第4話 クラスで少し噂になり始めた

 あれから数日経った。僕は今でもシエナと同じクラスで実技の授業を受けている。まだ手の内を見せないのでシエナも意地になっているんだろう。


 さすがに自分のクラスでも噂になり始め話しかけてくる人達が増えてきた。


「シンくんはシエナ王女とどんな関係なのですか?」


 藍色の髪を背中の中ほどまで伸ばし、表情が読み取れない瞳の少女。その名はクロエ・ミリセントだ。最近少し仲良くなった、と思う。


 どうやらシエナと僕の関係が気になっているらしい。


「だからたまたま仲良くなっただけだよ」


「そのたまたまが知りたいんです」


「…………普通生徒から嫌がらせを受けてた時、助けてくれたんだ」


「そうなんですか」


 えっ………こんなしつこく聞いてきててそんな反応なの───。もっとへぇー!って感じで興味持つと思ってたのに。


「シンも意外とやるよな。王女さん口説くなんてよ」


「口説いてないわ」


 オルトは僕がユウキを倒した事を広めなかった。やっぱり優しいやつなんだと改めてわかった。


「あのシンくん、普通生徒の授業はどんな感じなんでしょうか?」


「全然違うよ。先生も真面目に教えてるし、学園長まで来てる。僕は多分嫌われてるけど…………」


「居心地は良いんですか?」


「最悪だね。ほんと、早く解放して欲しいよ」


 シエナさん強引だからなぁ。僕が授業行かなかったら、この教室まで押しかけてくる。そろそろほんとの事教えよっかな。


 最近は逃げるのを諦めて僕は自分の足で授業に向かっている。今日もため息をつきながら行くことした。


「今日も来たのかシン」


 ガウス学園長は笑顔を見せてくれてはいるが僕のことを相当嫌っているのが雰囲気でわかる。場違いなんだよ、って言いたいんだろう。


「シンくん、そろそろ教えてくれない?」


 シエナさんは相変わらず機嫌が悪い。


「ユウキくんから話聞いたんじゃないの?」


「聞いたけど分からなかった、しか言わないの」


 見えない攻撃を食らったんだ。ユウキに聞いてもわかんないだろう。


 シエナには感謝もしている。さすが最高峰の授業といったところだ。剣術が以前と比べ物にならないほどに上達した。魔剣士になるのもありかもしれない。


「シン、わしが剣を見てやろう」


 ガウス先生がそんな誘いをしてきた。訓練用だから切れないけど、多分この先生僕のこと殺そうとしてる。最近毎回この誘いを受ける。


「お願いします」


 ガウスと剣を向け合う。この世界は魔力を使うのが普通なので間合いが遠い、5、6mは離れている。でも僕の踏み込みは普通の人間とほぼ同等なのでこの間合いはすごく不利だ。


「それじゃあ行くぞ───」


 ガウスはそう言うと同時に僕の目の前に現れた。


 もう歳なのに速いんだよな、このおじさん。それに一撃が重い。防げても腕がプルプル、震える。


「ほぉ、これを防ぐか」


「さすがに慣れましたよ」


 何度ボコボコにされたか……………。


 ほんとは肌ギリギリのところで空間の壁を作って体守ってたから痛くはなかったんだけど。


 ガウスは最初の踏み込み以外は魔力無しで打ち込んでくる。さすが剣豪と言ったところだろうか。魔力無しでも人間離れの動きと威力を見せてくる。


「ぐはっ───」


 僕は腹に剣を食らった。


「やはり劣等生にしてはやるなシン」


「君が普通生徒ならどれだけ良かったことか…………」


 いつもそう言って一瞬怖い顔を見せてくる。


 どうして劣等生をこんなに嫌っているのかは分からない。でも学園長に認知されるのはこれからのためにも重要だ。


「シンくん大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ」


「シンくん魔力無しで良く止められるね」


「いっつもワンパターンだから。山勘だよ」


「それでもすごいよ」


 シエナはこうして僕を褒めてくれる。


「シエナ、次は君の剣を見よう」


「はい!お願いします」


 シエナ相手の時はガウスも少々魔力を使う。それだけ注目している生徒なんだろう。


 確かにシエナさん強いもんね。



 ※



 授業が終わり、辺りは日が沈み出していた。


 そんな中一人の少女が寮に向かい歩いていた。


「シエナ・アルカディア王女だな」


 そう言いながら近づく、怪しい三人の男。その三人ともオオカミのマークがあるバッチを付けていた。


「何者だ!」


 シエナは腰にかけていた剣を抜き構える。


「おいおい、話しかけただけで剣を抜くとは失礼じゃないのか」


 そう言う真ん中の男。周りの奴らよりも豪華な服を着ており、リーダー的な雰囲気を出していた。


「あなた達だって剣を持ってるじゃない」


「…………おっと、これは失礼」


「あなた達は何者?」


 シエナがそう問いかけるとリーダー男は不敵な笑みを浮かべこう言った。


「俺たちはあんたを誘拐しに来た。目的を達成するためにお前には餌になってもらう」


「───餌?」


 シエナの誘拐が目的では無く、誰かを誘き寄せるのが目的だとリーダー男は言った。


「お前ら、やれ」


「はい」


 リーダー男の横にいた二人の男がシエナに近づいていく。


 容赦無くシエナに剣を振るう男。魔力を使えるらしい。


 その剣を避け逆に剣を打ち込む。


「うっ───」


 一人の男が吹き飛ぶ。だが訓練用の剣なのでほとんどダメージがない。


「それなら…………」


 シエナは魔法を使う準備をした。


 その瞬間───。


 腕に鎖が巻かれた。というか鎖から巻きついてきたのだ。


「あれ…………?」


 その瞬間シエナは魔力を使えなくなった。


「残念だったなシエナ王女」


 そう言いリーダー男はシエナの持つ剣を蹴り飛ばす。


「アーティファクト、魔力封じの鎖だ。お前はもう魔力を使えない。諦めろシエナ王女」


「アーティファクト───。なぜお前達がそんな物を」


「依頼人はどうやらお偉いさんらしくてよ。普通にくれたぜ」


「依頼主は誰?」


「そんなこと教えるわけねぇだろ」


 リーダー男はそういった後、子分の二人に行くぞ、と指示を出す。


 男二人はシエナを抱え馬車に詰め込む。


「シエナ王女───!」


 そこに現れた一人の男。


「ユウキ!」


「何をして居るお前ら!」


 ユウキはシエナを助けるためリーダー男に突っ込む。手には緑に光る魔力の塊があった。


「邪魔だ。雑魚には興味ねぇよ」


 リーダー男は炎の玉を飛ばし、ユウキに当てる。


「ぐはっ───」


 もろに食らったユウキは吹き飛んだ。


「ユウキ!」


 男の押し込む手を振り払いシエナはそう叫ぶ。


「早く乗れ!」


「キャッ───」


 無理やり押し込まれ馬車のドアが閉まる。


 そうしてシエナを連れた馬車は動き出しその場をさっていった。

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