第3話 夢への第一歩

「ユウキ、いい加減にして!」


「シエナ王女、これは僕とあいつの問題です。口を挟まないで頂きたい」


 僕、勝手に巻き込まれただけなんだけどな気がするんだけど…………。


「それでユウキくん何するの?」


「着いてこい欠陥品、勝負だ」


「おい、お前。欠陥品とか言ってんじゃねぇぞ」


 オルトがユウキの胸ぐらを掴んだ。


「誰だお前は、関係ないやつは引っ込んでいろ」


 ユウキはその手を振り払い歩き始める。教室内の生徒達は興味があるのか付いてこようとしていた。それを止めたのはシエナだ。


「ごめんねシンくん。ユウキのことは私に任せていいから。教室戻って」


 耳元でそうつぶやくシエナ。


「早く来い欠陥品!」


「大丈夫だよシエナさん。それに劣等生だからってこのまま逃げるのはかっこ悪いでしょ」


 止めなくていいんだよ。僕はこの誘いが嬉しいんだ。まるで初恋を思わせる高揚感、だってほんとの意味で夢が叶うんだから。


 そうして着いた先は小さな稽古場だ。この場所だけは真剣を使うことが認められている。


「ユウキ、真剣はさすがにだめよ」


「おい、お前。さっきからシエナ王女に言わせて何も言ってこないじゃないか。それでも男か」


 なるほどこれが嫉妬ってやつか。多分シエナさんのこと好きなんだこの人。なら、僕も答えないと。


「やるなら早くしようよ。授業が始まってしまう」


「頑張れよシン!」


「シンくんもどうかしてるよ。相手は真剣なんだよ」


「シエナさん、僕だって戦えるんだよ」


 そう言うとシエナは黙ってしまった。劣等生だから、そう言っていることに気がついたんだろう。


「シン・クロイセル。僕が勝ったらシエナ王女には近づくな。安心しろ殺しはしないさ」


「わかったよ。早くしよ」


 するとユウキは一気に僕との間合いを詰めてきた。


 昨日の敵モブ二人とは比べ物にならない速さ。魔力操作がきっちりしている証拠だ。


 僕は後ろに下がり紙一重で剣を避ける。


 剣術も既に磨かれている。速度、剣筋、どれも申し分ない。


「今のを避けるか。自信があったように見えたのはこういう事だったのか───」


 するとユウキの剣に緑の光が纏始めた。


 魔法かな。


 その剣を振るったと同時に緑の刃が僕に向かって飛んでくる。


[魔力斬]


 剣に魔力を込め飛ばす魔法。威力は魔力操作の精度と武器の切れ味で決まる。簡単な魔法だ。


 じゃあ僕のターンだ。


[空間変形]


 空間を歪ませる魔法。相手の攻撃の軌道を変化させる事が出来る。


 魔力斬は僕に当たらず軌道が逸れ、後ろの壁に当たった。


「なんだ今のは───」


 空間を歪ませてしまえばどんな攻撃も簡単に逸らせる。


「どうした、来ないのか?」


 僕は不敵な笑みを浮かべ挑発する。


「舐めるな!」


 ユウキはさらに強く踏み込み間合いを詰めてくる。


[空間断裂]


 僕はユウキの持つ剣を切った。


「───はっ?どうなってんだ」


「剣が折れた?」


 観客の二人も目を見開いて驚いていた。


「ユウキくん、君は才能の塊だ。これからもっと強くなると思うよ。でも今は僕の勝ちだ」


「何だと…………」


 僕は拳を固く握りユウキの腹にねじ込ませる。この距離なら魔力すら必要ない。


「ぐっ───」


 そう思ったがユウキはやはり身体強化を使っていた。僕の貧弱な拳ではダメージがまるで無い。


 腹が鉄みたいだ。


 もういいや───。


[空間操作]


 僕は空間を押し、ユウキを吹き飛ばした。


「ぐはっ───」


 ユウキは壁に背中をぶつけ、その場に座り込み立てなくなっていた。


「ユウキ?」


「シン、お前…………何やったんだ!おい!今何したんだよ!」


 そう言いながらオルトはスカッとしたのか目を輝かやかせて僕に近づいてきた。


 これは完璧すぎる。何を使ったのかバレず、なおかつこいつ強いのか?という疑問を残すことに成功した。大満足だ!


「それじゃあシエナさん僕達は戻るよ」


「待ってシンくん!」


「一体何をしたの?あなたほんとに劣等生なの?」


 シエナさん完璧な言い返しじゃないか。


「何言ってるのシエナさん。僕は劣等生だよ」


 そう言って僕とオルトはこの場を去った。


 その後、特に僕が噂になるなんてことは無かった。ユウキも僕にちょっかいを出してくることも無くなった。


 でもシエナが前よりもうるさいというかしつこくなってしまった。


「ねぇシンくん。あの時、一体なんの魔法使ったの?」


「だから何もしてないよ。ユウキくんの運が悪かっただけ」


「真剣が勝手に砕けるなんてありえない」


「魔力込めすぎたんでしょ」


「そんな魔力感じなかった」


 シエナさんほんといい反応する。すごく気分がいい。


「そっか、教える気がないのね。なら、私も容赦しない」


「えっ───」


「明日の魔法実技の授業、私のクラスで受けられるように話つけておくね」


「───はっ?」


 普通生徒の授業に参加するだって、そんなの冷たい目で見られるに決まってるじゃん。注目されるのは良いけど冷たい目だけはトラウマなんだよ。


「───ちょ、ちょっと待ってシエナさん」


「嫌、もう決めたもん」


「う、嘘だぁぁ!!」


 さすが王女様、やることがぶっとんでいる。


 ※


 次の日の魔法実技の授業、僕は本当にシエナさんのクラスで受けることになった。


 居心地が悪すぎる。何だこの冷ややかな視線は───。


 それに劣等生嫌いの学園長もいるし、軽く拷問だな。


「君がユウキを倒したものか。名前は確か、シン・クロイセルと言ったな」


 穏やかな笑顔をうかべたガウス学園長が近づいてきた。笑顔なのになんだかすごく嫌な雰囲気を感じる。


「は、はい。そうですガウス先生」


「そうか。劣等生にしてはやるでは無いか。これからも励みなさい」


「はい、もちろんです」


 そんな事言っても僕、魔法実技の授業、何もすることないんだよなぁ。空間魔法しか使えないし。


 それにシエナさんもなんか不機嫌だし、これからどうなるんだろ。



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