第13話
次の日、俺は1日仮病を使った。
頭が痛いと親に嘘を付き、体温計は床に擦り付けて摩擦熱で温度を調整し、見事夏風邪をひいた、という判定もらった。
まったく体調が悪くない俺は、自室のベッドで漫画を読んでいる。
ただ、内容は一切、頭に入ってこなかった。
時間がどんどん過ぎていき、日は傾き、街が赤く染まっていく。
もう祭りは始まっていた。
今日1日、死神とは一度も口を聞いていない。
彼女はずっと無表情で、部屋の隅に立っていた。
「なんだよ」
死神に話しかけた。
昨日からずっと何か言いたげなのだ。
死神の冷めた目。
その目は、この世界で生まれ変わった後では、ほとんど見せることがなかったモノだ。
あの日、一人残された世界で、神様だった死神と対峙した時に見せた目に近い。
「あのさ」
死神が口を開いたが、次の言葉を聞く前に母が部屋に入ってきた。
「体調はどう?」
母は優しい。
こんな仮病を使っている息子を、本気で心配してくれている。
買い物から帰ってきた母が、そのまま俺の部屋にやってきたのだ。
手には少し緩くなったスポーツドリンクを持っていて、ベッドに寝転ぶ俺の枕元に置いてくれる。
「智也。美咲ちゃんと喧嘩したの?」
そう聞いてくる母に、俺は驚いた。
言葉にならず、目を見開いて母をみる。
母は気にせず、買い物の帰り道で、母親と一緒に歩いている美咲と会ったことを話し始めた。
母親同士は挨拶を交わし、落ち込んでいる美咲が気になって理由を聞いてみると、ぽつりぽつりと昨日の俺とのやりとりの話をしてくれたそうだ。
美咲が、理由はわからないけど、智也を怒らせてしまったと言っていたこと。
お祭りに一緒に行かない、って俺が言ったこと。
母はここまで聞いて、我が子の理不尽さに理解ができなかったそうだが、美咲はきっと自分が何か気に触ることをしたんだ、と言っていたそうだ。
そして母はそんな美咲に、これからどこにいくのかを尋ねて、俺をそこに向かわせると約束して帰ってきた、と。
俺は、その母の言葉を聞きつつ、目は死神をみていた。
目を見開いて、死神を睨みつける。
死神は初めて俺から目線を逸らして、俯いている。
美咲は、母親と一緒に、美咲の父が参加しているお祭りに向かっているのだ。
本来であれば、俺が一緒にいくはずだったお祭りに。
どうして。
その言葉が頭を反芻する。
心臓の鼓動が早くなる。
動悸がおかしい。
固まっている俺に、死神がやっと口を開いた。
「あんたの願いは、自分の人生のやり直しだ。彼女の人生じゃない」
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