第7話 魔法大会
『さぁー始まりました。アルカディア学園魔法大会』
観客の生徒達が声を上げる。ちなみに劣等生たちは声一つ上げず、欠伸をするものばかり。それも当然だ。魔法大会は普通生徒の行事なんだから。
温度差すごいな。僕としてはモブを貫けるのでありがたいイベントだ。ここはシエナさんの言う通り、応援でもしておこう。
そういえばエナさんだったか。あの人も来てるみたいだ。ふんずりかえるお偉いおっさんの隣で姿勢をただし見ている騎士団。教育の差が伺えて仕方ない。
一回戦───。
『シエナ・アルカディア VS ユウキ・ヒエルド』
初っ端からすげーな。観客は大盛り上がりだ。
シエナさんやっぱ人気者だなぁ。
ほとんどの声援がシエナへのものだ。ユウキにも少しは声援を送ってやってもいいと言うのに。
※
シエナとユウキが剣を向け合う。シエナの真っ直ぐな眼差しにユウキは少々戦慄した。
「シエナ王女、僕は負けませんよ」
「それは私のセリフよ」
ユウキは深く深呼吸をし、集中する。
『それでは試合始め!』
審判の掛け声と同時にお互いが踏み込み間合いを詰める。
剣のぶつかり合う音が会場を木霊する。
「[魔力斬]」
ユウキが緑の刃を飛ばす。
シエナはそれを正面から受け止め、切り裂く。
「ユウキ、なかなかやるわね」
「そう言っていただけで僕は嬉しいです」
「じゃあ次は私の番よ」
するとシエナはユウキから距離を置く。
「[雷魔法]」
シエナの剣にバチバチ、と稲妻が流れ出した。
ユウキはこのままにするのはまずい、と判断し、シエナの魔法が発動する前に距離を詰める選択をした。
ユウキの間合いにシエナが被さる。ユウキは剣を振るった。
当たる。そう思った瞬間シエナは目の前から消え、砂ぼこりと煙が立った。
「ぐはっ───」
ユウキは剣を落としその場に倒れ込む。
「いい戦いだったよ」
いつの間にかユウキの背後にシエナはいた。
[雷速斬]
一定の距離を光のように高速で進む魔法。
シエナの勝利に観客が歓声をあげる。
シンも驚いた様子で拍手をしていた。
「すげーなシエナ王女は」
退屈そうに試合を見ているオルトがそう言った。
「だね」
「今の魔法なんだったんだ?こっからだと剣が隠れてて何も分からなかったぞ」
「今の魔法は雷魔法ですよ」
そう言って来たのはクロエだ。
「クロエさん見えてたんだ」
「いえ、私ではなくこちらにいるキリコさんが教えてくれました」
緑髪のショートカットにメガネをかけた少女。人見知りなのかシン達から視線を外し、もじもじしていた。そんな彼女の名はキリコ・カイエラ、シン達同様劣等生だ。
「キリコさんは凄いのです!一目魔法を見るだけでどんな魔法かすぐにわかってしまうゴットアイをお持ちなのです!」
目を輝かせそう言うクロエ。
ゴットアイとは、一度相手の魔法を見ただけで何魔法かをすぐに見破ることの出来る目の事、その目を持つものが少ない事と魔法がわかるという神業によりその名が着いた。
「や、やめてくださいクロエさん…………。恥ずかしい…………」
「ゴットアイ、何それかっこいい!」
こう言う話しはシンの大好物である。
「あ、ありがとう…………」
頬赤くし、小さな声でそう言うキリコ。
「でもゴットアイと呼ばれてるけどあまりいいものじゃ無いよ。私の目は常に魔法を使っているような状態だから目が疲れて視力がすぐに下がっちゃうの。それに他の魔法を使うことが出来ないんだ…………」
キリコはシン同様一つの魔法しか使えないのだ。
※
あれからの試合、シエナの完全無双状態で進んで行った。もちろん優勝はシエナ。あくまでこの大会は応募者のみが出ている。シエナ以上に強い生徒は出ていないのかもしれない。
『アルカディア学園魔法大会、今回の優勝者はシエナ・アルカディアです』
『それでは最後の戦いです。シエナ・アルカディア VS ガウス・オルフェイズ学園長です』
「ガウス先生、私はあなたにも負けるつもりは無いですよ」
「ほぉー、ならわしも真剣に戦わなくてわな」
お互いが剣を向け合う。
『それでは試合開始───』
審判の言葉と同時に剣がぶつかり合う音が鳴ったと同時に砂埃が舞った。
ただの踏み込みで地面が陥没したのだ。シエナはまだ本気を出していなかった。
「わしのスピードに追いつくか」
だが力の差は歴然、スピードが追いつけたとしても力で叶うかは別の話だ。
シエナはガウスに押されていた。
「さすが元剣豪ですね。剣が重たい」
するとシエナは手に稲妻を貯め始めた。
ガウスは一度後ろに下がる。
それを狙い、シエナは稲妻を放った。
ガウスはいとも簡単にそれを弾き飛ばす。
「雷魔法、君のお姉さんと同じか。いや、お姉さんはもう一つ属性魔法を使えたんだったな」
「ええ、そうですよ。だから私は姉さんを尊敬しています」
[雷速斬]
シエナは見えない速さでガウスとの間合いを詰める。
だがガウスはそれに反応した。
「君のお姉さんは確かに才能の塊だ。良い生徒だとずっと思っていたよ。でもエナは劣等生を無くせとうるさくなった」
ガウスは不満そうな顔を見せた。
「君も劣等生で分ける事を否定するのか?」
「ええ、劣等生で括るなんておかしいと私は思います」
シエナは一度引き剣を構え直す。
「そうか、君もわしの邪魔をするのか」
ガウスはシエナを睨みつける。どこか殺意を含むその視線にシエナは戦慄する。
シエナは息を整え、ガウスに話しかける。
「…………邪魔ですか。ガウス先生、あなたはどうして劣等生と普通生徒で分けることにしたのですか?」
「劣等生で分けるのは必要な事だ。使えないと分かりきっている魔法士はただのお荷物、歩く厄災だ」
「だからと言って劣等生を適当に扱う理由にはなりません。よく見ますよ、やる気の無いただしてるだけの授業、あんなので生徒が育つわけがありません」
「劣等生を育ててどうする?彼らは常にハンデを背負っているような状態だ。そんな者たちを育てて何になると言うんだ」
「あなた、ほんとに教師ですか?」
シエナの中に怒りが溜まっていた。
シンのような普通生徒以上に実力を持つ者がいると言うのにただ劣っている、というだけで将来を立たれてしまう。それがシエナには耐えられないことだった。
「先生の考えは理解できません」
「最初から理解など求めていない」
シエナとガウスはお互いに睨み合う。
───最初に動いたのはガウスだった。
シエナは動かずその場で稲妻を飛ばす。
ガウスは勢いを停めず、稲妻を剣で切り裂く。
「やはり、そうすると思いましたよガウス先生」
[雷速斬]
シエナはガウスが剣を振り降ろす直前で一気に距離を詰める。
訓練用の剣、相手を斬ることはない。その代わり、弾く力は強い───。
シエナは剣を持つガウスの手に目掛け思いっきり剣を振るった。
ガウスの手から剣は落ち、シエナの剣筋にそって手が吹き飛ぶ。
貰った───。シエナはそう思った。
無理に振るったせいで後隙はでかい。でもガウスは剣を落としたのだ、その隙もカバー出来る。そのはずだった。
だがガウスの手には剣があった。それも真剣だ。
確かに地面にはさっきまで使っていた剣がある。なのにガウスは持っているのだ。
嘘でしょ…………。シエナは背筋が凍りつくのを感じた。
「考えは悪くなかったぞシエナ・アルカディア。だが終わりだ!」
不敵な笑みを浮かべガウスは剣を振るう。その剣が捉えた先はシエナの心臓だ───。
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