第6話 お姉さんが来た
朝、学園の門の前に注目が集まっていた。皆学園の方に歩いているのに視線は横を向いているのだ。
何だろ…………。
その注目の正体を見た時、僕は立ち止まってしまった。
シエナさんだ。それと…………騎士団の人?
すると突然シエナが僕の方に振り向き、手招きしてきた。
「どうしたのシエナさん」
「姉さん、この人が私を助けてくれた。シン・クロイセルくんなの」
「君がシエナを助けてくれたのですか?」
癖のない赤色の髪を肩ほどまで伸ばし、瞳はシエナに似て少し鋭い。
「は、はい。そうですけど……………」
「おっと、失礼しました。私はエナ・アルカディア。シエナの姉です」
「あっ、お姉ちゃんでしたか」
「姉さんは王都で一番強いと言われている黒の騎士団の騎士団長をしているの」
へぇー黒の騎士団。道理で着ている服が黒いと思った。それにしてもこの黒のロングコートめちゃくちゃ欲しいなぁ。厨二心の頂点みたいな服だ。
するとエナは申し訳なさそうな表情を僕に向けた。
「すまないな。また劣等生なんてものを残してしまって…………」
残してくれてありがとう、って僕は言いたいところなんだけど…………。
「君みたいな人達が劣等生という括りだけで将来を閉ざされてしまうのは私は耐えられません。ですがガウス学園長はこの制度を無くそうとしないんです」
ガウス学園長ねぇ……………。あの人とも一戦交えることになりそうだ。
「改めて感謝したい。シエナを助けてくれてほんとにありがとう」
エナは深々と頭を下げた。
「顔を上げてください。僕もシエナさんにはお世話になっているので」
リアクションなら誰よりも良いんだよね。彼女は僕の夢に欠かせない存在だ。
「君がもし騎士団に入りたいというなら私が手助けしたいと思っています。なので劣等生だからといって下を見ず、頑張ってください」
マジか…………。まさかの騎士団長にまで声をかけられるとは。
「僕なんかよりもっと他の人を見てあげてくださいよ。劣等生の中にも才能がある人はたくさんいますし」
「なるほど、それはいい考えですね。劣等生が無くならないのなら、その実力で判断すればいいんです───」
そうして少しの間エナはブツブツと一人、何かを考えていた。
「ありがとうございますシンくん。これからはたまにこの学園に足を運ぼうと思います」
「そうですか…………」
行動力が凄い。さすが騎士団長だ。
「それじゃあシエナ、私は帰るよ」
「うん、またね姉さん」
「シンくんもまた」
エナは馬車に乗り去っていった。
「シンくん、昨日はほんとにありがとね」
「あれから大丈夫だった?」
服に着いた血なかなか落ちなかったんだよな。
「うん、大丈夫だった」
笑顔でそう答えるシエナ。
それにしても普通生徒からの視線がさらに冷たくなってる気がする。エナさんと話してたからかな?でもシエナさんの前だから特に何もしてこないのか。
するとシエナが真剣な顔をし、口を開いた。
「シンくん、昨日の誘拐犯。姉さんが言うには狂犬っていう組織らしいの」
「そうなんだ」
狂犬ね…………。でもあの人たちオオカミのバッチ付けてなかった?この世界の狂犬ってああいうのなのかな。
「狂犬の戦力がどの程度か、まだあまりわかってないの。だからシンくん気おつけてね」
「それはシエナさんもでしょ」
「確かにそうね」
するとシエナは不思議そうに僕の顔を覗いてきた。
「それにしてもシンくん呑気ね。命狙われてるのに」
「シエナさんもね」
「ふふっ、ほんとね」
いつも以上にニコニコ話すシエナ。まるで昨日の事がなかったみたいだ。やっぱ、こういうの慣れてるのかな?
そうして教室に入るとみんなの視線が一気に僕に集まった。
「なぁお前、エナ騎士団長と何話してたんだよ」
「一体何したんだよ」
「シンくん何をしたんでしょうか?」
「シン今度は何やったんだぁ」
僕はクラスメイトに囲われ進めなくなってしまった。
どうしよ、進めない。適当に嘘つくか。
「シエナさんが体調崩して倒れてたんだ。それをたまたま僕が見つけて助けただけ。お姉さんは様子を見に来た、って言ってたよ」
シエナさん体調不良作戦だ。もし変に噂になっても許してくれるよね。知らんけど。
「何だそんなことかよ…………」
そう言い大半の連中は履けていった。
昨日の誘拐は思ったより広まってないみたいだ。
でもオルトはもちろん嘘だと見抜いていた。クロエはさらに僕とシエナの関係を気になりだしていた。反応薄いのに恋愛は好きみたいだ。
※
あれから数日たち、シエナが僕にこんなことを言ってきた。
「これ見て───」
そう言い、魔法大会の申し込み書と書かれた紙を見せてきた。
「何これ?」
「知らないの?魔法大会」
「うん」
「簡単に言うと生徒同士で魔法を使って戦う大会よ」
前世の体育祭的なやつかな…………。
「トーナメント戦で一位の人は学園長と本気で戦うの」
「それだけ?」
「まぁ騎士団のお偉いさんとか王都のお偉いさんとか来てるからアピールは出来るかな?この大会はあくまで自分の実力を図るためのものだから」
「へぇー、それでシエナさん出るの?」
「うん、出るよ」
「それで…………」
「僕は出ないよ」
「そんなこと分かってるよ。というか普通生徒しか参加できないの」
危ない危ない、こんな大会に出てしまったら、僕のムーブが完全に終わりを迎えてしまうところだった。
「だから、私の活躍を見ててよ」
「はいはーい」
たまにはモブとして観客に勤しむのも悪くないかな。
「じゃあ授業行こっか。次実技だし」
あれ、まだ解放されてなかったのか。
そうして実技授業を受けた後、僕は皆が居なくなるまで稽古場に残っていた。理由はガウス学園長と話すためだ。
「シンどうした?戻らないのか?」
「そういえばシエナを助けたらしいな。一教師として君に感謝しよう」
「…………もういいですよガウス先生。炎男が全部吐きました」
そう言うとガウスから笑顔が消えた。
「ほぉ、それで───」
「言いたいことは一つだけです。僕を殺したいならあんたで来い。僕はいつでも大歓迎です」
僕はそう言い稽古場を出た。
昨日の誘拐犯が言っていた。依頼人はガウス・オルフェイズだと。
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