第11話 嘘

「では行くぞ!」


 ガウスが凄まじい踏み込みで僕との間合いを詰めてくる。


 支配の剣は切れないだけで逸らせない訳じゃない。


[空間断裂]


 僕は剣を弾き、隙だらけのお腹に向かって空間を押し込む。


 ガウスは吹き飛んだがほとんどダメージがないように見えた。


「…………なかなかやるでは無いか」


 ガウスの腹から折れた剣が落ちてきた。ただの真剣、さっきまでそんな物持っていなかった。


「面白いマジックですね」


「だろ───」


 ガウスは更に早く踏み込んできた。


[空間断裂]


 だがガウスはそれを躱す。


「先生の使う魔法、何となくわかりましたよ」


「ほぉー、なら聞こうではないか」


「複製魔法、ですよね?」


[複製魔法]


 一度見た物や構造を理解した物を作ることが出来る魔法。


「君は良い目をしているな」


「ありがとうございます」


[空間断裂]


 ガウスは後ろに引きそれを避ける。


 さすがにもう当たってくれないかな。腐っても元剣豪だ。


「支配の剣の効果を君は知っているか?」


 ガウスが突然そんな事を言い出した。


「相手を操るんですよね」


「ああ、簡単に言えばそうだ。この剣で切った者を一定時間操ることが出来る。だが永遠では無い、続いても一日程度、人数が増えればそれだけ効果は薄れる」


 普通なら、あの大軍を作ることは不可能って事か。


「つまりはそれを複製したと?」


「その通りだ。だがやはりアーティファクト、簡単には増やせなかった。何度も試してやっと効果が残った状態で増やすことに成功した。でも魔法妨害によって複製は不完全だった。不壊でなく、支配の効果を付与できても支配主は出来なかった」


 主が存在しない支配の効果、つまりは普通の剣だったわけだ。


「だがそれはそれでよかった。刺していれば支配の効果を付与し続けられる。しかも一つの剣だけで大群を操ることが出来るのだからな」


「そうですか、でもあんな奴らじゃ誰も倒せない…………」


 僕は剣を抜いた。


「シン、君の剣術じゃ、わしには勝てんぞ」


「やってみないと分からないでしょ」


 僕はガウスに剣を向ける。


 そうして同じタイミングで踏み込んだ。


 カンッ───。


 剣のぶつかる音が響き渡る。


「───っ!?君は身体強化を使えないはずだ、なぜわしの剣を受け止められる!」


 ガウスが少し驚いた顔をした。


 ほんとひやひやしたよ、空間で全身を支える荒業、ちゃんと支えれていなければ全身の骨が折れてあの世行きだ。


「僕もマジックは得意ですから」


 ガウスと僕は剣を撃ち合う。


 凄まじいスピードの剣がぶつかるので火花が散った。


 僕の剣技ではガウスの剣を完全にカバーすることは出来ず[空間変形]も使う事にした。


 そろそろ新たな技を使うか。


 僕は一旦ガウスから距離を置き、剣を構える。


 ガウスは勢いそのまま突っ込んできた。


 今だ───。


 僕は剣を振るう。さきほどまでの剣速より何倍も速く、何倍も重たい剣だ。


「なっ!?」


 ガウスは体制を崩した。


 僕は空間を押し、吹き飛ばす。


 壁に勢い良くぶつかりガウスはうっ、と声を上げた。


 思ったより上手くいったな。


 剣を振るう瞬間、空間で剣と自分の体を押し速度と威力を上げる技。


 名ずけて『空間加速の一閃マッハブレード


 この技もちゃんと体を支えていなければあの世行きの大技だがやはり強さを見せつけるためなら出し惜しみはしていられない。


「まさかこんな隠し球を持っていたとは。おもしろいではないか」


 ガウスは笑みを浮かべた。


 やっぱまだ余裕みたいだ。


「あんた家族が死んだのを団員のせいにしてるみたいだけど、聞いてたこっちからしたらただの言い訳にしか思えなかったよ」


「なんだと───」


 ガウスはあからさまに不機嫌な顔をする。


「じゃあ何で家族をあんたで助けなかった?」


「…………二人が見えた時にはもう襲われる直前だった。わしでは間に合わなかったんだ」


「嘘だな」


「あんたのスピードならその状況でも十分間に合ったはずだ。ほんとは苦戦してたんじゃないのか?その時戦っていた相手に。だから自分から向かえなかった。それで家族が死んだのを団員せいにして逃げたんだろ?」


 するとガウスは怒号を上げ襲いかかってきた。


「図星か?動きが単純だ」


 僕は不敵な笑みを浮かべる。


「黙れ!」


 僕は剣を逸らし、思いっきりガウスの顔面を殴った。


「そんな拳、わしには効かん!」


「知ってるよ」


[空間操作]


 拳をさらに加速させる。


「グハッ───」


 ガウスは倒れそうになりながらもなんとか耐えていた。


「そろそろ言ってください、ほんとの事を───」


「君に何がわかるというのだ?」


「さぁ、正直言うとあんたの動機なんてどうだっていいですよ」


 聞いてないとシエナ達がうるさそうだしね。


 するとガウスはため息をつき口を開いた。


「…………屈辱だった。剣豪と呼ばれていながらあの時わしは君とあまり年の変わらない子に苦戦していた。王都の破壊を企んでいた組織、あの日戦っていたのは狂犬だ」


 ガウスは話を続けた。


「わしが苦戦した相手は君と同じように見えない攻撃をしてきた。こちらの戦力が狂犬の集団を上回ったことで引いていったがあのまま戦っていれば確実にわしが負けていた。そのせいで妻と娘は目の前で殺されたんだ。団員が魔力切れを起こしたのはほんとだ。わしはそいつのせいにする事で何とか平静を保てていた。いつの間にか本当に団員のせいだと思い始めていたが…………」


 僕には分からない事だ。そんなにプライドって大事なんだろうか?結局はこうして自分を苦しめる。素直に弱さを認められる方が強くなる思うのだ。


「そうですか…………」


「それでは続きだ。シン、君をあの日のリベンジにさせてもらうぞ」


「それはありがたい」


 僕は剣を構えなおす。


「支配の剣の真の力は操るものでは無いのだよ」


 ガウスは剣を掲げ口を開く。


『わしの元に集まり、力となれ』


 ガウスがそう言って、直ぐに足音がこちらに近づいてきた。


「君は強い。だからここからは本気で行かせてもらうぞ」


 やっと僕を認めてくれたんですねガウス学園長。

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