2・私は何を『魅了』しているのか

 


 他国からやっと、固有魔法を詳細に調べられる『識別』持ちがやって来た。固有魔法調査団という国際機関所属の女性団員さんだ。

 これでやっと、私の『魅了』がなんなのかわかるかもしれない。




 そう思っていたのはほんの半刻前なんですがね?






 「『魅了付与』ですね」

 「『魅了付与』」

 「丸い形や角ばった形を魅力的な物に思わせたり、酸っぱい物が嫌いだったのに好きになったりさせるようなやつです。ただあなたの固有魔法はかなり特殊、かつ強力なようで、どんな『魅了付与』なのか、すぐには判別できません」


 ええ…ってなった。

 思わずその場にいた『識別』持ちの人と私以外は「ええ…」って言った。

 そんなことある…?






 「そもそも固有魔法は万能ではないのですよ。『識別』だからと言って何もかもがわかるわけではありません。あなたたちがこれまで、どのような固有魔法なのか、を調べるために様々な実験、検証をしていたようにね」

 「『鑑定』も『識別』も人によって差があるように、『魅了』にも差があるな」

 「そうでしょう。私の場合は他の『識別』持ちよりわかる範囲は広いのですが…それは、私より弱い固有魔法に限られるのです」

 「固有魔法に強い、弱いがあるのか?」

 「ありますよ。『魅了』で言うなら、かけられる人数が多かったり、『洗脳』紛いなものが強い部類に、かけられる人数が少なかったり、人格や記憶が歪められず日常生活に支障が出ないものが弱い部類になります」

 「なるほどなぁ」


 固有魔法の強弱はたいして気にされなかったからなぁ、この国では。

 質問してた陛下が「むむむ」と唸ってる。


 「まあ正直、固有魔法の強弱はあまり気にしなくて問題ないかと。何ができて、何ができない。それだけの話なので」

 「それもそうだな」

 「今回の場合はそうもいかないですがね…彼女の『魅了付与』が、どんなものなのかがわからない。応援を呼んでも、私以上に固有魔法の判別に特化している人材がいないので、無駄でしょうねえ…」


 むむむ。

 『魅了』でも付与方向に特化したもの、とわかっただけでも収穫か。

 …私も、やらかした人みたいに何かしらを魅力的に思わせる、見せることができるなら、なぜ今までいろいろ試してわからなかったのか。かなり特殊、とのことだし、相当限定的なものなんだろうか。




 それからいろいろと試した。前の実験、検証でやったこともまたやった。

 りんごやももと言った果物、イモやキャベツと言った野菜、大きな丸から小さな丸、大きな箱から小さな箱。城にあるものはなんでも試した。

 最終的に『魅了付与』検証対象は人になった。陛下にはじまり王族の方々、大臣たち、文官たち、騎士たち、侍女・侍従たち…終いには罪人たちまで。

 そして最後の最後。国家反逆罪の疑いがかかっている罪人で、できる検証は最後。危ないからと、今までやらなかったことだ。




 「なるほど。この国ならではの固有魔法ですね。かつてこの国の建国王が産まれながらにして持っていた能力…固有魔法『王の庇護』、その一部とも言えます」




 私の固有魔法は、国を愛するようになる、魅力ある国だと思うようになる『魅了付与』だった。…それ、愛国心の植え付けって言わない?

 これは、この国の建国王の固有魔法『王の庇護』の力の一端でもあり、建国王から受けた庇護により『魅了』が変じた固有魔法でもある、らしい。

 そうした固有魔法は、ここ500年ほどは確認できていないそうだ。


 「そうか。そなたの生まれは建国当時から続く信ある一族。かつて先祖が『王の庇護』を受けていたがために、国に仇為す可能性がある固有魔法が変じたのか」


 …なるほど?

 私は血のつながりがあるだけの両親その他のことは何もかも知らないけど、陛下がそう言うならそうなのかもしれない。

 500年も庇護によって変化した固有魔法持ちが産まれなかったのなら、記憶なんか残ってるわけないし、記録すら300年ほど前の傾国魔女のせいで戦争が起きたから怪しいところ。それなら私の『魅了』、転じて『魅了付与』がどういうものなのか、すぐにわからなかったのも仕方がない。

 いやでも、この効果やばくない?


 「この国をかけらも愛していない人物限定ですが、『識別』の結果からすると効果は永続。しかも洗脳紛いの強力な効果。これは、私の『識別』でもわからないのも当然ですね」

 「今も、なぜあんなことをしたのか、と後悔に苛まれているしな…『魅了付与』前は、後悔も反省もしていなかったし、何なら自分が罪を犯したという自覚すらなかったのに」

 「おそらくこの国の貴族の持つ『魅了』が、かつての傾国魔女のような危うい固有魔法にならないのは、建国王の『王の庇護』によるものが大きいのでしょう。前例は少ないですが、そういう可能性があるとして、固有魔法調査団のほうでも情報共有させていただきます」


 …洗脳紛い…え、やばくない? 私の固有魔法やばくない?

 『洗脳』じゃないのに? 『洗脳』よりやばくない?

 だって国家反逆罪やらかした罪人、人格すら変わったよ? これが永続とかやばくない?


 

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