第18話 決勝戦
決勝まではまだ少し時間がある。サナカ達の怪我を治す必要があるからだ。
シエナはものすごく暗い顔をして帰ってきた。
「私、負けちゃった……………」
瞳には今にも零れそうな涙を浮かべていた。それだけ悔しかったんだろう。
「シエナさん、大丈夫だよ。優勝はとってくるからさ」
「う、うん頑張ってねシンくん……………」
「でもやっぱ勝ちたかったな」
悔しさという感情は悪い事ではない、次は勝ちたいと思うから成長しやすいのだ。
「シン、そろそろ行くぞ」
オルトがシンにそう言った。
「おっけー」
「じゃあシエナさん行ってくるよ」
シンは席から立ち上がった。
「うん、頑張ってね……………」
※
そうして決勝が始まった。
「オルトとルイは二人で固まってて」
まずはユーリを警戒しなければならないのはシン達も同じだ。どのタイミングでしかけてくるか分からないからだ。
シンはオルト達が入る程の空間内への干渉がないかを確認していた。
「進むよ」
「おう」
シンは周りを警戒しながらも足を進める。
そんな時だった───。
「オルト、右!」
オルトはシン言われるがまま右側に拳を振るった。
ドン
確かに手応えはあった。だがまだやれていない。
「ぐはっ!」
オルトの背中に回ったユーリが蹴りを入れた。
シンが援護に入ろうと近寄るが氷の塊が大量に飛んでき、足を止めさせられた。
「やはり当たりませんね」
サナカがゆっくりとシン達に近づいてきていた。
「ルイ、オルトのサポートをしてくれ」
「でも僕……………」
「ルイ、感覚共有は使える?」
[感覚共有]
対象の感じる感覚の一部を共有し、術者にもその感覚が移る魔法だ。
「えっ、うん。使えるよ」
「なら、僕との感覚を共有してくれ」
そうすれば空間の干渉をルイも把握する事が出来るかもしれない、そんな考えだ。
ルイはここまでの試合でほとんど活躍する間もなく、シンとオルトが終わらせてしまっていた。同じクラスで劣等生とされていた二人との差を感じてしまい、ルイは自信を無くしていた。
「わかった、やってみるよ……………」
詠唱をしなければ魔法を使えない。一発魔法を打つのにそこそこ時間がかかり、上手く詠唱しないと魔法が発動しなかったりもする。でもどの魔法にも染まらず、詠唱さえ出来れば無限大の可能性があるのも事実だ。
そうしてルイは詠唱をしだした。
オルトはその間、身体強化で体をかためユーリからの攻撃を耐えていた。
「[感覚共有]」
そうしてルイはシンと感覚を共有し始めた。
ルイはシンの感覚に集中する。
「み、見えた……………!」
「オルトくん後ろだ!」
ルイがそう叫び、オルトは先ほどより固く拳を握り、後ろに拳を飛ばす。
「ぐはっ───」
何も無いように見える空間からそんな声が聞こえた。
するとだんだんユーリの姿が浮かびだし、その場に倒れ込んでいた。
「ルイ、やるじゃねぇか!」
「ルイ、ナイス」
スッキリしたのかオルトは笑みを浮かべ、ルイにグットポーズをした。
シンはサナカの攻撃を防ぎながらルイに微笑んだ。
二人の役に立てたルイは嬉しくなり、幸せそうに微笑んだ。
※
ユーリをやられてしまい、サナカは少し不機嫌な顔をした。
さらに大量に氷の塊をシンたちに飛ばし出した。
サナカのそばにいたもう一人の男がいつも間にか姿を消していた。
これはチャンスだと、シンは思った。
シンの側まで近づいた氷の塊は一瞬にして消えた。
サナカは目を丸くさせ驚いていた。
「何をしたのですか?」
シンは不敵な笑みを浮かべた後、後ろに振り向いた。
サナカの味方であるもう一人がシン達の裏に回っていることに気がついていたのだ。
横の大きな岩から飛び出してきたもう一人の男に向かってシンは攻撃をする。
「[発散]」
すると空間からサナカが先程打った氷の塊がその男に向かって飛んで行ったのだ───。
そんな事を予測しているはずもなく、男は大量の氷の塊をモロにくらい、その場に倒れた。
シンが今したのは空間内に相手の魔法をとじこめ、その魔法を発散したのだ。
これで相手はサナカ一人となった。
「あなたの魔法の仕組みは全く分かりませんね」
でしたら、と続けサナカはもう一つの手、[絶対零度]を使った。
一瞬にして地面が氷だし、シン達に近づいていく。
空間まで凍るのか、とシン少し驚いた様子だった。
だがこれでサナカの使うこの技のがどのようなものかを理解した。ただ極限まで冷えた氷を周りに張ってるだけの事、空間内には氷ができないのが証拠だ。
サナカは攻撃の手を止めない、さらに畳み掛けるようにして氷の柱を飛ばしていた。
シンは氷をどかすため空間を波打たせ、衝撃波を起こす。
バキッ!
そんな音を立て氷はどんどんヒビが入り出す。
サナカはそれを治すために新たに氷を出す。
「これじゃあ割れないか、なら最も強くすればいいだけだ」
シンは足を上げ、一気に地面に降ろす。
その行為に全くと言っていいほど意味は無い、ただやりたかっただけだ。
降ろし終えたと同時に特大の衝撃波を起こした。
バキバキッ
氷にヒビが一気に入り、宙を舞う。
衝撃波は音よりも速く、サナカに近づいていた。
サナカは驚く間もなく、吹き飛ばされた。
「キャッ───」
地面を転がり、気にぶつかる。
シンがゆっくりとサナカの方に歩み寄る。
「本当に化け物ですね」
「サナカさんも十分強かったよ」
「そう言っていただけて私は嬉しく思います」
「……………降参です」
サナカがそう言い、この試合は終わった。
『勝利、アルカディア学園』
この試合を見てた全生徒が顔をポカンとさせていた。劣等生と言われていた奴が王女に勝ったのだから当然だ。
勝ったはずのアルカディア学園も歓声など上げず、ただ呆然と映像を見ていた。
「シンくんがやりましたよ!」
「う、うんそうだね」
ただシンのクラスだけは小さく喜びを声を上げていた。
「さすがねシンくん」
サナカも嬉しそうに笑い、拍手をしていた。
※
「シンくんが勝ちましたか」
特別席で眺めていたエナも驚きを隠せない状態だった。
「ええ、やっとこの時が来ました」
ただマルクだけは不気味な笑みを浮かべていた。
『今です』
マルクは特別席にいる人とは違う、別の者にそう言った。
「シン、避けろ!!」
マルクの指示の後、オルトが焦った様子でシン達にそう叫ぶ。
その声を聞いた時にはシンとサナカの目の前まである物が迫っていた。
バァァァァン!
けたたましい音を立て大爆発が起きた。
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