第二章
第13話 少し変わった学園生活
あれから数日たち学園は元の状態に戻っていた。新たな学園長は前まで副学園長だった人がする事になった。小太りのおっさんなので授業を見ることもないだろう。
劣等生に分類されていた生徒たちの扱いは普通生徒と変わらないものになった。授業の質も向上し、生徒間での学校の不満話を聞くことは少なくなった。
だが今まで格下の扱いを受けていた相手が急に同じ土俵に立ったのが気に入らないのか元から普通生徒だった人たちとのトラブルは多くなっていた。
わざと肩をぶつけてきたり、睨みつけてきたり、と幼稚なものもあれば、喧嘩をふっかけて袋叩きにするキツいものまである。
僕は前からシエナさんのクラスと授業をしていたこともあり、良くターゲットにされている。
非常にありがたいことだ。
「お前、シエナ王女に媚び売ったんだろ」
「俺たちと同じところに立つとか早いんだよ欠陥品風情が」
こんな感じで敵モブがわんさか湧いてくる。
「媚なんか売ってないよ。学園長が変わったから無くなっただけでしょ」
「そんなわけねぇだろ」
「お前が王女様に泣きついたんじゃないのか?」
そう言ってケタケタ笑う三人。
泣きついて変わるなら元から無かったでしょ。
「めんどくさいなぁ…………。二校戦の準備しないといけないのに…………」
僕は小声でそう言った。
喧嘩をふっかけてこないとやれないからね。
「今、めんどくさいって言ったか?」
やはりこういう奴らは無駄に耳がいい。
「い、言ってないよ…………」
僕はわざとらしく噛んで言ってみた。こうすれば大体一人は殴ってくる。
「あんま調子乗ってんじゃねぇぞ」
僕に固い拳が襲ってきた。
ほら、きた───。
僕は肌との距離わずか0.1㎜のところに空間の膜を貼った。
側から見たら拳が全く効いていないように見えるので面白い。
「あれ?こんなもんなんだ。弱いね君」
「なんだと……………?」
「君たちからやってきたんだ。やり返しても文句ないよね」
三人の、特に殴ってきた男の表情が引き攣っていた。
「あ、あたりめぇだよ……………」
「おい、何言ってんだ…………」
強がる者とビビる者が毎回出てくる。
すると真ん中にいた男が訓練用の剣を振るってきた。
[空間変形]
僕は空間を歪めてその男の剣を直角に曲げた。
「はっ!?」
すかさず僕は男の腕を掴む。
「その剣と同じになってみる?」
そう言うと男の顔は青ざめた。
「わ、悪かった、も、もうしねぇから離してくれ…………」
「そっか…………」
もうしてくれないのか。
そんな感じで敵モブは走って逃げていく。
最近そのことが広まってきたのか、少し減っているので寂しいかぎりだ。
二校戦までは後一週間ほどしかなく、オルトは出てくれることになったのだがもう一人をどうするか迷っている。
クロエが「出てあげますよ」と言ってはくれたが魔力量を調節できないのはチーム戦には不向きだと思い断った。
教室に入るとオルトが誰かと話をしていた。
「オルト、もう一人どうする?」
「そのことなんだがこいつが出てくれることになったんだ」
そこには藍色の髪と穏やかな瞳をした男がいた。
「確か…………ルイ・ホルステンくんだっけ?」
「そうだよ」
「ルイはよ、詠唱で魔法使うタイプなんだぜ」
普通、魔法は体に刻まれた術式によって固有のものを使う。だが稀にそれを持たない人が存在する。
そういった人たちは詠唱することで魔法を使う。発動に時間がかかるが多くの魔法を使えると言う強みもある。
「詠唱があんまり上手くないから威力が低いかもだけど大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。ルイにはサポートを頼みたいから、すごくチームにピッタリだ」
「そっか、ありがとう」
「じゃあよろしく」
「うん、よろしく」
良い人そうだし、大丈夫だろう。
こうして二校戦のメンバーは決まった。
※
ミカエル魔法士学園。
「アルカディア学園の方は誰が強いのかしら?」
銀色の髪を肩ほどまで伸ばし、鋭い瞳を持つ少女がそう言う。
「シエナ・アルカディアが魔法大会で優勝しています」
「さすが王女ですね」
「それとサナカ王女、向こうの学園で起きた事件をご存知ですか?」
サナカ・ミカエル、彼女がミカエル王国の王女だ。
「知っていますよ。ガウス・オルフェイスが起こした事件のことでしょ」
「はい、それなのですがガウスを倒したものはシエナ・アルカディアやエナ・アルカディアではないと言うのです」
「何と、そうなのですか…………」
楽しみですね、と続けサナカは不敵な笑みを浮かべた。
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