第14話 二校戦①

 二校戦、当日。


 僕たちは大きなスタジアム的なところに来ていた。二つの学園が集まるのでそれくらいは必要なんだろう。


「あの子か?ミカエルの王女って」


 オルトが指さす先には、一際目立つ癖のない銀色の髪を肩ほどまで伸ばし、鋭い目つきをした少女がいた。


「多分そうじゃない?」


 どこの国も王女は美人になるって決まってるのかな?


 シエナさんと違って王女っぽい雰囲気があるな。姿勢の良さといい仕草といい、完璧だ。


 シエナさんも絡みやすい王女って感じで良いんだけど。


「シンくん、準備はできてる?」


 そこにシエナが来た。


「うん、出来てるよ」


「そっか」


 二校戦は三対三のトーナメントで行われる。もちろん同じ学園同士で戦う事だって有り得る。勝ちが多かった、優勝した学園を決めるのがこの二校戦というものだ。


 スタジアムは観客用、バトルが行われるのは別のところらしい。なんせ実戦形式で行われるのと三対三なのでスタジアムくらいの広さじゃ全然足りないのだ。なので投影魔法による配信的な感じで観戦するらしい。魔法というのは実に便利だ。


「向こうの王女、サナカ・ミカエルって言うらしいよ」


「そうなんだ…………。綺麗な人だね」


「そ、そうね」


 シエナはあからさまに嫌な顔をしていた。というか僕を見て怒っているようだった。


「向こうの王女は私が倒すからね」


「うん、頑張れー」


 トーナメント的にもシエナとサナカが戦うのは避けられないだろうし。


「シンくん、き、緊張してきたね…………」


 緊張なのか変な汗をかいているルイがいた。


「えっ、まぁそうだね」


 正直緊張なんてしていない。というかしたことが無い。こういうのは自分が楽しければいいと思うのが大切だ。そうすれば緊張なんてしないさ。


 オルトもそんな感じだろう。全く緊張している様子がない。


『まもなく二校戦が始まります。一回戦の準備をお願いします』


 観戦をしやすくするため、戦いは一試合づつ行われる。僕達は二試合目だ、そろそろ行ってもいい頃だろう。


「二人とも行こっか」


「そ、そうだね……………」


「やっとか。待ちくたびれたぜ」


 やる気満々なオルトと足をびくつかせるルイ、問題ないだろう。


「頑張ってね」


 シエナがニヤついてそう言った。


「ああ、精一杯やるさ」


 そうして係の人がいる場所に向かうと転送魔法が用意されていた。


 転送先は大きな草原だ。遮蔽物が少しあるような場所。ここなら存分に戦えるだろう。


 ※


 一試合目が始まっている中、エナ達、一部のお偉いさんが観戦する特別席に一人の男がやってきた。


 特別席はガラス張りの室内にあり、両学園の学園長など、他数人が居る。全員がお互いの顔を知っており、毎年同じ人達が来ているのでその男が来る事は無いはずなのだ。


「誰ですか?ここは特別席です」


 エナが疑わしい顔をし、そう言う。


 一試合目はアルカディア学園が勝ち、シン


「わかっておりますとも、私はガウス学園長より、特別席の立ち入り許可書を貰っておりますマルク・ハーネストと申します。入ってもよろしいですよね?」


 細く鋭い瞳を持つ男はニヤつき、その許可書を出す。


「ガウス先生は学園長を辞められました。その許可書は無効となります。お引き取りください」


 エナはそう言ったが真っ赤な嘘である。許可書はガウスが学園長をしていた時に渡された物であるので今はもう辞めたからといって無効にはならない。


 マルクはそれを知っていた。


「じゃあ言い方を変えましょう、学園長より招待されました。入ってもよろしいですよね?」


 エナの独断で追い出してしまうのは後々問題になるのは確実である、どれだけ怪しくともマルクが引かないのであればどうしようもない、現に許可書を持っているのだから。


「……………わかりました。良いでしょう」


 エナは苦虫を噛み潰したような顔をし、マルクを睨みつけた。


 マルクは不気味な笑みを浮かべていた。


 ※


 一試合目はアルカディア学園が勝利し、二試合目、シン達の番となった。


 一回戦目の相手はミカエル学園の生徒達、お互いが向き合ってはいるがまだ見えない距離で試合は開始する。直線を移動すれば必ずぶつかるといった感じだ。


 二校戦の勝利条件はどちらかのチームが全員戦闘不能となる事だ。原則として相手が死んでしまう程の魔法は禁じされている。


『試合開始───』


 その合図と共にシン達は前へと進む。


 その瞬間だった───。


「死ねやーー!」


 敵の一人がものすごいスピードでシン達に襲いかかってきた。


「僕が止めるよ、二人は周りの警戒をして」


 シンが前に出る。


 前から向かってくる男は長い爪を生やし、まるで獣のような見た目をしていた。


[空間操作]


 鋭い爪の斬撃をシンはガードする。


(獣人化魔法かな)


 獣人化魔法とは自分の姿を獣と同じにすることで獣の力を使えるようになるといったもの。運動能力が桁違いに上がるので身体強化の上位互換と言われている。


 そうしている内に左右からシン達を挟むように二人が迫ってくる。


 右は剣を持ち、左は遠距離魔法を使ってきていた。


「お前、何で攻撃が当たらねぇんだよ」


「君たちが弱いからじゃないの?」


 獣男とシンは睨み合う。


「おらっ!」


 オルトと剣使いはお互いに攻撃を避け合っていた。


 剣使いは凄まじい速さで剣を振るう。


 オルトはそれを避け一気に間合いを詰め、拳を振るう。


「ぐっ───」


 剣使いはギリギリでガードをしたがそこそこのダメージをくらい、動きが止まる。


「隙だらけだぜ───」


 それを見逃さずオルトは固い拳、打ち込んだ。


「ぐはっ……………」


 剣使いは倒れ、意識を失った。


『シン、一人倒したぜ』


『早いね』


 戦闘中は同調魔法により、遠くでもチーム内で会話ができるようになっている。


『ぐあっ───』


 ルイからそんな声が聞こえた。


『オルト、ルイのサポートに行ってくれ』


 シンは獣男の攻撃を交わしながら指示を出す。


『おっけー』


 オルトはすぐさま駆けつけ、不意打ちでもう一人の男に蹴りを入れ倒した。


「ごめん、オルト」


 ルイは沈んだ顔をした。


「詠唱に意識が行き過ぎて攻撃良けれなかったんだ」


「なら次は作戦を変えるか。シンももう時期終わるからよ」


 オルトはルイの肩を叩き優しく微笑む。落ち込んだルイを元気づけるためだ。


 オルトの言った通り、シンと獣男との戦いは終わりを迎えようとしていた。


「ガードばっかしやがってうぜぇぞ」


「そのガードを破れてないだから、自分のせいでしょ」


 獣男は怒りで冷静さを失い、考え無しに爪を振るう。


 そんな事をしていれば当然隙ができる。そこにシンは空間で加速させた拳を入れた。


「ぐはっ───」


 獣男はガードが間に合わず、その攻撃をもろにくらい、地面を転げる。


「まだだ!」


 獣男は立ち上がったがシンは空間を押し、追撃を食らわせた。


 そうして獣男は動かなくなった。


『勝利、アルカディア学園』


 まさかの展開にアルカディア学園の観客は驚きの声を上げていた。


「さすがシンくん、やるじゃない」


 シエナは試合に備え移動しながらそれを見ていた。


(あれがガウスを殺した少年ですか。どう言った魔法を使っているのでしょう)


 特別席でそれを眺めていたマルクは不敵な笑みを浮かべていた。

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