第3話 混み合ったカフエの相席

 いやいや、無理だって。終わらないって。


 どうしてあの教授はいつも無茶振りしてくるのだろう。


 いつも課題をやるお気に入りのカフェで参考文献を積みながらパソコンのキーボードを叩いていく。


 教授が今日になって週明けのレポート増やしてきて、先に出てるレポートの期限も短くなってしまい


 終わる気が全くしない…。


 コーヒーを飲もうとカップを持ち上げたら軽かったので見てみるともう空だった。


 店員さんに注文しようと見渡したらいつも忙しそうにパソコンに齧り付いてるお兄さんを見つけた。


 今日は優雅にコーヒー飲んでるじゃないか。


 そうじゃなくて、私もコーヒー注文しなくちゃ。


 店員さんを呼び注文すれば店員さんは申し訳無さそうに、店内が混み合ってきたので相席していただいてもよろしいでしょうか?と聞いてきた


 4人席に堂々と1人で座っている私に断る理由はないな。


 大丈夫ですよ、と言うと店員さんはありがとうございます。とすぐに相席の人を案内してきた


 案内された人をちらっと見たら自分の母と変わらないくらいの女性だ。


 女性は斜め向かいの席に座れば早速コーヒーを注文していた。


 そしてこちらを見てニコッと微笑んでいき


「相席させてもらってごめんなさいね。」


 そう言われればパソコンから顔を上げ思わず苦笑いを浮かべ


「いえいえ、こんな混んでますし…私も4人席1人で使っちゃってますので。」


「お忙しそうね、お仕事?お勉強?」


「あー、勉強です…。大学のレポートが終わらなくて…」


 と言えば女性はまあまあと嬉しそうに手を口に当て


「大学生なの?偉いわねー、カフエでもお勉強なんて。」


「いやー?図書館の席争いに負けて、せめてお気に入りのカフェでやってやるって思っただけで偉くはないですよ。」


「そんなことないわ、お気に入りのカフェでくつろぎたいだろうにお勉強してて偉いわよ。あ、私お邪魔じゃない?」


「邪魔なんてそんな!大丈夫ですよ。」


 そう言えば女性は安心したようにあぁ、よかったと言えば丁度女性の頼んでいたコーヒーと私のおかわりのコーヒーが運ばれてきた。


「相席になってこんなこと聞くの図々しいと思うのだけど、大学ってどんなところ?」


 コーヒーを一口飲めば女性に問われると思わず聞き返してしまった。


「どんなところ、とは?」


「いやね、私高校までしか出てなくてすぐ家庭に入ったから大学はどんな授業するのかどんな教室なのかとか知らなくて。」


 おほほと上品に笑いながら話してくれる女性


 そういうことか、と思えばパソコンを操作し自分の大学のホームページを出して写真などを女性に見せていき


「私が通っているのはここです。」


「あらあら、綺麗な校舎!教室も大きいのね。」


「校舎は築年数あるそうですが、教室は新しい棟もできてここは500人は入るそうです。」


 自分の通い慣れた大学のホームページを操作していき、校舎や教室やカリキュラムを見せていけば少し新鮮にも思えた。


 こんな風にホームページ見るのは大学受験しようと決めてここに通いたいと毎日ホームページ見ていた時以来だ。


「いろんな学部があるのね、心理学部に文学部…経済学部に教育学部も。本当にすごいわね。」


 女性は楽しそうに学部紹介の書かれているページを見ている。


「そうですね、学部もそれなりにあって教師陣もいい人達の大学です。」


「ねえ、大学は楽しい?」


 そんな質問オープンキャンパスの手伝いをしている時くらいしか聞かれないので思わずうーん、と声を上げるも最後には頷いていき


「楽しいですよ、授業の課題すごいし学食で席取り負けたりしますけど…先輩に教えてもらったり、学びたいこと学べるのが幸せですね。」


「いいわねー、私も大学行こうと思って今いろいろ情報集めているのよ。」


「大学に?」


 聞き返すと女性は嬉しそうに頷けばスマホを操作してとある大学の入試情報を見せてもらうとシニア枠というのがあった。


「ここはシニア枠だけどね、社会人枠も割りとあるのよ。さっき家庭に入るの早かったって言ったじゃない?夫は会社に、外に世界があるけども私は家庭だけだったから…最近ボーッとしてしまってね。そんな時に息子が帰ってきた時に大学の話を聞いたの。」


 学ぶのに年齢制限はないよ、母さん。


 と言っていろんな大学のパンフレットを持って帰ってきてくれてどんな学部があるのかとか教えてくれたとか


 羨ましい位にいい息子さんだな。


「だから、オープンキャンパスですっけ?そういうのも行ったりして行きたい大学を探している最中なの。ねえ、大学の先輩として聞きたいことあるんだけどもいい?」


「はい、なんでしょう?」


 大学の雰囲気とか聞かれるのかな、とか思っていたら


「お姉さんは夢とかあるの?大学はどうして通っているの?」


「私は…。」


 真っ直ぐな瞳で聞かれて一瞬詰まるものの、夢はある。


「私は、高校や中学とかの心理カウンセラーになりたいんです。高校の時に通うのがしんどいなって思ったことがあってその時に高校在中の心理カウンセラーの方にお世話になったのでいつかそんな風になりたいなって。」


「じゃあ、心理学部なの?」


「はい、でも他学部の講義も取れたりするんで英語とかも学んでます。」


「素敵ねー!夢があって大学に通っているってかっこいいわ!」


 そうだよ、私には高校の時に叶えたいと思った夢があるんだ。


 だから就職の時に有利な資格が学べる講義を取ったり先輩からアドバイス聞いたりしたんだ。


 この今やっているレポートもその講義のものだし…。


「きっと素敵な心理カウンセラーさんになるわよ。」


 言い切ってくれた女性に思わず尋ねてしまった。


「それはどうしてそう思ったんですか?」


「だって、私がいきなり大学の話聞きたいって言っても嫌な顔せずに教えてくれるし夢を話す時真剣な顔だったもの。頑張って勉強しているんだなって分かるわ、その本達も丁寧に使ってもらってるのね。」


 そう言って指さしてきたのはテーブルに置いていた参考文献たちだ、図書館で貸出をしているとも聞いたが読み込みたくて自分で買って付箋とか貼ったりしている本たち


 そっか、私やりたいことあって大学に行ってるんだよね。


「私、もっと頑張ります。最近課題に追われててなんで大学通ってるんだろうとか思ったんですけど…こうやってお喋りしてくれたおかげで自分のこと思い出せました。」


 女性はニコニコと笑いながらもそれはよかったわ、と言いコーヒーを飲んでいた。


 今はもう少しこの女性とお話したいな。


 課題は家で頑張ろう。


 目標を思い出せたんだからきっと大丈夫だ。


 家で課題終わったらおじいちゃんに最近ハマっている飴も教えてあげなきゃ。


 なんだかワクワクしてきた。


 これからの自分はまだ未知数だけど楽しもう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隣、いいかな? 埜田 椛 @riku_momiji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ