天才丸メンタルクリニック

「『天才丸メンタルクリニック』……大きい病院だなあ」


「すみませーん、院長先生にお話があるんですけど。先生の息子さんの頼みでー」


 麻雪はしれっと嘘をつく。しかしそうでもしなければ、こんな大きな病院のトップと話をするなんて不可能だろう。


「少々お待ちください」


 受付の女性が小走りで奥の部屋に入ってゆく。



「お待たせしました。こちらへどうぞ」


 待つこと三十分、僕らは診察室に案内された。僕は軽くノックをすると、ゆっくりとドアを開ける。


「やあ、こんにちは。どんなご用かな?」


 診察室の椅子に座っていたのは、見るからに優しそうな五十歳くらいの男性だった。雰囲気は似ても似つかないが、顔立ちが似ていることから天才丸の父だとわかる。


「先生、この薬を木道鈴音さんに処方しましたか?」


 僕は鈴音の部屋で見つけた薬の袋を先生に見せた。しかし、返ってきた答えは意外なものだった。


「いや、処方していないよ。鈴音さんには自殺念慮があったからね」


「じゃあ、どうしてこの袋がスーちゃんの部屋にあったんでしょう」


「おそらくだけど、息子が勝手に持ち出したんじゃないかな。あいつは昔からよく、うちの病院の薬を持っていくんだ。困ったものだよ」


「天才丸さん、どうしてそんなことを……」


 ふと窓の外に目をやると、夕焼け空が広がっていた。まずい、もう時間がない!


「すみません、失礼します!」


「ちょっと兄さん、待ってちょうだい!」


 僕は先生に頭を下げると診察室を後にした。

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