空間魔法しか使えない僕は学園に劣等生として入学した〜実は強かったムーブで楽しんでいるといつの間に学園の外でも噂になっていた〜
シュミ
第一章
第1話 転生と入学
僕の前世はどこにでもいる普通の高校生だった。厨二病が抜けきれてなかった黒歴史製造機だった覚えもあるが少し記憶が曖昧だ。
車に轢かれそうになっていた子供を助けて僕は身代わりになって死んだ。
次に目が覚めた時、僕は目を丸くして驚いたさ。だって周囲は魔力で満ちていたんだから。この世界の文明は中世のヨーロッパくらい、よくある異世界転生というやつだ。
僕の家は貴族で15歳になった僕は王都にあるアルカディア魔法士学園に今日、入学する事になった。
魔法士とは魔法を用いて戦う騎士のことだ。魔法のみを使う、魔術師と魔法で強化した武器を使う、魔剣士の二つがある。魔法との相性でどっちになるかを決めるのだ。
ここかな───。
まるでお城みたいだ。ここアルカディア学園は王都で一番有名な学園で生徒数1000人以上、元騎士団所属の先生たちが最高峰の授業を提供しているという。
入学式の会場である稽古場に僕は向かった。室内は体育館とあまり変わらない、木造の大きな建物だ。
「劣等生の君は右に並べ」
受付のおじさん教師が僕にそんな事を言ってきた。
劣等生か………。僕はこの学園でそう扱われるらしい。
劣等生にされるものは皆、何かが普通生徒よりも大幅に劣っていたり、かけていたりするのだ。当然、普通生徒よりも弱い。確かに僕は空間魔法以外使えない。魔力を持っていれば簡単に使える身体強化すら使えないのだ。
この学園には制服が存在する。僕もその制服をきて登校している。だが劣等生には普通生徒にあるはずの校章が渡されないのだ。金色に輝いた丸いバッチ、この学園の生徒として認められた事を表している。
劣等生は半分認めてない、と学園から言われているようなものだ。
僕は言われた通り、右側の列に並んだ。
普通生徒からは馬鹿にしたような笑みを向けられている。完全に僕らを舐めているようだ。
でもそんなことがどうでも良くなるくらい僕は学園生活がものすごく楽しみなのだ。劣等生扱いされているからこそなのだろう。
前世の僕にはある夢があった。弱いと思っていたやつが実は強かった、そんなムーブをしてみたいなんていう幼稚な夢だ。でも僕はそれを真剣に考えた時期があった。でもそれを始めるシュチュエーションに遭遇することなくして僕は死んでしまった。でも今そのシュチュエーションに出会える大きなチャンスが到来している。何てったって僕は劣等生なんだから。
そんな感じでこれからのことを想像しているといつの間にか始業式が始まっていた。
「学園長のガウス・オルフェイスだ───」
真っ白な髪に眼鏡をかけた、穏やかそうなおじいさん。
やっぱ学園長とかってこう言うおじさんが多いのかな。
「まずこの学園に入学した普通生徒諸君おめでとう───」
それから学園長は普通生徒たちに優秀な魔法士にすると約束しよう、的な事を言っていた。つまり劣等生はそうではない、と宣言したと言うことだ。
「新入生代表挨拶。新入生代表、シエナ・アルカディア」
癖のない亜麻色の髪を背中の中ほどまで伸ばし、大きな瞳は少し鋭い。そんな少女、いや美少女が出てきた。
「すべての新入生を代表し私、シエナ・アルカディアが───」
アルカディアって学園と同じだ。王都の学園だし、あの子が王女なのかな。それにしても美人だ。代表って事は彼女が一番強いって事なのかな?それとも王女だから?まぁどっちでも良いさ。
「劣等生だから普通生徒だからと言って壁を作らず───」
やっぱ軍学校って感じだ。みんな姿勢一つ崩さないし、欠伸もしない。それに王女さんは平和主義らしい。ほんとにあのムーブを始めるシュチュエーションに出会えるのか不安になってきた。
「───新入生代表、シエナ・アルカディア」
やっぱりどの世界も入学式の挨拶は長いらしい。
やっと入学式が終わり、自分のクラスに入り、席に着く。周りは全員劣等生だ。
前の席に座った男が15歳とは思えない体格をしており、思わずでかっ、と声に出してしまった。
「お前、後ろの席か?」
「う、うん」
その男は僕に話しかけてきた。
茶色の短髪に鋭い瞳、ヤクザにいても違和感ないくらいにムキムキな体。やばいやつに話しかけられたと僕は思った。
「名前なんて言うんだ?」
「シン・クロイセル。君は?」
「俺はオルト・アンドリューだ。これからよろしくな」
満面の笑みを浮かべるオルト。悪いやつではなさそうだ。
「よろしく」
※
初登校だったので授業とかはなくすぐに終わった。
しかも嬉しいことに僕が願っていたシュチュエーションに今、巡り合ったのだ。
後ろから来た男二人に僕は肩をぶつけられた。
「おい、何ぶつかってんだよ劣等生如きが」
そっちからぶつかってきたようなぁ。いや、そんな事よりもこのチャンスを逃してはいけない。
「す、すみません」
僕は深々と頭を下げた。
どうだ?弱そうに見えるだろ。本当僕は運がいい。黒髪黒目、見た目からしてモブA。ターゲットにされやすいんだろう。
「そんなことで許されると思ってんのかぁ?」
「金、出したら許してやってもいいんだぜ」
そんな事を言う二人の男。体格はオルト以下だが顔付きも言動もヤンキーというか、敵モブのそれだ。名前も知らないしB、Cと呼ぼう。
「お、お金ですか?」
「ああ、そう金だ」
僕はわざとらしくけつポケットを手で触れる。ちなみに何も入ってない。
「お、おおお金なんて持ってないです…………」
すると二人は不敵な笑みを浮かべた。
これはかかったんじゃないか?僕も笑みが浮かびそうになっていた。
「へぇー、それは大変だぁ」
「なら、ちょっと俺たちに付き合ってくれよな」
そうして僕はB、Cについて行くことにした。着いた先は分かり易い裏路地だ。
「それじゃあ───」
Bは腰にかけていた剣を抜き僕の方に向けた。
「───ひゃっ!?」
僕はモブっぽく驚き尻餅をついた。
今日配られたばかりの剣、当然真剣ではなく訓練用の切れないやつだ。でも切れないだけでしっかり硬くて頑丈。殴られたら相当痛いだろう。
「早く金出せよ。じゃなきゃわかってんだろうな」
僕は君たちに感謝したいよ。だって小さい頃からの夢を今、叶えられるんだから!
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