第14話 挨拶とか、身辺整理とか(1)

 眼下の色が海の群青から森の深緑に変わった事で、シンはジャングルへ帰って来たのだと気付いた。

 操縦桿を前倒しすると機首……もとい、キャビンを下げて高度を下降させる。

 一週間ほど離れていた訳だが、ここ二年を駆け抜けた密林が近付いて来るのと、まったく親しみを覚えない故郷から遠ざかるのとでは、どちらがマシだろうか。どちらも良い記憶は少ない。ただ艦長【0567$^0485】からの通信で、布を巻いたあの顔が出迎えた時、帰る場所はこっちなのだと感じられた。


「お帰りなさい、シン・ミューラ、タマさん。良い船を手に入れられたようですね」


「……良い船なの?確かに空を飛ぶのには驚いたけど」


「ベルウッド社の軽作業用舟艇は、今でもアップデートを繰り返している主力商品ですよ。中でも大気圏内外兼用モデルはハイエンド・タイプになります。重力制御技術の応用による圧縮空間ペイロードを持ち、見た目よりも多くの積載が可能です。アストロ農家も御用達の一品で、お値段も張りますよ?」


 おお、とシンは心を躍らせるが、よく考えれば艦長の言うそれは500年前の話である事を思い出し、すぐに眉間に皺を寄せる。


「ハイエンドって言っても500年前でしょ。それじゃもうロートルでは?」


「基幹技術はある程度成熟していますので、500年経っても劇的な進歩は起きていませんよ。多少の革新があっても、星間国家の隅々にまで行き渡るには、長い年月が必要です。恒星間文明と言ったって、その文明間の距離の隔たりは膨大ですからね。おかげで植民惑星の生活レベルの維持だけでも、結構なコストがかかっていますので。その結果、星間国家の基本方針は、現状維持の向きが強いです」


 知りとう無かった、そんな後ろ向きな事実、とか思うシンであったが、確かに惑星【労働1368】だって惑星の南半球は殆ど手付かずだ。ゆるやかな人口増加と農地拡大を進めてはいるが、それは自治政府の方針であり、宗主星系の思惑は周知されていない。

 そうこうする内には高度も十分下がって来る。タマさんが焦れたように言った。


「で、艦長、ランディングゾーンの確保は終わっているのでしょうね?」


「そこはお任せを。これ、この通り。機銃に俯角一杯かけて、スペースを開けましたから」


 艦長が答えると、前面モニターに広がる密林の中に200mほどの長方形のゾーンが表示され、新たな進路の矢印がそこへ誘導をかけた。

 上からの見た目は密林のままだが、拠点手前の木々から梢を剪定し、着陸可能な空隙をこしらえたのだ。

 シンは操縦桿を細かく動かすと、進行方向の矢印を誘導の矢印にあわせる。細かな調整はタマさんと船のセントラル・コンピューターが行っている。それを信じて、緑の海に軽トラを突っ込ませた。


 一瞬、視界が深い緑になると、すぐに密林内に開かれた巨樹の通廊に出ていた。暗いジャングルの中、そこだけは梢を抜けた陽光で道が出来ている。

 エンジンを切り、キャビンを上向かせると、後方の駆動輪から大地に設置させた。機が一度跳ねたが、あとは重力に任せて着陸させる。すぐに駆動輪が逆回転を始め、機の慣性を打ち消してゆく。


 飛行機だった軽トラは、いつの間にか車輌のような振舞いに戻っていた。

 光の通廊を走り、艦橋構造物の前で停止させる。シンは溜息を吐いた。


「戻って来たなぁ……戻って来ちゃったなぁ……」


 安心でもあり、疲労でもある。が、ゆっくりもしていられない。タマさんが早速、発破を掛けて来る。


「さっ、ぐずぐずしてられませんよ!午後一杯で艦橋側の拠点内から、持ち出せるものは全て持ち出します。居住シェル側が明日の朝で。出来れば、明日中には出発したいですね」


「出発って、この星から?」


「モチのロンです」


「えらく急じゃないかなッ?!」


 思い立ったらとは言うが、あまりに急な話にシンは戸惑う。タマさんが言うには、


「急も急です。帰路はフライトプランも出していませんから、完全に未確認飛行物体扱いでしたし、宇宙海賊と接触したのも気に掛かります。いらん詮索を向けられる前に、行動に移すんですよ!」


「りょ、了解……」


 急き立てられるように艦橋に向かうと、艦長は既にタマさんからプランを受け取っているのか、妙に落ち着いていた。コンピューターから未だ移動させていなかった直近のデータをまとめながら、


「仕方ありませんね、タマさんに賛同します。出来れば、もう少し猶予も欲しかったですが」


 そこでシンは気付いた。軽トラのキャビンは二人乗りだ。艦長、あるいはアンドー1号をどうするのか、と。

 ゴメンな、この宇宙船は二人乗りなんだ、なんて古典的なイジメっ子の台詞じゃあるまいし。まして艦長もアンドー1号も航海士機能を持つ、高付加価値で欠くべからざる存在だ。

 どうしたものかと訊ねてみると、艦長は何かに感じ入ったように感嘆の溜息を―—実際に呼吸はしていないが―—洩らした。


「あぁ……ここでアンドー1号までも航海士として認識してくれる事が、なんと有難い事か。しかし、彼はしばらくは後方の荷台に係留して、スリープ状態で良いでしょう。それもまたアンドロイドの強みですから。どうか、憶えておいてくださいね」


 艦長も人類との際限なき交流を夢想したダメ人間製造機である”独機会”所属の機械知性である。何のかんのと、人間よりも機械との付き合いの方が強くなってしまったシンには、自らの理想を仮託してしまうところがあった。

 が、それでも、その時の艦長は、改めて説いて聞かせるような口振りだった。フェイスユニットに表皮は無く、対人対話プロトコルも貧相であるのに、シンはそこに神妙な面持ちを見た気がした。思わず足を止めて、


「あのさ……艦長?あなたも、一緒に来てくれるんだよね……?」


 どうしてそう思ったものか。シンは何となく、腫物に触れるように問うていた。

 艦長は答えず、タマさんの方に裏表も解らない布巻きの頭部を向ける。

 そしてタマさんはと言うと、どこか誇らしげにして、


「これがウチのマスターですので」


「曖昧な個性をシン・ミューラが観測し、再定義している、という事でしょうか?」


「そういう七面倒臭い分析でなくて、マスターの情の深さですよ。まったく人間と同じように扱うのですから」


「それ、人と機械知性の区別が付いてないだけじゃ―—」


「お黙んなさい。二年経ってもそんな事に気付かないのだから、対人機能が工場出荷レベルなのですッ」


「何でそこまで言われなければ……あー、シン・ミューラ?」

 艦長は埒が明かないことを察し、その事を切り出すことにする。なにしろ時間が圧しているのに、これからが更に時間を要するのだ。

「あなたの懸念の通り、艦長【0567$^0485】としてのパーソナルは、これからの航海に同行できません」


「えっ?!」


 シンはたいそう驚き、たじろいだ。宇宙関連の教育は彼女(?)の受け持ちだった。これからもあてにしている処は多分にある。そして其処こそが、艦長の懸念であって、発言の真意だった。


「シン・ミューラ、”隔壁一枚下は地獄”、その意味は憶えていますね?」


「隔壁に穴が開けば、あっという間に吸い出されれる……総じて、宇宙空間では死と隣り合わせ、って意味でしょう?」


「はい。宇宙で人を率いるなら、判断は即決、果断でなくてはなりません。しかるにシン・ミューラ、宇宙で私の指示とタマさんの要請が同時にあった場合、正しい優劣は付けられますか?」


 うっ、とシンは言葉に詰まった。

 宇宙でのプロフェッショナルは艦長であり、その判断には従うべき重要さがあるだろう。が、同時に例えばタマさんが窮地だった場合、自分はどうするのだろうか。

 更にいうなら、艦長の指令と自分の要請が被ったとき、アンドー1号はどちらを採るだろうか。

 然るべき優先度があるだろう。模範解答もある。が、どうもシンはそれを口に出せなかった。


「う……」


「イジワルな質問でしたね」艦長は答えを待たなかった。「宇宙では指示系統は強固な一本であるべきです。それも憶えておいてください。そして今の内なら、指揮系統は一本に絞れます。私とタマさんが統合すれば良いのです。より正確には、私のボディに付随する処理能力と権限を、タマさんが引き継げば良いのです」


「それはッ……艦長の死じゃないのかッ?!」


 思わず漏れたシンの人間的な反応に、艦長のボディが震えた。多分、感情プログラムが飽和し、恍惚となっている。時間がないと彼女(?)は認識していたが、こうなると直ぐには回復しない。

 タマさんが呆れて助けて船を出してくる。


「マスター、機械知性の生死観は人類種に多い生存至上型とはかなり異なります。あまり重く捉えませんよう。今回の件も、大分前から艦長と検討を繰り返していましたし、艦長の消失を強要するものではありません。あくまで私への統合なのです。彼女(?)のメモリーは私の中に残り、判断基準にも反映されるでしょう」


「……それはそれで、タマさんの個性的にどうなの?」


 シンは思わず眉根を寄せる。彼の心配の感情表現を厳重保管しつつ、タマさんが言うには、


「マスターの養護教導型機械知性としての根幹は変わりませんよ。より多機能に、パラレルに思考を展開出来るようになるのです。今の環境自体、二年前の拡張措置からの事ですから、あの時も、大きな変化はありませんでしたでしょう?タマさんエンジンはコアグラフィックスになり、今度はスーパーCDロムと合体しますけど、その根幹は、今回も変わりませんよ」


「なんか最後の比喩表現が全く解らないんだけども、とにかく心配は要らないんだね」


「はい、むしろ更にパワーアップしちゃいますからねっ」

 タマさんは多目的アームの一部を折り曲げ、器用に力コブを形作る。

「ですので、マスターはアンドー1号と、荷物の持ち出しをやっておいて下さい。統合作業完了には午後一杯かかるでしょうから」


「……ん?」


 それも思ってみたより急な話であり、シンはまたも機械知性による会者定理のギャップに戸惑う。何せこれから統合します、遣り取りはこれが最後になります、という筈の艦長が、感情プログラムの飽和でビクンビクンと痙攣し、会話もままならないのだから。


「あぁ、しまった。ごめん、何と言ったらよいのか……」


 シンは辞世の句を常に用意しておくような戦闘民族ではない。艦長にかける言葉が直ぐには見つからず、意味のない言葉を羅列させる。

 タマさんとしては『またハングアップするんじゃないかなー』と危惧しつつ、


「まー、機械知性ですので、こういう時は謝辞よりも、お礼の言葉の方が喜ぶと思いますよ?」


「そ、そうか!」

 納得したシンは物言わぬ艦長の右手を両手でがっしと握ると、

「ありがとう、艦長。あなたに教わった事は忘れない。そしてこれからも、あなたの経験を俺に使わせてほしい」


 艦長からの返事は無かったが、雷に打たれたように仰け反るや、さらに細かな痙攣を繰り返していた。シンは怪訝そうに目を細める。


「……伝わったかな」


「ええ、充分かと--」


 タマさんはセンサーアイからの光量を細く絞った。改めて、コレと統合して大丈夫なのか、悩んでしまった。


~ ~ ~ ~


 エレベーターのシャフトから、ワイヤーを伝ってシンが下りて来た。

 艦橋内の通廊に出ると、奥からなにか物音が聞こえてくる。アンドー1号が既に荷物をまとめ始めているのだろう。PDAの内部図面を覗くと彼の現在位置と、タマさんからの作業指示とが合致していた。

 残り作業時間も限られている。持ち出す物品も厳選せねばならないだろう。


 例えば艦橋上部に装備されている軍用レーダーとか、対空砲だったら、すぐに買い手も付くだろう。が、重力下で作業員二名では、取り外しは無理だった。

 もっと手軽で、需要のある物品が望ましい。

 なので今回は地表階の居住区画から、モジュール化されている宇宙用設備を剥ぎ取る計画だった。


「やぁ、アンドー1号。手伝いに来たよ……っと?!」


 居住区画の部屋に顔を出すと、かなり取っ散らかっており、シンは思わず声を出していた。既に分解作業が進み、持ち出す立方体のモジュールが積み上がっている。あるいはシンが宇宙船探しをしている間、彼はここを引き払う準備をしていたのかも。


 何を積んでいるのだろうと、型式のタグをPDAに読ませると、宇宙空間対応の耐候性保管ボックスだと判った。ここでのサイズは個人のロッカー程度で、用途もまさにそれだ。個人情報は言うに及ばず、遺言書や証書の類、思い出の指輪、子供へのお土産等々、ここに入れておけば、船が事故で機能不全に陥っても、その残骸を回収した時、然るべき処置をして貰える……かも知れない。


 たとえ乗員が死亡していても、更には船ごと爆散しても、何処かのデブリネットに引っ掛かれば、ロッカー内の現物だけは残る可能性がある。

 そんな事までいちいち気にしない者もいれば、最後の頼みとしてあてにする者もいる。つまり、それなりには需要がある品だ。


 何より今の状況にマッチしているのが、ロッカーが定型なうえ、それなりの数がある事だった。積載スペースは有限だ。異なる高額機材を積み込んでも、形状の違いや保護のせいで隙間が目立つ、なんて事ではうまくない。


 その点、同型でそれなりに値の張る品ならば、みちみちに詰め込めんで数量を稼げるし、売りさばく際にも機材ごとにブローカーを探す、なんてマネをしないで済むだろう。

 もっとも、そんな意図をシンが全て理解している訳ではない。まずは目の前の大荷物をどうしたものかと、積み上がったロッカーに手をかける。


「……重っ?!」


 流石に見た目通りのロッカーではない。『宇宙空間でデブリが100個のっても大丈夫』とか訳の分からない売り文句のステッカーが貼ってあるだけあり、つくりが厚くて重い。

 ビクともしない雰囲気に、思わず顔をしかめる。


「こりゃあ、どうやって運ぶんだ……」


 途方に暮れているとアンドー1号が積みあがった壁の向こうからやって来て、ロッカーを指さしてから、自分自身を指し示した。


「……君なら運べるのか?そうか、すま―—」

 すまない、と口にしようとして、先ほどのタマさんの言葉を思い出した。

「——いや、ありがとう」


 言い直すとアンドー1号はサムズアップで返した。

 それから今度はシンのPDAを指さしたので、画面を彼の方へ向けて見せる。すると単純作業用の長くて頑丈なマニュピレーターを、人差し指だけ器用に使い、タッチパネルを操作して、作業図面から野外の宇宙船を指し示した。


「船?ああ、荷物の受け入れ準備か。判ったよ」


 人間一人の力で出来る事など無かったようだ。シンはアンドロイドの機械力にありがたみを感じつつ、改めて宇宙船へ向かう。

 艦長の言っていた、あの宇宙軽トラの強み。圧縮空間ペイロードを利用可能にして、ロッカーが届くのを待つことにした。


 野外に駐機した軽トラに取り付き、ハッチを開いて操縦席側のコンソールを確認する。

 絵面的には軽トラが停車しているのだから、エンジンは切っているように思えるが、これは宇宙船なので主機反応炉には火が点いたままだ。コンソールも点灯し、現在のコンデイションを表示している。ざっと目を通すと、それっぽい一角もタッチパネル上に見付かった。


 メインスイッチっぽいアイコンに指先で触れる。

 こういうのは言語の違う種族でも直感的に使えるようになっているモノなので、視覚に訴えるアイコンを追ってゆけば、大体は上手くゆくものだ。

 今もタッチパネルに宇宙軽トラの側面図が表示され、キャビンの背面に接しているボックスが点滅を始めた。そこが圧縮空間ペイロードの設備なのだろう。


「……立ち上げたら、あとの操作は設備側から行うのか」


 操縦席から体を抜き、隔壁一枚後ろにある装置を確かめる。キャビンの背と荷台の最奥というレイアウトに、いかにも後付けな箱型の装置が配置されているのだが、


「……これ、どう見ても農具や工具の入ったカラーボックスだよな」

 まったく農場でよく見る、軽トラに積んであるヤツだった。

「ま、まぁ、この装置ひとつで船体価格と同じ位するらしいし……高価な機材のカモフラージュになるのか……なるのか?……どこかに制御パネルがあるはずだけど……」


 ぶつぶつ言いながら、見た目がプラスチックの収納ボックスのフタに、目当ての物を見付ける。分割線からカバーをスライドさせると、細かな操作用の小さなレバーに、いくつかスイッチが出て来た。


「……これか」

 ボタンを一つ押すと、船体の真横に同サイズの赤い立方体が現れる。物体ではない。向こうが透けて見えた。

「なるほど、これが仮想の格納庫の範囲で……有効範囲をライトアップしているのか……レバーで位置調整できるようだけど……でも軽トラの直近から離せないな……そういう融通は……利かなそうだ」


 とか言っていると、アンドー1号が両肩にロッカーを担いで現れた。やはり凄いパワーだ。

 シンは手招きして、赤く色付けられた空間にロッカーを配置させる。そして次のロッカーを取りにアンドー1号が戻っている内に、また動作確認して仮想格納庫を収納させる。

 瞬時に赤い空間はロッカーごと消えた。制御パネルの積載量表示のバーが上昇していることだけが、確かに積み荷がある事を伝えて来た。


「へぇ~~~~~……」


 シンは感心する事しきりだった。

 重力制御技術の応用により圧縮された仮想格納庫は、不可視の点となって荷台上に存在している。この状態では見ることも触れることも叶わないが、重量だけは欠損なく保存されていた。そのため積載重量によって燃費は悪化するし、余計な慣性モーメントも発生した。

 性能的制約の多い宇宙軽トラでは持て余す装備な気もするし、もしかしたらこの機が墜落した原因もその辺りにあるのかも知れない。


「ま、それでも使うし、使いこなすしかないだろう」


 今は持たざる者であるシンである。そう諦念じみた決心をする。

 引き続きアンドー1号がロッカーをピストン輸送で届けてくる。赤く照らされた仮想の倉庫に、見る間にロッカーが積み上げられいった。それがまさにミッチミチに詰まったところで、圧縮、格納する。

 ちょっとした壁だったモノが、瞬時に、スッキリと見えなくなっていた。


「おー、こいつは凄いね」


 荷台に立って仕切りに感心していると、アンドー1号も乗って来た。シンが何をするのかと見ているなか、圧縮空間ペイロードの装置の脇に出来た隙間に、ちょこんと体育座りする。ちょうど、ぴったりと嵌った感じだった。


「……あぁ、航行中はそこで待機するって事?」


 問われたアンドー1号は首が無いので頷く素振りは出来なかったが、今度もアムズアップを返した。

 僅かな間隙に長時間、縮こまって控えているなど、人間には無理だ。が、アンドロイドなら関節をロックし、AIを待機状態にして、幾らでも待つ事が出来る。


 タマさんの言っていた機械知性の生死観の根幹も、そこに係って来るのだろう。

 彼らの自我は経年では劣化しないし、オンとオフを使い分けられる。時間は彼らに成長を促す事もなければ、老いを課す事も無い。


 むしろ時間とは一部の知生体が持つ尺度に過ぎない。機械知性たちは奉仕対象の、その尺度に併せているに過ぎなかった。

 ただ、今、大事なのは時空に対する認識ではなく―—


「……そのままだと、航行中に振り落とされると怖いから、固定用のハーネスか安全帯でも探そうか」


 シンの申し出に、アンドー1号は頭上で大仰に拍手をして見せた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る