第三章

第24話 シエナからの誘い

夏休みに入り、僕は寮の部屋でだらだら過ごしていた。


暑い…………。


エアコンという快適な機械はこの世界にはないようで夏の強い日差しと暑さがもろに部屋に入ってくるのでものすごく暑い。


これ熱中症になる奴いるんじゃないか?


コン、コン。


そんな事を考えていた時、僕の部屋のドアを誰かが叩いてきた。


どうせいつも来る二人のどちらかだろう。今日は外出たくないし、居留守にしよ。


コン、コン。


コン、コン。


ドン!ドン!


ちょっと待て!ドア壊れるって!


焦った僕は玄関へ走り、ドアを開けた。


「あれれぇシンくん、居ないんじゃなかったんだぁ」


「シ、シエナさん…………」


「ノックの音聞こえてなかったわけじゃないよね?」


シエナさんは笑顔のままだが声にものすごい圧を感じ、逆に怖さが増していた。


「えっと、寝てたんだ…………」


「もう昼過ぎなのに?」


これは言い逃れ出来ないな…………。殺される前に正直に言うことにしよう。


「ごめん、わざと出なかった」


「そっか、素直で良いよ。でも───」


シエナがあからさまに怒った顔を見せた。


「どうして出なかったの?」


「そ、それは…………外が暑いから出たくないなと思って」


「まぁそんなところだとは思ったけど居留守は良くないよ」


「ごめんなさい…………」


シエナさん怒ったら怖いなぁ。恐怖で背筋が凍りそうだったよ。でもおかげでちょっと涼しくなったし、また怒らせるのもありかも…………。いや、次は殺されるかもだしやめとこ。


「それでシエナさんどうしたの?」


「ああ、そうだった。話があってきたんだ」


立ち話もあれだったので僕はシエナを部屋に招き入れた。


「思ったより部屋狭いね」


「部屋は劣等生の時から変わってないからね。でもこれくらいでちょうどいいかな。掃除とか楽だし」


言ってもものが増えることもないから掃除もしてないんだけど。


「それでシンくん話なんだけど───」


シエナは何かお願いでもしたいのか、姿勢をただしていた。


「鉱山村に一緒に行ってくれないかな?」


「鉱山村?どこそれ」


「鉱山村はね。この国で唯一魔石が取れる場所なんだ」


魔石については聞いた事がある。この国のエネルギー源の一つでもある。電気を生み出す事もできたり、どんな金属よりも高度な武器を作れたりとその用途は幅広い。それが取れる村というわけか。


「行くのは別にいいよ」


暇だし。


「来てくれるんだ!ありがとうシンくん!」


シエナは満面の笑みを浮かべて喜んだ。


「でもそこに行って何するの?」


「魔物退治だね。鉱山村には濃度の濃い魔力が漂ってるから森にいる動物たちに少なからず影響を与えるんだ。そのほとんどが巨大化と身体能力の向上なんだ」


「要するにそれで凶暴になった動物達が村に来るからそれを倒せってこと?」


「うん、そういう事だね」


でもそう言うのって騎士団とかが対策してるんじゃないかな?どうしてシエナさんがやることになったんだろ。


そんな疑問を頭に浮かべているとシエナは察したのか鉱山村に行くことになった経緯を話し出した。


「この前の二校戦で私はサナカさんに負けた。それもボロ負け。シンくんとサナカさんの試合とか狂犬との争いとかで私の実力不足を痛いほど感じたんだ。だから強くなりたい、と思って姉さんに頼んだんだ。姉さんは狂犬の調査で忙しくしてて私も何か手伝いたいって思ってたし。それで任されたのが鉱山村の魔物退治だったんだ」


シエナさんは決して弱い訳では無い。でも強くなりたいと思うなら応援しようじゃないか。それで僕という存在に改めて驚かされて欲しい。またあの最高のリアクションを僕に見せて欲しいから。


「それって一人じゃ難しいの?」


「魔物自体はそんなに強くないから大丈夫だよ。でも群れで攻めてきたりすると一人じゃ厳しいかな。強くなるために受けた任務だけど村の人を守れなかったら意味ないしね」


「そっか、でもなんで僕を誘ってくれたの?」


他にも連れて行ける人いると思うし、騎士団の仕事なら団員を借りるのも可能だろう。


するとシエナは少し頬赤く染めた。


「…………そ、それは───」


「それは?」


何か言いにくそうだ。


「なんとなくシンくんと行きたかったの。向こうでしばらく過ごすから気軽に話せる人が欲しくて……………」


「そうなんだ。それで出発はいつ?」


「明日の朝だよ」


夏休み暇になりそうだったし、悪くはないかな。魔物と戦うってのも新鮮味があって楽しそうだ。


あっ、でもあの二人どうしよ。さすがずっと音沙汰無しにするのも気が引けるんだよな。


「シエナさん、一つ相談があるんだけど良く僕の部屋に来る二人も誘っていい?何も言わずに行くのも気が引けるし、言ったら付いてくると思うからさ」


「それは良いけど二人って?」


「オルトとサナカさん」


特にサナカという名前にシエナは反応した。


「へ、へぇーサナカさん来るんだぁ。シンくん仲良いんだね」


何でまた怒ってるの?怖いよ〜。


「別に仲がいいとかじゃなくてサナカさんが勝手に来るんだ。理由は分からないんだけど」


「ふ〜ん。まぁ私は誘ってる身だから文句は言えないけどね…………」


呼んでいいってことなのかな?


「じゃあ二人も呼ばせてもらうよ…………」


多分今日も来るだろうし…………。



そうして次の日、いよいよ出発となった。


「お久しぶりですシエナさん」


「ほんとに来たんだ…………」


シエナはしょんぼりした顔をした。


「どうしてそんな顔するんですか?」


サナカは首を傾げる。


「魔物退治か!楽しそうなだな!」


「そうだな!」


やっぱオルトはわかってるなぁ。


「じゃあ行くよ」


鉱山村はここよりも遠くにある山の中だ。


ワクワクが止まらない!


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