第21話 エースの魔法

サナカは会場の真ん中に出ており、固まっている黒フードの集団と対峙していた。


「やはり弱い者は群れやすいのですね」


そう言ってフフっと笑うサナカ。彼女も苛立っており、少々口が悪くなってしまっている。


「一人で来るとは馬鹿なんだな王女さんよ」


真ん中にいる少し服が派手な体格の良い大男がそう言った。おそらくここのリーダー的な存在なのだろう。


敵は20人以上、影に潜っている者がいるとしたらもっとだ。


「馬鹿ですか…………。それは自分達のことを言っている、であっていますよね?」


それを聞いた黒フードの集団はムカついたのか、一気に襲いかかった。


四方八方、敵に囲まれているサナカだが眉一つ動かしていない。


「[氷魔法]」


全方向に氷の塊を飛ばす。二校戦とは違い、殺しても構わないのでその全ての塊が鋭くとがっていた。


氷の塊に腹を貫かれたりとほとんどの黒フードは近づくことすら出来ていない。


だが徐々に敵は影に潜り出し、ゼロ距離でサナカの前に現れ始めた。


だが近距離戦もいけるサナカは氷の双剣で返り討ちにしていた。


「案外やるじゃねぇか」


大男が剣を振るう。周りにいる雑魚達よりも明らかに強い。


「さすがに面倒ですね…………」


カン、カン、カン。


サナカと大男は剣を打ち合う。大男との実力の差は明確だが雑魚の相手もしなければならないサナカは大男に反撃ができずにいた。


サナカは一度距離を置くため氷の塊を足場に出現させた。


大男は後ろに飛びそれを避ける。


サナカは魔力を込め始める。


大男は剣を振りまわし、氷の塊を吹き飛ばし、中に入り込む。


「じゃあな!」


大男は勝ちを確信し笑みを浮かべ、サナカを睨む。


「何をおっしゃっているんですか?」


サナカは冷めた瞳を大男に向けた。


「[絶対零度]」


サナカがそう言った瞬間会場の中央が一瞬にして凍りついた。


大男も雑魚達も全員が凍りつき、動かなくなった。


「初めからこうすべきできたね」


こうして会場にいた狂犬の集団は片付いた。


『シエナさんこちらは片付きました』


『こっちも終わったわ』


『それじゃあ行きましょうか』


もちろん行き先はシンがいる場所だ。転移魔法が使えない今、足で向かうしかないので早めに敵を片付けたかったのだ。



カン、カン、カン。


シンとエースは剣を打ち合う。


「やりますね。身体強化も使えないのに」


エースはまだ手の内を明かしていない。シンは少し警戒しつつも剣で対応していた。


いつ手の内を見せるのか戦いの中でお互いを窺っていた。


そんな時だ───。


シンがエースに向かって剣を振るった。


ドシッ。


シンは見えない力で地面に叩きつけられた。


そんなシンに向かってエースは剣を振り下ろす。


カンッ───。


だがシンは空間でそれを止めた。


「ほぉー、これが見えない壁ですか」


「君のは別の力みたいだね」


シンは地面から立ち上がる。


「私の魔法を打ち消しますか」


エースが少し驚いた顔をする。


[空間断裂]


シンはエースの首を狙った。だがそれは当たらず避けられる。


(やっぱ当たんないか…………。魔法の系統が似てるから見えるのかな?)


またしてもシンとエースは剣を打ち合う。その合間にシンは[空間断裂]を打つ、だがその全てをエースは簡単に避けていく。


するとエースが拳を固めシンに飛ばす。


シンは空間でガードしようとしたがその拳に違和感を覚え、避けることにした。


(なんか今空間が歪んでいたような)


お互いにどの攻撃が自分の魔法で防げるのかわからず、避け合っている。


「ガウスを倒しただけはありますね」


「ガウスを苦戦させただけはあるね」


シンが[空間断裂]を飛ばす、それをエースは避け、拳を振るう。


シンはそれを避けたがエースの振るった拳の一直線状に見えない光線が放たれたかのように地面を剥がしていった。


「わおっ!」


お互いに大きく攻め合わないので決着がつく気配がない。


そこへ「エース!」と声を上げ、エナが間合いをつめて来ていた。それに続くようにして大量の騎士団がエースに向かって押し寄せて来ていた。


「面倒ですね…………」


エースは少し顔を引き攣った。


エナはエースへ炎や稲妻を飛ばしながら近づく。だがそれが当たることはない。


エースが間合いに入ったエナは剣を振る。だが当たる前に地面に叩きつけられ、蹴り飛ばされる。


「ぐはっ───」


エナは軽く10mは吹き飛び地面を転がる。


その後エースは騎士団の大群に向かって見えない何かを飛ばし、一掃する。だが無力化できたわけではなく、次々と立ち上がってくる。


それを見てエースはイライラしだしていた。


『増援をお願いします』


エースは指示を出す。


「───僕のこと忘れてない?」


エースの背後で拳を握るシン。


「っ!?」


エースは不意を突かれ、カードが間に合わないことを悟った。なので地面が沈むほどの見えない力をシンに向かって使った。


「なにっ!?」


だがシンはその影響を全く受けていなかった。


シンは硬く握った拳を空間で加速させエースにぶつける。


「がはっ!」


エースは拳をもろにくらい吹き飛ぶ。


立ち上がったエースは何故か笑みを浮かべていた。


「痛いですね………。ですがお陰で君の魔法がわかりました。私の魔法の影響をうけず、見えない壁を作り出す。[空間魔法]ですね?」


それを聞いたシンは驚いた顔を見せた。


相手の魔法を見破ったことで全ての攻撃がどういったものかを理解できる。そうなれば避けなければならない攻撃と避けなくて良い攻撃がわかってくるのでさっきまでより攻めやすくなるのだ。


だがシンに焦った様子はなく、逆に笑みを浮かべていた。


「それは僕も同じだよ。エナ団長でも抵抗できないあの力。あんたの魔法は[重力操作]だろ?」


それを聞いたエースは驚いた顔をした。どうやら合っていたらしい。


こうしてお互いがお互いの魔法を理解した。ここからが本当の戦いと言っても過言ではない。

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