第13話 エリクサー


 ポーションにどれくらいの値が付くのか期待に胸を膨らませていると、受付さんが戻ってきた。


「どうでしたか?」

「申し訳ありません。実は――」


 どうやら専門の職員が価格の査定ができないようで、別の【鑑定】のスキルを持つ人間を呼んでいるようだ。


 受付さん曰く、アイテムのレアリティが高い場合、【鑑定】のスキルの結果が出るまでに時間が掛かったり、そもそも判断できないケースがあるとのこと。


 多分だけど、鑑定をしようとした人の技能かレベルが足りないのだと思う。


 俺の【鑑定】はフェイトさんから転生特典で貰ったものなので、白銀竜みたいな例外でもなければ、相手のレベルやアイテムのレアリティに関係なく視ることができる。


 ただ、この世界の人の場合、経験やレベルによって鑑定できる相手やアイテムに制限があるのだろう。


 結果が出るまで別の部屋で待っていて欲しいということなので、受付さんに案内されて移動する。


「この迷宮都市でも、鑑定に時間のかかるアイテムは滅多に出ないんです」

「やはり、深い階層のアイテムほど鑑定できないんですか?」

「そうですね。稀に浅い階層で入手したアイテムが高値で取引されるケースもありますが、階層の深さとアイテムの希少性は比例します」


 過去、迷宮から持ち帰られた中で付けられた最高額が、第47階層の宝箱から見つかったミスリルの剣らしい。


 ミスリル剣は振るうことで炎の斬撃を放つことのできるエンチャントがかけられていて、この国の王都で行われたオークションで金貨4000枚で落札されたらしい。


 ……それ、持ってるんだけど。


 しかも、完全上位互換のアダマンタイトでできたやつ。


 ダンジョンの第199階層にもなれば、見つかる宝箱の中にある物はマジックアイテムや何らかの魔法効果が付与されたアイテムばかりだった。


 というか、普通にスケルトンが装備している武具にもエンチャントが掛かっていた。


 第199階層で普通に見つかる剣の下位互換が金貨4000枚なら、白銀竜から貰った適当な宝飾品でも金貨1000枚くらいの値段で売却できたかもしれない。


 そんなことを考えていると、ギルドの奥にある部屋に通される。


「こちらでお待ちください。担当の者を呼んで参ります」


 通されたのは応接室のようだ。


 途中、出されたお茶をいただきながら、調度品を眺めて暇を潰す。


 壁には剣や盾、魔物の首のはく製といった物が飾られていて、異世界の冒険者ギルドらしさを感じる。


 そうして待つこと十数分。


 ようやく応接室のドアが開かれた。


「お待たせして申し訳ありません。ギルドマスターのマイケルです」

「! 幸助です」


 突然のトップの登場。


 それだけ、あのポーションの価値が高いということだろう。


 否応なしに期待が高まる。


「さて、本日は冒険者の登録でいらっしゃったとか?」

「はい、そうです」

「聞けば聖職者でもあるとか。ご存知かと思いますが、冒険者は腕っぷしで稼ぐ仕事です。どうしてこのような職に就こうと思われたのですか?」

「私は旅で各地を回っていまして、その過程でもっと色々な場所を見たいと思うようになったんです。冒険者なら、何かと都合がいいですから」


 しばらくの間、マイケルさんと雑談に興じる。


 何かしら聞かれるかもしれないと思い、ここに来るまでに考えておいたカバーストーリーが役に立った。


 旅の途中で行き着いたこの町で冒険者登録をすることに思い至ったという設定だ。


 この経歴なら、それほど不自然ではないだろう。


「巡礼、というやつですか?」

「そんなものです」

「この町のダンジョンにも行かれるご予定で?」

「はい、旅の疲れが取れたら見てみようと思います」


 【絶望の虚】は高難度ダンジョンとされているけれど、浅い場所では相応のレベルの魔物が出現するらしい。


 駆け出しでも、第5階層くらいまでなら潜れるとのことだ。


 というのも【絶望の虚】は、白銀竜が自分に並び立つ存在を育てるためのダンジョン。


 そのため、出現する魔物のレベルは厳密に管理していると本人は言っていた。


 ただし、ダンジョンは全300階層もあることから、攻略は並大抵のことではない。


 他のダンジョンを調べてみたら、深くても精々20階層ほどしかないらしいし。


「ほう、そうですか。……見たところ、武器らしい武器を持ってはいないようですが?」

「魔法を使って戦うので」

「あのポーションも、どこかのダンジョンで?」

「旅の途中で入ったダンジョンの宝箱の中で見つけました」


 まあ、嘘ではないだろう。


 白銀竜にポーションを見せてもらった時、あのポーションは箱に入っていたし。


 実際にダンジョンで見つけたポーションもあったけれど、とても売れるような効能ではなかった。


 若返りの薬なんてものを世に出したら、手に入れようとする人間によって血の雨が降りそうだし。


「そうですか……」

「?」


 マイケルさんは腕を組んでうつむいた。


 何かマズかっただろうか?


 白銀竜に聞いた話だと、ダンジョンは魔力が溜まるポイントで生まれたり消えたりするとのこと。


 それこそ、ダンジョンの支配者が居なければ宝箱のようなものは生成されないけれど、人間種にそれを見破ることは余程のことがない限り不可能だとお墨付きを貰ったのに。


 しばらくして、マイケルさんが口を開く。


「単刀直入に言います。あのポーションは買い取れません」

「どうしてですか?」

「鑑定を担当したのは私なのですが……実はあのポーション、エリクサーなのです」

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