拝借してきてくれ」
柴犬の船員がそういうと、クエストが更新されて海賊の船から舵輪と羅針盤を回収するクエストが始まる。
「クエストクリアパターンが正面から攻め込んで奪うか、潜入してこっそり盗むかのふたつか」
「盗賊クラスがあれば潜入ルートも選べたかもね」
「そんなまどろっこしいことはめんどくさい。正面から乗り込むぞ」
「はーい」
盗賊クラスを持っていないし、めんどくさいので俺は正面から海賊船に乗り込むルートを選ぶ。
「おお、お前たちか。伝言は終えたか?」
海賊船に向かおうとすると、明智官兵衛達と出会う。
「これから海賊船に乗り込むところだ」
「ん? どういう事だ?」
台詞パネルが表示されたので読み上げると、明智官兵衛は怪訝な表情になる。
「実は………」
俺は台詞を読み上げてこれまでの経緯を明智官兵衛に説明する。
「なるほど………よし、佐馬の仇討ちもかねて拙者達も手伝おう」
会話を進めると、明智達が味方NPCとして一時的に仲間になってくれるようだ。
「助力感謝する」
「気にするな、我々も船が動かなければ困るのだ」
俺は明智達をお供に停泊しているマジムンの海賊船を目指す。
「あれが海賊船か………」
「我らが陽動となろう。武運を祈っているぞ」
海賊船が見える位置までたどり着くと、明智達がそういって先行し、海賊船の周囲にいた海賊達をおびき寄せて戦闘を始める。
「なるほどね、彼らを連れていくと敵の数が減るイベントか」
「今ならすぐに船に忍び込めるよ」
「ならいくぞ!」
俺とラウラは海賊船に向かって駆け出す。
「しゅっ、しゅうげ───」
「バッシュ!」
タラップをかけ上ると、甲板からこちらを覗いていた海賊の一人が叫ぼうとしたのでスキル攻撃で黙らせる。
「旋風撃!」
「爆破!」
「ぐあーっ!」
「ギャアアアッ!」
そのまま甲板に辿りたくと俺とラウラは範囲攻撃で海賊達にダメージを与える。
「襲撃者だ! 殺せっ!!」
「うおおおーっ!」
俺達の範囲攻撃から生き延びた海賊達が反撃に向かってくる。
「せいっ! む?」
襲ってきた海賊の一人の目に向けて刀を突き出してフェイントをいれるが、海賊はフェイントに反応せずそのまま突っ込んできて、自分から刀に突き刺さる。
(AIはフェイントが効果ないのか?)
恐れることなく突っ込んで自爆した海賊を見て一つの仮説をたてる。
試しに近くにいた海賊に向かって箒掃きと呼ばれる刀で箒を掃くように相手の足元で振り回して機動を阻害するフェイントをかけてみる。
「ぐあっ!」
「やっぱり」
先ほどの海賊と同じく足を止めることなく突っ込んできて足を斬られてダメージを受けている。
(もう一つ試してみるか)
俺は八相の構えをとって相手の攻撃を待つ。
「しねーっ!」
「しっ!」
NPCの海賊は駆け引きもなにもなく一心不乱に俺に攻撃しようと突っ込んでくるので、相手の突進を利用して喉に突きを入れると、クリティカル扱いになり、海賊を一撃て倒す。
「うおおおっ!」
「ひゅっ!」
続いて手首を斬って出血を狙ってみる。
海賊の手首を斬ってダメージを与えるが、手首が切断されるわけてもなく、血が流れるわけでもない。
手首を斬られた海賊は健在で、痛がる様子もなく大振りで攻撃を繰り返してくる。
(痛みに怯む様子もなしか、これはどうだ?)
俺は一歩前に踏み出し、海賊の足の甲と内腿の動脈のある部分を斬る。
ダメージは受けるが、やはり痛がる様子も足が遅くなる仕草もない。
(下手に現実の剣術で考えるとダメだな。最後に!)
海賊のカトラスが振り下ろされてきたので、俺は弾き返すつもりで力を入れて打刀で打ち上げる。
「これは有効か!」
渾身の力を込めた打ち上に海賊のカトラスは弾き返され、海賊はバランスを崩す。
ここぞとばかりに平突きを肋骨の隙間をぬうように心臓を突くと、クリティカル扱いになり海賊は倒れる。
「フェイントや失血、足止めはダメだが急所は有効か」
襲ってくる海賊達を全員倒すと、血糊を払うように一振して納刀する。
「まずは舵輪を手に入れるか」
海賊達のドロップ品と甲板にある舵輪を回収する。
舵輪はかなりの大きさだったがアイテムボックスに収納され、クエストアイテムカテゴリーとして表示される。
「針盤は船内か」
舵輪を回収すると、クエストラインルートが船内に続く扉に向かって伸びていた。
──キャラクターデータ──
名前:九角武丸
種族:人間
キャラクターレベル:4レベル
クラス:ファイター6レベル
スタミナポイント:3レベル
パッシブスキル
刀マスタリー6レベル:武器種別刀を装備すると物理ダメージボーナス
豪腕:両手武器物理ダメージボーナス
獅子心:物理ダメージボーナス
調薬:回復アイテムなどを作れる。
アクティブスキル
バッシュ2レベル:単体物理ダメージ
旋風撃2レベル:範囲物理ダメージ
名前:ラウラ
種族:人間
キャラクターレベル:4レベル
クラス:魔法使い6レベル
マジックポイント:3レベル
パッシブスキル
調薬:回復アイテムなどを作れる
回復量修練:回復スキルの回復量ボーナス
詠唱時間短縮:魔法スキルの発動時間短縮
アクティブスキル
治癒の光:5レベル:単体HP回復
爆破:範囲魔法ダメージ
ブレス:単体魔法防御力ボーナス
守護結界:単体物理防御力ボーナス
魔力の刃:単体物理ダメージボーナス
マスヒール:範囲HP回復
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