第2話 喧嘩を売られた

「ハハッ、ビビりすぎだろ」


「おおおお金なんて持ってないです。許してください」


 すると隣で笑っていたCが血相を変えて僕の胸ぐらを掴んできた。


 やっぱ馬鹿力だ。僕の体が浮いてるよ。


「嘘ついてんじゃねぇぞ!出さねぇならどうなるかわかってんだろうな!」


「ほんとに持ってないです。ゆ、許してください、お願いします」


「そうか…………」


 Cは素直に手を離し、Bの隣まで戻っていった。


 あれ?冷めちゃったのかなぁ。なんて思っていると二人が不気味な笑みを浮かべた。


「じゃあ死にな───」


 そう来なくっちゃ!


 Bは剣を勢いよく振り落とす。当然だが訓練用の剣だ、当たっても切れたりはしない。


[空間断裂]


 空間を割く魔法だ。空間ごと切るのでどれだけ硬いものでも簡単に真っ二つにできてしまう。


 バキッ───。


 そんな音を鳴らしBの持つ剣は綺麗に折れた。


「はっ───?」


 二人は顔をポカンとさせ固まってしまった。


「あれ、折れたね」


 僕は不敵な笑みを浮かべる。


 僕は空間魔法しか使えない。でもどんな魔法よりも強い自信がある。だってこんな簡単に剣を切れてしまうんだから。


「何笑ってんだてめぇ」


「わ、笑ってませんよ」


 僕は緩みそうになる口角を必死に引っ張って耐えていた。


 まだ全力は出さない。少しづつ浸透させていきたいからだ。こいつの力なのか?みたいな疑問を今日は残したいと思っている。


「くそっ───」


 するとCも剣を抜いた。


 こっちも切ったら今日は退散かな。それで終われば良いんだけど…………。


「待ちなさい───」


 突然そんな声が路地裏を木霊した。


「シエナ・アルカディア…………?」


 二人はその声の方に顔を向けた。


「こんなところで何をしている!」


 少し圧のある女性の声が響き渡る。


 するとB、Cは何やらコソコソ話し始めた。


「おい、どうするよ?」


「王女に喧嘩売るのはやべぇって」


「じゃあ逃げんぞ」


 二人は一目散に逃げていった。正直ちょうど良かった、本当に僕は運がいい。


「待ちなさい───!」


 そんな声も届かず二人は視界から消えていった。


「君大丈夫?」


 そんな彼女が僕に手を差し出し出してくれた。


「はい、大丈夫です。えっと、シエナさん…………」


「そんな警戒しないで何もしないから。それに同級生でしょ」


「…………そっか。助けてくれてありがとう」


 シエナ王女はやはり優しい人らしい。


 僕は立ち上がり、この場を去ろうとした。


「ちょっと待って、君の名前教えてよ。またあいつらが何かしてくるかもしれないでしょ」


 名前くらいなら教えてもいいかな。なんか機嫌悪そうだし、ああ言うやつ嫌いなのかも。


「シン・クロイセルだよ」


「シンくんね」


「じゃあ僕はそろそろ帰るよ。助けてくれてありがとう」


「うん、またね」


 またね、か。多分もう会うこともないだろう。王女としてのパホーマンスってわけでもないみたいだけどこんなモブに構ってる時間もないでしょ。


 ───この時の僕はそう思っていた。


 ※


 次の日、教室に入るとオルトが話しかけてきた。


「普通生徒のやつらうざくね?」


「どうしたの急に」


「あいつら劣等生の俺ら見たらコソコソ嫌味言ってよ、馬鹿にしたような顔で見てきやがるんだ」


 オルトは相当怒りを我慢しているんだろう。顔がしわくちゃになっていた。


 確かに馬鹿にしたような顔は何度か見た。でもそれしか出来ない奴に僕は興味は無い。ちゃんと喧嘩をふっかけてこなきゃね。


「やっぱ劣等生で分けるってのが意味わかんねぇんだよ」


「確かにそうだね」


 でもオルトぐらいムキムキなら普通生徒にも勝てないやつ居そうだけどな。それならムーブ仲間として誘うのもありだ。でも厨二心ってこの世界にもあるのかな?


 一日でこのクラス内の話題は普通生徒についてになっていた。


 そうして期待もしていない授業がスタートしただが、案の定先生は教える気があまり無いらしい。


 魔法についての座学と剣術と魔法の実技授業、どちらも適当だ。寝ていても注意しないし、先生も欠伸をしながら授業をする。実技なんて一応教えてるみたいな感じだ。


 そういえば劣等生って卒業したらどうなるんだろ。こんな授業だったら魔法士として騎士団に入れる、なんてことしないだろうし。そんなこと今はいいか。


 とりあえず学園内を一人で歩くことにしよう。昨日みたいなやつを探さないとただの学園生活になってしまいそうだ。


「あっ、シンくん」


「───げっ………」


 この声って…………。


「シエナさん昨日ぶりだね」


 王女さん、なんでこんなモブのところに来てしまうんだ。嫌な人じゃないから良いんだけど。


「シンくんは友達とか居ないの?昨日も一人だけど」


「友達ならいるよ」


「そうならいいんだけど」


 世話焼きさんなのかな…………。


「昨日いた人達からは何もされてない?」


「うん、大丈夫だよ」


「そっか…………」


 安心したような顔をするシエナ。やっぱり世話焼きみたいだ。


「シエナ王女、そんなところで何をされているんですか?」


 そう言いながら近づいてくる一人の男。緑色の髪に優しい瞳の優男。


「ユウキどうかしたの?」


 彼氏さんとかかな?いや、さすがに早いか。


「シエナさんそれじゃあ僕行くね」


「うん、またねシンくん」


 王女ってもっと気の強い人を想像してたんだけど思ったより普通の女の子だ。


「待て───」


 ユウキが僕にそう言った。何か怒っているような圧を感じた。


「どうしたの?」


「お前、シエナ王女に対してなんだ今の態度は?」


「シエナさんが良いって言ったから…………」


「黙れ!劣等風情が───」


「ちょっとユウキ、訂正しなさい!」


「ですが───」


「訂正しなさい!」


 シエナさん凄い迫力だ。曲がったことが嫌いなのかな、多分。


「───くっ、覚えてろ」


 ユウキは僕を睨みつけてそう言った。きっとしばらくすれば迎えに来てくれるんじゃないかと僕は期待を寄せていた。


 シエナさんと関わるのも悪くないかもなぁ。


 ※


 ユウキの覚えてろ、が回収されるまでにはそれほど時間は掛からなかった。


 次の日、教室にいると顔を真っ赤にして僕を呼んできた。


「シン・クロイセル、今すぐ来い。劣等生ごときがシエナ王女に近づけると思うなよ…………」


「ご、ごめんねシンくん」


 シエナさん付き添いか。


「シン、シエナ王女となんかあったのか?」


「さぁどうだろ。でも行ってくるよ」


「俺も付いてくぜ。お前一人だと危なそうだし」


 これは戦いの予感。今度こそ始められるはずだ。

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