第7話 九角武丸、サブクエスト【大鼠退治】と【隠した酒の行方】に挑戦する。


「意外と洞窟内は明るいな」

「そういうギミックタイプの洞窟やダンジョンでもない限りは洞窟とか基本的に明るいよ」


 洞窟内にはいると、所々に壁掛け松明や蝋燭にランタンがおかれており明るい。


「洞窟自体は一本道か、俺が先頭を進む。足元には気を付けろよ」

「うん!」


 洞窟の内装はいわゆる自然洞みたいなむき出しの地層の壁になっている。

 ひんやりとした空気の中、俺とラウラの足音だけ響かして洞窟の中を進んでいく。


「あれが大鼠か、でかいな」

「人相の悪いカピバラみたい」


 ある程度洞窟を進むと、開けた場所にたどり着き、そこには五匹の中型犬サイズの牙の鋭い鼠がいた。


「仕掛けるぞ」

「私も戦うよ」


 俺は木刀を持って大鼠の群れに突っ込む。

 大鼠はある程度の距離まで近づくと、此方に気づいたようなエフェクトモーションを発生させて襲いかかってくる。


「旋風撃!」

「ヂュッ!?」


 範囲攻撃スキルで五匹の大鼠にダメージを与えるが、まだ大鼠のヒットポイントバーは残っており、仕留めきれなかった。


「それっ!」

「ギャウッ!?」


 シャランと鈴の音が聞こえたかと思うと、ラウラの神楽鈴から光弾が発射されて、ダメージを受けていた大鼠の一匹を倒す。


 大鼠達も反撃とばかりに俺に向かって飛び付いてくるが………また敵の動きがスローモーションになり、通常攻撃で大鼠達を叩き落としていく。


「一振で四匹同時に攻撃とか、武丸ちゃんすごーい!!」

「え?」


 大鼠達を倒すと、ラウラが興奮したようにピョンピョンと跳び跳ねながらパチパチと拍手をして俺を誉めてくる。


「どうしたの、武丸ちゃん?」

「いや、さっきの攻撃は一振で四匹同時じゃなくて、一匹ずつ叩き落とした」


 困惑気味の俺をみて、ラウラは小首を傾げて聞いてきたので先ほどの状況を説明する。


「私には一振で四匹同時に見え───あっ! 武丸ちゃん、敵の攻撃も遅く見えなかった?」

「ああ、それもあったな」


 ラウラは何か思い出したのか、パンッと手を叩くと敵の攻撃の話をしてくる。


「多分武丸ちゃん、RTP値が凄く高いのかも」

「RTP値ってなんだ?」

「正式名称はReaction Time Pointと言って、どれだけプレイヤーの神経伝達速度が早いのかを表す数値でね、ゲームが想定した数値よりプレイヤーの数値が上回ると武丸ちゃんみたいに敵の動きが遅く感じたりするの」

「となると、戦闘がヌルゲーになるのか? それは困るな」


 ラウラからRTP値について説明して貰うが、俺からすればせっかくのゲームが楽しくなくなってしまう。


「ううん、大丈夫! システム設定でリミッター着けて一般人と同じぐらいの数値に抑えられるから」

「ならよかった。やり方教えてくれ」


 普通の人と同じように遊べるとラウラから聞いて俺はほっとする。


「でもいいの? 戦闘がかなり楽になるよ?」

「現実の死合なら使える手は何でも使うが、これはゲームだから楽しみたい。それに一方的すぎたら俺怪我しなくて、お前の回復魔法とか貰えないだろ?」


 ラウラは本当にいいの?と聞いてくるが、チートはいらない。

 あと、俺のためにわざわざキャラクター作り直して回復職になってくれたのに、ダメージを受けなかったらちょっと申し訳ない。


「えへへへ」


 ラウラは嬉しそうにはにかんで、俺の背中に抱きついてグリグリと顔を擦り付けてける。


「おーい、リミッターのやり方おしえてくれー」

「あ、ごめん! システム画面開いてオプション項目から選べるよ」

「これか………特に変化ないような?」


 ラウラからリミッターの設定を聞いてオンにするが、特に変わった感覚はない。


「取りあえずMOBの大鼠で試してみたらいいんじゃないかな?」

「そうするか」


 木刀の峰部分で肩を叩きながら洞窟を進んでいく。


「いたな」

「武丸ちゃん、頑張って!」


 細長い通路を塞ぐように進行方向先に二匹の大鼠が餌を探すようにうろうろしている。


 まずはリミッター制限をつけた状態で大鼠の動きがどうなっているか確認するために攻撃せずに近づく。


「チュー!!」

「おっと!?」


 大鼠の感知範囲に足を踏み入れた瞬間、大鼠は威嚇の声をあげながら噛みついて来ようとする。


(スローモーションじゃなくなったけど、動きが単調だな)


 大鼠の攻撃方法は噛むか引っ掻くだけで、ある程度距離をあければ容易に回避できる。


「それ!」

「チヂュッ!?」


 大鼠が足に噛みついてこようとするので、烏跳びという両足で後方にバックステップする歩法で回避し、無防備になった頭を木刀で叩く。


 シャランと鈴の音がすると、後方から光弾が飛んできて、頭を叩いた大鼠にラウラが止めを刺す。


「ヂュー!!」

「ふんっ!」


 残り一匹は仲間がやられても気にした様子もなく、俺の顔めがけて飛びかかり、その鋭い歯で噛みついてこようとする。


 俺は飛びかかる大鼠を地面に叩き落とし、二の撃でその腹部に向かって木刀の切っ先を突き刺す。


「お疲れ武丸ちゃん。どうだった?」

「スローモーションじゃなくなったが、単調な攻撃で読めてしまうな」

「そこは仕方ないよ。スタートエリアで武丸ちゃんが求める歯応えの戦闘難易度にしたら一般プレイヤーが全滅しちゃうよ」



 戦闘がぬるいと答えるとラウラは苦笑する。


「群れのボスが少しは歯応えあるといいな」


 俺はラウラを連れてさらに奥へと進んでいく。


「でかいのがいるな、あれがボスか?」

「名前が紫だからそうだね」


 洞窟の最深部と思われるかなり広い部屋に到着すると、小高い丘のような起伏した部分に熊サイズの大鼠が待ち構えているように鎮座していた。

 熊サイズの大鼠は鉄鼠と言う名前で、ラウラが言ようにボスであること証明する紫色のネームが表示されていた。


「ラウラは後ろから援護してくれ」

「任せて!」


 俺は木刀を土の構えと呼ばれる切っ先が地面を擦るような構えに持ち、切っ先をゆらゆらと揺らしながらボスの鉄鼠に近づく。


「ヂュウウウウーッ!」


 鉄鼠のアクティブ反応範囲に足を踏み入れると、鎮座していた鉄鼠は起き上がって威嚇の声をあげ、体で隠れていた尻尾を振り上げる。


(尻尾の先端が瘤みたいに膨らんでるな。あの動きからして鎖分銅みたいな攻撃方法───っ!)


 鉄鼠の攻撃方法や範囲を探るように摺り足で近づくと、鉄鼠は半回転して遠心力をつけて瘤尻尾を横凪に振る。

 烏跳びで大きく後方に跳んで、瘤尻尾の横凪を回避すると平突きと呼ばれる刀を水平にした突きの構えで突撃する。


「ジジッ!?」

「甘いっ! バッシュ!!」


 俺の平突きでダメージを受けた鉄鼠は此方に振り返ろうとするが、俺はそれに沿うように動き、常に鉄鼠の背後をとるように動いてバッシュスキルでダメージを与える。


「えいっ!」

「ヂューッ!」


 合間合間にラウラが光弾を撃ち込んでチクチクとダメージを与え、鉄鼠は鬱陶しそうに唸る。


「バッシュ!」

「ヂュチー!?」


 鉄鼠は時折ラウラに攻撃対象を移そうと顔をラウラに向けるが、俺はヘイトを自分に向けさせる為にスキルで大きなダメージを与え、スキルディレイ時間は相手の背後をとるように回り込みながら通常攻撃でダメージとヘイトを蓄積させていく。


「ヂュッ!」

「おっと!」


 振り向いても無駄だと学習したのか、鉄鼠は逆立ちするように後ろ足を振り上げて、俺の頭上に体を落としてくる。

 それをスライディングで回避するが、その間に鉄鼠は体勢を整えて俺と対峙し、遠心力をつけるように瘤尻尾を振り回す。


「ヂュヂュ!」

「ていっ! って、固いな!」


 鉄鼠は器用に瘤尻尾を操って頭上から叩きつけるように振り下ろしてくる。

 烏跳びで斜め後方に避けながら、尻尾の瘤部分を木刀で叩くと空気がパンパンに入ったトラックのタイヤを殴ったような反動が手に伝わってくる。


瘤尻尾攻撃を避けながらヒット&アウェイ戦法で攻撃を繰り返す。


「バッシュ!」

「ギィィイイイーッ!!」


 何度かヒット&アウェイを繰り返し、ディレイタイムを終えたバッシュスキルで攻撃を行うと、それが止めとなったのか、鉄鼠は断末魔をあげて倒れ、ドロップ品に変わっていく。


「お、打刀と若武者の胴丸と言う中装備が出たな!」

「私は神楽鈴(炎)とアクセサリーの蓮の髪飾りだったよ」

「その(炎)ってなんだ?」

「武器には希に属性ダメージがついたのがあって、基本ダメージと属性ダメージを与えるの。MOBは特定の属性ダメージが弱点だったりした場合はさらに追加ダメージが入るの。私の場合光弾が炎の弾にかわったの、ほら」


 ラウラは属性について説明しながら、新しい神楽鈴を鳴らすと炎の弾が飛んでいく。


「アクセサリーは?」

「アクセサリーによって追加防御がついたり、攻撃に属性がついたり、毒などに耐性ついたり。蓮の髪飾りはマジックポイントアップだね」


 ラウラはアクセサリーの説明をする。


「あとクエストアイテムとして鉄鼠の首が手に入ったが、アイテムボックスの枠を圧迫しないのは助かるな」

「オープンベータテスト当初はアイテム枠を消費してたけど、荷物一杯状態でクエストアイテム受け取ると、アイテムが消失してクエスト進行できなくなるバグがあって修正されたの」


 ラウラはオープンベータテスト時代の事件を教えてくれた。


「取りあえずドロップ品を装備してみるか」


 俺は木刀から打刀に、足軽の胴丸から若武者の胴丸に装備を変更する。

 若武者の胴丸は足軽の胴丸よりも飾り糸などで装飾されており、見た目も防御力も良い。


 髪飾りを装備しようとしていたラウラは、何か思い付いたようにニコニコしながら俺に歩み寄る。


「ん? どうした、ラウラ」

「武丸ちゃん、つけて」

「え? 俺は髪飾りとか付け方よくわからんぞ?」

「いいから!」


 ラウラは俺にアクセサリーを差し出すと着けてとねだってくる。


「変な風になっても怒るなよ」

「武丸ちゃんがつけてくれてのに怒ったりしないよ」


 取りあえず俺は手櫛でラウラの髪を整えながら渡された蓮の髪飾りをつける。


「ほら」

「えへへ」


 髪飾りをつけるとラウラは装備画面を開いて姿見のように表示される自分の姿を見て上機嫌になっていた。 



──キャラクターデータ──


名前:九角武丸

種族:人間

キャラクターレベル:2レベル

クラス:ファイター4レベル

スタミナポイント:1レベル


パッシブスキル

刀マスタリー4レベル:武器種別刀を装備すると物理ダメージボーナス

豪腕:両手武器物理ダメージボーナス

獅子心:物理ダメージボーナス


アクティブスキル

バッシュ:2レベル:単体物理ダメージ

旋風撃:範囲物理ダメージ



名前:ラウラ

種族:人間

キャラクターレベル:2レベル

クラス:魔法使い4レベル

マジックポイント:1レベル


アクティブスキル

治癒の光4レベル:単体のHP回復

爆破:範囲魔法ダメージ

ブレス:単体魔法防御力ボーナス

守護結界:単体物理防御力ボーナス

魔力の刃:単体物理ダメージボーナス

マスヒール:範囲HP回復



 


 


 

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