第33話 抱卵期のはじまり(2)

 軌道上のヘキチナ宇宙港で出星の手続きを終え、宇宙軽トラはゆっくりと加速を始める。骨組みばかりの簡素な桟橋を通過し、後方施設への影響のないことを確認すると、メインノズルから盛大にプラズマを吹いた。


 【ヘキチナ】へ来たときには空荷に近かったから、荷台が上方へ競り上がり、エンジンノズルが船体の同軸線上を真後ろに向いていた。今は居住モジュールが常に荷台に乗っているので、バランスをとってエンジンブロック自体が、船体内部から下方向に突出し、そこから後方へ推進剤を噴射していた。


 ノズルは相変わらず船体に比して大きい。点検が終わってプラズマへの変換率も向上したのか、白くたなびく奔流は心なしか以前よりも眩かった。


「さてマスター?次の目的地は【銀河帝国】となります。いくつも星間国家を跨ぎますので、ここまでと同様、星間製薬会社【トラストHD】の輸送船に相乗りして旅費を圧縮します。質問は……ありませんね、よろしい」


 質問は、のくんだりでタマさんが相変わらず爬虫人類レプティリアンの卵を和メイド・スタイルのエプロンの下に抱き込でいるのを、どうにか突っ込もうとしたのだが、機を逸してしまった。彼女は手早くコンソールに周辺の星図を表示させると、小惑星帯アステロイドベルトのひとつを指さしていた。


「輸送船とのランデブーまでには時間もありますし、この辺で船外装備の慣らしはどうでしょう?金銀宝石とはゆきませんが、星の素にもなる星間物質には、たんまりと鉱物が含まれていますよ」


 たんまり、という俗な言い方が、諸々の支払いですっかり目減りした懐具合には、なんとも嬉しかった。シンは思わず破顔する。


「はは、いいね、たんまり。狙っちゃおうか」


「狙っちゃいますか、たんまり」


 なにか合いの手を入れようとした刹那、鳴り響いたアラート音に喉まで出かかっていた言葉は引っ込んだ。

 前面モニターに緊急回避先を指定する右方への太い矢印が表示された。ピックアップされた後方映像や周辺情報も並んだが、反射的に回避を優先する。


 サイドスティック方式の操縦桿を右へ倒す。船体を横倒しにするや、すぐに操縦桿を中央に戻し、続けてそれを引く。右急旋回が始まり、ここまでの視界情報が一気に下方へと消えて行った。

 空気抵抗による舵が必要ない宇宙空間で、大気中の航空機の様な機動は必要ない筈だが、エンジンノズルと船首の機動方向を一致させた方が急速な方向転換になる。


 そしてシン達が今し方まで飛んでいた場所を貫くように何者かが追い抜いてゆくと、こちらの機動に追従するように、あわせて水平旋回にはいった。

 宇宙軽トラは小型で小回りが利く分、既に旋回行程の半分を終えている。各センサーが頭上へと捉えた追跡者の諸元をまとめ、前面モニターにピックアップされた。


 涙滴型の銀色をした宇宙船だった。後方には五つのエンジンノズルが見える。全長はテラ標準で約100m。宇宙船としては小型の部類だが、宇宙軽トラが作業艇程度と考えれば、かなりのサイズ差だ。

 それだけの差があると、単純な推進力は宇宙船の方が遥かに高い。が、タマさん的にはそれよりも気になる事があった。


「随分と雑な設計の船ですね。あのクラスなら、普通はエンジン二発が経済的というものですが……」


「それは戦闘機動マニューバじみた動きをしないと追突されてた事と、どっちが重要かしらん?」


 シンは視界の上方、そろそろ見え始めてきた銀の宇宙船の背後を睨みながら問うた。

 慣性が掛って重たい手でコンソールを叩き、マスターアームキーをタッチする。火器管制システムで動くまともな火砲なんて積んで無いのだが、『ロックオンした』という警告だけは相手にも伝わるだろう。


「……現在、航宙緊急回線ガードチャンネルにて宇宙標準語と、代表的な爬虫人類レプティリアン言語五種の抗議を送っています」


 タマさんはそつなく仕事をこなしていた。が、やはり目の前の宇宙船は気になる様子で、


「どうもあの船、現行の技術レベルより低いもので建造されてますねぇ。アバンギャルドに見えるツルっとした船体は、表面に初歩的な防護コーティングをした軽量の合金です。五発のエンジンも小型舟艇の物を束ねただけ、のようです」


「骨董品ってこと?」


「むしろレプリカのクラシックカーでしょうか」


「レプリカ……って、何でかは判らないモノは後回しでッ。抗議への反応は?もうすぐ後ろを取れるよ!」


 銀の宇宙船もこっちを追い駆け回している訳だが、シンも怒鳴り散らしながら追い駆けている形だ。その上で背後を取ってロックオンまでするとなれば、いよいよ金属バットを振り回し始めるくらいのエスカレートだろうか。


「残念ながら、返答無し。所属不明機の背後について下さい。もう一度だけ呼びかけます」


「了解ッ」


 応えると口元を引き締め、右手で引き続けていた操縦桿からゆっくりと力を抜き、スロットルレバーを絞って推力を抑えてゆく。旋回半径はこっちが遥かに小さい。銀の宇宙船の推力にモノを言わせた強引な旋回の内側に合わせて、ぴたりと吸いついた。相手の推進機の噴流に巻き込まれない斜め後方を専位し、維持する。


 その間にタマさんが再び航宙緊急回線で抗議文を送信した。

 背後を取ったのが効を奏したのか、はたして、宇宙軽トラの通信機からノイズが聞こえた。相手が通信を開いた、と思ったら、即座に聞こえて来たのは、掠れ声による罵詈雑言だった。


「コノ悪魔メ!我ラハ誉レヲ遂ゲタ!後ハ帰ルダケ ダッタノニ!!」

 ここのところ何度か耳にしている、発声器官が違う爬虫人類の声だった。

「叔父ハ死ンダ!仲間モ死ンダ!!一人、オメオメト帰レバ恥ダッ!?オ前ガ邪魔ヲシタ!オ前ノセイダ!!悪魔!!」


「あ”~」


 タマさんが頭痛を堪えるような声をだした。実際頭痛がある訳ではない。対人会話プロトコルであり、それだけちょっと困った事に気付いてしまった訳だ。


「マスター、闇市を襲撃した爬虫人類レプティリアンの生き残りですね。わたし思い出したんですけど、坑道で一匹、ふん縛って転がしてたやつが……」


「あ”ぁ”~」


 今度はシンがそういう声をあげていた。最初に待ち伏せをくらい、返り討ちにしたヤモリ男だ。

 どうやったのかは知らないが、逃げおおせて、復仇の機会を狙っていたのだ。


「死ネッ!部族ノ仇メ!!」


 ヤモリ男の掠れ声がそう告げると、涙滴型の船体上部に左右二つの穴が開き、下から箱型の機材が競り出して来た。それぞれの上部が数か所、次々と明滅する。


『まずいッ!』


 シンはすぐさま操縦桿を左へ倒しながら、左足でフットバーを蹴り込んだ。瞬時に機が横倒しになり、更にエンジンノズルの向きよりも大きく左舷側へと傾き始めた。


 大気中なら方向蛇を曲げて左向きの抵抗を受けるため、ラダーペダルの出番だったが、整備を終えた宇宙軽トラでは、流体クラッチからのトルクが左向きの力場を発生させていた。

 両者の描く機動のベクトルが離れ、距離が開く。と同時に、何条もの光が銀の宇宙船から発射されていた。


「レーザーアレイ!?」

 タマさんが驚きの声を発する。

「並列掃射の多砲塔レーザーです。まったく武装ばっかり、随分と盛ってますねぇ」


 言っている内に相対距離が大きく開いた。既に銀の宇宙船はCGの縁取りが無いと、小惑星帯の漂流物と見分けが難しい。いっそ、そのまま飛び去ってくれれば良い。シンはそう思うのだが、残念ながら相手は水平旋回に入ってこっちを補足してくる。背面のレーザーアレイがフルスペックを発揮した。


 多数のレーザーが束になり、光の壁のようにして迫って来る。

 シンは操縦桿をこれまでと反対へ切って、急回頭でやり過ごした。そこをすぐさま、二基目のレーザーアレイが下から迫って来る。右へ切った機首はそのまま、操縦桿を引いて旋回にはいると、船体の腹の下をレーザー光が突き上げてゆく。


 やり過ごした。そう判断すると、右のフットバーを蹴りながら旋回を続ける。右方向への力場で機首を振りながらの旋回。まるで右下方へ捻り込むように、宇宙軽トラが滑らかに機動した。

 そこからレーザーアレイの光条を逆昇る様に動く。相対する速度差が、直ぐに互いの位置を接近させる。


「攻撃開始だ、アンドー1号ッ!」


 シンの呼びかけに応じ、宇宙軽トラの右舷側、キャビンの真後ろの側壁が後方へスライドし、安全帯で躯体を船体につないだアンドー1号が半身を乗り出した。その手にはアン姐さんの言った通り、長くて武骨なレーザー機銃が握られている。


 高身長のアンドー1号が構えてもかなりの長さだ。テラ標準にして約1.5m。全長の後ろ半分は箱の様な構造体で、内部に励起装置とバッテリー、レーザー触媒の人工宝石が詰められている。残りの前半分は砲身のようだが、実際はレーザー共振器で、先端はラッパのように僅かに広がっている。

 内装は全く違えど、もうほんとうに、古式ゆかしい機銃のようなデザインだった。だがその銃口が撃ち放つ閃光は、標的表面へ高熱と衝撃を瞬時に送りつける。


 レーザー機銃の光条が銀の宇宙船の表面を舐めると、幾度も火花が舞い飛んだ。そのまま互いの航跡が直交し、再び距離が開いてゆく。

 目も冴えるような逆襲。シンは操縦の手応えに満足を覚えている。が、観測データを統合しているタマさんは、攻撃成果の悪さに眉根を寄せた。


「うーん、あれは装甲表面で止まってますねぇ」


 そう言われるとシンも驚くしかない。モニター上の光点に目を凝らすが、確かに火災などは検知していなかった。


「ありゃ?火花が飛んでたのに、火も吹いてない。随分頑丈な船だね」


「あの涙滴型の船殻、かなり分厚いです。防御フィールドの類は積んで無いくらいの古い設計ですけど、そのかわりに表面を単純な質量で覆っています。先程の火花は表面のコーティングが蒸発した際のガスに引火した物ですね」


「全体防御方式って、水上艦の時代かよッ!?」


「もちろん、軽量の合金だろうと重量はひどく嵩みます。それは推進剤の燃費に直結しますので、広大な宇宙空間で使用する艦船的には、誉められたモノじゃありません。そこは孤立部族である彼らの、技術限界なのかも知れません」

 そこでタマさんも苦笑い。

「が、問題なのはっ、こっちの武装もレーザー機銃一丁なのでぇ……コーティングを剥がしつつ、厚い装甲を貫くまで、張り付いて同じ箇所に照射しますぅ?」


「もっとまともな武装が必要だったかっ?!」


「爆速のフラグ回収ってやつですねぇ~?」


「えぇい、おなかの卵に語りかけるのは止めなさいって!!」


 軽口を叩いている内には、次の攻撃チャンスがやって来る。小回りが利く宇宙軽トラの旋回半径は小さい。直進のついでに、ゆっくりと回頭している銀の宇宙船の後上方へ最接近していた。


 ヤモリ男は一人で動かしているのか、レーザーアレイの反応は鈍い。が、いつ攻撃が始まるか判らない中、時間をかけてさっきの着弾箇所を狙うのも、無理筋というものだろう。


「……とりあえず、大型機への標準的な攻撃法で!」


 宣言しながらシンは操縦桿を前へ倒す。キャビンが下を向き、銀の宇宙船へ向けて急降下を開始。同時にアンドー1号は敵船後方へとレーザー機銃を浴びせかける。

 再び船体表面の防護コーティングが剥離し、蒸発して引火。激しい火花が散る中を宇宙軽トラが駆け下る。


 遅まきながらレーザーアレイが後上方へと防御射撃を開始したが、その頃にはシンたちは敵船下方に潜り込んでいた。そこで操縦桿を引き、再上昇。今度は下からレーザーを照射する。船首へ向けて一直線にたっぷりと浴びせかけながら、敵船の前上方へと翔け上がった。レーザーアレイに補足される前に水平旋回。距離を離す。


 この手の空間戦闘技術のイロハもジャングル時代に叩き込まれたものだったが、確か宇宙生活者にとっての必須技術と言う触れ込みだった。今にして思えば、これでは宇宙の戦士ではないだろうか。

 そう考える一方で、レーダー照射すら受けない完璧な一撃離脱に鼻息が荒くなる。タマさんの評価も高かった。


「素晴らしいです!……命中箇所が散った上に、やはり有効打になってない以外はっ」


「ですよねー……くそぅ、模範的な大型機への襲撃だったっていうのにッ」


 伴わない戦果にブツブツ言いつつ、次善策を捻り出そうと頭を悩ませる。

 逃げる、という一番のおススメが難しかった。

 こうして突っ掛かっている限りは、小型機の機動性の良さを十全に発揮できる。だが逃げを打つには小回りよりも、逃げ足そのものが必要だ。


 その点、小型機と宇宙船ではエンジン出力が違う。こちらが最大出力で吹かしても、何処かで追い付かれてしまうだろう。

 銀河ハイウェイや通常航路から外れた宙域での交戦というのも分が悪い。まして道草くいに立ち寄った小惑星帯で絡まれました、となると自衛力を高めるのも自己責任のうち、という話になってしまう。


 暴力万歳。ホント辺境は地獄だぜ、フゥハハハーハァー。

 いや、本当にそれで良いのか。人の叡智は野生を克服できる筈だ。


 瞬時、シンの中で人の善性と悪性という主語の大きなモノが、がっぷりと四つに組み合うも、結局は少年の好みで当たり障りのない発想に落ち着いた。

 敵船と距離を取りながら、タッチパネルの通信キーを押し込む。


「所属不明の爬虫人類レプティリアンの船に告ぐ!そちらの挙動は完全に補足されている。次はエンジンを狙うぞ。一人では船の制御も限界があるだろう。防ぎ切れるものでは無いぞ!」


「煩イッ!俺ハ 一人デモ戦ウ!ソレガ我ガ部族ノ誉レダッ!!」


 ヤモリ男は一人と言う指摘を否定しないどころか強調した。シンは声をひそめてタマさんに確かめる。


「やっぱり一人ってことは、殆どの行動が船のAIかな?」


「装置や機関ごとのAIでしょうね。統括する航海用AIは無さそうです。おかげで電子戦攻撃ECMをかける相手もいないんですよ、これが。まったく、どうやってここまで来たのだか!」


 思わぬ旧式っぷりにタマさんも勝手が違い、呆れている様子だ。

 やはり現状は”うまく”ないらしい。シンとしてはどうにか、こちらが優位であると認識――誤認?――させ、煙に巻くなり手打ちなりに持ってゆきたい。


「……再度警告する!旧型船のワンマン・オペレーション程度で当方は補足されず。生命を無駄にするな!」


 妥当な警告の文句だと思っていた。だが、ヤモリ男の反発はシンを当惑させる。


「黙レッ!無駄ト言ッタカ!!今、コノ時コソガ無駄ナノダ!誇リヲ失ッタ生ニ意味ㇵ無イ!辱メラレ 生キノビテイタ姫ニモ、恥知ラズニモ 助命ヲ乞ウタ弟御ニモ、意味ガ無イ!!誉レ無クシテ 生ハ無イノダ!」


「なっ、にを……?」


 何を言っているのか理解できなかった。

 新興開拓惑星である【労働1368】の、加えて【星間連盟】によって文化を形骸化させられたテラ人にとって、生存に意味の有無が付きまとうなんて発想は無い。特に文化が違うと言われる爬虫人類たちでも、このギャップはシンには衝撃だった。

 気圧されたところをヤモリ男のかすれ声が追い立てる。


「我ラノ生キ様ダケガ、部族ノ誇リヲ保ツ。部族ニ誇リガ残ルカギリ、我等ハ永遠ナノダッ!!」


「くっ……?!」


 シンは言葉に詰まらされた。

 思考の停滞は操縦桿を握る手まで重く感じさせる。この蛮族、とでも言ってやれば良いのか。いや、それではただの部外者の居直りだ。もっと、相応しい、何かが、


『ザマア、ミロ――』


 不意にシンの脳裏に、青い尾の最期の言葉が過った。

 部族の全員がそれを納得しているのなら、あの言葉は出てこない。ヤモリ男の言う誉れとやらの前に、青い尾と水晶の姫には肉親の情があったのだ。

 ――あったのだろう。


「……そんな簡単にっ!永遠なんて言葉がほいほい出て来るからっ、身近な感情を見落としてるんだッ」


 一転、シンは苛立ってきた。自分が持っていないものを、容易く切り捨ててしまう部族という有り方に憤った。

 子供じみた怒りだ。さっきまでの交渉の意思や、煙に巻くといった賢しい考えなど、1パーセク向こうに放り投げていた。


 例えば手打ちや和解の道も、何処かにあったかも知れない。だが惑星も星団も異なる異種族同士、理解を得るには時間が無く、互いの置かれた環境も敵対で決定している。既にヤモリ男は自己の生存を希望すらしていない。


「部族ノ誉レノタメ、差シ違エテデモォッ!!」


 銀の宇宙船が吐き出す推進剤の帯が膨れあがる。速度を上げ、二基のレーザーアレイを全自動発射に変えたのか、垂れ流しにしながら突進してきた。

 シンは手短に操縦桿を微調整し、


「そんな誉れ、ブラックホールに捨ててしまえっ!!」


 吠えながらスロットルレバーを倒して増速。敵船首と正対させた。

 思わずタマさんも目を見張る。


「回避して下さいッ!?マスター?!」


「いや、決着をつける。”こいつ”でッ!」


 シンの左手が自分の後背の壁を叩く。そこには小さな機密扉が新たに仕切られていた。居住モジュールへの連絡口だが、どういう設計なっているのか、ハッチがモジュール側へ開くと猛烈に空気が吸い出され始める。


 何事かとタマさんが振り返ってみれば、にゅっと向こうから出て来る、サムズアップしたメカニカルな手。

 大体理解できたタマさんは、自動人形躯体に乗り換えて初めて『まなじりを吊り上げる』という表情オプションを選択するのだった。


「連絡路の隔壁まで開いたんですかッ!?アンドー1号側は宇宙空間ですよッ、早く閉めて下さい、空気が抜けてしまいます!!」


 まったく、何時の間に示し合わせていたものか。タマさんが怒っているのだか、呆れているのだかしている内に、シンはアンドー1号に腰のホルスターを外して握らせてハッチを閉鎖する。


「アンドー1号、すぐに準備して!」


 前面モニターの数値に目を配り、体内の極少機械群マイクロマシンを通してアンドー1号へ直接、作戦を通達した。なにせ背中の隔壁一枚向こうには、声が伝播する空気が無い。

 宇宙海兵の能力を持つアンドロイドは一瞬、即答を躊躇ったが、すぐに『了解』との定型文を返してきた。


「目標、急速接近中ッ」

 タマさんは彼我の距離と相対速度から瞬時に計算する。

「接敵まで30秒。カウントダウン開始で?よろしいですか?」


「大丈夫、やれるよ。俺たちなら」


 シンはシートの腰の座りを直すと、前だけ見据えて言った。

 異種族の振りかざす埒外の理屈より、今の装備と自我ある機械たちとで行う無茶の方が、少年には理解も信用も出来るのだった。

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