第10話 学園長の企み

学長室ではエナがガウスを見張っていた。ガウスには何の動きもなく席に座り、仕事をしていた。


そんな中、学長室のドアが勢い良く開いた。


「エナ騎士団長!」


別の騎士団の団員が焦った様子で入ってきた。


「どうしたのですか?」


「狂犬の集団が学園内に押し寄せてきています」


「───っ!?」


エナはそれ聞いてガウスを睨みつけた。


「ガウス先生、一体何をしたのですか?」


「何のことだ?」


ガウスはいつもの穏やかな顔でそう言う。


ガウスが狂犬に依頼したことはわかっている、だが見張っいる限りでは何の動きも見せていなかった。


「直ぐに応援を───」


エナはそう指示を出す。


だがそこにいた団員は動かなず、何か言いにくそうな顔をしていた。


「どうしました?」


「……………応援を呼んでも意味がありません。学園全体が魔法壁で覆われており、入る事も出る事も出来ません」


[魔法壁]


魔力で作った透明な壁の事だ。


「壊すことは出来ないのですか?」


「はい、何度も試しましたが…………」


「壊せない魔法壁…………アーティファクトの類ですね」


するとエナはまたしてもガウスを睨みつける。


「ガウス先生、確か学園を守るためにそのようなアーティファクトを持ち込んでいましたよね?今はどこに?」


「ああ、そうだったな……………」


ガウスはアーティファクトの場所までは言わなかった。


「何が目的なんですか?」


「そんな事より良いのか?このままだと生徒達が危ないぞ。特に劣等生がな───」


不敵な笑みを浮かべるガウス。


話す気がないことが分かり、エナは舌打ちをした後口を開いた。


「とにかく騎士団を待機させておいてください。私は軍勢の処理に向かいます」


そうしてエナは学長室を飛び出した。



シエナにここを任せる、と言った僕だったが廊下の奥に[転移]した時、思った以上にたくさんのゾンビが押し寄せてきていたので倒しながら進むことにした。


ここはもう大丈夫かな?


そういえば学長室ってどこにあるんだっけ?


僕はゾンビを倒しながら学長室を探していた。


だめだ…………学園が広すぎて見つからない。


そんな時、正面からユウキが走ってきた。


「おい、お前。シエナ王女はどこにいる?」


ユウキはシエナを探しているようだった。


「僕のクラスにいると思うよ」


「そうか」


そう言い去ろうとしたユウキを僕は止めた。


「ねぇユウキくん、学長室ってどこにあるか分かる?」


「学長室?普通生徒の校舎の一番上の階だ」


「そっか、ありがと」


「待て、学長室に何の用がある?」


ユウキが僕を疑っているような顔で見つめてきた。


「こんな事になってるんだ。学園長にも報告した方がいいと思っただけだよ」


確か、ユウキくんはエナ団長が来てるの知らなかったよね。


「そうか…………」


ユウキはそう言ってシエナの方へ向かった。


どんだけシエナさん好きなんだ。


[転移]


僕はユウキに言われた校舎の一番上の階に移動した。


廊下を進み端にある一室、そこに学長室と書かれているのが見えた。


意外と目立たないところにあるんだなぁ……………。


僕はノックをして中に入った。


「来たか」


椅子に座っていたガウスは立ち上がった。


「ガウス学園長、どうしてこんなことを?」


正直どうだっていいが聞いてみる事にした。


ガウスの席には妻と娘だろうか?二人が笑っている写真が飾られているのが見えた。


僕がそれを見ているのがわかったのかガウスはこう言った。


「どうだい?すごくいい笑顔だろ」


「ですね」


「剣豪と呼ばれていた時、わしは幸せの絶頂だった。妻とも娘とも仲が良くてな。こんなわしでも家に帰れない時はすごく寂しいと感じたくらいさ」


ガウスは遠い目をしていた。この時の彼は普通のお父さんに見えた。


「だがその幸せも直ぐに壊れた。あの団員せいでな」


「その団員はこの学園だと劣等生に分類されますか?」


「ああ、その通りだ。あの団員は魔力変換不全症だった」


オルトと同じか…………。


「そいつはあろう事か、わしの妻と娘の前で魔力切れを起こした。当然、魔法は使えなくなり、そいつは呆気なく殺された。周りにはほかの団員はいなかったからな、二人も殺されたんだ…………」


「そいつは自分から助ける、と名乗り出た、だから任せた。なのに二人を死なせた。魔力変換不全でなかったら確実に二人は助かっただろう。それからだ、わしが欠陥を持つ魔法士に嫌悪感を覚えだしたのは。だから学園長なった時、そういったやつらを劣等生に分けることにした。教師には適当に授業をさせ、魔法士として使えない人間に育ててやった」


劣等生になった生徒は魔法士になれず、家に戻されるというわけか。


「ただの逆恨みですね」


「なんとでも言えばいいさ。わしはこの選択を間違ったとは思ってないからな」


「しばらくは上手くいっていた。だがエナが入学してきめからあいつは劣等生を無くせ、なんて言いだした。王族の言うことだ、無視することは出来ない。だからわしは邪魔する奴らを消そうと考えた。シエナが入学するのがわかった時から少しづつ準備を始めた」


「それがあの誘拐ですか?」


「いや、誘拐をしたのは君を消すためだよ。シエナが劣等生の君に肩入れした結果殺された、そうなったら少なからず罪悪感を覚えるだろ?それを誘うためにしただけだ」


「なのに君は彼らを返り討ちにしてしまった。少々驚いたさ」


なんだ、僕を殺すのが目的じゃなかったのか。ただの噛ませ役、やっぱモブだ。


「でも炎男はシエナの命も狙っていましたよ」


「君が殺された時にはエナが来ていただろうからな、シエナは死ななかったさ」


あくまで精神攻撃って事かな。


「結果的には良い方向にいった。君が刺激になり、シエナは魔法大会に出ることに決めた。わしがシエナを殺しにかかったことでエナはわしを見張るようになった。騎士団全体を敵にするのはさすがに厳しいからな。だがエナだけならわしでも倒せる」


つまりはエナとシエナを同じところに閉じ込めるためにあんな大胆な事をしたってことか。頭良いな、さすが剣豪。


でも───。


「ほんと、自分勝手なバカですね」


「何だと」


「責任転換が凄まじい。だってそうだろ、あんたが家族を助ければよかったんだから」


どうやらその言葉はガウスの地雷だったらしく、剣を抜いて襲いかかってきた。


紫に光る剣、あのゾンビに刺さっていたやつか。でも魔力はこっちの方が格段に多い。


[空間断裂]


とりあえず武器を壊す事にした。


だがその剣は壊ず、弾いただけだった。


あれ?剣の周りだけ切れなかった?


「ほぉー、これが見えない斬撃か……………。この武器を壊そうとしたみたいだが無駄だ」


「それ、学園に来てた変な集団にも刺さってたやつですよね」


「そうだが少し違う。あれは複製品、これは本物のアーティファクト、支配の剣だ」


何それかっこいい!絶対僕みたいな痛々しい厨二病の人が作ったでしょ!


「アーティファクトのほとんどは魔法に体制があるからな。これはどうやっても壊れんぞ」


不敵な笑みを浮かべるガウス。


「壊れないだけのおもちゃで僕と思っているんですか?」


これ言ってみたかったんだよね。


「それを言えるのも今だけだぞシン」


始めようかガウス学園長、僕たちの戦いを!


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