第2話
「……おい、ちょっと待ちな。あんた子どもは2人って言ってなかったか」
「おうよ。今のは長男の話だ。次は長女の話をしようか」
「お、おう」
「で、長女の方も殴られていたのかい?」
「いいや。ただ髪を引っ張られるとか物を投げられることはされたみたいでして」
「悲惨じゃないか」
「ええ。この子もたくさんの怖い思いをしたそうなんですがね」
「大変じゃないか」
「そうなんでごさいますよ。大変なんでございますよ」
「ところでね、子供たちには祖父母がいましてね」
「おや、親切な夫婦以外にも頼れる場所があったのかい」
「女の子だからという理由でこちらは保護があったのさ」
「兄弟格差だんて複雑なもんだな。しっかりと保護はあったんだ」
「おうよ、彼女は中学から祖父母のところでそだったんだ」
「ほぅ。結局のところ酒乱夫婦に子育ては無理だったってことかい」
「ところがだよ。兄妹の世話もそこそこに小鳥を飼いだしたそうなんだ」
「世話ができるのかい?」
「夕方からは家庭があれているから世話ができないが、朝方から昼頃までは誰もいなくてさみしいんだと母親が飼い始めたんだ」
「それは動物虐待に当たらないのかい?」
「んーそれが微妙なところなんだよ。世話ができている日もあればそうでもない事だってあるのさ」
「何とも反応に困る返事だねぇ」
「だろう。おう。娘さんから見たお母さんは怖い人。お父さんはもっともっと怖い人だそうだ」
「愛情があるとは思えんな」
「あんたもそう思うかい。ほとんどの人がそう思うかもしれないな」
「そりゃあんた。家庭によりいろいろだとは言ってもだな。話を聞いている限りいい感情じゃないことはわからぁ」
「だろうねぇ。それでも祖父母もずっと元気ってわけじゃない。膝を痛めたり腰を痛めたりしたそうだ」
「そりゃそうだ。長生きすれば人間いろいろな故障が出てくるもんだ。どちら方の親か知らないが助けになろうって思わないのかい? 酒乱夫婦は」
「思わんらしい。娘さんも高校まで入って、卒業後すぐに働きに出たそうだ」
「なかなかうまくはいかんもんだな」
「そうだな。娘さんの方が祖父母と一緒に住んで支えているそうだ」
「まだ溝は埋まらんのかい?」
「埋まるどころか広がるばかりさ。娘よりペットをかわいがっているんだから」
「確かに。娘さんは複雑だろうな」
「だろう。娘さんは色恋は苦手らしくてできるだけモテないようにふるまっているらしいんだ」
「年頃だから声をかけてくる輩も多いだろうに」
「多い多い。びっくりするほどだ」
「接客業のバイトをして正社員として取り立ててもらったらしいんだが、
バイトをしている時にはナンパのような形の出会いをするもんだ」
「へぇ。どんな出会いをするんだい」
「連絡先を渡されたり、後をつけられたり、客に名前をおぼえられたりしたそうだ」
「怖い世の中だね」
「ああ。幸いにももっと怖い思いはしなくて済んだんだが」
「なかなかバイトもできない世の中になってきたもんだ」
「そうなんだよ。無事に高校を卒業出来てからはさらに多くなったのさ」
「何か対策をしないとだねぇ」
「店長が架空の彼氏の存在を作ってはどうかという話を持ち掛けてくれてねぇ。店内でもたびたび話題にしてくれたおかげで身を守ることができているんだよ」
「店長はいい仕事をしているね」
「本当よ。この世の中では若い子を守るってのが日に日に難しくなっているからね。これでもいつまで無事にいられるのか不安だよ」
「まったくだ。酒乱夫婦の話はもうないのかい」
「もうないさ。いずれ子供たちにしたことが返ってくるだろうよ」
「因果応報ってやつだね」
「ああ」
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