第32話 抱卵期のはじまり(1)

 臨時奴隷市を潰された【青髭同盟】は、それはそれは怒り心頭となった。暴力を飯のタネとするだけあって、メンツに掛けて襲撃者を狩り立てた。最後は人気のない採掘場跡へと追い込み、襲撃者はあえなく殲滅された。


「――という顛末になったようですよ。事実はマスターの情報提供があった訳ですが、かくて【青髭同盟】のメンツが守られたわけです」


 タマさんがそう付け加えた。今、彼女は安宿に0.5人分の追加料金を払って、シンの部屋のベッドの脇に腰かけ、今日の首尾の報告を行っている。


「その【青髭同盟】ですけど、【宇宙協商連合】と【星間連盟】間の辺境宙域を実効支配している大規模海賊船団でした。この辺りでは随一の勢力でして、今回みたいに闇市ブラックマーケットで不定期イベントを主催するくらいには羽振りが良い様子。辺境の経済の牽引役であり、インフラ整備に、医療・教育機関への援助、公共施設の修繕等々、地域に無くてはならない暗黙の支配者状態です。つまり、わたし達の当座の目的地は、まるまる【青髭同盟】の傘下でしたッ」


「まぁじでぇー?」

 シンはうんざりするような声を出すと、安宿に備え付けの丸イスに座りながら、子供のようにガタガタと傾ける。

「やっぱり完全に地方軍閥じゃん。【宇宙協商連合】は指を咥えて見ているの?」


「まともに取り締まりをしているなら、【ヘキチナ】全体が海賊の補給地になんて、なっていないと思いますが?」


「……それもそうか。ちなみに、我らが世話になってる【アンブロジオ一家】の方の勢力は?」


「大型の海賊船単船によるクラシック・スタイルな海賊稼業のようです。以前は辺境のニュースにも名前が出るくらい、派手に荒らし回っていたようですが、現在は闇市の町会長を押し付けられているせいか、開店休業状態みたいですよ」


 タマさんはそう解説しながら、リサーチ不足になっている部分は、記憶領域の表層にピン止めしておく。それはアン姐さんこと、宇宙海賊アンブロジオ・ペレイラと、ミト一行のカーク・サンダースとの関係だ。


 古くから列強に名を連ねた【銀河帝国】との関係を匂わせるミトの、その護衛を務める全身義体のサイボーグが、一介の地方アウトローと友誼があるというのも奇妙な話だ。あまりに住む世界が違う。

 それとも、あのオネェが以前は極めてお堅い職業だったりしたのだろうか。軍人?警察?


『その時からオネェだったのかも気になりますが……いずれにせよ、イザという時に頭数として数えられるように、リサーチを続ける事にしましょう』


 主人のために悪知恵をはたらかせつつ、慈母のように、淑女のように振舞うのも自動人形の嗜みである。差し当たっては、


「ところでマスター?コレは、やはり本気なのですか?」


 タマさんはエプロンの下におくるみをしのばせ、湯を入れた遮熱能力の低い容器を一緒に抱え込んでいた。そのふくらみを擦る様などは、いわゆる妊婦であった。


「認知とか、しちゃいます?」


「どうやってさ」


 タマさんのドギツイ冗談はスルー。行為的にも、DNA的にも、法的にも、むつかしい話だった。そしてタマさんも遠回しに、その辺りのシンの本気度を伺っているわけだ。たぶん。

 丸イスの上で背を反り、天井を見上げて、考えをまとめる。昼間の衝動に任せた行動を、言葉にする必要があった。


「……そのも、孤児だ。俺と同じく、宇宙に寄る辺がない。それどころか身内に殺されるところだった」


「水晶の姫、と呼ばれていたようです、この卵の母親は。爬虫人類レプティリアンのさる部族の中で貴族的な立ち位置でした」


「わかるの?」


「あの悪趣味なイベントのパンフレットから、情報を洗い出しました。【宇宙協商連合】内の辺境宙域にある星の、孤立部族ですね。借金のカタに身柄を拘束されていたようですが、それもどうも経済観念のない部族を、詐欺で嵌め込んだ悪辣な資産家がいたようでして……良いですか、マスター。『絶対に儲かる話』とか『アナタだけに教える必勝法』なんて、詐欺の常套句ですからね?」


 さすがにそれ位は理解している、とシンも思いたい。だが社会の崩壊時や、極端な好景気など、折りに触れて、そういう人心の隙を衝いた見え見えの詐欺は横行する。


 もっと甚だしいのは、惑星を跨いでやって来るような技術格差が、部族側の神話に合致した場合だ。

 侵略者へ頭を垂れて国を明け渡した者。来訪者が距離を取って遣わせた観測機を、神の使者と捉えて信仰の対象にした者。この世の終わりだと騒ぎ立て、ただただ踊り狂った者。


 未開、と一笑には伏せない。全て、地球でも類型があった社会現象だった。

 それは悲劇に終わったのか、それとも喜劇に変わったのか。いずれにせよ水晶の姫と謡われた女性のその後に関しては、性差への認識の曖昧なタマさんでも、気分の良い物では無い。


「その資産家は好事家の間では”動物好き”で知られていたそうで……」


 そう言って言葉を濁すタマさんに、シンはまっとうな切り口で反応してみた。


「動物好きって、ペット愛好家?それとも市井の動物学者?もしかして、ゲテモノ料理のマニア?」


「あぁ、過不足ない見解にタマさんのメンタルも幾分回復いたしました……では諸共に現実に打ちひしがれましょうか……もっと重箱の隅な、性的な話です」


「打ちひしがれる、って何さ!?……性的?……あー、ブリーダーか何かかな?でも相手は知生体じゃないのかッ?!」


「問題ありません、ただの獣姦愛好家ズーフィリアですから」


 立て続けに飛来する不穏当な単語。シンは眉間に皺を寄せると、水差しの中身をグラスに注いでひと息に飲み干し、落ち着こうとする。駄目だった。突っ込みは銀河を隔てても、宇宙の真理なのだろう。


「問題しかないでしょーがッ!?好事家の間って、ド変態界隈かよっ!!あーッ、まさか卵の父親って……?!」


「そちらはご安心を、資産家は人間です。爬虫人類レプティリアンとの混血は成立しません……ですが、ブリーダー的な偏愛の方向性は、有り得ますねぇ」


「ならどうして手放したわけ?しかも、いかにも身重な状態で」


「【青髭同盟】が買い取った時には妊娠初期段階で、当人も無自覚だったようですよ。騙された、商品価値が下がった、と随分文句が出たようです。あ、手放した理由自体は、資産家本人が亡くなったからです」


 最後に付け加えた一言を、タマさんはアッサリと言ったものだった。それまでが強烈な内容だっただけに、何となく宇宙の平穏が守られたような気にすらなる。


「あ、そうなの……」


「アコギな事に手を染めていたせいか、親族も同様に、容赦なく遺産を処分して金に替えたようで。趣味の部分のナマモノなどは、まとめて闇市に流されました。水晶の姫以外にも、ケモ度レベルが高いとか、手足が多いとか、下半身は別種族とか、水棲種とか……目録には他にも不定形や外骨格、知生体専門の高度寄生生物とか、保護対象の希少種族や接触禁止指定の危険生物もあるトカ、何トカ……これもうBEM(Bug-Eyed Monster、複眼の化物、総じて異星生物への古典的な蔑称)扱いじゃないですかね……BEM娘?」


「その呼称は流行らんと思うけど……でも、まさかそれらも部族の名誉とかを理由に、命を狙われていたり?!」


「いやー、そこまでBEM娘が文化的かは判断付きかねますねぇ。なにせ、研究者が銀河ネットの配信者くらいしかいない、なんて種もザラですから。もうクーリング・オフを過ぎたら購入者責任ということで……」


「うぅん、文化とは……知性とは……」


「それ気にし出すと、宇宙から降り注ぐ進化を促す放射線に導かれて虚無に還るので、ストップですよー」


「……いったい、タマさんは何にアクセスして、そういう知識を得てるんだい」


 シンはふと浮かんだ疑問を口にしてみたが、タマさんは「うーふーふーふーふー」とアンドロイド青狸みたいな笑みを見せると、そんな事はどうだって良いんだ重要じゃない、とばかりに身を乗り出して来た。


「今は人類の進化より、この卵の孵化です!このままでは、ただの妊娠イメージプレイになってしまいますよ?」


 どういうプレイだよと思いつつ、言外の孵化失敗という匂わせにドキリとする。

「保温だけじゃ足りないの」と訊ねながら、自身も携帯端末PDAで検索してみる。

 地球人、三浦真の知識のせいか、ウミガメやワニが温かい砂の中に卵を産んで、後は放っておくイメージが強かった。


 だが実際には卵の孵化には適切な温度の他にも、湿度や空気の組成も関係した。極論、卵を人工孵化させようと思ったら、抱卵状態まで再現すべしという話になる。


 極寒の中で100日以上に渡って飲まず食わずで保温するペンギン。30日にわたり新鮮な酸素を送り続け、生命を使い果たすタコ。胎内で孵化すると共食いを始め、生き残った1匹だけが出産されるサメ。

 自然環境下でも斯様にドラマチックなのだ。


「……まずい、代表的な爬虫人類レプティリアンの孵化条件が判らないぞ」


 調べてみると色々と焦りが出て来た。サッと顔色の悪くなるシンに、タマさんはその仕草が気に入ったのか、エプロンの下の卵をしきりに撫でながら諭す。


「お国の公的機関に顔が利きそうなミトさんに、研究者を紹介して貰いましょう。ナンでしたら、わたしが独断でリサーチして、コンタクトを取った事にしましょうか」


「いいや」

 そう首を横に振るのは早かった。

「俺が連絡を取るのがスジでしょ……煙たがられるかも知れないけど、そこは、うん、まぁ……」


 言葉尻はグダグダだったが、シンはすぐにPDAのメーラーを開くと、搔い摘んだ事情をしたためて送信する。


 電子データは銀河ハイウェイを通って光よりも早く宇宙を飛び、何処かのサーバー惑星へとアップロードされる。ミトがサーバー惑星のカバー範囲にいれば、すぐにメールに気付くだろう。が、一光年でも離れた星団へ足を伸ばしていたら、完全な超光速通信が確立していない世界である。気付くのは帰還後になる可能性が高い。


 もっともミトはシンの要請に素早く気付いてくれる事だろう。彼は複数のサーバー惑星に莫大な利用料を払い、情報網を構築・維持する権力を、おそらく持っていた。

 ただ、そういう生臭いトコロは関係なく出逢った筈なのに、さっそくソコをあてにするのが、何とも歯痒かった。


「もしかしたら、彼の力を借りるのは……これが最初で最後になるかもなぁ……」


 送信終了を見届けると、シンはぽつりと洩らす。


『いやぁ~、どっちもベクトルは違えど友達いない空気を発してましたから、そんな事にはならないかとぉ~』


 一方、タマさんの方はそう考えていたのだが、主人の情操教育に良さそうなので電脳内に収めると、口元だけニヨニヨさせるのだった。


~ ~ ~ ~


 翌朝、シンはPDAにミトからの返答が直接送りつけられている事に気付いた。

「おっけぇ~」と、やけに軽い調子の書き出しにずっこけつつ、内容は銀河帝国大学の宇宙生物学研究室を紹介してくれるというものだった。やはり彼は【銀河帝国】に所縁があるのだろう。

 渡りに船で有難かったが、そこからが大変になる。


 ひとまず卵は保温されねばならない。一般的な大型爬虫類の卵の保温環境を参考にして、湿度と温度を調整しつつ、更に出立の準備を進めて行く。

 【銀河帝国】への経路検索。加えて【ヘキチナ】へ来た時と同じように、相乗りできそうな星間企業【トラストHD】の輸送船とのランデブーポイントの算出。


 そうこうする内に船外活動用の宇宙服が届いたので、着用してシンの身体に合わせてキャリブレーションを行う。


 デザインは白基調の分厚い”つなぎ”だ。暗黒の宇宙空間の中にあって目立つ色ではあるが、そもそも無辺に広がる宇宙なので、気休め程度だろう。それでも生地とジェルの重層構造で緩衝、防刃、断熱、保温、保湿はもとより、多少の放射線まで防いでくれる。


 他にも尿道カテーテルを筆頭に、デリケートなゾーンに関わる各種の漏れ出るものを受け止める高分子吸収帯。背中部分の僅かな出っ張りには、背負い式に小型酸素タンクやビーコン発信機、水分のろ過器など、最低限のサバイバル機能が備わっている。


 脆弱な人体を宇宙で保護するには、全く足りない基本的な事柄ばかりなのだが、無酸素で三分、体温低下で三時間、無水状態で三日という生存の鉄則はクリアしてくれた。更に宇宙船の生命維持機能と組み合わせれば、多少の持久も可能になる。

 これはスゴイ、と勇んで宇宙服を着用し、自分の体格に合わせてフィットさせると、どことは言わないが内部に侵入するカテーテルの刺激で腰砕けにされた。


 更に翌日。アンドー1号とマルチツールが帰って来る。

 宇宙海兵の能力を持つ高機能アンドロイドは、共食い修理でつなげた仲間たちのパーツ間の擦り合わせを完了した。


 見違えるほどに動きが滑らかに、なんて単純な話にはならなかったが、左右の手足で違っていた反動や、それをコントロールする際に生じていた僅かなエネルギーロスが解消された。バックグラウンドでの演算数も減少するので、AIへの不要な負荷も消える。

 アンドー1号のいつものサムズアップは、どこか誇らしげに見えた。


 そしてマルチツールの方は流体金属剣と合体させた接近戦向けの調整の他に、新機能が追加されていた。


 電動ドライバーみたいな外見の側面に、新しく箱型の部品が増えている。改造を行った技師に説明を受けると、実に有り難い新機能だった。今後、試し撃ち……もとい、活躍の機会もある事だろう。

 腰のホルスターに落とし込むと、しばらくカラだったのが嘘のように、頼もしい重量感が戻って来た。


 止めに次の日。ついに宇宙軽トラがエンジンのオーバーホールと、居住モジュール装着を終えて帰って来た。外観がガラリと変わっており、シンは『へぇ』と感歎の声を洩らしながら、周りをぐるりと見回る。


 牽引式にも出来る居住モジュールが原因だった。てっきり荷台に貨物コンテナが乗っているくらいのチープなイメージだったが、さすがに惑星大気と宇宙空間ではつくりが違った。宇宙服と同様に多層構造の防護壁がぐるりと囲んでおり、荷台に乗っていると言うより、宇宙軽トラの後方を包み込むように、構造体がドッキングしている。もうちょっと端的な言い方をするなら、軽トラベースの改造キャンピングカーの様だった。


 引き渡し場所のバーの前で、アン姐さんが受領書がわりのPDAを見せながら言うには、


「居住モジュールは客船の脱出ポッドをベースにしてるから、保護機能は完結してるわ。船体への接続部品や外壁は、3Dプリンターの出力品で現物合わせ。これもフィットに問題ないはずよ」


 なんで客船の脱出ポッドなんて持ってるんですかねぇ、とは流石に聞かなかった。

 仕様書のリストから、実装した部分の説明を受ける。シンの都合――主に卵の――で出立を速めたため、終わっていない工程があった。


「時間が無くて内装の設置は出来てないけど、物品はお買い上げ済みでモジュール内に積んであるわよ。取り付け後の電装系は、タマさんにやって貰いなさいな。その分の工賃は引いてあるわ」


「いや、ほんとに急ですみません」


 シンは申し訳なさそうに何度も頭を下げた。

 卵の件は黙っていた。【青髭同盟】の”シノギ”を黙って持ち出したと知られれば、世話になったアン姐さんの立場的に迷惑がかかるだろう。なのでタマさんにカバーストーリーを作ってもらい、急な仕事が入った事になっている。

 問題があるとすれば、


「結局、火砲の面倒は見てやれなかったわねぇ。いちおう、艦艇用のレーザー機銃をアンドロイドに持たせといたから、カッコはつくと思うけど。中継ぎと思いなさいね、安物だから」


 本格的な宇宙軽トラの武装は後回しにされた。


「いや、いろいろ気を遣って頂いて、有難うございます」


 シンはひとしきり低頭すると宇宙軽トラのメインハッチを開き、操縦席に体を押し込む。こういう時、言葉遣いがこなれているというか、年寄り染みているのは、同年代のグループの中におらず、教条的な機械知性との会話が根幹になっているからだ。


 既にタマさんはキャビン内で反応炉の立ち上げを終えており、出発前の細かなパラメーターの変動をチェックしている。アンドー1号はキャビンの真後ろという定位置こそ変わっていないが、居住モジュールの外壁は面一ツライチに整えられているため、船体側面の専用ハッチの裏で待機する形に変わっていた。


「では、お世話になりました」


 あわただしくシンが出立前に目礼すると、アン姐さんは軽く手を振りながら言った。


「こんな闇市トコの世話になってちゃ駄目よ。まっとうに稼ぎなさいね」


 裏社会の住人にしては、健全な別れの言葉だ。そうは言うがタマさんが目を通す限り、彼等がシンの注文に対して不正や手抜きをはたらいた形跡はない。海賊稼業での戦利品が使われた可能性はあるが、子供相手と舐めた仕事はしていなかった。

 仕事と言う点で、彼らは信頼に値する。


 そう思った矢先にアン姐さんに投げキッスをされた。強烈な個性に苦笑しつつ、シンはぺこりと辞儀をして、スロットルレバーをブレーキ状態から前へと押し出す。

 反応炉が作り出したエネルギーが回転力に変わり、四つの動輪を回して船体を推し進める。オーバーホールを終えた宇宙軽トラは軽快に動き、闇市の雑踏から直ぐに小さくなって、最後に角を曲がって消えた。


「……さて、ああいう子はまた来るかしらねぇ」


 アン姐さんの別れ際の笑みに、ふい、と苦いものが混じった。

 宇宙に出たばかりの少年だった。きっと前だけ見続けて、飛び続けるだろう。目の前の闇が宇宙の黒色か、何光年もの超空洞ヴォイドなのかも判別せずに飛び込むかもしれない。準備してやった装備も、一瞬で無駄になるような危険の最中にだ。

 よくある事だ。そう思う定めると、地下のバーに戻ろうと踵を返す。


「……あら」

 そこで物陰から出て来た大きな影に、胡散臭そうに形を整えた眉を曲げる。

「人にふっておきながら、見送りかしら。そんなに気になったの?」


「まさか」


 デカい人影……遊び人のヴィクトルは、各パーツまでがデカい顔で器用に微笑した。銀髪の巨躯で筋肉の塊。それだけでも重力を発生するように、人目を引き付ける笑いだ。


「同族の宇宙一年生に、最初ばっかりサービスしてやっただけだよ」


 同族、彼は確かにそう言った。アン姐さんはそれで思い出した。


「あんたテラ人だったの。あのシンも、それを気にしてたわ。同郷ってやつ?」


「おいおい、テラ人と言ったって、そこら中の星に散らばってるんだぜ。産まれが何処かなんて判らんさ……それに俺の地球と、あの坊主の地球が同じとも限らんからな」


 後半の言葉は呟くように言ったもので、当然のようにアン姐さんの耳には届かなかった。届いたとしても、彼の口にした『地球』が『テラ』とは翻訳されなった事だろう。

 だが、それは即ち、ヴィクトルはシンと同様、テラ人が失った地球の知識を持っているという事だった。

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