私の固有魔法が、思ってたのと違う
yu102(あんかけ)
1・固有魔法『魅了』と言うが、私は誰も魅了できない
この世界では、誰しもが何かしらの能力を持っている。
それは創世神話から取って"固有魔法"と呼ばれているけれど、御伽話に出てくる魔法のような能力もあれば、お告げのような能力もある。
私が住んでいる国では、生後5年以内に『鑑定』や『識別』といった固有魔法持ちによって、誰がどんな固有魔法を持っているかを調べられる。そして、国にとって利用価値があるかないか、有用かそうでもないかで等級が割り当てられる。
私の場合は特級固有魔法の『魅了』だったから、生家ではなく王宮で育てられた。特級固有魔法は、国に極めて有用、あるいは国にとって極めて危険なものとされている。
『魅了』は、300年ほど昔に10もの国が滅ぶきっかけとなった固有魔法だ。
だからか、国に売られるように両親から捨てられた。『魅了』でなければ両親が会いに来ただろうにね、と、私の世話を担当する侍女たちは言う。
ただ、不思議なことに、私は『魅了』持ち特有の、自分を可愛く魅せるとか、自分に惚れさせるとかはできない。
力を使っている感覚はある。ただただ、効果が出ない、あるいは効果が不明なだけ。
『鑑定』や『識別』持ちに調べてもらっても、私の固有魔法は『魅了』で変わらず。なのに、他人を私の虜にするなどはできない。
『危険感知』持ちに反応されないので、危険な『魅了』ではないということがわかっているだけでも幸いか。
いったい私の『魅了』はなんなのか。どんな能力なのか。15年経っているのに、いまだにわかっていない。
「まあ連中もざっくりとした能力しかわかんないからねぇ。あんたみたいに、『魅了』持ちなのに自分を惚れさせたりはできなかったけど、実は丸い形を魅力的に思わせる能力だったって人もいるし」
「そのせいで、そういう『魅了』持ちは"性癖破壊能力者"なんて呼ばれてるわよ」
「なんて嫌な呼び方…」
「おもしろかったのは、罪を犯した小児性愛者が箱好きになった話ねえ。とにかく箱が好きで好きで仕方なくなって、自分から檻に入ったってんだから笑っちゃうわ」
「わあ、なんて平和な固有魔法…」
「『魅了』なんて一括りにされちゃってるけどね、そういうのもあるのよ。中には300年ほど前の傾国魔女のようなのもあるけど」
「あなたのは絶対そういうのじゃないでしょうねえ。そういうのだったら『危険感知』持ちが反応するし」
「でも具体的にどんな『魅了』なのかわからないと、不安で仕方ないですよ…いつか何かやらかしそうで…」
実際にやらかした人が、侍女の一人が言った、丸い形を魅力的に思わせる『魅了』持ちだそうだ。
誰もが言う平和なやらかしだ。カツラに並々ならぬこだわりがあった財務大臣がその人の『魅了』の効果調査に協力した結果、後日カツラなしの、髪が一本も生えていない頭で出仕してきただけだし。
なおその大臣はいまだに現役である。しかも綺麗な丸い頭に厳つい表情がよく似合っていて、カツラを被っていたときより人気がある。主に部下と女性騎士に。
単純に長い髪のカツラが似合ってなかっただけなんじゃないかと、話を聞いた私は思った。
その後、本人を見て、なるほど、と思い直した。厳格な性格、不正を許さぬと言わんばかりの厳しい眼差しとピシッとした姿勢、時折シャンデリアの灯りを反射する頭。あれはかっこいい。役職と見た目が合いすぎる。
ちなみにその財務大臣の影響で、"長い髪は貴族の象徴"とか言うよくわからない風潮が消えつつあるらしい。まあ髪の手入れって大変だからね。お金かかるからね。平民でも、伸ばしても肩の下になるかくらいまで。
中でも騎士、兵士、衛士は大変だったらしい。長い髪、被りっぱなしの兜、暑い時期にはかかずにはいられないのになかなか流せない汗、蒸れて痒くなるのに掻けない頭、そして痛む髪と頭皮。余計に嵩むお金。
が、「髪切ってもいいんじゃね? よし切ろう」ってなって、スッパリバッサリ短髪になった騎士たち。それがまた似合うのなんの。
結果、似合うならどんな髪型でもいいじゃない、どんな頭でもいいじゃない、になった。素晴らしい。おかげで私も重たい頭から解放された。ありがとう、やらかした『魅了』持ちの人。
なお、その人は現在、罪人更生部隊の隊員として働いているらしい。
更生…? 『魅了』で更生…それ、『洗脳』とたいして変わらないのでは?
と思ったけど言わない。言ったら『封印』持ちに固有魔法を封印された『洗脳』持ちから、『魅了』持ちが怒られるから。「俺たちは封印されたのに!」って。そりゃ『洗脳』だもの。累計100以上もの国を滅ぼした、『魅了』よりやばい特級固有魔法だもの。そりゃ封印されるよ。
「あなたもどんな『魅了』なのかわかればいいのだけど」
「具体的な能力がわからないともやもやするわよねえ」
そう、それ。いつまでも実験、検証が終わらなくてもやもやしてる。
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