第2話 河原の土手

 あーぁ、やっちまったな。


 土手の河原に寝転び天を仰いだ。


 土手に来ること自体久しぶりなんだが


 電車から見えて思わず降りて思わず来てしまった。


 犬の散歩してる人やランニングしている人、さっき電車が同じだった女子高生も帰宅途中なのか歩いている。


 俺だって会社に戻らなきゃいけない。


 だけど、戻りたくねえ。


 今日営業先からプレゼンの結果を貰う日だった。


 一緒にプレゼンをしていた会社は業界内でもよく話を聞く会社だった。


 とはいえ、俺もこのプロジェクトに半年かけて挑んだから自信はあった。


 だからこそ、ショックだった。


 俺のより一緒にプレゼンした会社のが選ばれた。


 それも理由が


「知名度あるからって…なんだよ、それ」


 プレゼンの良し悪しじゃなくて


 会社の知名度で決めるって


 どういうこと。


 と営業先から会社に帰る道中魂が抜けたように電車に乗っていた。


 そこの窓から土手が見え電車降りて今現在に至る。


「もうやる気起きねえよ…。」


 疲れた


 その一言に尽きる。


 自然と瞼は閉じていった


 人々が歩く音が聞こえる。


 草を踏む足音が近くなってきた。


 その足音は隣で止まればバンバンとあまり痛くない衝撃音が


 目を開ければ買い物してきたのか食材を詰め込んだエコバックを持っている小学生くらいの男の子が


「あ、生きてた!」


「いや、生きてるわ。なに?なんか俺に用?」


 そう聞けば男の子は隣に座っていき、エコバックから板チョコを取り出した


「用とかないよ、だけどスーツの人が河原に落ちてるから事件なのかなって…。」


「どこでそんな知識得るんだよ。」


「ばあちゃんが見てるドラマ!」


「残念ながらドラマみたいな事件性はねえよ。」


「ふーん、そっか。ぼくチョコ食べるけどおじさんもいる?」


 お、おじさん…。


 いや、小学生から見れば俺はおじさんなのかもしれない。


 だが、直球で言われることがないから思わずショックを受けてしまった。


 だって、俺まだ24だもん…。


「おにいちゃんはいらないわ。」


 よし、ここでおにいちゃんと言えばきっとこの子も直してくれるだろう。


「じゃあ、ぼくだけ食べよう。おじさんはここでなにしてたの?」


 直らねえ!!


 あ、これ俺おじさんのままだわ…。諦めよう。


 男の子は板チョコを開ければ銀紙の上から半分に折って、丁寧に開けて食べていく。


「ちょっと人生について考え事をな…。」


「さぼりじゃなくて?」


「そうとも言うんだが…。」


「仕事行かなくていいの?それともクビってやつ?」


「だからどこでそんなこと覚えるんだよ。」


「ネット配信!」


「今の小学生怖ぇ…。」


 起き上がりスーツに付いた草を取っていくのを小学生はじっと見てくる。


「なんか珍しいか?」


「スーツってかっこいいよね!!」


 脈絡ねえな。


 とか思っていたら小学生は語り始めた。


「ドラマとかでもさ、デキる男って人はみんなスーツビシッと着こなしててさ、すっげぇかっこよくて!ぼくのお父さんスーツ着ないからあんまり見ないし!町中でもさ、スーツで電話しながら歩いてる人見てかっこいいなって思って!ぼくも将来スーツ着て仕事するんだ!」


 チョコを膝の上に載せて身振り手振り小さい手をぶんぶん振り回しながら楽しそうに話していく小学生


「そんないいもんじゃねえぞ、仕事って。やっても報われねえし、しんどいし疲れるし。」


 思わず鼻で笑いながら愚痴をこぼしてしまった。


 小学生は一瞬キョトンとするもすぐにハッと気付きもしかして…と


「おじさん、窓際おじさんってやつ…?」


「違えわ!それもネットか?ドラマか!?」


「どっちも!!」


「どっちもかよ!おにいちゃんはな、さっきまででけえ仕事してめちゃくちゃ頑張ってきたのにその仕事じゃダメですーって言われたんだよ。」


 俺ってば何言ってんだか、小学生相手に…。


 小学生は食べかけていたチョコを食べながらも


「でも、おじさんはすっごく頑張ったんでしょ?ぼくみたいな子どもに言うくらい。」


「あぁ、そりゃもうすっげぇ頑張ったぞ?終電まで仕事して必死に資料作って発表の準備して…」


「じゃあ、いいじゃん!」


「は?」


 小学生はチョコが食べ終わったのか立ち上がると俺の目の前に立ちキラキラとした瞳で


「おじさんはそのお仕事すっごく頑張ったんだから、おじさんのスキルってやつは磨かれてるよ!ゲームもスキル磨かないと強くなれないし、おじさんは強くなるために頑張ったんだから!」


 スキル?スキルって…


「そんなゲームみたいな…。」


「それに、おじさんさっきまで寝転んでたけどスーツすっごい大事にしてるでしょ?ネクタイのピンも綺麗だし、靴も綺麗だし。」


「そりゃ、まぁ…仕事道具だし。」


「道具を大事にするってスキル磨くのと一緒だよ!おじさんみたいな人が仕事デキる男って言うと思うんだ!」


 なんなんだ、この小学生は。


 なんでこんな手放しに知らねえ男を褒めてくれるんだ。


 そりゃスーツもネクタイも靴も全部大事にしてるさ。


 商品売り込むなら綺麗な格好じゃねえとかっこよくねえから。


 そんなことを思っていれば小学生は両手を大きく広げて


「おじさん、見た感じまだ若そうだし大丈夫だよ!もっとスキル磨いてかっこよくなっておじさんの仕事ダメって言ってきた人達見返してやろうよ!!」


 そう言って戦隊モノみたいにポーズをビシッときめていく小学生


 思わずそれを見てブハッと笑ってしまった。


「そっか、俺まだまだ大丈夫か。」


「大丈夫だよ!絶対に!」


「そっかー。なんか元気出たわ。」


「じゃあ、もうひと押し!このチョコあげる!」


 そう言って渡してきたのはさっきまで食べていたチョコの半分だ。


「安心して、直で食べてないからおじさんも食べられるよ!」


「へーへー、ご心配ありがとうな。」


 小学生は満足したのかふふん、と言いエコバッグを持ち直していき


「さて、ぼくは帰るよ。今日の夕飯の材料買いに行ってたからお母さん待ってるだろうし。」


「おつかいの最中にサボりかよ。」


「休憩だよ、おじさんも休憩してたじゃん。」


「そうだな、同じか。俺も行くかな。」


 立ち上がれば尻についた草を払っていき鞄を持ち直した


「じゃあ、頑張ってね!」


「おー、そっちもおつかい残り頑張れよ。」


「またねー!!また土手にいたら話しかけるからねー!!」


 そう言えばそそくさと小学生は土手を登れば走って帰っていった。


「さてと…、俺も会社に戻るかな。」


 小学生から貰ったチョコは会社でおやつにでもするか。


 スーツのポケットに入れれば駅へと向かって行く最中改めて気合を入れる為に頬を軽く叩いた。


 仕事デキる男になってやるからな、次会った時に自慢してやろう。

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