9話 初実戦経験

 ―帝都・ウォールド地区郊外の小森林―

 

 (さぁ来い…。敵が一歩目を出した瞬間が狼煙の瞬間だ…!)


「―――ぶっ殺せッ‼」


 敵の雑兵が、槍を振りかざし仕掛けてきた。戦闘開始ッ‼


 ――星硝石と弾石を、筒の後方から装填。手動開閉のボルトを閉じ、着火点を開く…。発射準備完了――


〈イグナイト ファイア〉


 発射された弾丸は、こちらへ駆ける敵の胸に抉り込んだ。

 やはり凄いぞ。この世界でも、銃というものは非常に高い殺傷能力を誇る。

 人類史の科学万歳だよ全く。


「一人目ッ。次ッ!」


 装填、ボルト開閉、イグナイト、点火。

 また一人を、あっけなく撃ち殺す。

 戦闘というのは俺が思っていた以上に、常に細かな動作が、目まぐるしく発生するものだった。

 体感で感じる時間、それを観る者の時間も非常に長く感じるが、実際は非常に短い時間で、一人の命を奪うという行為に決着がつく。



 さらに敵が見せる動揺の顔。まさに滑稽である。

 ただのガキが、見たことのない原理不明の武器を使って、仲間を殺していくのだ!

 それに醜い優越感を感じる!だが、俺の好きなシチュエーションだ!



 一方のアルザス。

 剣を抜き、因子を集中、得意な属性である雷を使うために、電気を発生させる。

 アルザスの剣は紫色の稲妻を纏い、ただの鉄の刃から、強力な殺傷兵器へと変わる。


「ガキだと思って侮るな…‼〈イグナイト スパーク〉」


 洗練された剣筋。流れに沿った斬り込み。

 普段のバカさ、そのギャップによって、彼を剣士として引き立たせる。

 普段は何の意味もない行動ばかりのくせに、いざ剣を持てば、その剣先一筋一筋に意味がある。


 まともに当たった刃は、敵に裂傷を残す…。

 たとえ小さな裂傷でも、剣が纏った雷魔法によって、その傷口に電流の激痛が走る…!

 小さなダメージでも、継続して大きなダメージへとなる…。

 それが、アルザス・トロール・ヨースターの戦い。

 しかし、アルザスの額には冷や汗が、表情は苦しみを纏う。



 一方の俺だが…、遠距離戦闘しかできない弊害が出たようだ…。

 敵は、俺が銃による遠距離攻撃しかしないことに気が付き、だんだんと距離を取ってきた。


(持久戦に持ち込まれるとまずいな…。敵は気づいちゃいないだろうが、こっちはあと数発で星硝石火薬が無くなる…!)


 慎重に…慎重に。

 すると、後方から足音がするのに気が付く…。

 見ればそこには、警備隊のおっさんが迫ってきていた!

 しかもかなり距離を詰められている。


「――やべッ…! 油断した!」


 おっさんが持つ警備隊装備の剣が、俺に向かって、月光を反射して迫る。


「だあぁぁぁぁぁぁぁッ‼」


 カッコ悪くて締まりのない声を出しながら、こちらに走ってくる。

 剣筋自体は甘い!ヘタクソだ!

 だが問題は俺にある!こちらが近接武器を持っていないことだッ‼


「畜生がァ‼‼」


 咄嗟の判断。ライフルを両手で持ち上げ、真剣白刃取りの体制!

『ガギッ!』という音を立て、間一髪のところで剣を防いだ‼


(あぶねぇぇぇぇぇぇぇ…⁉)


 前世で元兵隊(兵卒)の俺。射撃はもちろん、格闘訓練も叩き込まれた。

 だが正直苦手だし、実戦なんざやったことない…‼

 目の前で鍔ぜり合いするとマジで怖い‼


 と、目の前の敵にばかり手中すると、後ろからやられるのが世の常。

 他の敵が、俺の背中に対して殺意をむき出しにする。

 この状況は非常にまずい。

 避けては構え、また避けるという防戦一方になってしまう。


 防御では戦いの主導権は握れない。

 なんとか反撃しようにも、取り回しの悪いライフルは、この状況に不適切である。


 忘れてはいけない。腐っても敵はヴィクトル人優等民族とクーペルト人。

 この世界の主力である魔法を使いこなせない、俺のようなエンティオ人劣等民族とは、デフォルトで技量の差がある。

 それを言い訳にしないため、たくさん工夫し力をつけた。

 その工夫が、自作の銃という形になったまでの事。


 改めて、自分が敵対しようとしている者たちとの『力量の差』を、自分の無力さを感じた。


(わかってはいた。これだけではまだまだ初期レベルだということを…。俺は異世界における、余計なステータスが高いだけの落ちこぼれ系だということを…!)


 だが今は状況が違う!

 その余計なステータスが、友という形で、優等民族の中でも上位クラスの強い奴アルザスを引き付けたのだ‼

 アルザスは、俺の無防備な背中を狙う敵を容赦なく斬り殺す。


そろそろ限界魔力切れじゃない?あとは俺がやっとくけど、そのおっさんだけは任せたよッ⁉」


 そういうとアルザスは、お得意の連続的な剣術で、一人、また一人を殺していく。

 ここまで剣を振り続けて、まだ息切れすれしていないことが驚きだが、その剣にずっと魔術を付加し続けている。

 こいつのサンクトス因子は、それに優れたヴィクトル人のなかでも異常なのである。


〈サプレイド スパーク〉


 四方八方を走り回ったアルザスは、状況が整ったかのように、別の魔法を発動した。


 その電撃は、アルザスが飛び回った地点に伝導し、地点と地点を一瞬だけ、雷電で埋め尽くした。


(今のは…、一定の場所に自分の因子が残った雷を残し、最終的にその地点を感電で繋いだ?それによって周囲を一挙に制圧した…!すげ…。)


 見惚れている場合ではない。まずは目の前の問題に対処しなくては。

 俺もこのメタボ体型の警備隊員を、取っ組み合いの末何とか制し、銃口を突き付けて無力化した。


「言えッ‼ 誘拐した女性たちはどこだッ‼」


 その情報を吐かせて、リオデシアを連れ帰れば一件落着のはず。だった。


 一人だけ、倒し損ねていた男がいるのに、常に必死だった俺たちは気が付かなかった。

 誘拐実行犯の男だ。奴の姿が見えなくなっていたことにすら気が付かないほど、目の前の殺傷行為に気を取られていた。

 だが、気が付いたころには時すでに遅し。

 奴は木の密集する木陰から、アルザスと俺の大まかな方向へ向けて、魔道具の矛先を向けていた。


「クソがぁぁぁぁ…‼ メディウム カノンッ‼‼」


「アルザス…ヤバい逃げろ‼」


 必死の避難勧告。俺は魔術に関する知識だけは豊富だから知っている…。

 あのメディウムカノンとか言うやつは…ヤバい…。


 実行犯の杖状魔道具から、紅い光が発せられる。

 俺は体力の尽きた体を奮い起こし、死に物狂いで物陰へと急ぐ。

 しかしアルザスは…間に合わない。

 いや違う。そもそもアルザスは、男が放とうとする魔術が何なのかわからないのかもしれない。


「おいバカッ!早く動けボケッ!それは砲撃魔術だぞッ…⁉」


 やっと俺の言葉が届いたのか、アルザスは『はッ!』とした顔で、振り続けていた剣を止め、急ぎ撤退を始める。


 だがその時には、男の魔術は既に発射された瞬間だった。

『チュドンッ‼』という感じの、ロボットアニメにおけるビーム兵器のような音を響かせ、俺たちが禍害範囲へ入る位置に、メディウムカノンが着弾した。


 爆発の瞬間。当たり前だが、俺たちは吹っ飛ばされた。

 着弾地点に近かったアルザスは、直撃こそ免れたが、明らかにダメージを負ったのが一瞬のうちに見えた。


 そして俺が感じたこと。8年前にも同じことがあった。

 目の前に広がる爆炎、迫りくる炎、思うように動かせない体。

 そう、前世で俺が死ぬ瞬間に見た光景。そのデジャヴだ。


 8年前にした同じ経験。

 マルクスがレイナに手を上げようとしたとき、咄嗟に奴が小規模の炎魔法を放った時。

 その瞬間の俺は、前世の死の瞬間を思い出し、感情のこれ以上ない高ぶり、その結果エンティオ劣等民族の紋様が体に現れた。


 無論、今も俺の体は同じことになっているだろう。

 だが、それを確かめている余裕はない。

 確かめる前に、俺もアルザスも、意識のない真っ暗闇の底だったから。

 その後の事は…、、、後で聞いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る