第14話

 俺は、神様を押しのけて走り出していた。


 自分が馬鹿だと、何度も何度も思う。

 変えられるのは、自分の人生だけだったのだ。

 俺が行かないと選択した未来は、美咲にとっては『智也と行くはずだったお祭り』が『母親と一緒に行ったお祭り』に変わっただけ。


 もっと細かくあの時に願っていれば、こうはならなかったはずだ。

 何度も転びそうになりながら、俺はお祭りの会場となっている神社へと走る。


 変わらない。

 その言葉が、頭を過ぎる。

 必死に振り払うが、まるで呪いのように頭から離れない。


 俺はきっと泣きながら走っていた。

 視界がぼやけるが、構わない。

 赤信号も人も、何もかもを押しのけて、俺は追いつこうと走った。


 道の先に、何度もみた親子の後ろ姿がみえる。

 追いついた。

 そう思った俺は、もう声にならない叫び声をあげていた。


 そこで突然、世界が止まった。

 奇妙なものをみるような目線を送るおばさんも、俺の奇声に驚いた野良猫も、車も、風さえも止まっている。


 俺自身も指ひとつ動かせない状態で、固まってしまった。

 ただ意識ははっきりしていて、目線は動かすことができる。

「何をしようとしているのですか?」

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 声の方に目線を向けると、赤ん坊の時にみた神様が立っていた。

 あの時と同じ、優しい口調だが、その声色には怒気が含まれている。


(美咲を止めるんだ)

 俺が今、しゃべろうとした言葉が、頭の中で反響する。

 口が動かせない、声が出せないのだ。

 ただ、神様には俺の頭の中もお見通しらしい。


「それはいけません」

 子供を嗜めるように、神様は言った。

(なんでだよ!?)

運命さだめだからです」

 神様からの死刑宣告がくだった。

 きっと、あの死神もずっとこの言葉を言えなかったのだ。


運命さだめってなんだよ!なんでもう決めてんだよ!!)

 決めつける神様に、怒りを覚えた。

「彼女の運命さだめです。あなたには関係のないことです」

(関係なくなんかねーよ!!!俺はこの過去をかけるために戻ってきたんだ!!)

 全身全霊をかけて体を動かそうともがくが、ぴくりとも体は動かない。

「あなたが変えられるのは、あなたの過去だけよ」

 そういうと神様は、手を俺の方にかざした。

 あの白い光が広がっていく。

(やめろ!!待ってくれ!!頼む!!)

 俺はまるで物語のやられ役のような言葉を頭の中で叫ぶが、神様はまったく止まらない。

 あぁ嫌だ。

 ここが変えれないなら、父の未来も変えられない。

 人生をやり直した意味が、まったくなかった。


 俺は、絶望した。

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