(3-5)


   ◇


 オレは学校であのゆるふわ女子を探していた。

 一年生であることは間違いないから簡単かというと、そう単純ではない。

 うちの学校は三つの高校を統合したマンモス校なので、一学年だけで十二クラスあるのだ。

 教室移動の時に遠回りして別の階の廊下をふらついてみても、それらしい女子は見当たらない。

 あんなわかりやすい美人だ。

 遠くからでも見つけられそうなのに、ピンとくる気配すらない。

 廊下ですれ違う女子グループを目で追っていると、舌打ちをされたり、気味悪がられることもあったけど、そんなことに構ってはいられなかった。

 オレの胸ポケットにはあの時もらったハートのエースが入っている。

 もし見つかったとして、どう話しかけたらいいのかは分からないけど、とりあえずこのトランプを返すというのは、口実の一つになるに違いない。

 だって、ハートのエースが足りないトランプじゃ、遊べないだろ。

 だけど、なかなか彼女は見つからなかった。

 休み時間になるたびに蒸し暑い廊下を汗を垂らしながらさまよい歩いていているうちに、もしかしたら看護科なのかもしれないと気がついた。

 入学して三ヶ月もたつのに男子連中の噂話でも聞いたことがないのも、それなら説明がつく。

 普通科とは校舎が別で、選択授業などでも合同クラスになることはないから、委員会や部活に参加していないと、全く交流がないのだ。

 ただそのため、オレのような帰宅部だと、登下校の時に看護科校舎の昇降口で待ち伏せするくらいしか出会う方法はなかった。

 だが、さすがにそれはまずいだろう。

 ストーカーとして通報されたら停学、最悪の場合、退学の可能性もある。

 いくらなんでもオレもそこまで冷静さを失うことはなかった。

 最後の望みで、昼休みに普通科第二校舎にある購買にパンを買いに来る生徒を見張ってみることにした。

 弁当持ちだったら終わりだが、飲み物を買いに来るかもしれない。

 ピロティの柱の陰で立ったままパンを食べるオレを不思議そうに眺めていく普通科女子達の視線に耐えながらオレは張り込みを続けた。

 と、昼休みの終わり頃だった。

 ジャージ姿の女子生徒が三人、看護科校舎と普通科第二校舎の間を通ってグラウンドの方へ歩いて行くのが見えた。

 オレは思わず柱の陰から一歩飛び出した。

 その一人は黒い髪を垂らした眼鏡女子だった。

 ――なんだ、この前電車で見かけた人じゃないか。

 なんで体が勝手に動いてしまったんだろう。

 全然人違いなのはわかりきっているのに。

 しかも、オレは片手を挙げていた。

 どう見ても、声をかけてあいさつしようとしていた格好にしか見えない。

 この前ぶつかりそうになってしまったお詫びを言おうとしたのか、自分でも分からない。

 眼鏡女子は一瞬こちらを見たけれど、髪で顔を隠すようにしながら足早に去ってしまった。

 あとの二人はオレにチラチラと視線を向けつつ、ニヤけた笑みを浮かべながら眼鏡女子を追いかけていった。

 たぶん、向こうもオレだと気づいていたと思う。

 だけど、お互いに何の関係もないわけで、話したいことなどあるわけもない。

 結局、オレは校内であの彼女に出会うことはできなかった。

 ――なのに、運命なんて皮肉なものだ。

 あきらめかけた途端、どういうわけか再会のチャンスはすぐに訪れた。

 土砂降りの雨が上がった放課後、虹と共に彼女は再び現れたのだ。

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