第6話

 相変わらず、家でゴロゴロしていた。

 外の気温は38度。

 昼を過ぎて太陽は一番高くにあり、容赦のない日差しが差し込んでいる。

 アスファルトからは陽炎が立ち上り、瓦屋根に水滴を落とせばすぐさま蒸発してしまいそうだ。

 その気になれば、瓦で目玉焼きができてしまうのではないか。


 自室の簡易ベッドで、一人暮らしのワンルームに持っていけなかった漫画を読みながら、夕立でも降らないかな、なんてぼんやり考えていると、全力で階段を駆け上がる足音が聞こえてくる。


 部屋に入ってきたのはタロウだ。

 ワンワンと要求吠えをながら、やたらとまとわりついてくる。

 暑苦しい。

 柴犬の少し短くて硬い毛が、半袖半ズボンから露出する肌に刺さる。

 こんな毛で覆われているのに、よくこの暑さで動き回れるな、と感心してしまう。


「兄さん、タロウを散歩に連れてってあげてよ」

 開いたままの扉口で、美月が言った。

「まだ暑いからやだよ」

 まとわりつくタロウを抱き上げて、俺はベッドの上に座り直した。


「久しぶりに帰ってきて、タロウがはしゃいじゃって大変なんだから」

 だからタロウのハッスルを発散させてあげてよ、と妹は言った。

「てか、おまえタロウを家にあげたらだめだろ……」

 怒られるぞ、と言おうとして、誰に?という疑問が頭をよぎった。

「なんで?足もちゃんと拭いたし、お風呂も入ってるから綺麗よ」

 美月は首を傾げる。

「兄さんがダメだって言ったら、控えるけど」

「いや、ダメじゃない」

 つぶらな瞳のタロウと、目があった。


 タロウの部屋は、庭にあった。

 木作りのワンルーム。

 四角く囲った木の板に、三角形の屋根をつけて完成させた子供の頃の力作だ。


 屋根は赤く、壁は白い塗料を塗ったが、色にムラがあったり濡れていなかったりする箇所があったりと、完璧とは程遠い。

 しかし、作られていく工程を隣で邪魔をしつつもみていたタロウは、そこがタロウのお気に入りの家だった。

 庭を駆け回り、疲れたら自分の小屋に戻って眠る。

 だから、滅多に家の中に入ってる時はない。

 台風や大雪が降ったりした時ぐらいで、生活の境界線は分けていたはずだった。


「じゃあ、いいじゃない」

 美月はそういうと。

「散歩に連れて行ってあげてね」

 と言って、部屋の前から去っていった。

 相変わらず、つぶらな、期待しかこもっていない瞳で、タロウは俺を見つめている。

「わかったよ、準備するからちょっと待ってろ」

 そう言うとタロウはワン!と嬉しそうに吠えた。

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