事件現場へ

 走り続けること10分、僕らは麻雪たちが住む家……すなわち事件現場の前にたどり着いた。家の前には警察官らしき数人と、一人の青年が立っていた。

 青年はこちらを振り返ると、ひらりと手を振る。


 「やあやあ麻雪さん、久しぶりだねえ。お姉さん、また捕まったんだって? 今度は何をしたのやら。ふふふ」


 青年はけらけらと笑う。麻雪は青年の言葉を聞いて、ムッと頬をふくらませた。


 「あの……どちら様で?」


 「天才丸てんさいまる秀二しゅうじさん。姉さんの昔の同級生よ」


 麻雪は素っ気なく答えた。天才丸はニヤニヤと笑みを浮かべて軽く頭を下げた。僕も頭を下げる。


 「それで、天才丸さんはどうしてここに?」


 「警察に呼ばれたんだよ。父が処方した薬を、被害者が飲んでたっていうからさ」


 「天才丸さんは、スーちゃんの主治医の先生の息子さんなの」


 麻雪が付け加える。僕はただ頷くだけしかできなかった。


 「おう嬢ちゃんたち、面白そうな話してるじゃねえか。俺も混ぜてくれよ」


 突然、警察官の一人が話に割って入ってきた。おそらく事件を担当する刑事だろうか。


 「三条さんじょうさん!」


 「麻雪ちゃん、家の中は好きに見てっていいぜ。姉ちゃんの有罪は決まったようなものだしな」


 「三条さんまで、どうしてそんなこと言うんですか!?」


 麻雪が食って掛かる。三条と呼ばれた刑事は、麻雪とは面識があるらしい。


 「捜査はもうほぼ終わったからな。証拠も完璧なのが揃ってるぜ。見せてやろうか、ついて来な!」


 この人は刑事として大丈夫なのか……と思いつつも後に続く。麻雪もついて来る。


 「じゃ、僕は大学があるんで帰りますよ」


 天才丸は背を向けて去っていく。僕はその後ろ姿を横目で見ながら家の中に足を踏み入れた。

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