第48話 レオナルド・シトー博士の解体新書

 タッタ鳥たちの白骨が道のように折り重なるのを発見したシン達は、すぐに星のスター・オウル号に連絡を入れ、一旦帰還することで決定した。

 レオナルドと言う専門家の目が必要だったが、どうも開拓政府に疎まれているっぽい調査であり、学術調査船は宇宙港の地上施設に留め置かれている。レオナルドを連れ出す足が必要だった。


 結果、シン達は急いで開拓村まで反転、宇宙軽トラを文字通り飛ばして、翌日の明け方には第二都市ザンギに帰還した。宇宙港の車輌用パーキングに駐車――宇宙船と同様、飛行機だと駐機料金は高額のため――し、いそいそと星のスター・オウルの船長室に戻ると、待っていたのは、


「ふははは、よいではないか、よいではないかっ」


「あぁっ、堪忍、堪忍してくださいっ」


 茶番めいた台詞の遣り取りをしながら、衣服を引ん剝いているのはタマさんで、引ん剝かれているのがレオナルドだった。

 急いだ挙句のトンチキな光景に、シュープリンガーは眉根を寄せた。


「破廉恥とか艶のある話じゃなさそうですな、主よ」


「どう見ても暴力の類だろっ」


 レオナルドはいちおう被害者なのか、はだけた衣服を胸の前で掻き寄せる。そういうトコロはいちいち女性っぽいのだが、未だに性別不詳の人である。

 なるほど、タマさんはいよいよそこに我慢が出来ず、知的好奇心の探求に任せたのだろうか。シュープリンガーが納得したところで、彼の頭の上の方で、思ったよりも冷え冷えとした声が聞こえた。


「何をしてるんだよ、みっともない……」

 絶賛、不機嫌そうなシンであった。

「こっちが強行軍で帰って来たってのに、どんな乱痴気騒ぎだよっ」


 かつかつと、不思議と響く靴音をさせて、タマさんに詰め寄る。なおレオナルドは無視される。

 形勢不利どころか、稀に見る主人の感情の爆発に、タマさんは感情プログラムを抑制するも、頬の引き攣りを隠せない。なぜかシンの圧に自然と後退してしまう。


「いや、これはですね、違うんです!いや違うのはプリセットされた感情アーキタイプでして、浮気がバレた団地妻って何なんですかコレぇっ?」


「電脳が選んだプリセットなら、そう自己認識しているって事だろ」


「ちがいますぅっ、プリセットしたのは前に躯体を使ってた艦長【0567$^0485】の方ですぅ。あぁ、もう、まだどんな隠しファイルがあるんだかっ」


「言い訳は聞きたくない。ほら、どんなプロセスで浮気と認識したんだ?」


「いやぁっ、そんなつまびらかに解説させないでくださいぃ。自分で感情プログラムの選択ミスを開陳なんてぇ、恥ずかしすぎますっ」


「俺は聞きたい。ほら、俺に隠してるエラーがあるんだろう」


 自分の不機嫌を棚に上げつつ、シンはタマさんを壁際まで追い詰める。そうだ、エラーは徹底して吐き出させなければいけない。

 この時点でシンは自身を突き動かす不機嫌の源泉に気付いていなかった。


 いっぽう、壁を背にしたタマさんだったが、後背の状況をアイセンサーが直接捉えていなくても、電子の目が室内のロケーションを把握している。左右方向への空間の空きは確認できたので、シンの利き手でない左側を狙ってスライド移動……と考えた矢先、顔の左右の壁にドンと音をさせ、彼の手が衝き立つ。


 肩や腰の上下動が無く、踏み出す初動も読ませない、理想的な武術的身体運用による不可知の壁ドンであった。


『無拍子って、いやぁんっ、無駄にハイ・スペック?!』


 と電脳内でおののくタマさんであったが、退路を塞がれた上でシンの顔が近付いてくるのには、さすがに首を引っ込める程度の抵抗しか選べない。

 有無を言わさず彼女の耳元へ口を寄せたシンは、


「さぁ、話して?俺以外にどうしてそんな奉仕をするんだい」


「あっ、あのですねっ?アレは違うんですったらぁ」


 子供じみた独占欲をASMRでぶつけられると、タマさんは膨大な筈の処理能力を圧迫するほどの情報量に溺れかける。追い付かない排熱が頬に溜まり、冷却液が瞳を潤ませた。

 こういう時、ダメ人間製造機であるハイエンド型の機械知性はポンコツだ。限界まで主人のレアな状態を観測しようとするので、非常ベルでも鳴らない限り、情報と言う幸せに溺れ続ける。


「……うわぁ、絵にかいた様なメス顔、はいりましたな」


 事の成り行きを見守っていたシュープリンガーが、思わず呆れたように解説した。


「というか、イチャついてます?これ、新手のラブシーンか何かで?」


「だとしたら難易度高いねぇ」

 いつの間にか隣りに避難しているレオナルドが合いの手を入れた。

「ありゃあ、愛用のPCの具合が悪いから、分解修理してでも直します、ってくらいの目だよ」


「たまに思いますが、その分析力をどうして主自身の地位向上に使えないのですかな」


「人間、自分のことが一番解らないものだよ。自身を客観的に分析できるだけの因子を、自分で検出するなんてね、それこそ被虐趣味の極地だね。私は御免だ」


 レオナルドは肩をすくめる。

 それから喧々諤々な視覚効果の中に、ハートマークが入り混じる奇矯な空間に目をやりながら、


「それにタマさんから身の上話を聞いていたからね、ある程度の見当はつくよ。シン君を育てたのは管理社会の孤立と、機械知性からの溺愛だ。対人感情は経験不足から、年齢相応には形成されていない。今も玩具が奪われて不機嫌なのか、身内に蔑ろにされて憤っているのか、その区別がついていないだろう」


「あー、もう、そうやって他所様のお子さんを雑に分析してる暇があったなら……」


「おぉっと、正論だけが未来を拓くって訳じゃあ無いんだよ、シュープリンガー!」


「虚言よりは遥かにマシかと、拙者、思いますが。まぁ正論責めが嫌でしたら、実際のところ、なにがあったのです?下半身の粗相の類じゃないでしょう?主の場合、物理的に」


 シュープリンガーはようやく、このおかしな状況の原因を問い合わせるタイミングを得た。

 それに答えるレオナルドも妥当な流れと思ったのか、先程のタマさんとの茶番とうって変わって淡々としていた。


「タマさん、超高性能だよね。あそこまでシチュエーションに酔える自我レベルに育ちながら、何の組織にも属さないフリーな機械知性なんだよ」


「……いや、拙者、機械知性のドマゾさに興味ないですので、細かな性能までは知りませんが、しかしシン殿が『H5のTiリメーン問屋の若旦那』のご執心なら、揃って友誼は結んでおくべきでしょうな。吹けば飛ぶような弱小貴族家的に考えて」


「だよね。それで私もスカウトっぽい話とか、進学相談だとか、互いの身の上話だとかで情報共有を試みたわけだよ」


「ははあ、こちらが黙々とドローン調査に従事している間、何とも暇を持て余していた訳ですな」


「ドローン調査だって重労働という程じゃないだろう?それなら今も船の各所を修繕してくれているアンドー1号クンの方が立派というものだ。何より私自身、ここ数日は瞬きの回数すらも管理される勢いで、残った論文の執筆をこなしていたんだぞ」


 と苦労話をしたつもりが、変な方向に駄々っ子を露呈しているシンにジト目を向けられた。


「完全体調管理したのか、俺以外のヤツと……」


「電脳の空き容量分で対応しただけですっ?!」


 タマさんも突然に別の疑いの目を向けられ、量子電脳のクロック数を更に上昇させる羽目になる。


「わたしが毛穴の全て(放熱パーツ兼用)まで使ってご奉仕するのは、この宇宙にマスターだけですからね?!」


 自分の胸に手を当て、主人に潔白を訴えかける。

 浮気バレ団地妻プリセットの影響は排除しつつあったが、シンの反応が新鮮で、ついついデータ収集の方に熱が入っているのが本音だった。


『なんという豊作。原因が予定外だったことは業腹ですが、これは永久保存モノです』


 はたで見ているシュープリンガー的には「あーもう滅茶苦茶だよ」である。

 いい加減、収拾がつかない事に、精神の底が冷えるような感覚を憶えた。おんっ、と一声、珍しく本能に任せて吠えると、思いのほかよく響いて彼に衆目が集まる。


「あいや、しばらくッ!シン殿も取り留めが付かないので、怒りを沈めなされ。養護型の機械知性となれば、銀河でもそれと知られた情の深さですぞ。あたら、貴殿を蔑ろにはしますまい。タマさん殿も!何だったらシン殿を物理的に止める手立てだってあるでしょう!」


 止める手立てと言われると、シンの肩がビクリと震えて口を噤まされる。それこそ完全体調管理されたら、溜まったものではない。


 実際のところは完全体調管理なんて仰々しいものでなく、精密作業に絡む極少機械群マイクロマシンのはたらきに、タマさんが同調・上乗りした際に起きる最適化だ。管理社会である【星間連盟】で施された強めの極少機械群マイクロマシン制御に、レオナルドの言う彼女の自我レベルが合わさった時に発生する、ちょっとしたシナジー効果だった。


 だが、そこまでを許可する主人や社会はそうそう無く、機械知性も内部で演算はしてみても、そこまでは実行しないところで、人類社会は上手い事まわっていた。

 じゃあそれが出来る機械知性たるタマさんはシュープリンガーの一喝にどうしたのかと言えば、言葉責めASMRを浴び足りないのか、微妙に不満そうな声をあげた。


「えぇ~?」


「えー、じゃありません」

 と、ピシャリとシュープリンガー。

「それと主っ!何を出し渋って話が拗れたのですか!さっさと情報開示して、誤解を解いて頂きますぞ!?」


「おっと、我が家の口うるさい家宰殿が帰ってらしたぞ」

 レオナルドは肩をすくめると、人目も憚らず壁ドン状態のシンに声をかける。

「ああ、シン君、彼女があそこまでやって確認したかったのはね、私の性別なんだよ」


 そう言いながら、残ったシャツの切れ端などを肩から抜き、掻き抱いていた衣服の残骸から手を離した。


「シュープリンガーから聞いているだろう、これが御本家メンディール当主の庶子が、シトー家という潰れていた家名に押し込まれた理由だよ」


 どこか投げやりな口調の後、布切れが床に落ちる。線が細くて性別が不詳だった学者の胸が露わになった。それは平坦であり、まさに胸板であった。


 お年頃のシンとしては、猛烈に盛り下がるものがある。

 もっとも、そこで「たゆん」とか「ぼるん」とか擬音のつく乳房的な物が御開帳されたとしても、ジャングル流刑二年の対人ブランクがあった。それこそ子供がキャーキャー言うような反応に落ち着きそうだ。


「……えぇと、野郎の胸板が見たかったの?」


 スンとなりながらタマさんに問い合わせると、どっこい、彼女は真面目な顔だ。壁ドン状態の下から手を伸ばし、シンの目線に手をかざす。


「注視部分を視界にオーバーレイさせますね。よいですか、コレはですね……」


 シンが「え?」と戸惑う間もなく、宣言通りに視界に拡張現実が追加された。より正確にはレオナルドの左右の胸板に赤線で縁取りが加えられている。

 それは薄いながらも筋肉で構成された平面の上に円として表示され、意外にも形の整った大きめの乳頭を中心に、ほんのわずかに膨らみを形成していた。

 そこにタマさんのアナウンスが続く。


「この僅かな膨らみは、皮膚と胸筋の間に、別種の体組織があるために生じています。乳頭部から放射状に広がっているようですから、おそらく、乳腺の原型かと」


「乳腺って、母乳に関する機能全般ってことでしょ。え、じゃあレオナルド博士は……!?」

 ハッとなって壁ドンを解くと、レオナルドの顔を見る。

「すごい貧乳の女性ッ!?」


「すごい失礼ぇっ!?」

 レオナルドはとりあえず、そう反応するよりなかった。それから溜息を一つ。

「はぁ……いや、そうまじまじと見られると、さすがに気恥ずかしいね。でもキミと機能的に変わらないんだよ?」


「……確かに、乳腺は男にも傷痕程度は存在するとか、しないとか」


「いや、そういうこっちゃなくてね……」


「おそらく、ですが」

 タマさんが埒が明かないと見て、自分の見立てを口にする。


「レオナルド博士は無性状態であると思われます。それが何らかの疾患なのか、種族特徴なのかまでは判らないのですけれど。いずれにせよ、御本家とやらでは疎まれる要素だった、と。

 まぁ、あと、ご本人に女性的なパーソナルが乏しいのは確かですね。何せ論文作成中は着の身着のまま。衣服も3Dプリンター出力の簡易品だったので、もう、いちど原料に戻して再出力しようと思い立ちまして。先程は、そのひき剥がし作業の最中だった訳です」


 唐突な暴露にレオナルドは苦々しい笑みを見せる。タマさんとしては、そろそろシンの誤解(?)を解いておきたかったので、不意打ちだろうが手段は選ばず、だった。


『という訳で、わたしは断じてマスターをおいて別の方にご奉仕なんて――』


 そう言おうとしたのだが、彼女の人工声帯が音声を発するまえに、シュープリンガーの方が頓狂な声を出して遮った。


「道理でッ!帰還してから嗅覚細胞が異常値を出してると思ったらッ!仮にも銀河帝国貴族の末席に名を連ねる者が、なんたる体たらくですかッ?!拙者、常々、人は初見で外見が9割と申し上げてましたでしょうにッ」


 やけに据わった目でそう言うや、レオナルドの右手を口にくわえた。本気で噛まなくとも、太い犬歯の先端は皮膚を強く圧迫する。


「いだだっ?!何をするんだい、シュープリンガーっ」


「お二方、しばしお待ちを。拙者、この汚主を熱いシャワーで滅菌消毒してきますゆえ」


「ちょっと!!滅菌ってどんな高温だい!?うわ、手が抜けないッ、本気だっ!?」


「さぁさ、サッパリして貰いますぞ」


「あいたたた、こらっ、判ったからぁっ?!」


 引っ張られる腕と脇の合間から、わずかな胸の膨らみらしきものが垣間見え、シンはドキリとした。引っ立てられるレオナルドの、背中から腰にかけての線の細さと、意外にしっとりとしたラインもそれに拍車をかけた。


 何やら見てはいけない物を見た様な気分になった。それを隠すようにタマさんに訊ねる。


「結局、レオナルド博士は女性、なのか?」


「さて?」

 次第に遠ざかる喧騒のなか、タマさんは首を傾げた。


「肝心なところで話の腰を折られたようにも感じますね。まぁ、お貴族様の家庭の情事――もとい、事情にコミットし過ぎるのも、一般市民には手に余りそうですし?それにシュープリンガー氏も、タイミングを覗っていたフシがありますしね。必要な分は見せたということだ、ってやつじゃないですか」


「これ以上は見せぬ、と……」


 ふむ、と小さく唸ったシンからは憑き物が落ちたようで、俺様男子の気配はすっかりと収まっていた。まだ通廊の奥の方からわーわー聞こえてくるのを耳にすると、タマさんの言葉から気になったフレーズを思い出す。


「そういえばさ、無性なのが身体特徴の星人っているの?」


「宇宙は広いですからね、僻地の少数種族には、そういう特徴持ちもおりますよ」


 タマさんはここぞとばかりにシンの隣りに身を寄せると、彼の携帯端末PDAに銀河ネットから幾つかの種族情報を呼び出した。


「例えばこの獣人類セリアンスロープの少数民族――」


 ディスプレイに表示されたのは、短い毛で全身が覆われた、筋骨逞しい獣人類だった。三浦真の地球知識ならば、全高2mはある直立したマンドリルで、頭部の左右には羊のような渦を巻く角が二本生えていた。


「――彼らは雌雄で身体的特徴が殆ど変わりません。生涯で何度かある繁殖期にのみ、遺伝子の交換と育児を行う器官が、それぞれに発生するとか。寒冷で荒涼とした惑星環境で生存するため、雌雄ともに生物として強靭な肉体を優先したようです。ちなみに繁殖期間後には器官が体外に排出されて、各自の集落で貴重なタンパク源として饗されるとか」


 ところ変わればとは言うが、流石にシンにもグロテスクに思われた。ディスプレイには『銀河野食ハンター、壮絶珍味の茹で胎盤と御立派様を食べてみた』とのリンクがあったが、サムネイルでは固太りの男性が顔をしかめており、わざわざ見る気までは湧かなかった。


「……これ、貴重なタンパク源って言ってなかった?」


「今はどんな星だって、それなりに外部との接点がありますから、外貨稼ぎのネタでしょうかね。エクストリーム・ツーリズムってやつです。あと近年は文明開化も進んで、現地人の若いヒトも好んでは食べないようですよ」


「……過酷な環境にめげない丁寧な暮らし、ってイメージが一瞬で崩れたんだけど」


「過酷だからこそ、精神面でも柔軟で逞しいのですよ、マスター」


 そういうものか。と、そのままでは宇宙って広いな、で結べそうな話だ。なにしろ収まりが良い。だが、そういう話ではなかった筈だった。シンは眉間に皺を寄せた。


「ん?でも今の話だと、その人たちは雌雄の差が少ないのであって、性別自体は既に別れていないか?」


「あら、まぁ、そういえば」


 タマさんはケロリとして言ったものだった。それから中空に目を泳がせ、ネットで検索していたようだが、やがて、


「性差が少なかったり、生息環境で雌雄の入れ替わりが起こる様な極端な例となると、獣人類セリアンスロープのごく一部に散見されますね。対して、人間ヒューマノイド型人類は始祖文明人から続く霊長目として、種としてある程度の型抜きが終わってから銀河にバラ撒かれてますので、男女の差異は既に確定していると言えます」


「じゃあレオナルド博士のケースは、種族由来でなく、疾患の可能性が高い?」


「はい。センシティヴな話題ですね。マスターはレオナルド氏から持ちかけられない限り、こちらから触れないのが人の心かと」


「……それ、ムリヤリ暴こうとしていたタマさんが言う?」


「あら、まぁ、そういえば」


 タマさんは同じ表情でリピートした。

 これだよ。シンは小さく鼻を鳴らし、これからの調査計画を練るために携帯端末PDAのスケジューラーを開く。身を寄せた彼女が特に動く気配が無いのも放置した。


 先刻の悶着もあってか、何だかしおらしいようだが、たぶん人間が想像するような思考プロセスを経ての行動ではない。が、シンは特にそこに違和感を感じない。

 人間同士のように謝罪の遣り取りがある訳ではないが、互いにその意志がある事は感じられる。


 それも横暴な子供の妄想かも知れないし、機械知性であるタマさんが単に主人に合わせているだけかも知れない。けれども着実に、両者は先程の遣り取りの前へとロールバック出来る。

 それが人と道具の付き合い方なのか、身内の腐れ縁なのかは、まだ当人たちが既定してはいない。


「……あれ?」


 と、シンがPDAに転送された星のスター・オウルへの通信に気付いた。あとタマさんは雰囲気を壊されて舌打ちした。


「レオナルド博士に通信だ。相手は……シュニッツェル氏、ってGA(Galaxy Agricultural Cooperatives)タッタの支部長じゃないか」


「ええ、はい。それに調査船が現地に行けないように留め置いている張本人と目されますね」


 何の用事か、そう口にするのも憚られる。どうせ古代タッタ人の調査にたいする難癖であり、逆にGAタッタにしてみれば、その調査は自分たちの開発計画への難癖に他ならないのだから。

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