第8話 ビッグイベントの予感

 シエナとガウスの戦いを僕は頑張って目で追おうしていた。理由は簡単だ、キリコには普通に目で追えていて応援まで出来てるのだから。魔法が一つしか使えないという共通点を持っているのであれば、何事にも負ける訳にはいかない。僕は彼女をライバルだと思っているんだから。


 だめだ、速すぎて砂埃が………何も見えない。


 キリコも魔法を使っているんだ、僕は使っても良いよね。


 今回は同点ということで許してやろう。


 空間魔法は空間に干渉して操る魔法だ。最初、感覚を掴むのに時間がかかったので僕は空間を体の一部だと意識するようにした。それにより相手が僕の決めた空間に干渉した時、その動きが何となく分かるようになったのだ。


 すると突然、二人は剣を構えながら何かを話し出した。


 せっかく魔法を使ったというのに砂ぼこりが完全に消えてしまった。


 ガウスはシエナを睨み、シエナもガウスを睨んでいた。ただ事では無いその雰囲気に僕は何かイベントが起こる予感を感じとった。それはガウスがシエナの命も狙っていると知っているからだ。


 僕は二人の剣の動きを瞬きせずに追った。


 シエナの攻撃でガウスは剣を落とした。


 シエナが勝つ、と僕は思った。でも相手は剣豪だ、あんな罠全開の攻撃に一番してはいけない回答をするとはどうも思えなかった。


 案の定、ガウスには狙いがあった。落としたはずなのに手には剣を持っていたのだ。


 待てよ…………。あのままだと───。


 シエナさんが危ない!


[転移]


 僕はシエナとガウスの間に移動し、ガウスの剣を防いだ。砂ぼこりのせいで僕らの事は誰も見えていない。


「やはり来たかシン!」


「シンくん、どうして…………」


 不敵な笑みを浮かべるガウス。どうやら僕を釣る罠だったらしい。


「卑怯ですね」


「卑怯、なぜそうなる?君の言った通り、わしで来てやったではないか」


 まさかこんな事するとは、意外とアグレッシブなご老人だ。あの時は僕だけが黒幕を知っている状況にテンション上がってああいうセリフ言ってみたくなっただけだったんだけど……………。少し反省だ。


 砂ぼこりが落ち着き始め、観客がザワザワしだした。


「ねぇシンくんどういう事?」


「話は後でするよ」


 これが緊急イベントかな?でもこんなところで本性を出すのはガウス学園長にとって悪手だと思うけど。


 まさか───。


 僕のムーブを知っているのか!それだとしたらまずいこんな所で全力を出してしまえば皆に知れ渡ってしまう。とにかくここから脱出しないと───。


 するとガウスは剣をさやに戻した。


 なんだ…………来ないのか…………。


 僕は胸をなで下ろした。


 ガウスは観客の方を向いて口を開く。


「すまなかった。シエナとの戦いに本気になりすぎて危うく大怪我をおわせてしまうところだった。それを彼が止めてくれたんだ。どうか責めないでやってくれ」


 全く意図が読めないなぁ。さすが剣豪だ。


「それじゃあ二人ともまた近々やり合おうでは無いか」


 不気味な笑みを浮かべガウスは去っていった。


「今、先生が使ったの魔法?」


「どうだろ…………」


「完全に騙されちゃった。危うく……殺されるところだった」


 シエナの華奢な体はブルブルと震えていた。いきなり死の手間まで追いやられたんだ、さすがに怖かっただろう。


 ガウス学園長、相手として不足無しだ。まさか剣豪に目を付けられるとは思わなかった。


「シエナさん行こっか」


 僕は震えて動けなくなっているシエナを抱っこし、この場を去った。


「ありがとう、もう大丈夫」


 シエナがそう言ったので僕は彼女を降ろした。


「シンくん、ガウス先生はどうして私の命を狙ってたの知ってた?」


「ごめん言うの遅れて、シエナさんを誘拐した炎男が言ってたんだ。依頼人はガウス学園長だって」


「嘘っ………」


 シエナは目を見開き驚いていた。それもそのはずだ、いつも穏やかな笑顔で剣を見てくれていた先生がほんとはずっと命を狙っていたのだから。


「ガウス先生が私の命を狙う理由は今日わかった。でもどうしてシンくんまで…………」


「それは僕にも分からないよ。でも劣等生が関係あるんじゃないかな」


 ガウスは劣等生と言われる劣ったもの達に何か恨みがあるように思える。


 僕みたいに魔法が一つしか使えないもの、魔力量が少ないもの、魔法の威力が弱すぎるもの、あげればキリが無い程にどこかが欠けている生徒は多い。その全てを最初から見放すほどの憎悪がそこにはあるのだ。


 僕的には命狙ってくれた方が戦えるから嬉しいんだけど。


 するの僕たちを追って誰かが走ってきた。


「シエナ!大丈夫?」


 心配そうな顔をしてきたのはエナだった。


 ここに来たってことはあの砂ぼこりの中で何が起きてたか、知っているということだ。どうやって見てたのか僕には分からない。


「姉さん、大丈夫だよ。シンくんが助けてくれたから」


 するとエナは僕の方を見て深々と頭を下げてきた。


「シンくん、本当にありがとうございます。また君に救われました。姉として不甲斐ないです…………」


「あの状況で間に合ったのはたまたまですよ」


「それでなぜガウス学園長があのような事を?」


 そう言ったエナに僕達は全てを話した。誘拐を依頼したのはガウスだと言うこと劣等生を無くそうとするシエナやエナを狙っていること。


「なるほど、そういうことですか」


「姉さんは何か分からない?ガウス先生が劣等生を嫌う理由」


「私もあまり想像は付かないがガウス先生がここの学園長になる前、剣豪と呼ばれていた時の事なら少し知っている」


「それ教えて」


 剣豪の過去、何それ気になる。


「僕からも頼んでいいですか?」


 するとエナは頷き話し出した。


「剣豪だった頃のガウス先生は私と同じく黒の騎士団の騎士団長をしていました。彼は自分の剣術だけでたくさんの組織を潰してきた。その中に一つ王都中で暴れ回っていた組織との争いがありました。敵は多勢でただ壊すだけを目的にしていた。なので市民もたくさん犠牲になりました。その中にガウス先生の妻と娘が含まれていたのです。それが関係あるかは分かりません。ですがその二人の遺体の傍には別の騎士団の団員も居たと聞いています…………」


 剣豪でも守りきれないことはある。なぜなら人間だからだ。でもそういうところがある方が僕は憧れる。


 つまりは家族を失った憎しみ的な事?もしかして一緒に死んだ団員が劣等……………。


 僕の反応を見てエナが口を開いた。


「シンくんも気づいたようですね。私も今気が付きました」


「何に気づいたの?」


 シエナは首を傾げていた。


「ガウスの家族を守れず、一緒に亡くなった団員はおそらくこの学園では劣等生に分類されるものだったのでしょう」


「そんなの…………ただの逆恨みじゃない!」


 それだけ家族思いの人だったんだろうね。


「とにかく私はガウス学園長と話をします。今の状態では何の罪にも取れない。でも何かしらのアクションを起こすのは確実です」


 そう言ってエナは走り去っていった。


 やっぱ行動力がすごい。でもガウス学園長は何で今日あんな怪しい行動を取ったんだろう。絶対こうなるって想像ついただろうし……………。


 まぁいいや。とにかく時期来るビッグイベントに備えておこう。色々なシュチュエーションを考え、僕のムーブを最大限生かせる動きを模索しないと。


 しばらく忙しくなりそうだ。


 エナの対応は早かった。


 当然シエナの命を狙っていた事をガウスに問い詰めても全て否定。


 なので事件性があることにし、数人の騎士でガウスを見張ることになったという。


 そんな無茶が出来るのはさすが騎士団長と言ったところだ。


 だが───。


 そんな見張りをも掻い潜り、ガウスは作戦を進めていた。その結果、僕の想像していたもの以上のダイナミックなイベントが襲来する事となった。

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