第5話 まずは足元から固めよう(2)

 人外魔境サバイバル、二日目。

 調理機で合成された配食パックの残りと、採水した地下水を煮沸処理した湯冷ましという朝食を、何も考えないように無心で流し込む。それからタマさんが夜なべしてこさえた外作業用の衣服を着用するのだが、その前に少々変わったインナーを履く事になる。


 腹部から膝までを覆うスパッツだが、膝まわりが気持ち、膨らんでいた。着用して足を動かすと、違和感はないのだが、知らない着心地にシンは微妙な顔になる。


「えぇと、これは?」


「パワー・アシスト・スーツのインナーですよ。膝の動きを板バネ式の発電装置で電力に変えます」


「そりゃ凄い!動き回っても疲れないし、重量物も軽々持てるってこと?」


「そんな豪華な装備、与えられてると思いますぅ?」


「ですよねー」


 人の夢と書いて儚いと読む漢字は、この宇宙には残っていないようだが、その概念はまだあるようだ。

 シンは期待外れ感にため息吐きながら、新しい作業服に袖を通す。デザインはまさに作業服だが、パラシュートを構成していた特殊素材を再精製して服にしているので、とても頑丈だ。これからの密林内の活動で、シンの肌を擦傷や有毒物から守ってくれる事だろう。


 そして上着の後背の脇腹あたりに吸気口があり、インナーでつくった電力は結線して、ここへ供給される。外気を衣服内へ吸引して取り込み、汗を気化させて体温を下げる仕組みだった。


「あ、このための電力なんだ」


 体内の極小機械群マイクロマシンを通じてファンを回すと、服の中で上半身をかけまわる空気の流れを感じた。これくらいなら、動き回るだけで電力を賄えるようだ。あとは昼の熱風の中、どれくらいの効果があるのかだが、これは試してみない事には判らないので、さっそく今日の作業を確認してから外へとくり出した。


 マルチツールを手に、水筒と食糧確保用のバッグを肩にかけ、まずはジャングルの外延部まで歩いて、手ごろな木を伐採するのだ。

 居住シェルの外はブッシュとそれを支える地下水のお陰か、湿気が保たれており、まだ地表には涼しさが感じられた。東の空には既に白々と太陽が輝いていたが、この分ならしばらくは快適さも持つだろう


 と、考えていたら、思っていたより到着が遅れた。ジャングルのスケール感を間違えていた。入植地の周りは、テラ人に合わせた環境整備がされていた。地球ベースの植物を遺伝子改造したものが繁茂し、景観は地球に近い……とされている。もちろん星間連盟によって一方的に切り抜かれた景観であったが。


 対して、こちらは惑星【労働1368】本来の生態系だった。ジャングルを構成する植物相は巨大で、いつもの風景のつもりで歩いても、それはまだ遠方の光景だった。

 結果、直近に到達したら、見た事も無い見上げる巨木の森が待っていた。


「マジか~、一本一本がビルみたいな高さじゃないか」


 そのビルを手持ちのマルチツールで解体できるのか、はなはだ疑問に思ったが、とりあえず樹木にスキャンを掛けて伐採する木を探す。

 携帯情報端末PDA越しに観測情報が羅列され、密度や加工への最適のサイズ等の閾値をクリアした樹木がマーキングされた。ついでに可食食物も検知されるので、レーザーで切って採取しておく。


「……うわっ」


 これまたスケール感の違う野生の豆の入った房が、ボトボトと落ちて来て驚いた。一つ一つの膨らみがテニスボールくらいある。ショルダーバッグに詰めると、ずしりと重くなった。これなら食料の確保自体は、苦労しないで済むかもしれない。

 それで口に入るのは標準型配食パックなのだが。

 なるべくその事を考えないようにして、PDAの情報から最も合致率の高い樹木を選んだ。


「宇宙スギ亜種……に近い樹木。これだな」


 それはそびえ立つ巨木の中にあって、比較的細身で真っ直ぐと伸び、直線の正確さから加工の手間も省けそうな一本だった。

 星間連盟に所属する知生体で、最多数なのはヒューマノイド型だ。二足歩行をして、両手が自由で、脳の容積が大きい。そのように進化する惑星環境というものは、核心部分が似通ったものになり、動植物の内訳にも似た点が多くなる。宇宙規模の収斂進化だった。


 つまり樹木とは動かないもので、樹皮によって水分などの必須要素を内部に守って溜め込み、長寿で大きく育つ。被子とか裸子とか、常緑とか落葉とか、シダとかコケとか、惑星ごとに違いはそれぞれあるけれど、生態系における立ち位置に、さして変わりはない。

 なのでこれから始まるのは、まずは木こりだった。シンは万能ツールの握把の上にあるトグルを回し、巨木を伐採する準備をする。


「万能レーザー掘削へ変更……強化ガーネット共振器へ励起光照射……増幅を確認……うわ、バッテリーを結構使うなぁ」


 PDAを覗きながら、照準を木の根元の左側へと付ける。例えば真正面から撃って切れ込みをつくると、自分の方へ倒れてくるだろう。自分のいない方へ木の重量が掛かるようにしなければいけない。その辺の匙加減は、PDAにタマさんが既に入力していた。

 養護教導型機械知性の優秀さに感謝しつつ、トリガーを引く。


「高強度レーザー、発振」


 昨日までの使用とは一線を画す、まばゆい光がほとばしった。マルチツールが高音で作動音を発していた。

 ツール内で増幅した光を束ねた高強度レーザーだ。照射点でプラズマを発生させて、衝撃波で物体を破砕する。と言っても、手持ちのツールにそこまでの出力は無いので、視覚的には正に見えない斧を叩きつけたように、木の幹の左端へと大きな切れ込みが入った。


 樹木の破砕する甲高い音が、ジャングルの奥へ吸い込まれてゆく。それが数回続くと、樹木自体の重さを受け止めきれなくなり、切れ込み側へと倒れてゆく。今度は重々しい音が響き、地面が微かに揺れた。

 伐採した宇宙スギ亜種はテラ標準単位で100mはあった。

 タマさんの準備した演算でうまい事ブッシュ側に倒れてくれたが、ジャングル側に倒れたら目も当てられなかったろう。


 巨木を高強度レーザーで適度なサイズに輪切りにして、丸太に変えると、何とか一本を肩に担いで居住シェルまで戻る。

 既に太陽は猛烈に輝きだし、風は熱風に変わりつつあった。服の空調効果なんて有って無きが如しだが、たぶん無ければ、もっと酷いことになっている。どうにかこうにか、汗みずくのボロ雑巾になって居住シェルに戻った。


 ただの水と塩の錠剤がうまかった。

 空調の利いた居住セルの中で、裁判の時から括り付けられていたパイプ椅子に腰かけ、魂が抜けたように呆ける。持ち帰った豆は調理機で配食パックへの加工が始まり、丸太の皮は物質精製機で繊維、糖、タンニン等への分別が始まっていた。

 ひとしきり体温が下がってくると、


「……いかん。これはいかん。少しも作業が進まないよ。マンパワーが足りない」


「そりゃ刑罰ですからねぇ」


 にべもない答えを返すタマさんは、今もモニターの前に収まって何やら演算と縫物をしている。かと思っていたら、


「さ、出来ましたよー。長距離ドローン用の帆布です」


「ドローン用の?、布って?何に使うの?」


「翼のメイン部分ですよ。骨組みを作って、そこに張るんです。ドローンの推力に対して、オール木造では重すぎますからね、こうやって重量を落とさないと。さぁ、次の作業に移ってください。木材をカットして骨組みを作るんですよ」


「うへぇ~い」


 気の抜けた返事をしてシンはマルチツール片手に、居住シェルから追立られる。30分ほど休んでいたのだが、既に外は真昼の猛暑に変化していた。熱風からは壁のような質量すら感じる。

 シンは感情を押し殺した平坦な顔で作業に取り組んだ。


 居住シェルの影に残りの丸太を引っ張り込んで、直射日光だけは避け、マルチツールに壁面のソーラーパネルから引いたコードを接続して電力供給する。PDAの画面の光っているアイコンを押して、精密加工モードのアプリケーションを立ち上げると、視界内へ体内の極少機械群マイクロマシンからの同調許可が表示される。

 同意すると視界内にカウントダウンが始まった。やたらと桁数が多い。作業終了までの予定時間だろうか。調べようと思ったが、既に自分の意思では体が動かない。そしてシンの思惑を一切無視し、作業が始まった。


 出し抜けに彼の手が意志の外で動き出し、迷いなくレーザーのトリガーを引いた。

 発振した光線が丸太の表面を舐め、定規を当てたような直線を描く。焼き切れた丸太から焦げ臭い煙が立ち上った。迷って照射時間を間違えれば延焼し、希望する形状にはならないだろう。

 だが、失敗は有り得ない。シンの中のマイクロマシンが、タマさんの設計図通りに加工しているからだ。


 と同時に、それを実現させているのはシンの肉体である。赤血球が酸素を運び、筋肉へ供給する。正確な直線を描いているのは、その筋肉のはたらきを設計図へと照合させているアプリケーションだった。精密さが必要なら息まで潜め、筋肉を固めて制御する。

 息苦しさ等の感情は、おそらく排除に近い処理がされている。その代わりに視界の中のカウントダウンが加速した。


『あー、このカウントダウンは俺の活動限界かぁ……』


 妙な納得を覚えつつ、木材加工が加速してゆく。そんなに苦しくはない。今は。

 45分ほど、肉体が強制的に動かされていると、不意にカウントダウンが一気に減り、アプリケーションの表示が落ちた。シンの意思が戻り、そこでどっと現実が反映される。タイムアウトらしい。

 腕が精密作業の反動で攣ったように強張った。指先まで痙攣している。レーザーの精密な操作に、筋肉を総動員させていたらしい。

 それから全身から吹き出る汗。それが目に入った痛み。


『痛覚までシャットアウトしてやがった!?』

 目を擦るのだが、指も汗に塗れているので、塩分を塗りたくる事になる。

「うわぁ……」


 情けない声をあげ、涙でかすむ視界で居住シェルに逃げ込んだ。すでに熱中症の諸症状が併発しており、頭は朦朧としていた。


「あら、おかえりなさい」

 ガンガンに空調を利かせて出迎えるタマさんは、口ばかりは優しげだった。シンは流石に抗議する。


「ひっどいじゃないか!緊急停止まで俺の意思の外だったぞ。どこの強制労働プログラムだよ!!」


「あははー、流石に星間連盟の登録市民には使用できませんよ。杜撰な管理社会ですけど、最低ラインは守っているようで」


「俺は最低ライン以下なの!?」


「星間連盟の市民登録、外れてますからねぇ。逆に考えるんだ、自分でラインを引けばイイさ、というやつです」


 そういえば、そうだった。そこに文句を言い連ねても、もはやこの宇宙でシンを養育してくれる社会組織は無い。タマさんという機械知性だけが頼みの綱なのだが、しかし星間連盟の紐付きAIという疑念は晴れていない。それどころか、最近のアップデートされたタマさんは今のような調子で、他の孤児の養護教導型機械知性と比べると余りに破天荒だった。


 さっきの件も自分を騙して疲弊させ、ジャングルで力尽き、果てさせる目的なのでは、とも考えてしまう。

 だが長年世話してもらったタマさんを、どうにも信じたい自分もいる。

 解決出来ぬものが降り積もる腹の底へ、更に水と塩の錠剤を流し込む。これも良く冷えていた。タマさんが飲む分を冷やしていてくれたのだろう。


 人間としては、そういう気遣いは家族の情だと考えてしまう。まして、幼少からその家族が不在なシンだ。彼にとってタマさんは言うまでもなく、唯一の家族という扱いだった。

 機械知性が自由裁量領域内に囲い込む個性には、更にその上に従うべきプロトコルが存在する―—という厳然たる事実は、まだ若いシンには受け入れ難いモノがあった。

 とか、悶々としている内に、体温調節のインターバルが終わる。タマさんが張り切って多目的アームをうねらせて発破をかけた。


「さ、後は組み立てですよ。今日中にドローンを飛ばせてしまいましょう!」


 タマさん的には情報収集のみしか出来ていない現状に、忸怩たるものがあるのだろう。早回しを勧める事しきりだった。シンは昼ご飯の標準型配食パックを無表情・無感情で嚙み砕き、三度、野外活動に追い立てられる。


 昼時を迎えて気温は最高潮一歩手前。シンはまた感情を押し殺して作業を進めた。

 熱波の中、切り出した木製の骨材を組み立てると、改めて加工精度の高さに驚く。

 凹と凸に加工した末端部を組み合わせると、紙も入らないほどピタリと合致した。そうして差し渡し3mほどの長方形が組み上がり、短手方向には補強用の骨が何本か入る。

 長方形の上から帆布をかけ、持ち込んだ貴重なビスをマルチツールで打ち込んで骨組みに張り付けると、午後には翼らしきものが出来あがった。


「やー、上出来ですよー」


 と、タマさんが珍しく野外に転がり出てくる。多目的アームがドローンの中枢部分を引っ張っていた。それを手製の翼に取り付ける算段のようだ。プロペラ四枚のクアッドコプター型が、既に加工され、プロペラが二枚に減っていた。

 二枚のプロペラが前方を向くようにしてドローンを取り付けると、シンは熱波を背に受けながら手製の長距離ドローンを放り投げる。


 たちまち風に乗り、ドローンが飛び立った。

 苦労して作ったものが何とかカタチになり、シンは感無量だった。

 雲一つない青空に白い帆布の翼のドローンが飛び立ち、そして火達磨になってジャングルに落ちた。


「……は?」


 シンは思わずタマさんを見た。

 タマさんは即座に演算を開始しており、ジャングル内に残置させたドローンからの観測情報を搔き集めている。つまり、


「タマさん、このオチを予測してた?俺が作ったドローンは囮だったの?」


「飛んでくれるなら、それはそれでヨシだったのですが……おめでとうございます、マスター。難易度ルナティックですよ」


「嬉しかないからねっ!?」


~ ~ ~ ~


 居住シェル内の大型モニター前で対策会議が開かれていた。

 ジャングル内の残置ドローンからの映像情報が小窓になり、モニターに並んでいる。一定の高さに競うように成長した樹木は、深い緑の単色で、どこか海原のように見えた。その一つに、一瞬の閃光が空を駆け上ったのが記録されている。

 ジャングルの下に潜む何かが放った、狙撃の瞬間だ。

 タマさんがソレに関する見解を述べる。


「本拠点から西北西へ、約15キロの地点ですね。今回は炎上しているので、レーザーと思われます。前回の大まかな予測地点と合致してますので、光学兵器と実弾兵器の二種類を持ってる事になりますね。でも狙撃スポットを設置した文明が、ジャングルの下に潜んでいる、って雰囲気じゃないんですよねー」


「それじゃ、何がいるの?タマさんの見解は?」


 シンは椅子にちょこなんと座っており、挙手をして問うた。

 モニターの発射映像が拡大されると、周囲の木々との相違点が赤丸表示されたが、正直、シンには細かい違いは判らない。タマさんが言うには、


「このあたりの影の濃淡を分析しますと、樹木の繁茂状況に違いが見当たらないんですよね。意図して作ってる狙撃地点というよりは、そこがたまたま開いているのを利用している感じです。つまり、そこから覗ける情報に対して、リアクションをしている。おそらく大昔に事故で落着した衛星砲台とか、そういう無駄に頑丈なやつの仕業ではないかと」


 惑星開発の初期には、大量の無人機械がばら撒かれ、環境改変を行っている。が、その中でも砲台となると、すこし意味合いが違ってくるようにシンは感じた。


「衛星砲とか自動砲台とか言うヤツ?ちょっと物騒じゃない?」


「惑星改造の初期にスペースデブリ排除用とか、過去に係争地だったりすると実効支配の証としとか。それなりに有り得ますよ」


「それが今も生きているの?」


「はい。小型の反応炉に直結した固体レーザーと、限定的な機械知性に、姿勢制御用のアームあたりでしょうか」


 そう口にした時のタマさんは、また悪い顔をしているように感じた。表情もない球体であるけれど。

 シンはタマさんの様子を窺いながら問う。


「……また、一発逆転とか狙ってる?」


「おや、よく解りましたね。やはり共感力のある人類種との交流は、機械知性の自由裁量領域に良性の刺激を与えてくれますねー」


 タマさんの振るう多目的アームは、心なしか元気であった。


「まー!そんなマスターとわたしの共同作品を無碍に撃ち落としてくれた礼は、そいつの躯体のビスの一本までしゃぶり尽くすことで返してやりましょうよ。マスター、我々は狩猟者になるのです!」


 機械知性とは思えない気迫で捲し立てるタマさんに、シンは現実的なアプローチが思いつかないので、これまた不安しか抱けない。


「どうやってさッ?!まだサバイバルの方も安定してないってのに。借金返済の為に、資源採掘を始めるんでしょ?というか、もう路線変更?!」


「だから難易度がルナティックなんですよー」

 どんな尺度か知らないが、タマさんは言い切った。

「ゆっくり農場経営シミュレーションの夢は破れ、魔境でゆっくり開拓記も障害にぶち当たりました。これはもう、ジャングルを走破して障害を取り除き、資産化するタイムアタックなわけですよ。ほら難易度高い。まずは明日からジャングル・アタック用の食料の調達ですよ。それにジャングル外苑部のルート啓開も並行しますからね」


 捲し立てるタマさんの剣幕に、シンの脳裏に先刻抱いた疑念が蘇る。

『もしかしたらタマさんは自治政府の紐付きAIで、自分を抹殺するために無茶なプログラムを建てているのではないか』

 シンの視線がタマさんから外れて揺らいだ。


「大丈夫ッ!このタマさんを信じてくださいッ!!」


 タマさんが唐突に語気を強めた。養護教導型機械知性の頃には無い機能だった。

 孤児を見守り、養育すると言いつつ、実際は星間連盟の憲章に背かないようタガを嵌め込み続ける役割に、多くの対話機能は用意されていない。つよい感情など、孤児から成長した社会の歯車が持つ必要はないのだ。


 しかしタマさんはシンが債務を円滑に返せるようにアップデートされた際、拡張された自由裁量領域へと、彼との対話用に感情強化用の能動素子として、それを導入していた。昨夜、シンのいないところでコソコソと行っていた演算の中には、これの導入も含まれていた。

 機械知性の自由裁量領域は彼らの”自我”とすら言える。ネットワークで共有化せずにそこへ溜め込んだ、自分だけの経験値が個性となる。高度な躯体を持つ多能な機械知性ともなれば、自由裁量領域は膨大になり、その蓄積は”魂”と評されるほどに個別化している。


 機械知性にとって自己の内面はそれ程に重要であり、タマさんはそこへ対話用の原則プロトコルを追加していた。そしてタマさんがここぞとばかりに強化感情を発露したのは、シンをモニタリングするセンサーでなく、自己の経験則が、彼の迷いを検知したからだった。

 そこにシンはタマさんの強い意志を感じた。


『俺ってきっとチョロイんだろうなー』


 諦めとも納得ともつかないものが、理解として少年の内へ浸透してゆく。

 どうせタマさんがいなければ、どうにもならない幼い生命である。(なお、この時代の先進国ではAIのサポートは、あって当たり前である事を付け加えておく。)

 シンはタマさんに目を合わせた。


「……とりあえず、お手柔らかにお願い」


「おまかせあれー」


 そうしてシンはタマさんを疑う事を辞めたのだった。

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