第22話 ブラックホール
シンがエースの魔法を見破ったのは難しいことではない。一度地面に叩きつけられた時に感じた謎の重圧、それは自力で反発することが出来ない程に強い力だ。最強の騎士団の騎士団長得であるエナでさえ耐える事が出来なかった。
エースの拳に感じた違和感、それは空間が微妙に歪んでいたのだ。
重力がバグったかのように強くなれば起きるもの───ブラックホールだ。
ブラックホールは無条件で全てを吸収する。つまりはエースの拳には極小のブラックホールのようなものができていた、そう考えれば少し空間が歪んでいても違和感は無く、放った先の地面がえぐれても納得がいく。
だからこそエースの魔法は重力操作なのだ。
※
シンとエースは激しい攻防戦を繰り広げていた。
エースの指示によって狂犬の集団がこの場に押し寄せてき、エナ達、騎士団はそいつらの対応におわれていた。
シンはエースの拳を避け無くなっていた。空間で防げると分かったからだ。
なのでシンの攻撃数は増え、エースを押していた。
「空間を操る……………思ったよりも厄介ですね」
シンから距離を取ったエースは顔を引き攣らせていた。
空間で遮られてしまえば重力で押し潰すことも攻撃を防ぐことも出来ない。エースは自分の魔法を知られた時点でほとんど詰みだったのだ。
[転移]
シンはエースの目の前に現れる。
「逃げてばっかで面白くないよ」
そう言ってエースに拳を振るう。
「あなたが他の魔法も使えたとしたらどれだけ化け物だったか……………」
「それは褒めてくれてるの?」
「ええ、べた褒めですよ」
エースはシンとの会話を増やしていた。まるで時間を稼いでいるかのように。
エースは剣を軽く振るってはシンから距離をとる。
空に浮かんだり、地面を滑ったり。だがそんな事でシンから逃げ切るなんて出来ない。
「ガウス先生の方が勢いあって楽しかったんだけどなぁ」
「すみませんね。私はあの人みたく脳筋では無いので……………」
エースがシンに剣を振るう。
[空間断裂]
さすがにめんどくさくなったシンはその剣をへし折った。
「なっ!?」
その後エースの腹に向かって剣を振るう。
「ぐっ───」
エースは素早く後ろに飛んだが皮一枚切られ、血を流した。
[転移]
シンはエースに近づく。だがそれを予測したエースは空に浮かんだ。
「やっと準備が整いました。シン・クロイセル、屈辱ですが私は君より弱い…………だがこの魔法は避けられませんよ。誰も重力には逆らえない、それを証明してあげましょう」
「そっか!」
シンは何が起きるのかワクワクしていた。
「これが私の奥義です![ブラックホール]」
(き、きたーー!!)
シンはなんとなくそうだろうと予想していた。だが喜んでいる場合では無い。
なぜから空に黒い塊のような何かが出現し、ものすごい勢いで空気を吸い込み出したのだから。
「な、何だ…………」
狂犬の軍勢と戦っていたエナ達はその風圧に驚き、戦っている場合ではなくなっていた。
その吸い込む威力はさらに増してき、ついには人までもが引き寄せられていた。ブラックホールの近くにいた人達は敵味方関係なく、黒い球体に吸い込まれていった。
シンは空間で自分を引っ張ってはいるがやはり吸い込む力は強く、体が浮きそうになっていた。
(掃除機に吸われるゴミってこんな気持ちなのかな…………)
シンはわざと吸い込まれる感覚を味わっていたのだ。
「シエナさんあれはなんでしょうか……………?」
そんな時、サナカとシエナが草原の近くまで来ていた。
人の特徴がかろうじてわかるほどの距離に関わらず、相当強い風が吹いていた。
「抵抗しても無駄ですよ。ブラックホールはまだまだ大きくなりますから」
エースは勝ち誇ったかのような顔をし、笑みを浮かべていた。
(さて、そろそろ真面目にやろ。みんな吸い込まれちゃうし)
シンは遊びながらもある事を準備していた。
(ブラックホールにはブラックホールで対抗だよね)
「勝ち誇っるとこ悪いんだけど…………君じゃ僕には勝てないよ」
「[
シンがそう言うと一定範囲の空間が伸び、曲がり、歪んで渦を巻き始めていた。
「何ですか…………これは?」
「だから[ブラックホール]って言ったじゃん」
本当はブラックホールとは別物、吸い込む力なんて物はなく、ただ空間を中心に集めてそれっぽくしているだけだ。
だがシンのさじ加減で簡単に広げさせることの出来るそれはブラックホールとほとんど変わらないのだ。
エースはそれから距離を置こうと移動し始める。
「逃がさないよ」
シンは一気に範囲を広げ空間の渦はエースを近づけていく。
「くっ───」
「なぜですか?なぜ君は私のブラックホールに吸い込まれないのですか?」
エースは顔をものすごい勢いで引き攣りだしていた。
空間の渦に飲まれているエースはどう足掻いても逃げれない状態なので仕方ない。おまけにシンはブラックホールの影響を一切受けず、その場に立っているのだから。
「全員、死ぬ気で耐えてください。もう少しで彼がやってくれます……………。私では……………歯がたちませんから」
エナは地面に剣を突き刺し、それに捕まってなんとか吸い込む力から耐えていた。悔しいくはあるが自分の力ではどうにもならない現状彼女は逆らうことはできなかった。
徐々にエースがシンの空間の渦の中心まで引き寄せられていた。
「ははっ、こ、ここまでですか……………」
エースは諦めたのか笑いだした。
[空間断裂]
空間の渦の中心で動けずにいるエースに避けるすべはなく真っ二つになり、息絶えた。
術者が居なくなったことでブラックホールは消え、耐えていた騎士団や他の狂犬の軍勢達は動けるようになった。
そこからは早かった。遠くで見ていたシエナとサナカも合流し、狂犬の軍勢はみるみるうちにその数を減らし、僕らは勝利した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます