第14話 新天地へ
「単刀直入に言います。あのポーションは買い取れません」
「どうしてですか?」
「鑑定を担当したのは私なのですが……実はあのポーション、エリクサーなのです」
マイケルさんによると、ポーションの等級は効能によって四段階に分けられるそうだ。
四級のポーションは傷薬と同等の効能。
傷口の化膿を予防したり、殺菌する程度の効果しかない。
三級のポーションは自然回復力を高め、小さい裂傷であれば数分で塞がる効能を持つ。
二級では傷口を瞬時に完治させることができ、一級ともなれば千切れた体の部位さえ繋られる効能がある。
「コウスケさんのお持ちしたポーションを調べたところ、高い回復効果があることが分かりました。その効能は、失った部位を再生させる程です」
そう、例え驚異の回復効果を持つ一級ポーションでも、失った部位をゼロから再生することはできない。
つまり、白銀竜のポーションは一級ポーションの効能を大きく超えるということ。
過去には瀕死の人間を即座に回復させられるポーションや失った部位を再生させることのできるポーションが存在した。
そういったポーションは秘薬や霊薬と呼ばれていたが現在は製法が失伝しており、ダンジョンの宝箱で稀に見つかることでしか入手できない代物だそうだ。
「ダンジョンで見つかると言っても、数十年、あるいは数百年に1つ見つかるかどうか……というくらい希少な物です」
「……もし売ったらどうなりますか?」
「金貨一万枚は堅いですね」
「金貨一万枚……」
その金貨一万枚という数字も、オークションに出品した場合の最低落札価格だというのだから驚きだ。
……失敗したな。
回復ポーションなら一般的だと思ったけど、こんなことになるなら適当な装飾品でも売ればよかった。
現実味のない金額の話をしたせいか、無性に喉が渇く。
「そろそろか……」
「? ……⁉」
何だ?
視界が歪む。
息ができない。
「ようやく効き始めてきましたか」
「な……にを」
「困るんですよ、あんなものが世に出ると」
これは……毒?
まさか、飲み物に?
「どう……して……」
「どうして? やはり分かっていない。効きすぎる薬というのは多くの命を奪う毒にもなるのですよ。アレは貴方のような人間が持っていていい代物じゃない」
その時だった。
応接室のドアが勢いよく開かれ、鎧に身を包んた集団が雪崩れ込んでくる。
「牢に連れていけ。そこで尋問する。それと、相手は魔法使いだ。魔封じの鎖に繋ぐことを忘れるな」
――まったく、世話の焼ける
「獣の本質は欲望と殺戮。ヒトの中には、己を律することのできない愚か者共も多く在る。それを知る良い機会になっただろう?」
今まで冒険者ギルドに居たはずだったが、気付けばそこは【絶望の虚】の第300階層だった。
優し気な表情をした白銀竜が俺を迎える。
白銀竜が俺に向けて手をかざすと、めまいや体の痺れが嘘のように消えた。
「ありがとう、助かった」
「礼には及ばない。ただ、疑うことを忘れるな。ヒトには善人も在れば悪人も在る。それは貴殿の美点であり、弱点でもある」
多分、白銀竜は遅かれ早かれ俺が失敗することを予期していたんだろう。
「お前もだぞ、ノア」
白銀竜が魔法で俺のバッグの中からノアを引っ張り出す。
ノアはぐっすり眠っていたようだが、引っ張り出されたことで目が覚めた様だ。
「……?」
「ノアよ、お主ももう少し幸助の事を気にかけてやれ」
「……??」
寝起きで状況を読めていない様子のノアだったが、事の詳細を白銀竜から聞いているうちに、次第に怒りを露わにしていく。
「……!!」
「よせ、それは幸助も望むところではないだろう」
「……! ……!!」
確かに、私もあの場所を潰してやりたくはなったが……」
「……」
何やら物騒なワードが白銀竜から聞こえてくる。
「……止めてくれ」
「冗談だ」
冗談に聞こえない。
それにしても、俺もつくづく運が無い。
転生場所はダンジョンのど真ん中だし、初めて行った冒険者ギルドでは拉致られかけるし。
そういえば、白銀竜から貰ったポーションは取られたままだった。
あとで謝ろう。
前世もだったけど、人との関わりにはほとほと嫌になる。
「堪えた様だな」
「ああ、しばらく人は勘弁だ」
俺が答えると、白銀竜は楽し気に笑う。
そんなに笑わなくてもいいだろう?
「はぁ、どこか人里は離れた場所で暮らしたい……」
「それならばお誂え向きの場所があるぞ」
「どんな場所?」
「ここより西方に位置する、緑豊かな森だ……ちょうど良い。久々に外へ出ようと考えていた所だ。私と来るか?」
白銀竜が手を差し伸べる。
確かに、この誘いは俺にとって魅力的だ。
静かな森でスローライフ……魔法もあることだし、いいかもしれない。
「どうだ、ノア?」
「……!」
「そうか、賛成か」
「決まったか?」
「ああ、俺たちをその森に連れて行ってくれるか?」
「了承した」
白銀竜は俺たちを魔法で浮かせると、背中に乗せた。
すると再び景色が切り替わる。
「ここは?」
「地上だ。丁度、ダンジョンの真上になる」
白銀竜の背から身を乗り出すと、地上には小さく迷宮都市の町並みが広がっていた。
そして、町の中央には不気味な昏い穴がぽっかりと口を開いている。
あれがダンジョン【絶望の虚】への入口なのだろう。
「目的の森まで、どれくらいかかる?」
「一晩だ。その間、私の背で眠ると良い。疲れただろう」
「お言葉に甘えさせてもらうよ」
目指すのは東。
沈む夕日を背に白銀竜は翼を羽ばたかせた。
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