16話 連隊長と評議大会

― サンクトバタリアン 帝国軍駐屯地 門前 ―


 母を訪ねて三千里ならぬ、専門家を訪ねて十数㎞。

学生寮から路線馬車に乗り、中心街を通って駐屯地へ。

ここはなんちゃら省みたいな政府機関がある地区だから、東京で言ったら霞が関みたいな所かね。


これから俺とアルザスは、評議大会の専門家らしい人物に会いに行く。

ただ、専門家と言うよりは経験者のほうが適語かもしれない。

アルザスが言うには、兄のアルグレイ経由でちゃんとアポを取ってきているらしい。


あ、ちなみに戦略会議で話し合っていたレイナやミニッツ先生は来れません。

理由は簡単。俺たちしかアルグレイ兄さんに面識がないから。

部外者は来ちゃいけません。


 という訳で現在、目的地の門前に到着しました。

厳重に守られたデカい門。周囲を見張る、槍を持った兵隊さん。

いかにも、お偉い人しか立ち入れない重みのある土地。

俺はこの敷地が放つ謎のオーラに足止めされ、現在門の前で突っ立っている。


 そんな俺を横目に、アルザスはズカズカと門番の衛兵に近づいていく。


「なぁおい…。本当に大丈夫なんだろうな…?兵隊さんからめっちゃ怖い目で見られてるんだけど…!」


「ダイジョブダイジョブ!ちゃんと兄さんから話言ってるはずだから!連隊長殿もそんなに怖い人じゃないし‼…まぁ会ったことないけど。」


最後の一言で最初の大丈夫が台無しだよ‼

お前はこういうところ慣れてるんだろうけどさ!


「…ていうかお前。散々お家が嫌だとか、兄さん嫌い感出してたくせに、結構そのお家に頼ってんじゃねぇか?そういうのを矛盾っていうんだぜ?」


「うるさいなぁ!あと、兄さんは嫌いとかじゃなくて、そりが合わないの‼」


んなもん同じだろ…。と、くだらない駄弁りをしながらズカズカ。


 門の受付みたいなところにいる兵隊に向かって、気軽に訊ねるアルザス。


「すいませーん。連隊長殿と面会に来ました、アルザスTトロールヨースターという者なんですが。ここ通してもらえませんか?」


「あ?」いった感じで、明らかに良くない反応をする衛兵。

無論。こんなフワッとした奴が通してもらえるはずもなく。

こっちを睨んでいた衛兵が詰め寄ってくる。


「面会だと?君たち、証明書を見せなさい。連隊長殿にお会いするんだ、こちらからそれ相応の書類を貰っているはずだが?」


おっと⁉ヤバい香りがプンプンするぜぇ‼


(おいバカ‼あんなフワッとした雰囲気で行くやつがあるか⁉第一なんだよ証明書って⁈)


(知らないよッ‼話通しとくからそのまま来いって、兄さんに言われたもんッ‼)


(なら自分がアルグレイの弟だって言ってやれ‼)


「あ、あのッ!俺はここの中隊長の、アルグレイヨースター大尉の弟なんです‼」


それを聞いた衛兵。グッとこちらに顔を近づけ、さらに眉を顰める。


「大尉殿の弟ぉ…?確かに容姿は似ているが…、近衛連隊の屯所にズカズカと入ってくるくらいだ。ヨースター大尉の弟ともあろう者が、そんなに学のないはずがない!」


嘘だろッ⁉信じてもらいえないし‼

やっぱり(天然)バカは信用ならないのか…。


別の衛兵が、俺たちの出で立ちを見てキッパリと、


「見たところ貴様たち、学生じゃないか。大人をからかいに来たのか?子供の悪戯だとしても、相手は兵隊。ましてや近衛連隊であるなら許されない‼」


「人を呼んで来い!連行するんだ!」


おいおいおいおいッ⁉こんなクソみたいな理由でお縄だなんて冗談じゃねぇ!

後であいつらにどんな顔して合えばいいんだよ!

「門を通してくださいって言ったら捕まっちゃったぁ」ってか⁉


 衛兵が俺たちに詰め寄ったとき、


「おーっと待った待った。その二人を連れて行かないでおくれ。」


門の奥から聞き覚えのある声がする。


「ッ⁉ヨースター大尉殿‼」


やっとお出ましか!一体何してたんだよ!

アルザスと俺、二人で安堵のため息をつく。


「その二人は私の客人で、赤髪のほうは弟だ。通してやってくれ。」


衛兵は「失礼しましたッ!」と言って、俺たちを解放する。

まったく、、、連隊長に会う前にひどい目に会った…。


「いやーごめんね⁈連隊長には話を通したんだけど、君たちが来るのを衛兵長に言うの忘れてたよー。ハハハハハ。」


、、、、、、この笑み。絶対わざとだろ…。


「このクソ兄貴ぃぃぃぃぃぃッ‼」


(野郎ぶっ殺してやらあぁぁぁぁぁぁぁッ⁉) と、心の声である。



― 敷地内 ―


 アルグレイについていきながら、敷地内をキョロキョロ見渡す俺たち。

明らかに金のかかった屯所であるというのが一目でわかるほど綺麗だ。

ゴミどころか、鳥の羽一つ落ちていない。


アルグレイのせっせか歩き。アルザスのスタスタ歩き。

流石は兄弟。歩き方や仕草までそっくりである。


 門をくぐってすぐ、建物が密集し始める。

どこも看板が付けられていてわかりやすい。

倉庫、資料庫、兵営、角馬の管理所や小屋。


「連隊長殿は、本部の中でお待ちだよ。ほら、あそこに見える屋根が本部だ。」


建物たちの屋根。その陰から少し飛び出た三角屋根が見える。

アルグレイはそこを指さして言った。



 レンガ造りの建物。この曲がり角を通れば恐らく、本部の全貌が眼前に現れるだろう。

曲がり角を曲がる、しかしその直後に気が付いた。向こうからも人が来ていたことに。

俺は後ろにいたから無事だが、早歩きをしていたアルザスの肩がぶつかった。


「ッ⁈」「うわッ⁈」 


曲がり角でぶつかる…。ありがちな展開だ。

しかし相手は遅刻しそうな女子高生じゃないし、食パンを咥えてもいない。こちらも転校生ではない。

お互い、「うわッ‼」と同じセリフと反射で後方によろけてしまう。


「あぁ!すみません!」 咄嗟に謝るアルザス。


「いや、こちらこそ。よく前を見ていなかった…。ッて、ヨースター大尉?」


ん?知り合いか?


「やぁファドラー君。君も連隊長殿に?」


「えぇ。例の件でお話があったもので」


しかし…。見たところこの人は、ここの兵隊じゃないようだ。

ここの騎士たちの制服は、白ズボンにグレーの上着(?)だ。

大して彼は、ネイビーの学ランのような服を着ている。学ランとはちょっと違うが。


あ、そうだ…!彼の制服は警察の物だ!

前の汚職警備隊員も同じようなのを着ていた。

じゃあ彼は警察の人間…?なぜこんなところに…?


しばし、アルグレイとよくわからん話を小声でしていた彼は、崩れた軍帽をキチっと直して、

「それじゃ。僕はこれで。」と一言いい残してそそくさと去っていった。

しかも帽子を深くかぶって、背中を丸めて早歩き。まるで存在を隠しているような感じだ。

というか、誰かから隠れているのか?


「兄さん、一体何なんだ?あの変な人はよぉ。」


「あぁ…、大丈夫。そのうちお前たちも面識を持つようになるさ。」


えっと、、、どういう意味…?


「さっ!連隊長が待ってるよ!行こうか。」


…なんなんだよ。




 ― 駐屯地内 連隊本部 ―


 噂の連隊長殿は、奥にある本部の応接室で待っていた。

全体的にギリシアの石造りのような建物で、皇帝の銅像などが立っている連隊本部は、いかにも騎士の巣窟である。


 応接室のドアを開けるアルグレイ。

室内で椅子に腰掛けている、髭を生やした30~40代くらいの男。

ビシッと軍服を着こなし、広い肩幅に合う大きめのマントを羽織っている。


「連隊長殿、栄誉勲章の少年たちが来ましたよ。」


男は硬そうなおじさん私が、グランドル近衛連隊長のフロンズ・シュタウゼン大佐だ。」


俺たちは丁寧に手を差し出す彼と握手をした。

「ヴァルターヒューリーズです。」「アルザスTヨースターです。」と、各々の名乗りを済ませる。

「どうぞ掛けなさい」と形式的なことを言われ、高級感溢れる柔らかい椅子に腰掛ける。


 しかし…、名前に地名が入っていない。この人は平民の出自なんだろうか。

それに随分と、物腰が柔らかい。もっとおっかない感じの人だと偏見で思ってた。


 「では早速本題に入ろうか。君たち…、今度の評議大会に参加するんだよね?」


「はい。厄介な上級生たちから出場を強制されまして。ですが、もう2か月も経たずしてその時は訪れてしまうというのに、如何せん不足が多すぎまして…。」


「それで、25年前の大会に出場されていた連隊長殿にお話を伺いたいのです。」


シュタウゼン大佐は、25年前の大会で30人規模のチームの中に剣士として所属。

彼のチームは演習で、他チームの撃滅、提示された目標を完遂するなどの好成績を記録。

好成績を残した学生は、青年学校卒業後のエリート街道を約束されたという。


「前回大会…。あれはまさに、力のあり余った青年学徒たちが集大成を見せた、それはそれは凄い戦いだった。なんせ皇帝陛下が我々の真価を、その目で見ていて下さったんだ。」


「そんなに凄い大会だったんですか。戦勝300周年の記念大会ですもんね。」


「そうだねぇ。それに、活躍すれば将来の為になるとわかっていたもんだから。私みたいな平民出の奴は血気盛んだったよぉ。」


すると横で突っ立っていたアルグレイが、


「連隊長殿は大会で好成績を残したことによって、こっちの道帝国騎士に来られたんですもんね。流石、連隊長殿の実力には頭が上がりませんな。」


「ありがとさん。だが大尉、十三騎士族の君がそんなことを言うと、壮大な皮肉にしか聞こえんよ。」


いや、今のは本当に皮肉だろう。

アルザスから今までに聞いた話だと、アルグレイも生まれや血族を重んじる、プライドの高い階級社会に染まった人間らしい。

価値観が古く、魔法に頼り切ったこの異世界。

魔法頼りによって技術発展が遅れているため、保守的な階級社会と、奴隷制度の名残が未だに残っている。


まるで南北戦争前のアメリカのようだ。

あれは、工業化が進んで奴隷が必要なくなった北部と、工業化が進まず農業中心で、奴隷が必要な南部の対立によって起こった戦争。

まさにこの帝国は、その南部アメリカと、上流階級が幅を利かせるヨーロッパを、足して2で割ったような国。


シュタウゼン大佐もまた、そのような階級社会で下から這い上がった人物だ。

彼が率いるグランドル近衛連隊とは、生まれも育ちもエリート揃いの騎士団。

流石に平民出がシュタウゼン大佐だけという事はないだろうが、さぞかし肩身が狭かったのではないだろうか。


評議大会で一発逆転した人生とはいえ、ここまで来るのにたくさんの苦い思いをしたことだろう。

現に、その道のりについて語る大佐の表情からは、苦渋の思いが見て取れる。


しかしまぁ、劣等民族エンティオ人の俺からすれば、ヴィクトル人優等人種に生まれただけで勝ち組に思えるがね。


「それに、その血気盛んさが原因で、多くの負傷者が出たんだ…。負傷者の中にはその後、怪我の後遺症で死亡した者もいた…。私の仲間も一人死んだよ。」


あぁやっぱり。話だけでも危険な、倫理観の欠如した評議大会だ。

ある程度の覚悟はしておかなければならないらしい。



 「…それはそうと連隊長殿、、、」


「いちいち連隊長殿なんて面倒だろう?大佐でいいよ。」


「わかりました。そもそも前回大会は、何が演習の主目標で、大会側は何を評議していたんでしょう…?今のところ、今回は何をするのかすら把握していない状況で…。」


仕切り直しの言葉につられ、少し悲し気だった大佐の表情が、少しだけ戻って上を向いた気がする。

緩んだ口元から、解説が流れる。


「あの時は所謂『陣取り合戦』だったよ。集められた学徒たちのチームが、カルナムスに広がる丘陵地帯や平原、湖沼群を跨いで何日も小競り合い、お互いの懐にある陣を奪い合うんだ。」


「へー!なんか楽しそうですね‼」


アルザスが無邪気に喜んだ。さっきまで重苦しい話をしてたのに、よくそんな発言が…、


「おッ?楽しそうと思うかい?私もそう思ってたよぉ!でも血みどろだったぜ?」


「うぇ…。前言撤回ですわ…。」


『ハッハッハ…‼』  なんか二人で笑ってらぁ。


 「あ、じゃあ!大佐殿はどんなチームで、どんなお仲間と一緒だったんです⁈」


「私たちの場合は30人のチームだったから、10人ずつ三班に分かれて行動していたんだ。そのほうが柔軟に動けるからね。」


なるほど…。小規模人数の分隊か。その辺なら前世の兵卒時代にやったからいいかもしれない。

…、、いや待てよ?そもそも隊を組めるほどの人数がいないじゃねぇか…。


「ちなみに大佐殿。メンバーの役職は、どのようなステータスを持った人を?」


「うーん。まぁ、大陸中を旅している集団冒険者パーティーと同じかな?私を含む突撃役の剣士セイバーで、魔術師ウィザードが二人。火属性と風属性、あと土属性もだ。それと医学と簡易回復術に長けた医術師ヒーラー。あとは弓兵アーチャーが数人だったね。」


おぉ…。まさに王道ofthe王道。

異世界RPGでよく見るパーティー編成。バランスよく考えられているみたいだ。

こういうバランスの取れた編成は、独立して行動できる強みがある。これは参考になるな。

内心ちょっとワクワクしている自分がいる。


「で?君たちは仲間を何人集める?てか今どのくらい?」


「いやぁそれが…」  頭を掻きながらチラッと俺に目配せをするアルザス。


「剣士がアルザス、魔術師が一人、アーチャー兼指揮官が俺。今のところ、この3人だけです…。」


それを聞いた大佐もアルグレイも、少しマズったような、『ふぅ…』って感じの顔で目配せをする。

目に見えていた反応だけどね。


「なぁ大尉よ。最低でも5人はいないと無理だと思うんだが…、あと2か月もないのにせいぜい2、3人。間に合うと思うかね?」


「無理じゃないですか…?それに他校からも、選抜された精鋭が集まってくるんです。こちらは10人にも満たず、しかも急ごしらえの寄せ集め。ただの骨折り損になりそうですが…?」


「しかもその骨折り損が、比喩じゃなく物理的になんて洒落にもならんなぁ。」


大佐殿、誰がうまいことを言えと。


「それにヴァルター君。仲間も必要だが、その仲間たちを飢えさせないための物資。さらにそれを調達するための資金が必要だ。主催者はケチなのか、なぜか全て自己負担だし。当てはあるのかい?」


「確かルール上、親族などからの支援金は禁じられているはずだ。調達までの手段を踏まえて、参加者の能力を図っているのだろう。」


「あ、そうじゃん!そこんとこどうすんのさ⁉ヴァルちゃん!」


 資金の心配…。しかしこれに関しては、この場にいる誰もが予想していないだろう。

『資金面は既に解決済み』であることを。


当てはあるのかって?ここにはない。

俺は帝都にやってきて間もないし、帝都の物流網や金持ちと一枚嚙んでいる訳でもない。

むしろそこに関しては、敵側バスキー商会のほうが主導権を握っていると言っていいだろう。

しかし、だ。ここにはない。そう、ここには。


 俺が当てにしている所は、生まれ故郷であり、惨劇の場所である〈リンクシュタット〉だ。

そこには、〈密告者〉を追うという俺の人生劇第2目標に、複雑な事情によって協力してくれた男がいる。


なんなら、青年学校入学に際しての、俺の経歴詐称や書類偽造を手伝ってくれた〈協力者〉もそいつだ。

その男はバスキー商会ほどではないが、リンクシュタットで株式を用いたthe資本主義で、地道に稼いでいる男である。

その現代的資本の知識は、俺が伝授した。前世から持ってきた記憶だ。


 俺はその男に、協力要請を贈ろうと思う。

とにかく、これで足場を固めるほかはない…。



 「資金の話は一旦大丈夫です。そこで一つ、大佐殿とお兄さんにの意見を聞きたいことがあります。」


「どうした?なんだか改まって。」


姿勢を正して、向かい合う大佐の瞳孔から視線を外さない。

真剣さとはこういう風に見せるものなんだ。


「敵の大将は、バスキー商会の御曹司です。幅広く、様々な業界に融通の利く家柄ですから、人員も、物資も、こちらとは反対に万全の状態で臨んでくるはずです。」


「なるほどぉ。それはまた面倒な相手だね。」


「そこで、他の上級生など多くの人員を揃えて布陣してきた敵と、どう戦うべきでしょうか。そもそも今回の演習は、一体どのような目標を定められるのでしょうか⁈」


こういうのだろ。こういうのがシュタウゼン大佐の専門だろ。

ほら。大佐も髭をジョリジョリして、いかにもな感じで考えてる。


「さっき、前回が陣取り合戦であったという事をお伺いしました。でも今回は、前回と条件が異なりすぎている。なのに、25年前と全く同じとは、俺には思えません。戦いの専門家であり、経験者でもあるシュタウゼン大佐にお聞きしたいです。」


至極まっとうな質問を投げかけたつもりだ。

なのになぜ、、、大佐はこんなにも黙り込んでいるのか…。

なんで、さっきアルグレイが皮肉った時みたいな顔をしているんだろう…。


「ヴァルター君よ、アルザス君も聞きなさい。」


…?何さ、そっちこそ改まっちゃって。


「…私個人の聞く限りでは、25年前と同じように、ザウグシュタットの再現や陣取り合戦を行うようなことはない。恐らくは、ブラムナスの地に足をつけたチーム全てが敵だ。それ以外はわからん。ただし、、、一つ君たちに言っておけることがある。」


「な、なんでしょう?」


固唾をのむとはこういう事か。

自然と飲み込んでしまった唾が、音を立てて喉を通っていく。


「…今年は、何か違うから…。『?』。これは君たちだけじゃなく、その上級生たちとやらにも言えることだ。」



 気をつけろ…?どういう意味だ?怪我をするなってことか?

いやいや、そんなちんけな事のはずが…、、


アルグレイは…?どんな反応をしている?


「…、、、、ん?」


あの様子だと…、大佐の言葉の意味を知らないのか。

アルグレイもわからない…。真意はなんだ…?



―――――――――――


 ― 帰りの路線馬車 ―


ガタガタ強い衝撃が来る、非常に乗り心地の悪い馬車。

中心街を走行中の馬車からは、俺たちが誘拐事件に巻き込まれる発端となった、あの婦人服店跡地が見える。


脳内ではまだ、気をつけろよ が気になって悶々としている。


「なぁヴァルちゃん。」   


脳を使いすぎて疲れたのか、壁に予垂れかかって座るアルザス。


「ん?どした。」


「シュタウゼン大佐…、最後苦しそうな顔して言ってたよね。自分の意見。」


あぁ…、全チームが敵ってことか。それがどうしたんだろう。


「あの時さァ、『私の聞く限りでは』って、言ってなかった?」


―――マジじゃん⁈


「確かに言ってた。じゃああの人、自分の意見なのになんで他所から聞いたことを話すんだ?」


今思えば、明らかに外部からの情報を、そのまま口にしたような意見だった。

アルグレイも、気をつけろよの真意がわからなかったようだし…、


大佐は、、、今回の特異な大会開催に関して、何か大事なことを知っているのか…?


 大佐が言った、『気をつけろよ』の意味に皆が気付くのは、、、評議大会の後。

実に3か月後のことだった。

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