第12話 里帰りRTA(2)

 星間連盟所属の農業惑星【労働1368】にも都市部はある。顧客との遣り取りを行う問屋や、輸送を担う船会社、土木作業を取り仕切るゼネコン。そういった役割の公社のオフィスが、部署ごとにビルを持っている。そこで働く人々は実作業に従事しないホワイトカラーだった。

 特に星間連盟直轄の公社ともなると、中央から支配階級にあたる外星人が務めているのだが、テラ人たちとの接点は殆ど無い。


 テラ人自治区政府というのは、あくまで現地の労働者の代表であり、その官庁街も別の地方都市に区別されている。

 シンが訪れたのもそちらであり、テラ人にとっての星都であった。なお、その景観は三浦真の記憶を元に語るのなら”地方の県庁所在地の駅前”である。


 低階層のビルがまばらに建ち、人通りはあるが、賑わいは余り感じない。単階建てのマーケットが多く、ドラッグストアやホームセンターと表示された看板が目立つ。それに使い道のない土地を再利用しているのか、有料の駐車場が家々の間を縫うように配置されている。

 街の脇には主要幹線道路が走り、農耕器具の大規模な展示販売場が開いていた。大型の農耕機械が並んでいたが、流石に宇宙船は無い。


「さ、降りましょう」


 と、タマさんに促されて停留所に降りる。背負子を身に着けると街中では異様ではあるが、まぁ仕方ない。

 降りたのは大規模ホームセンターの前だった。シンは予想外で首を傾げる。


「ホームセンター?車両の販売店じゃなく?」


「マスター、一体どんなバイクを買うおつもりで?」


「モス・ピーダーとか、ガランドーとか……」


「それパワードスーツに変形するメッチャ高いヤツじゃないですか。何をバグった事を言っているんです。廃棄する可能性の方が高いんですから、こういうので良いんだよ的なヤツです。まさに、こういうのっ!」


そう言うとタマさんはホームセンターの入り口近くに並べられた二輪車を、多目的アームで指さした。フレームは丸太とパイプの組み合わせのような簡素さで、モーターが殆ど剥き出しなやつだった。見たまんまをシンは口にした。


「自転車?」


「ちゃんと自分で走りますよ。コレなら10万Cr《クレジット》程度で買えます」


「10万ッ?!」


 シンは思っていたよりも高額な事に頓狂な声をあげる。周りの客が驚いて、こちらをチラチラと見ていた。

 ああ、しまった。

 星間連盟では機械知性を連れ立って歩く事など珍しい。ましてタマさんは非人間型だ。これではシンだけが、一人で騒いでいるおかしな人に見えてしまう。

 その辺り、主従共に二年もすっかり密林暮らしで、人里の常識を失年していた。


「よ、よし、これに決めたッ」


 シンは白々しく口に出しつつ、骨組みのようなバイクを手押ししてレジへ向かう。無人レジの機械にタグとPDAの口座情報を読み込ませれば、すぐに購入手続きが終わる。逆に不備があればレジ前の飴玉一個だって、売り場から持ち出す前に、けたたましい警告音が鳴り響く。


 そのまま駐車場の隅にある給電スポットまで手押しで運んだが、簡素な見た目のまま、わりと軽々と動いてくれる。これがれっきとした空力ボディと、大出力モーターに電池一式とかだったら、手押しだけでヒィヒィ言っていたろう。

 意外と良いモノかも。シンは現金にも、そう思う。

 さっきのパワードスーツに変形するバイクの話ではないが、やはり大きな買い物だ。まして、まともな経済状況で無かったところに、降って湧いたバイクの購入なんて、少年心がざわつくのを禁じ得ない。


 給電スポットからプラグを伸ばし、丸太のような一本なりのメインフレームにあるコンセントに差し込む。コンセント脇の赤ランプが点灯し、充電が始まった。

 テラ標準単位で15分もすれば、フル充電だろう。陽電子バッテリーのような膨大な容量はないが、これだって牧畜用に丸一日酷使するような前提の筈だ。

 人目が無くなったので、背負子のタマさんもまた喋り出した。


「機体チェック終了。初期不良はありませんね。警察へのセキュリティ登録は、星間連盟市民でないので割愛してます。それで今夜の宿ですが……カプセル?ビジネス旅館?それとも、の・じゅ・く?」


「何でそんな格安ばっかなのっ!?ていうか最後の、宿ですらないし」


「そこまでケチる必要は無いのですが、ちゃんとした宿ほど身分照会も厳重でして」


「あれ?市民登録から外されてるなら、金の出入りやホテルの利用まで、いちいち記録照会はされないんじゃないの?」 


 それは市民なら記録されているんですかヤダー、という話であったが、管理社会なので致し方なし。そして管理社会の範囲外になっている筈のシンも、そういう社会だからこその、逃れられないしがらみがあった。


「マスターが他の人種だったら良かったんですがね。テラ人自治区にいる自治政府外のテラ人なんて、やっかみ込みで怪しまれるんですよぉー。はやくこんな星オサラバしましょう、ええ」


「あ”あ”~~~」


 納得というには重々しい響きがあった。

 自治区に住んでいたら皆が農民で、良くて公務員だ。そこへ風来坊を自称するヤツとか、芝居がかった語りのフーテンとかが遣って来れば、それはもう怪しまれるだろう。

 下手をすれば土地を捨てて逃散した逃亡農民に見做され、当局に密告されるかも知れない。


『……こりゃ故郷でセンチメンタルになってる暇なんて無いぞ。悪目立ちする前にジャングルに戻れるようにしないと』


 出来るかなじゃねぇ、やるんだよ。というやつだろうか。

 が、この決心はちょっと遅かった。給電スポットで一人きりで会話してる―—ように見える―—男に向かって、若い警官が声をかけて来た。


「あー、ちょっと、ちょっと?」

 体格のよいA系人種の男性だった。青い半袖制服から覗く二の腕が太い。

「駐車場で一人で騒いでいる男がいるって通報があったんだけど、あんたのこと?」


「一人ではありませんよ、失敬な」

 すかさずタマさんが抗議した。カメラアイが物騒な赤い輝きを帯びていた。

「クラス2以上の思考領域を持つ機械知性は人格を有する、と定義されている筈ですが?」


 惑星【労働1368】での機械知性への一般的な認識は”価値ある財産”なので、ソレが物を言う様に警官は目を丸くした。


「それは……失礼しました?あー、とりあえずIDを確認させてもらっても?」


 シンは頷き、PDAに個人登録情報を表示させると、閲覧した警官は今度は目を見開いた。何かに驚き、それから大柄な体がおこりに罹ったようにプルプルと震え出す。

 異常な様子にシンは最初、具合でも悪いのかと思った。多少は気づかわしそうに、その内実は他人事なので呑気に、


「大丈夫ですか?風邪か何か?」


「……なのか?」


「え?」


 警官は何か言ったが、呟くような小さな声で、シンには聞こえなかった。なので再び彼の体調の是非を問い質す。


「本当に、大丈夫ですか?」


 すると、まるで地の底から響いてくるような唸り声が、警官の口から漏れ出てくる。


「おぉぉぉお前ぇッ!シン・ミューラなのかッ?!」


 シンは自分の名前が出た事が不思議でならず、怪訝そうに目を細める。孤児であり、将来が小作人と決まっていたシンは、学校では明らかに下流と看做され、孤立していた。わざわざ名前を呼び合うような友人もいない。では自分の事を知っている、この警官は誰なのか。


「俺は確かにシン・ミューラですけど……そう言うあなたは、どちら様で?」


「お前はッ!!」


 警官は見る間に激昂し、シンに食って掛かろうとした。が、一歩踏み出したところで、見えない壁に阻まれたようにピタリと止まる。

 対するシンも反射的に腰を僅かに落とし、如何様にも動けるように体が準備をしている。それはマルチバースの自身である三浦真から流れ込んだ、徒手空拳の研鑽の記憶だった。と同時に、その記憶が、以前にシンが警官を投げ飛ばしている事を思い至らせる。

 いや、あの時は、こいつは同級生だったろう。


「……もしかして、あんたは……腕関節決めてコンクリに放り投げた?……その……俺が」


「そうだッ!!お前のせいで、俺は競技会に出られなかった!!星系軍に推薦を出して貰うはずが!今じゃ自治区の警官の体たらくだ!!」


 警官は血走った目をシンに向ける。陸上競技会で優秀な成績を残せば軍隊に入隊出来て、この星から出られる可能性があった。が、その大事な日の前日に、シンをいたぶって景気付けにしようとした、フィジカル・エリート気取りのヤツ等がいた。


 彼らはシンが認識し立ての柔道と合気の業で手荒く一蹴され、怪我により競技会への参加機会をふいにした。

 暴力の代償にシンは殆ど死刑と言えるジャングル送りにされたのだから、双方に因果は応報している。筈だった。

 だがあの日のリーダー格の男は、二年を経てもシンに意趣を抱いたままだった。


「シン・ミューラ!お前は不審者だッ!留置場にぶち込んでやる!!」


 警官は口の端に泡を出すいきおいで、逆恨み染みた事を口走る。が、どうした訳か、先ほどから一歩も進めていない。

 流石にシンも不思議に思った。小声で、


「タマさん?」


「彼が動かない理由ですね。テラ人自治区の警察機構は、星間連盟市民にのみ警察権を行使できます。というか、下手すると自治区内のみの警察権かも。あー、たぶん自治区外の治安は、星系軍の軍警察が担当してますね、これ。うわぁ、星間連盟市民って、見事に上下に分割されてる訳ですね。で、今のマスターは、そのどちらでもありませんので、下層扱いの自治区警察では警察権を執行できないのです」


 さりげなく星間連盟の闇を暴きたてつつ、タマさんは多目的アームを立てて、左右に振る。


「で・す・の・で、今の警官クンは体内の極小機械群マイクロマシンに行動を抑制されているのです。お気の毒ぅ~」


 煽るタマさんを警官は睨み付ける。確かに、彼の視界内にはマイクロマシンからの警告表示が羅列されている。軍に入ってこんな思考抑制から外される筈が、今も自分の意思に首輪を着けられていた。それは耐え難い屈辱だった。


「くそがぁッ!?」


 歯ぎしりしても、シンに指一本も触れられない。【自治区外居住者】【非星間連盟市民】【テラ人自由流民】。それらの細かな意味は解らない。だが、どれもが『お前では手出しが出来ない』と言っていた。

 何故なのか。だいたい、コイツは―—


「シン・ミューラ!お前はっ、ジャングルに捨てられた筈だッ!なんで生きているんだよっ!?」


「あぁ、やっぱり、そういう判決なんだろうな」


 誰かの口から言って貰った方が、いっそ清々した。テラ人自治区のスタンスがそうなら、矢張り自分は速やかにこの星を離れるべきだ。そんな義理なんて持つ必要もないのだ、と。

 シンは背負子を装着すると、バイクの給電プラグを抜く。充電はほぼ終わっている。エンジンスイッチを押すと、モーターが動き出して静かに車体が振動した。

 ちらりと警官を見る。


「確かに、俺は一人でジャングルに送られた。そして生き残った。二年かけて、判決に従って資源を貯めて、もうすぐ返済する」


 警官はぽかんと口を開けた。


「ウソだ……」


 彼は後に家族から聞いていた。シン・ミューラは星間連盟の平和教育が浸透していない、おそらく先天性の社会不適合者であり、その危険性を鑑みて未踏の南大陸に追放された、と。その処置は宇宙放流と同質の、極刑である、と。


「ウソだッ、調査も入ってない南大陸だ。生きて帰れるわけがない。お前はウソを言っている……」


「ウソじゃない。だいたい、判決に対して俺にどうこう言える権力なんて無い。あんただって、よく知ってるはずだ」


 かつて虐めていた孤児の少年が微苦笑を浮かべている。いや、ほんとうに、目の前にいるのはあのシン・ミューラなのか。


 簡素なデザインのバイクのハンドルを握る腕は、ロープを縒り合せたみたいな筋肉で覆われていた。背も伸びている。日に焼けた肌は農場でもそうなるが、疲労した農夫とは思えない、得体の知れない俊敏さを感じる。

 それこそジャングルの奥から獲物を狙う肉食獣のような―—

 二の句を継げなくなった若い警官へ、シンは淡々と告げた。


「今は宇宙船を探しているんだ。用意出来たら、宇宙へ上がる。だからもう、あんたに遭う事もないだろうさ……あぁ、ところで、あんた、何て名前だっけ?」


「なッ!?」


「まぁ良いか。お互い、名前を呼ぶような機会なんてないだろ」


 シンは言うやバイクを発車させ、警官の脇を走り抜けた。

 タマさんが呆れたような声を出した。


「おーおー、煽りましたね。星系軍に入れなかった若者に、ウキウキで宇宙に行くんだ、なんて」


「それくらいの仕返し、良いでしょ」


 なお、その晩はいちおう警察の目を避けるため、都市を離れて荒野で野宿になった。恰好をつけた割に、何とも締まらないオチがついた。


~ ~ ~ ~


 翌日からシン主従の宇宙船探しが本格化する。

 地域間を結ぶハイウェイを走り、座標が近くになると荒野へ乗り出す。バイクも簡便なつくりが効を奏してか、オフロードの起伏をよく走ってくれた。

 墜落地点に到着すると、マルチツールの高強度レーザーで掘削を行った。薄く堆積した土壌を吹き飛ばし、その下で人工の岩盤となって固化している極少機械群マイクロマシンを粉状に粉砕して取り払う。

 やがて宇宙船のメンテナンスをハッチを掘り当てると、タマさんが内部にアクセスし、埋没した機体のコンディションを確かめる。


「セントラル・コンピューター、反応あり。主機関、重力制御式反応炉、異常なし。あーっと、エンジンが二基の内、片方が停止中ですか。まだ先もありますし、この子はキープとして、次に向かいましょう」


 惜しくも採用とはならなかった。

 そんな調子で次の地点へ。と言っても落着地点は固まっている訳ではない。長距離を走り抜け、一日に回れるのは一件だ。荒野を横断する日もあれば、街へ帰って充電と食料補給を行って再出発する日もある。

 そんな事が五日続き、いよいよ都市部周辺では最後の一か所となった日の、朝の事。食料を買い込んでコンビニから出て来た時だ。


「んーーーー?」

 タマさんの前面センサーが光る。

「どうもビジネス民宿を出たときから、同じ顔が付いて来てますね」


「付いて……?尾行されているってこと?」

 シンは視界内へとタマさんが掛けた補正に追従する。すると、ビルの陰にうらぶれた雰囲気の男が二名、こちらを代わる代わるに見張っているのが見えた。

「あいつら?」


「そうです。私のメモリーに記録なし。もしかして先日のことを発端に、元同級生が意趣返しに狙っているとかは―—」


「まさか。それにもっと歳がいってるよ、あの人たち。でも、何処かで見たような……」


 主従は話しながら、気付いていない風を装い、出発の準備をする。バイクを出すと、シンの視界にルート指定の矢印が投影された。


「これは?」


「巻くためのルートを算出しました。少し道が狭いので、ご注意を」


「了解っ!」


 シンは威勢もよく、バイクの速度を一気に上げる。慌てて男たちも車両でついてきた。黒塗りの箱型ワンボックス車だった。こちらもバイクに負けず簡素なデザインで、白色やグレーの車両を施工業者が使っているイメージがつよい。


 朝の市街地は通勤客でごった返していた。農場では既に作業中の時間だが、こっちでは外気温が気にならないオフィス仕事のせいか、時間間隔が遅いようで、今が通勤のピークのようだ。

 すぐに大通りの四辻で信号につかまったが、シンはタマさんのナビゲーションに従い、ふいと狭い路地に乗り込む。尾行者たちが『あっ』と口を開けるのを、タマさんのカメラアイが捉えていた。


 路地の通勤客に接触しないようにハンドリングに注意しつつ、次の路地に飛びこむ。何度か直角の進路変更を交えると、さっきの街区とは離れた場所に出た。このままだと予定のハイウェイでない道で市街地から出ることになるが、タマさんのナビでは市街地から離れたのちに、荒野を突っ切って予定の道に戻る算段だった。

 これなら現在位置は尾行者にとっては見当違いの地点になっている事だろう。シンは通行する車の列にバイクを合流させつつ、一息ついた。


「これで巻けたかな?」


「まだ早いですよ。車両のナビが渋滞に強いとか、地図データを入力済みでトラッキングに長けたサイバネ野郎とかいれば、すぐに追いつかれます。再補足される前に街から出ましょう」


「おっと、そりゃ恐ろしい」


 そう返しはしたが、シンは尾行者にそれほどの恐怖は感じていなかった。

 若さゆえの無鉄砲と言えそうだが、やはり密林生活の影響の方が大きい。強い恐怖による感情の上書きや摩耗でなく、大自然を前にした時の、人間の成す術の無さを受け入れた、諦念に近いものだった。

 が、若くして行者のような心境になっているシンでは気付けない、深く、粘ついた人の妄念もある。


 今しも、警察が市街の交通監視用に放ったドローンの内の一機が、頭上からこちらを捉えている事に気付いていない。それは朝の渋滞対策という有り触れたものなので、タマさんも特段の警戒を抱いていなかった。

 あまつさえ、そのコントロールが黒塗りのワンボックスの中で行われている事も、それを操縦しているのがシンの元同級生である、あの若い警官である事も、気付く由も無かったのである。


 バイクは知らぬ内に不穏な空気が満ちていた街中を走り抜けた。

 都市が終わり、次の農場か市街へと続くハイウェイになる。周囲は相変わらず荒野で、熱風で侵食された岩の柱や壁が立っていた。白色に近い焼けた荒地は、朝の太陽光を照り返して既に眩しい。


 シンは遮光用にゴーグルを着け、車通りの無くなった所で荒野に乗り入れた。

 荒地の硬さに一度サスペンションが大きくたわんだが、ギア比を下げると大人しくなった。そのまま、砂煙を発ててハイウェイから離れてゆく。

 予定していたハイウェイとは別の方向からのアプローチになった。遠回りだが、尾行者の影は無い―—と主従は認識していた。


 昼前には目的の落着地点に到着する。

 周辺の探索予定地点では最後だった。次の地点となると、テラ人自治区から大きく離れる事になる。作業として一つの節目だろう。シンはそう考えると、すっかりと慣れた手つきでマルチツールを起動させる。

 記録された座標には小さな盛り上がりが出来ていた。丘というには小さく、風食された岩の残りにしては大きい。この星に入植でなく現生人類がいたとしたら、古代に造られた小ぶりな墳墓に見えたかも知れない。


 シンは早速、表層の土壌を高強度レーザーの衝撃波で撫でるようにして吹き飛ばし、固化した極少機械群マイクロマシンを露出させる。ほとんど日干しレンガだった土の下から、ツルリとした光沢を放つ乳白色の小山が出て来た。

 それが人工の岩と化したマイクロマシンだ。タマさんが内部に探りを入れ、反応のあった点がPDAに表示される。もう一度、そこを高強度レーザーで一撫ですれば、グレーのメンテナンス・ハッチが露わになる。あとはハッチ内の機能が生きているポートへタマさんが接続、マイクロマシンの下へ閉じ込められた宇宙船の現状確認を行う。


 と、こんな事への習熟は、盗掘を家業にでもしなければ、もう役立つ事も無いだろう。

 作業は順調。しかし彼らの気付かなかった不穏な空気は、ここに来て一気に濃密になって現実に干渉してきた。


「おいっ!そこのお前!!」


 この前と変わらない、威圧的な男の胴間声だった。


『何でここに?!』


 シンは怪訝さに顔をしかめながら、最近の記憶にある自称ハンター/暫定海賊の男たちを思い出し、声のした背後を振り返る。

 そこでアッと驚愕に目を見開くことになった。

 今日の暫定海賊は四人いた。ポンチョもシェラフも身に着けず、野外用の厚手の作業服を来ている。露わになった顔のうち、二人はコンビニで見付けた尾行者だった。そしてもう一人は―—


「シン・ミューラぁぁぁ……」


 喉の奥で唸る様にシンの名を呼ぶ、元同級生の警官だった。

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