第7章 交差する虹の下で(7-1)

 梅雨が明け、毎日三十度を超える暑さが続いていた。

 空はまぶしく、この世は蝉の声に満ちていた。

 試験も終わって、あと一週間で夏休みだった。

 あまり良くない結果だったけど、幸い赤点はなくて、夏期補習や追加課題とは無縁の夏休みを迎えることになった。

 とはいえ、部活もバイトもやっていないオレにしてみれば、空白の日々がやってくるだけで、あまりうれしいことでもない。

 一人暮らしなのに牛一頭分の焼き肉セットをプレゼントされたようなもので、正直手に余る。

 できることなら、本当に忙しい人に休みを分けてあげたいくらいだ。

 弟のいなくなった中学の時から、オレの夏休みはずっと空っぽだった。

 地味な街歩きでもすればいいじゃないかと言われても、この暑さでは、観光地でもない住宅街をあてもなくさまよい歩いていたら、汗まみれの不審者として警察に通報されるのはもちろん、熱中症患者と間違われて救急車を呼ばれたりして、世間に迷惑をかけることになる。

 せめて彼女と一緒なら……。

 何度そう思ったことか。

 だけど、あの日以来、彼女とは会っていない。

 駅のホームでも、いつもの車両でも、オレは彼女を待っていたけど、会えなかった。

 学校にも彼女はいなかった。

 あいかわらず男子連中の噂にもならなかったし、休み時間になるたびに何度廊下を往復してみても彼女を見つけることはできなかった。

 しまいには、ちょっとおかしいやつとオレの方が噂されるようになっていた。

 やっぱり夢か幻だったんじゃないか。

 そもそもあの日――デートの記憶は最初からあやふやだった。

 ついさっきまで見ていた虹がいつの間にか消えてしまったかのように。

 あんなに鮮やかだった色も、くっきりとしたアーチも、そこにあったはずなのに……。

 本当にオレは彼女と――キスをしたんだろうか。

 目を閉じていたオレには分からない。

 いや、本当にそうだったのか。

 まるで確信が持てない。

 それはつまり経験のなさによるものだから、もはや確かめる方法もなかったし、あの不思議な感触を思い出そうとすればするほどかすんでしまいそうで、オレは記憶をたどるのを恐れていた。

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