深まる謎

 この季節は日が暮れていくのが早い。僕たちが病院の外に出たときには、辺りはすっかり薄暗くなっていた。


「兄さん、つまりどういうことなの?」


「天才丸さんが病院から『向精神薬X』を持ち出し、スーちゃんに渡した。スーちゃんはそれを飲んで、その後死亡した……ってところかな」


「つまり、スーちゃんは殺されたんじゃなくて、自殺したってことなの?」


「おそらく……ね。包丁で自分の胸を刺したんだと思う」


「じゃあ、包帯は? ダイイングメッセージは? 誰かが工作したっていうの?」


「たぶん、司ちゃんに恨みがある第三者が意図的にやったんだろうね」


「わかったわ! 犯人は天才丸さんよ!」


 麻雪が突然叫んだ。


「スーちゃんに薬を渡して、自殺するよう仕向けた。ダイイングメッセージの工作は、スーちゃんが自殺することを知っていた人しかできない! どうよ、カンペキな推理でしょ?」


「でも、動機は? 天才丸さんは、どうしてスーちゃんを自殺させようとしたのかな?」


「姉さんと天才丸さんは仲が悪いことで有名だったのよ。姉さんを陥れるために、スーちゃんを殺した。これでどうかしら?」


 確かに麻雪の主張には一理あるような気がする。この事件の真犯人は、天才丸なのかもしれない。そう思い始めたその時だった。


「嬢ちゃん、そいつはちょいと間違ってるみたいだぜ」


「この僕を犯人呼ばわりとは……さすが、犯罪者の妹はやることが違うねえ」


 振り返ると、そこには三条と天才丸が立っていた。


「あたしの推理が間違ってるって? どういうことなの、三条さん!」


「いいか、まず解剖記録を見てみな」


 僕は今の今まで解剖記録を読んでいなかったことに気づく。封を開け、読み上げる。


「『木道鈴音、死因は胸部刺傷による失血死。体内からは一切の薬物が検出されず』……なんだって⁉」


「そういう訳だ。それに、その袋に入ってる薬は全部で四錠、持ち出された薬の錠数と一致する」


 三条はさらに続ける。


「被害者が『向精神薬X』を飲んでいないのは確実だ。すなわち、木道鈴音の死因は自殺じゃない、他殺だ」


「じゃあ、一体誰がスーちゃんを……」


 これじゃあ堂々巡りだ。麻雪も何やら考え込んでいる様子だ。


「兄さん、犯人は誰なの?」


 麻雪がすがるようにこちらを見上げる。僕はゆっくりと頷いた。


「この事件の犯人は……犯人は……」


 辺りが静まり返る。僕は大きく息を吸い込むと、その名を口にした。

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