第6話 九角武丸、勢力クエスト「薬師の頼みごと」を請け負う


「最初の高札があった村か」

「ここにはNPCの店もあるから牙とか売るといいよ」


 クエストラインルートに沿って移動すると薬師がいると言う村は最初の高札があった場所だった。


「荷物まだそんなにたまってないけど、整理しておくか」

「こっちだよ」


 ラウラにつれられてNPCのベンダーがいる店へと向かう。


「薬屋に雑貨屋、武器防具にと細かく店の種類があるな」

「売却はどの店でもいいけどね」


 村の中に商店街のような通りがあり、商人の店は農家とは違い瓦屋根の木造日本家屋のような作りだった。


「薬屋の店主が薬師でもあるのか」

「いらっしゃい」


 薬屋の店主の頭上に勢力クエストの黒星マークがあり、話しかけるとストア「薬」と【蛍甘露を調薬してほしい】と言う選択肢パネルが表示される。


「全体的に高いな」

「私がいるから薬はいらないでしょ」


 試しに薬の値段を見ると、最低限のヒットポイント回復アイテムでも今の所持金では買えない。

 ストア商品の一覧を見ていると、ラウラが不安そうに俺の手をぎゅっと強く握ってアピールしてくる。


「値段を確認しただけだって」

「それより、早くクエスト進めようよ」


 俺はラウラを宥めながらクエスト進行の台詞をタッチする。


「調薬かい? してやってもいいが、ちょいと雑用頼まれてくれないか?」

「雑用って?」

「なに、この村にいる住民に薬を届けてほしいのさ」


 話を聞くと、薬を届ける0/5とクエストジャーナルが表示される。


「お使いクエストか」

「村の中で済むならましだよ」


 ミニマップには村のあちこちに届け先と思われるクエストマーカーが表示されている。


「これラウラと手分けしたら───」

「武丸ちゃんと一緒に行く!」


 手分けしたら早くクエストが終わるのではと俺は思いラウラに提案しようとすると、ラウラは俺の袖を強く掴んで一緒に行くと泣きそうになりながら抗議する。


「わかった、一緒に行こうか」

「うん!」


 俺が考えを変えて一緒に行こうかと言うと、ラウラは泣き顔から一転して笑顔になって俺の手と恋人繋ぎしながら上機嫌になる。


「いやー、わざわざ済まないね」

「次は畑にいる人か」


 配達クエスト一人目に薬を渡し、二人目の位置を確認する。


「ここの畑は荒れてるな」


 配達クエストの二人目の対象がいる畑に向かうとかなり荒れ果てており、その畑のど真ん中に項垂れたように座り込んでる農民がクエスト対象だった。


「武丸ちゃん、あの人サブクエスト持ってるよ」

「あ、本当だ」


 項垂れる農民に近づくと、サブクエストの証である白星マークが表示されている。


「薬を届けにきてくれたのか、悪いね」

「畑が荒れていますが、どうかしましたか?」


 まずは本題である薬を手渡し、選択肢の台詞を読み上げる。


「近くに大鼠の巣ができてね。巣に近いおらの畑が荒らされてるんだ」

「追い払えないんですか?」


 事情を聞くと、農民は畑が荒れている理由を教えてくれる。

 選択肢の言葉を今度はラウラが発言する。


「とんでもない! 大鼠は気性が荒く、大人でも平気で噛みついてくるし、運が悪けりゃ指どころか手足を食いちぎられるんだ! 庄屋さんが領主様に伝えると言ってるが………あんたら強そうだな、代わりに大鼠退治してくれねえか?」


 農民がそういうと大鼠退治と言うクエストを受けますかY/Nと言う選択肢が表示される。


「クエストを受けたからってすぐにやらないといけない訳じゃないよな?」

「そうなんだけど、エターナルクエストオンラインの場合、サブクエストをクリアしたかどうかでほんのちょっとメインクエストが変わるの」

「ん? どう言うことだ?」


 大鼠退治のクエストを受ける前に、緊急性があるのかラウラに聞くとサブクエストで分岐があるとラウラは言う。


「今回のクエストがそうかはわからないけどね、エターナルクエストオンラインのプレイ動画配信してる人で、同じメインクエストでもサブクエストを先にクリアした方は台詞が変わったり、サブクエストで出会った人が助けにきたりするの」

「ほー、ならサブクエスト受けたら優先でも良さそうだな」


 俺はラウラからサブクエストについて聞くと、大鼠退治のクエストを受ける。


「たすかるよ、大鼠はここから北にある洞窟に巣を作っている。十匹ほど群れを倒して、群れのリーダーを倒せば奴らも巣から離れるだろうよ」


 クエストを受けると農民は大鼠の巣がある場所を教えてくれ、ミニマップに洞窟マーカーが表示される。


「巣に向かう途中で三人目の配達先に近づくからそっちにもよっていくか」

「うん!」


 マップを確認して三人目の配達先に向かうと、農家の前でうろうろしている農民がいた。


「またサブクエストか」

「取りあえず話聞いてみようよ」


 うろうろしている農民にもサブクエストの白星があったので話しかけてみる。


「薬の配達か、子供が病気で助かったよ」

「家の前でうろうろしてましたけど、何か困り事でも?」

「いや実は………北の洞窟に酒を隠してたんだが、その洞窟に大鼠が住み着いて取りに行けなくて………」


 薬を渡してクエストが発生する選択肢の台詞を読み上げると、うろうろしていた農民はばつが悪そうに理由を答える。


 そして選択肢には【私が取りにいきましょう】【ちょうど大鼠退治を請け負ったので、ついでに回収します】と台詞の内容が違うクエストを承諾する選択肢が発生した。


「へー、サブクエスト受けてるとこんな選択肢が出るのか」

「うん、だから配信者の人達は新規キャラ作ってはパターン探してたりするの」


 俺はラウラから配信者の話を聞きながら、洞窟に隠したお酒を回収するサブクエストを受けて洞窟に向かおうとする。


「旅のかた、ちょっと待って貰えますか!」

「うん?」


 唐突にNPCの農民の女性に声をかけられ足を止める。

 よくみればその農民の女性にもサブクエストマークがついていた。


「あの、うちの旦那から酒を回収するように言われませんでしたか?」

「ああ、言われたけど?」

「すいません、酒は見つからなかったといって貰えないでしょうか?」

「どう言うことだ?」

「実は………」


 農民の女性が話すには酒回収のクエストをお願いしてきた農民の奥さんで、これを機会に禁酒してほしいと思っていて、酒がなかったと偽ってほしいと言う。


「話を聞いたらクエストが分岐したな」


 農民の女性の話を聞くと洞窟に隠した酒を回収するサブクエストのクエスト目標が分岐して、旦那に酒を渡すか、なかったと嘘をつくかのどちらかでクエストが終わるようになった。


「これってどっちがいいんだろうな?」

「どっちを選んでも問題ないよ。強いて言えば武丸ちゃんの気持ち次第」

「そうなのか?」


 分岐したサブクエストのテキスト本文を見ながらラウラに話しかけると、ラウラは深く考えなくてもよいと答える。


「私が前のキャラでやったクエストやゲーム配信で選択肢があるクエストあったけど、報酬が変わるか、気持ちの問題程度だったよ」

「ほー、例えば?」

「クエストで役人の不正を暴く配信があってね、証拠を手に入れたら依頼人に報告するか、不正役人から賄賂を貰ってなかったことにするか選択肢があって、配信者は賄賂を貰ってて依頼人の報酬額より上だった」

「ふーん」


 クエストの分岐についてラウラは配信でみた内容を説明してくれる。


「取りあえずどっちを選ぶかはクエストの酒を見つけてからだな」

「そうだね!」


 そんな話をしている内に、大鼠の巣がある洞窟に到着する。


「ありゃ、他のプレイヤーが出てきたけど、ボスやられたか?」

「あ、こういったクエストはインスタントエリア扱いになるからチーム組んでない限りは別プレイヤーとブッキングすることはないよ、武丸ちゃん」


 洞窟からプレイヤーキャラが出てくるのを見て、俺は思わず先を越されたと思ったが、ラウラはクエストに関するゲームシステムを説明してくれる。


「よし、まずは大鼠からクリアしていくか!」

「うん!」


 俺達は武器を構えて洞窟に足を踏み入れた。






──キャラクターデータ──


名前:九角武丸

種族:人間

キャラクターレベル:2レベル

クラス:ファイター4レベル

スタミナポイント:1レベル


パッシブスキル

刀マスタリー4レベル:武器種別刀を装備すると物理ダメージボーナス

豪腕:両手武器物理ダメージボーナス

獅子心:物理ダメージボーナス


アクティブスキル

バッシュ:2レベル:単体物理ダメージ

旋風撃:範囲物理ダメージ



名前:ラウラ

種族:人間

キャラクターレベル:2レベル

クラス:魔法使い4レベル

マジックポイント:1レベル


アクティブスキル

治癒の光4レベル:単体のHP回復

爆破:範囲魔法ダメージ

ブレス:単体魔法防御力ボーナス

守護結界:単体物理防御力ボーナス

魔力の刃:単体物理ダメージボーナス

マスヒール:範囲HP回復


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