第2話 九角武丸、ログインする
「んで、エターナルクエストオンラインってどんなゲームなんだ?」
昼休みの屋上で昼食を食べながらラウラにゲームについて質問する。
「ゲーム事態はよくあるファンタジーRPGだよ。特色としてはキャラメイクかな」
ラウラは自分のスマホを操作して公式サイトを俺に見せてくる。
「クラスを三つ選んで自分だけの自由なプレイスタイル? どういう意味だ?」
「武丸ちゃんは一般的なRPGはわかるよね? 戦士が物理戦闘系で、僧侶が回復系とか」
「それはわかる」
エターナルクエストオンラインの公式サイトはこのクラスチョイスを重点的にアピールしているが、俺にはいまいち理解できないでいると、ラウラが説明してくれる。
「エターナルクエストオンラインはその戦士や僧侶といったクラスを三つ選ぶんだけど、例えば戦士と僧侶を選んで回復もできる戦士とか、そういう組み合わせができるの。さらにスキルのチョイスで回復できないけど自己バフできる戦士とかそう言う細かい違いが作れるよ」
「なるほどな。サムライっぽいのはできるのか?」
「うん、例えば同じ戦士クラスでも、スキルのチョイスで違いは出せるよ」
ラウラは公式サイトにあるクラスシュミレーターと言うページを開いて、同じ戦士系でもタンカーよりとか、アタッカーよりなど作って見せる。
「武丸ちゃんが求めるサムライは刀が使えるアタッカー戦士だから、朝に言ってた和風勢力出身にすれば刀と当世具足みたいな鎧貰えるよ」
ラウラは公式サイトにある各勢力のコンセプトアートを俺に見せる。
ラウラが言っていた和風勢力は鎌倉時代の大鎧や戦国時代の当世具足姿のサムライや法衣姿の坊主や巫女、三國志風な古代中華の甲冑をきた戦士や道教の道士、古代タイやベトナムっぽいファンタジー衣装の戦士のコンセプトアートだった。
「この日本っぽいのがいいな。で、なんで複数の勢力があるんだ?」
「ゲーム世界観で、ローマ帝国みたいな世界全土を支配していた帝国があったんだけど、皇帝が後継者を決める前に崩御、継承権めぐって内乱、各勢力が独立宣言などで蜂起、更に魔王を崇拝する教団が暗躍して、世界がメチャクチャになった設定なの」
ラウラはほらっと言って公式サイトにあるメインストーリーページを開いて見せる。
「PVP寄りのMMOか?」
「ううん、そこは個人の自由かな。PVE用のメインストーリーは戦争のどさくさに紛れて魔王復活を目論む教団との戦いになるよ。PVPは個人とギルドとあって、2週間毎に専用エリアでGVGの領地戦があるよ」
世界観を聞いているとPVP寄りのVRMMOに思えたが、一応PVEもあるようだ。
「課金もあるのか」
「マネー・イズ・グローリーじゃないから、メンバーシップにさえ加入していたら問題ないよ」
「マネーイズグローリー? 何だそりゃ?」
公式サイトのメニューを見ていたら課金要素もあることに俺は気づくが、ラウラが何か専門用語を口にする。
「MMOやソシャゲから生まれたスラングで課金しないとゲームに勝てないって意味。エターナルクエストオンラインはメンバーシップ以外は経験値増加やランダムガチャで衣装や騎乗ペットが当たるぐらいだからね。でもメンバーシップは加入して損はないよ」
「メンバーシップは………中々いいな」
ラウラが勧めるので、メンバーシップページを確認すれば、月額1500円で毎月1日に課金マネーが1500ポイント支給され、スタート時点から銀行とキャラクターの所持枠が二倍、ハウジングの家具設置数二倍、経験値や取得ゴールド、ドロップレア率なども15%あがり、死亡時のデスペナルティーの軽減やこれまで発表されたDLCチャプタープレイ。クラフトバックと呼ばれる生産アイテムを別枠で無限に持ち運べると色々特典がある。
「帰ったらすぐログイン出来るんだっけ?」
「うん、今お父さんの会社スタッフが設置と初期設定してるよ」
朝に一緒にVRMMOやると承諾して、学校から帰宅する頃にはVR機器の設置や設定が終わってるとか、ラウラの会社スタッフの手際のよさに驚く。
「武丸ちゃんと一緒に遊べるの楽しみ! 早く学校終わらないかな~」
ラウラは俺とVRMMO で遊べるのが楽しみで仕方ないなか、上機嫌に鼻歌を歌ったりしている。
(お前が少しでも笑顔でいてくれるならなんでもしてやるよ)
俺はそんなことを思いながらラウラが作ってくれた弁当を食べていた。
「これが最新式のVR機器か………でかいし、なんか戦闘機のコクピット部分っぽいな」
学校が終わり、自宅に戻った俺はセットアップを終えたVR機器を見てそんな感想を漏らす。
「設定は全て完了しています。武丸さんは中に入ってヘルメットを装着してリラックスするだけでいいです。後は機械が勝手にやってくれます」
設置スタッフの責任者が軽くVR機器の使い方を説明してくれる。
「それじゃ武丸ちゃん、ゲームで会おうね! キャラクターネームはラウラだから、検索したらすぐに声をかけてよ!」
ヘルメットを装着するとVR機器が作動してキャノピーが閉まる。
VR機器に搭載された内部スピーカーからラウラの声が聞こえて、ゲームキャラのネームを伝えてくる。
俺はそんなラウラの声を聴きながら、気がつくとVR空間と思われる空間に浮かんでいた。
「これがVR空間か………ん? う、動く!? 俺の右腕が動くぞ!!」
無意識に右腕を動かしてることに気づいた俺は、改めて右腕を動かしたり、手のひらを閉じたり開いたりする。
「凄いな………全然違和感がない」
現実世界では全く動かなかった右腕が、VR空間では健常者のように動かせる。
「エターナルクエストオンラインへようこそ。ユーザーは初回ログインですね」
「うわっ!?」
そうやってハイテンションで右腕を動かしていると、いつからいたのかわからないが、目の前に光の玉がいて電子音声で話しかけてきた。
「これよりエターナルクエストオンラインのキャラクターメイキングを始めます。まずは貴方が所属する勢力を選んで貰います」
こっちが驚いたことには無反応のまま、光の玉は説明を始め、地面から浮き出るようにゲーム世界と思われる世界地図が現れる。
世界地図には中心に巨大な大陸があり、大陸の周辺に大小様々な形の群島があった。
「一つ目はダントーイン帝国、かつて大陸全土を支配した大帝国の末裔達で、現在は大陸北部を支配しており、かつての栄光の復権を目指しています」
光の玉が勢力の説明をすると、地図の大陸北部と北部群島が明るく点滅する。
「現実の北欧神話をベースにした文化圏で、キャラクターの外見や装備も北欧系になります」
光の玉はそう言って、ヴァイキング風の装備をしたキャラクターや、ルーン文字と思われるシンボルマークで魔法攻撃を行うキャラクターのムービーを見せる。
「次に大陸西部を支配するコレリア王国。こちらもこの大陸全土をかつて支配した大帝国の末裔を名乗っており、ダントーイン帝国と争っています」
光の玉の説明にあわせて、コレリア王国支配地域と思われるエリアが点滅する。
「ユーザーの皆様が思い描くヨーロッパファンタジーをベースにした文化圏で、キャラクターの外見も中世から近代ヨーロッパ風になります」
光の玉はコレリア王国のキャラクター説明をすると、よく見るファンタジーゲームに出てくるような騎士や魔法使いキャラが表示される。
「最後に大陸東方の大小国家勢力が同盟を組んで独立を目指す扶桑同盟です。一つ一つの国は弱く、大帝国の支配を受けて属国や植民地でしたが、この混乱期に独立を目指しています」
光の玉の説明にあわせて、今度は大陸東部と東から南東に乱立する群島が点滅する。
「戦国時代の日本や古代中国、様々なアジア圏をモデルにした文化圏で、キャラクターも和風や中華風だったりします」
光の玉の解説にあわせて戦国時代の甲冑をきた侍や三國志時代の鎧をきた戦士、陰陽師や道士などアジアンテイストなキャラクターが表示される。
「俺は扶桑同盟に所属する」
「勢力を決めると新しくキャラクターを作成する以外に勢力を変更できません。本当に扶桑同盟でよろしいですか?」
「ああ、問題ない」
光の玉は再度注意して確認をしてくるが、最初から決めていたことなので何も問題ない。
「次にキャラクターの種族を選んでください」
勢力を決めると次は種族を選べと光の玉は解説し、地面から選択できる男女種族のマネキンが生えてくる。
「選べる種族は1、2、3………12種類もあるのか、結構多いな」
「ここで注意事項があります。人間以外の種族は異種族クラスとして扱われ、クラス枠を一つ埋めます」
俺がそれぞれの種族特徴など確認していると、光の玉は人間以外の種族はクラスを一つ埋めると注意してくる。
「クラス枠一つ埋めるだけあって、種族毎に特徴があるみたいだな」
「はい、エルフは魔法との親和性があり、魔法効果が上昇します。ドワーフは物作りが得意でクラフト全般にボーナスがあります。人間は特徴がない代わりに三つのクラスを得られる設定です」
「取りあえず人間で」
「それではキャラクターネームと外見を設定してください。キャラクターネームは公的、及び特定の団体や個人を差別する名称、他人を不快にさせる名称はつけないでください。場合によっては強制変更します」
俺は無難に人間を種族に選ぶと、今度は名前と外見を設定するように光の玉に促される。
「名前は九角武丸、本名でいく。外見もこのままで」
「本当にそれでよろしいのですか?」
名前も外見も何もかもそのままでと答えると、光の玉は聞き返してくる。
「ああ、全部このままだ! VRでも俺は俺のままこの感覚を味わいたいんだ。俺は自分の足で歩いて、自分の腕で掴みたいんだ!」
俺はそう言って右手で握り拳を作る。
「わかりました。それではエターナルクエストオンラインを楽しんでください」
「うお、眩しい!?」
光の玉はそう言うと目を開けていられないほどの光を放つ。
俺は眩しさのあまりに目を閉じてしまった。
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