第43話 牧畜惑星タッタの名物は……(2)

 ザンギは惑星【タッタ】の第二都市だ。低層建築の多い牧歌的な都市部の周囲は相変わらずの草原だが、途方もないサイズで区画分けが行われ、放牧地として利用されれている。そして郊外の大規模ファクトリーで家畜の加工が行われていた。

 街の住人は一部のサービス業以外は全て、それらの施設の何れかに関わる仕事に就いている。いわば企業城下町だ。


 GAタッタ……銀河農業協同組合(Galaxy Agricultural Cooperatives)タッタ支部はその頂点の一つであり、彼らが主催する酪農フェスもそれは盛大なものになった。

 街の中の大きな公園を借り切る勢いで露店が立ち並び、農機具の見本市や、新技術・省力化・各牧場の工夫などを集めた展示の天幕が作られていた。

 星々を渡る大道芸人が奇妙な恰好で曲芸を披露し、粗雑なミニゲームを扱う的屋の露店も並んだ。


 今は仕事の少ないシーズンなのだろう、街の住人はこぞって顔を出し、ラジオから流れる大音量のポップスに浮かされたようにそぞろ歩いている。

 シンも【ヘキチナ】での闇市の狂騒を経験していなければ、同じように浮かれ歩いていた事だろう。今はタマさんと連れ立つも、落ち着いた様子で見本市を見回れている。


「……これ、火炎放射器じゃね?」


 訂正。見本市の商品の容赦無さに若干、引いていた。

 商品名は『対原生林級しばやき砲』。申し訳ていどの握把が着いた黒くて長い筒と、背負い式の燃料タンクのセットだ。タマさんがタグから仕様を読み取ると、


「あー、これは軍にも卸しているメーカーの民生品ですねぇ。噴射する燃料で区別しているようです……あっちの方に陳列している害獣用の自動レーザー・タレットも、出力を抑えた元軍用品ですね。そっちには自動小銃。鳥撃ち用と但し書きがあります」


「どんな猛獣がいるのかと思ったら、あの鳥か……」


 さきほど見掛けたタッタ鳥の威容を思い出す。そういう目で見ると、フェス会場の展示も巨鳥との戦いの歴史が色濃いように思えた。各農場の工夫発表には侵入防止の電気柵に関するものが目立つし、天幕内の開拓史展示資料には駆除したタッタ鳥の巨体の後ろに並んだ農夫たちの、色褪せた記念写真が掲げてあった。


 他にもタッタ鳥の全身骨格(実物)や、採取したと思わしき羽を飾りにあしらった古風なボンネット帽子、タッチパネル用の羽ペンなどもある。トロフィーのような側面もあるのだろう。その中で一際異彩を放っていたのが、ピラミッド状に積み上げられた石だった。


 一つ一つが磨き上げたような光沢を放っていた。サイズはこぶし大で揃えられており、お陰で綺麗なピラミッドが形成されている。

 展示品の名札には胃石、と書かれていた。目を通してシンは顔をしかめる。


「うぇ、胃石って内蔵の中で餌をすり潰すために飲み込むヤツでしょ」


「これもトロフィー代わりに摘出したのを飾り立てたのでしょうね。ちょっと、趣味が良いとは思えませんが」


 タマさんも最後には言葉を濁す。

 等身大の巨体を持つ本来の生態系の頂点だ。人類の入植と環境改変が行われれば、生息域は容易に重複し、軋轢がうまれた事だろう。

 特に何かと生活が不安定な初期の入植者にとっては、妥協や譲歩の余地など無かったのではないか。


 シンは天幕に駆け込んできた子供たちが、タッタ鳥の骨格標本に「すげー」とか「ヘンなのー」とか、思い思いの言葉を投げ掛けるのを複雑な表情で見ながら、試料エリアを後にした。

 何やらとんだダーク・ツーリズムになってしまった。心なしか空気が重いのを、逃げる様に芝生のエリアまで移動し、木の影の下に落ち着いた。


 途中の露店で買い求めたプラカップのドリンクをストローで吸い上げる。たっぷりの氷でカサ増ししたイベント価格のやつだった。が、中身は調理マシンの類でない、本物の料理だ。


 ミントを砂糖で煮出してつくったシロップを炭酸水で割った、ノンアルコールのミント・ジュレップ。爽やかなミントの香りと甘味が、カラリと晴れ渡った気候に良くマッチしていた。結構歩いていたので水分も染み渡るようだ。


 天然素材のソフトドリンクなので、タマさんは「そんな雑菌塗れの不衛生なモノ!」と難色を示したが、推奨しようとしたミルクも成分未調整だったから、この世の終わりのような顔をして色々と観念した。


 そのタマさんもアップにしていた髪をおろして、木陰で風にそよぐに任せている。

 何かと絵になる光景から、たまに道行く男性が彼女を振り返っていたが、実際のところはソレは毛髪型の感覚器兼、放熱パーツであり、躯体内の熱を強制放出している最中だった。


「そんなに熱が溜まってた?ゴメンね?」


 シンの気遣わし気な台詞に、タマさんは内部領域で『イヤッッホォォォオオォオウ(AA省略)』と歓声あげつつ、外面は務めて瀟洒な装いで首を横にふった。


「いいえ、性能チェックにちょうど良かったですよ。このラバースーツじみたエクソスーツのお陰で、こうしてマスターに同道出来るのですからね。ま、全身くまなく覆っているせいで、モーターの熱が籠り易い難点も気付けましたし」


 シンは彼女の話を聞きながらじゅこー、とストローを吸っていたが、そういやタマさんが自動人形躯体になってから、連れ歩くのはこれは初めてじゃないかと気付く。

 大体いつもこちらをモニタリングしていて、何処からか通信を入れて来るので、どうにも距離感がバグを起こしていたのだが、本来なら人工筋肉の欠落した彼女の状態では、こうして一緒に出歩くのは無理だったのだ。


「――あ、そういえば、これって初めてのデートになったりします?」


 そう言ってわざわざ少女のような屈託ない笑みを浮かべるタマさんに、シンの心拍数はポンと跳ねあがる。

 本当なら人間社会の中で適切な年上のお姉さん相手に、そういう気付きは済ましておくモノだ。が、シンの場合は管理社会内で隔離気味だったものだから、唐突なお色気攻撃よりも効果は抜群だ、だった。


 一方、養護教導型機械知性的に本人の対人経験の機会を奪うのはどうなんでしょうか、と問おうものなら『自分の尻尾食べる蛇は大好物です』と真顔で答えてくれる事だろう。


 今だってタマさんはシンの体調のモニタリングをしているのだから、心拍数も絶賛カウント中だった。もう『我が世の春が来たぁ!』と電脳の内部領域で小躍りしているところだ。

 主人公の最大のピンチ(?)であった――その時、


「おや、何やら甘酸っぱい匂いを吾輩の嗅覚細胞がとらえていますなっ!」


 と、雰囲気は察しても空気は読めない、ちょっと古体で独特の口調が目線の下の方からかけられた。黒色短毛でスラリとした筋肉質の大型犬。知性化改造を施された犬であるシュープリンガーである。


「おっとタマさん様、般若のような顔は淑女のするモノではありませんぞ、おやめなされ、おやめなされ。さてシン殿、合流時間なのでお迎えにあがりました。あちらで主が宴の支度をして待っております」


 そう言って大型犬のでかい手で、野外にテーブルやイスの準備のあるイートイン・スペースを指した。

 宴とはシンの若い胃袋には何とも魅力的な申し出だ。露店から漂う香辛料や脂のはぜる香りで、空腹中枢はこれでもかと刺激されてきている。

 常日頃、栄養価に何かと煩いタマさんだって、人付き合いでの食事にまでは口出ししないとの言質をとっている。


「じゃあ、お呼ばれされちゃおうか」


 シンが笑顔でタマさんを振り返ると、彼女も「仕方ないですね」と、ちょっと諦めた風な微苦笑を見せた。

 般若のような顔とは何だったのか。そう心中で首を傾げるシンだったが、彼がシュープリンガーの方に向き直り、ひとたび視線が外れれば、もちろん絶好の機会を逃した事に、般若の形相に変貌しているタマさんであった。


~ ~ ~ ~


 ご馳走をテーブルの上に準備して待つレオナルド・シトーの恰好は、相変わらず緩やかにウェーブした長い頭髪を軽くまとめ、丈の長目のワンピースとスリムのパンツと言う、性別を感じさせないものだった。


 シンはいい加減、彼の人物の性別をハッキリさせねばいけないと思いつつも、それを口に出す前に食物の方に完全に意識を持ってゆかれる。

 衣が揚げたての音を立てている鳥もも肉に、スパイシーなタレで照りが出ている手羽先。パリッと焼けた皮が香ばしい胸肉のグリル。香味野菜と一緒に炒めて餡でまとめたもの。甘ダレが掛かったつくね。黄金のスープ。瑞々しい地元の野菜に茹で鳥が乗ったサラダ。


 食料3Dプリンター製も混じっているのかも知れないが、いずれにせよ産地だけあって肉が大きい。圧倒的肉感に、もう青少年の目は釘付けだ。

 テーブルで待っていたレオナルドも、流石にシュープリンガーに”待て”の訓練をするのではあるまいし、苦笑しながら、


「まずは腹ごしらえだねぇ」


「いただきますッ!」


 席に着くなり欠食児童と化したシンの手が閃いた。なまじタマさんが食に口煩いぶん、ジャンク飯への憧れには募るモノがある。フォークを刺した揚げ鳥の、みっしりと重いところに期待を込めて齧り付く。

 味の濃い衣がザックリと裂けると、噛み応えのある肉が詰まっていた。しっとりとして、少し獣臭がする。『はじける肉汁!』みたいな、いかにも旨そうなものでは無かった。


 むしろジャングルで食べていた鳥類を思い出す野趣がある。まず間違いなく、自動機械の類で組み替えられた画一的な味付けのタンパク質ではなく、手ずから作られた料理だ。

 他の料理も同様だった。味付けが濃く、クセのある肉をうまい事処理しているようだ。


 ちなみにシュープリンガーはテーブルの下で、皿に盛られた冷めた茹で鳥を平らげている。体質は知性化前と変わっていないのだろう。

 人間と変わらないパーソナルを持ちながら、そう振舞うのは、彼自身どう受け入れているのだろうか。あるいは愛玩動物の知性化に失敗が付きまとうのも、そういう折り合いをつける事が出来なかった個体なのかも。


 タマさんはふと過ったそんな思考を、別段、主人の事とは関係なかったので、メモ書きにも残さずに廃棄した。

 そんな事よりもシンが嬉々うれうれと摂取している塩分・脂質をどう対処するかの方が重要だ。


『とりあえず野菜ですね』


 タマさんはアイセンサーが赤い残光を発する勢いで、次なる行動を決定していた。

 そんな事とは露知らず、シンは野菜の餡と鳥肉をもしゃもしゃ咀嚼しながら、横目で露店の列をチラリと見やる。


『……あっちにはいかにも酪農フェスっぽいハンバーガーやステーキの屋台が並んでいるけど、そういうのは取ってきて無いんだよね。というか、これ全部、同じ鳥の料理だよな』


 何か意図的なものを感じながら料理を飲み込むと、早くもタマさんが茹で鳥のサラダを野菜マシマシで、小皿に取り分けて手渡して来る。

 シンはサラダの山の頭頂部に、深い緑色のギャラクシー・パセリを目ざとく見付けて怯む。


「タマさん、ギャラクシー・パセリいらないよッ」


「駄目です。栄養価が高いのですから、味覚に合わないなら噛まずに飲み込んでくださいね」


「くっ……簡単に言ってくれるなぁ」


 しぶしぶと茹で鳥ごとギャラクシー・パセリを口に放り込むシン。レオナルドはそんな主従に目を丸くする。


「驚いたな、随分と自我領域の強い自動人形だね。主人に強要まで出来るなんて、なかなか見ないよ?」


「誉め言葉ですね、まことに有難うございます。全てはマスターの健やかな成長のためですから」


 シレっと言ってのけるタマさんの横で、シンはギャラクシー・パセリの独特の香りに眉間の皺を深くしつつ、残りのミント・ジュレップで口直しして一息つく。


「ふーーー……俺の精神の健康は二の次なのかな。ところでレオナルド博士?この鳥づくしって、今回の仕事内容と関係あるんですよね」


「さすがに露骨すぎたかな」

 あはは、とレオナルドは白々しい笑いを見せながら手羽先を摘まむ。

「ああ、この手羽先もなかなかイケるよ。ちなみに料理に使われている鳥は、全てあれだね」


 そう言って彼は屋台の周辺に投影されているホログラフィック・ノボリの辺りを指さした。上空から見かけた膨れた様に太った”牛”の宣伝広告に混じり、タッタ鳥の威容が映されたものが混じっている。

 広告のタグに目を向けると、シンの中の極少機械群マイクロマシンが内容を読み取り、視界内にテラ語表記の拡張現実として表示させる。曰く、


『高タンパク、低脂質、夢の高級ジビエ!本物の肉をお手頃価格で!』

『高級羽毛製の衣服は化学物質に過敏な種族も着用可能。安心です!!』

『原生生物を家畜化、持続可能な惑星開発のモデルケース!!』


 とまぁ、出るわ出るわ。だが管理社会だった【星間連盟】出身のシンであるので、そういう耳障りの良い語句が大概、誇大広告なのは身に染みている。


 胡散臭そうにホロ・ノボリを眺めていると、ふと表示されているタッタ鳥の姿が、幹線道路の脇を走っていた個体とは違っているような気がしてくる。

 どすどすと草原を踏み均しながら走っているのを見掛けただけだし、タッタ鳥自体も茶色い体色がメインで、体格以外は目立つような特徴と言えるものがない。


「んん?だけど、さっき草原を走ってたやつと、何かが違うような~」


 違和感を口にすると、レオナルドが囃し立てる。


「良いね、先入観の無い初見の違和感ってやつは、けっこう大事なものだよ。やがて知識と経験に裏打ちされてくると、それは直感と言うべき最速の判断力になる」


「直感って、良いんですか、学者先生がそんなにふんわりしてて?」


 シンの胡散臭そうな目が今度は自分に向けられると、レオナルドはむしろ胸を張って答えた。


「今日日、学識者も外付け記憶領域をエージェントAIに精査させるのが当たり前だよ。それだって何を調べさせるのか、そして出て来たものが求めた解答なのか、そこを判断するのが学識の深度ってことになるかな。むしろ答えに見当が付いていなければ、思惑を外れた解答をもとにした、誤った裏付け探しを延々とループする羽目になる……なるんだよなぁ、うぅ……」


 最後の方は嫌な記憶でもあるのか、彼はこめかみを指先で揉みながら、嫌そうな顔をして唸る。

 AIの介在があろうが、その利用の勘所を心得ていなければ、出て来る答えの真偽までは定かに出来ない。AIは人類の代わりに思考してくれる物ではないため、レオナルドの発言は妥当だった。


 そして今のシンには、タマさんに間違い探しをさせようとしても、作業指示として適切な言葉が出てこない。いや、タマさんならばシンの言いたい所まで忖度して、自分で解答と解説を用意してしまうだろうが。


 苦し紛れにレオナルドが勧める手羽先を齧る。皮はカラリと揚がり、スパイスのパンチが効いたタレがその上をコーティングしていた。こってりとした味付けだが、歯応えは損なわれていない。


「あ、うま……」


 呟いたシンを見てレオナルドは人の悪い笑みを浮かべた。


「食べたね?じゃあ答え合わせといこうか」


「ちょっと待って?!ナンで食べるの確認してからッ!?」


「大丈夫、ダイジョーブ、私も食べてるから~」

 何が大丈夫なのか判らないが、レオナルドは自分の皿に盛られた手羽先の骨の山から一本、摘まみ上げて見せる。

「さて、シン君が違和感を憶えたのは、おそらくコレだろう。野生のタッタ鳥に無く、家畜化された種に生じている部位だよ」


「手羽が?」


 シンはもう一度、ホロ・ノボリに目を凝らす。広告映像のタッタ鳥の胴体に残る退化したと思われる小さな翼、その先端に風切羽を思わせる大ぶりな羽が、幾本か突き出ているのが確認出来た。

 開拓史の展示にあった、帽子の羽根飾りや羽根ペンに利用されていた部位だ。大きくて見栄えも良い、発達した風切羽だった。


「……いや、でも風切羽って、飛ぶために生えている頑丈な羽根だろう。なんで陸を走っているタッタ鳥から生えているんだ?」



「それも良い疑問だ」

 うんうん頷くレオナルドは、手羽先の骨から何やら吟味しながら言う。 

「この星の研究者によると、かつてタッタ鳥が飛んでいた時代の名残りだそうだよ」


「野生のタッタ鳥には無かった名残りが、飼育されているタッタ鳥にはある?タッタ鳥は空に逃げたいのかな?」


「ははは。個人的には応援したい、なんとも夢のある見方だね。でも惑星タッタ入植から700年で、そこまでの性急な再進化は有り得ないかな。いばらの道を、生物はなかなか選べないものだよ」


 頭の上にクエスチョン・マークの浮いたシンの後ろで、タマさんは『あちゃー』という顔をした。


「マスター、生物にとって飛行とは負担が大きすぎる選択なのです。大抵の惑星の自然環境では、飛ぶ必要のなくなった生物は、飛ぶことを止めるのです。ところが【星間連盟】の教育方針では、この手の宇宙生物学のような、惑星ごとの比較検討を行う学問は、宇宙への感心を抱かせるものとして忌避されています。ですので、初等教育の理科からその手の要素は省かれていたのですねー」


「マジかよ【星間連盟】最低だな」


 他人事のように今更な常套句を口走りつつ、シンは頭をひねる。幸い地球人、三浦真からの知識のお陰で、平均的な中学理科の概念は詰まっていた。


「時系列がおかしいのかな?鳥は必要が無ければ飛ばなくなる。タッタ鳥はたぶん飛ばない鳥で……そう、家畜化されるよりも先に、飛ばないことを選択している。それなのに飼育下のタッタ鳥には、飛んでいた頃の名残りがあると言われている」


「はい、充分かと。正解のご褒美に、塩分を体外へ排出するカリウムをどうぞ」


 タマさんはニッコリ笑って再び山盛りサラダを差し出す。

 『うへぇ』という顔をするシンにレオナルドも笑みを誘われながら、さっきから探していた手羽先の骨を皿の上に並び変えた物を彼らの前に差し出した。


「常識的に考えれば、まずはそのストーリー建てだろう。でも私はそこに、まずタッタ鳥はどういう鳥だったのか、そこから疑問を呈したいんだ」


 皿の上を見たシンの顔が、今度は『げぇっ』へと変わった。

 鳥の翼は腕から指先までが一本の梁のようになり、その下に羽根が生え揃ってゆく。宇宙収斂進化論によると、羽根型の構造は大体似通るものらしい。

 だが皿の上に並び置かれたタッタ鳥の場合は、四本の細い指の骨が横へ広がる様に並んでいる。それは鳥の腕というよりも、人間の手のように見えた。


「私はこう考えているんだ。タッタ鳥は飛ぶことを止めたが、翼は退化したのでなく、器用に動く個別の指になった。それは、もしかしたら道具を産み出したかもしれない。仲間の死を弔い、彼らに共通する意思疎通手段を持っていたかも知れない」


「ちょ、ちょっと、それじゃまるで――」


 シンの引き攣った口から漏れる戸惑いの言葉を遮ってレオナルドが言った。


「タッタ鳥は、かつてタッタ人だった」


「それを食うんかいッ!!いや、俺も食ったけど!!」


「惑星【タッタ】の開拓政府だってバカじゃないさ。今のタッタ鳥は飛べない鳥に過ぎないよ。現行の原生生物に交流を行える知的活動は発見されなかった。過去においても知的生命体の痕跡は発見できない……そう公表しているね。だからこそタッタ鳥の家畜化利用も、すんなりと採用された」


 今現在にタッタ人は存在しない。そこを強調されると、シンは複雑な表情で皿の上の手の形をした骨格を指さす。


「つまりレオナルド博士?アナタが救いたいと言っていた生物というのは」


「うん、このままでは存在を否定されてしまうタッタ人のことなんだ」


 もう滅んでるじゃん。シンはそう思ったが、口にするのは空気を読んで止めた。

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