第5話 九角武丸、勢力クエスト「漂流者の救助」をやる


「これはまた酷いな」


 クエストルートラインに従って道を歩いていくと、浜辺に出る。

 かなり激しい嵐だったのか、浜辺や海辺に大小様々な木造船が座礁していたり、沈没してマスト部分だけが海から顔を出していたりする。


「すまないがそこの人、私の話を聞いて貰えないだろうか?」


 クエスト地である浜辺に足を踏み入れると、唐突に兜を脇に抱えた武者鎧姿の男性が現れて話しかけてくる。

 武者鎧姿の男の頭上にはNPC明智官兵衛と言う名前が表示されていた。


「現地民か? 我々扶桑同盟の艦隊が西の沖で嵐にあってここまで難を逃れてきた。怪我人が多く、医療物資は海の底。すまないが蛍甘露と言う薬草を集めて貰えないだろうか?」


 明智官兵衛は自分が置かれた状況を俺達に説明してくる。

 明智官兵衛の話が終わるとパネルがポップアップされて、【わかった】と【蛍甘露とは?】と言う選択肢が表示される。


「なんだこれ?」

「武丸ちゃん、エターナルクエストオンラインはねこのパネルの台詞をタップするか読み上げるかでクエストが進行するの」

「へー」


 唐突に現れたパネルに困惑していると、ラウラがクエストの進め方について説明してくれる。


 俺は試しに蛍甘露とは?と言う文字をタップする。


「蛍甘露は一般的な薬草だ。煎じてお茶にすれば名前の通り甘く感じる。湿布にすれば傷の治りが早くなる。蛍甘露の見分け方は、草に無数の蛍が飛び交っている」


 文字をタップすると明智官兵衛が蛍甘露について説明し、説明が終わると最初の選択肢に戻り、【蛍甘露とは?】と言う文字が暗くなって選択できなくなっていた。


「わかった」

「かたじけない。十束ほど集めてくれたら十分だ」


 今度は声に出してクエストを承諾するとクエストを受けた扱いになり、蛍甘露を十束集める0/10と言うクエストタスクが表示され、クエストラインルートが浜辺から手前の草原に伸びていく。


「よし、蛍甘露を探すか」

「うん!」


 クエストラインルートに従って草原に向かうと、所々草むらに蛍が群がり光を放っている。

 適当に蛍が群がる草を採取するとクエストジャーナルの蛍甘露を十束集める1/10になる。


「一つ回収すると草むらが消えるのか、二人分合わせて二十束いるのか?」

「ううん、武丸ちゃんが採取したら私のクエストも1/10になったよ」

「チーム全体で十束か、それなら楽だな」


 俺はラウラの分も採取しないといけないのかと思っていると、ラウラもクエストアイテムがカウントされたようで気が楽になった。


「次の蛍甘露がある場所に向かうか」

「あ、次の場所にはMOBがいるね」


 次の場所に這えている蛍甘露の側に二匹の狼が座っていた。


「武丸ちゃん、このゲームでは敵の強さは色で別けられていてMOBが白、エリートが黄色、ボスが紫、レイドが赤の四種類。基本的にアクティブモンスターしかいないから気をつけてね」

「基本的に? ノンアクティブもいるのか?」


 狼に攻撃を仕掛けようとすると、ラウラが俺の袖を引っ張ってMOBの強さについて教えてくれる。


「クエスト進行によって味方や中立になったりするよ」

「へー、良くできてるな。取りあえずもう戦っていいか?」

「あ、うん。怪我したら回復するから」


 腕を試したくてウズウズしているのがラウラにはわかったのか、苦笑しながらもサポートに回れるように神楽鈴と言う無数の鈴がついた武器を準備する。


「バッシュ!」

「ギャウン!?」


 俺は狼に駆け寄りスキル名を叫びながら木刀で攻撃する。

 初期モンスターと言うこともあってか、狼は一撃でヒットポイントが0になり、光の粒子となってアイテムに変わる。


「ガウッ!」

(またスローモーションだな?)


 もう一匹の狼が襲いかかってくるが、チュートリアルの時と同じく狼の動きが鈍く見え、俺に噛みつこうと開いた口に一歩踏み出して木刀を突き刺し捻る。


「ギャウッ!?」


 口に木刀を突き刺された狼はくぐもった悲鳴を上げて光の粒子になり、ドロップ品に変わる。


「武丸ちゃんつよーい!」

「レベル1のMOBだからこんなもんだろ?」


 戦闘を見ていたラウラが拍手をしながら声をかけてくる。

 俺は刀の血糊を払う仕草をして納刀する。


「ドロップ品は狼の牙とゴールドと動物の毛皮か………と言うか、お金はゴールドで統一されてるのかな」

「うん、前のキャラの時も通貨はゴールドだったよ。それから牙は換金アイテムで店売りするといいよ」

「ほー、こっちの動物の毛皮は?」

「それは一定数集めて加工するとなめし革になって、革鎧を生産するときの材料になるよ」


 狼を倒して手に入れたドロップ品を回収していると、ラウラがアイテムの用途を教えてくれる。


「生産に手を出すかわからないけど、貯めて損はないな。あ、ラウラの分はどうしたらいい?」

「チーム組んでたら、チームメンバーが倒したMOBからルートできるから問題ないよ、ほら」


 ドロップ品を全部回収した後でラウラが何も手に入れていないことに気付き、配当方法を聞くと、ラウラはアイテム画面を表示して同じようにドロップ品を回収しているのを俺に見せる。


「ならよかった。んじゃ蛍甘露を集めていくか」

「うん!」


 時折襲ってくる狼などMOBを倒しながら蛍甘露を十束集めて明智官兵衛の元へ報告に向かう。


「集めてくれたか! かたじけない」


 蛍甘露を持って明智官兵衛に話しかけるとクエストはクリアになって経験値とゴールド、スキルポイントを貰える。


「お、レベルアップした」


 クエスト報酬の経験値でちょうど2レベルになった。


「レベルアップするとヒットポイント、マジックポイント、スタミナポイントのどれかに一点割り振れるのか」

「魔法スキル覚える気がないならマジックポイントは無視していいよ」

「となるとヒットポイントとスタミナポイントのどちらか」


 レベルアップすると同時にステータスウィンドウが開き、能力の割り振りが始まる。

 どれに割り振ればいいか悩んでいるとラウラがアドバイスしてくれた。


「アタッカーならスタミナ、タンクならヒットポイントに割り振るのがセオリーだよ。私はマジックポイントオンリー」

「ならスタミナだな」


 スタミナポイントに割り振ると、次はスキルポイントがクエスト報酬とは別で1点割り振れる。


「これは悩むな」

「エターナルクエストオンラインは正式サービス開始されてから結構たってるけど、ビルドやスキルシュミレーションに関しては今でも戦争案件レベルで揉めてるからね」


 戦士クラスオンリーでもスキル数はパッシブ、アクティブ合わせて百を越え、スキル一つとってもレベル制でどのスキルを取得、どのスキルのレベルをどれだけ上げるか悩む。


「スキルリセットできるとは言え、数かなあ」

「ネットの噂だけど、スキル検証のためにリセット繰り返してゲーム内マネー破産したプレイヤーもいるとか聞いたよ」


 そんな話をしながら俺は刀マスタリーとバッシュのスキルレベルを上げる。


「この人からまだクエスト貰えるみたいだな」


 レベルアップ処理で気づかなかったが、NPCの明智官兵衛の頭上には勢力クエストの黒星マークがまだ表示されていた。


「蛍甘露を持ってきてくれてありがたいが、残念なことに調薬の道具も船と一緒に海に沈んでしまった。地元の者から近くの村に薬師が住んでると聞いた。すまぬが手間賃渡すゆえに蛍甘露を調薬して湿布にしてもらってくれないか?」


 再度明智官兵衛に話しかけると新しいクエストが発生し、村の薬師のところで薬を作れと言う内容だった。


 パネルの選択肢も【任せてください】と【今は時間がない】の受けるか受けないかだけで、選択の余地はなかった。






──キャラクターデータ──


名前:九角武丸

種族:人間

キャラクターレベル:2レベル

クラス:ファイター4レベル

スタミナポイント:1レベル


パッシブスキル

刀マスタリー4レベル:武器種別刀を装備すると物理ダメージボーナス

豪腕:両手武器物理ダメージボーナス

獅子心:物理ダメージボーナス


アクティブスキル

バッシュ:2レベル:単体物理ダメージ

旋風撃:範囲物理ダメージ



名前:ラウラ

種族:人間

キャラクターレベル:2レベル

クラス:魔法使い4レベル

マジックポイント:1レベル


アクティブスキル

治癒の光4レベル:単体のHP回復

爆破:範囲魔法ダメージ

ブレス:単体魔法防御力ボーナス

守護結界:単体物理防御力ボーナス

魔力の刃:単体物理ダメージボーナス

マスヒール:範囲HP回復

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る