第8話 内田 健斗 という男
内田は、3人兄妹の長男として産まれ家族5人で暮らしていた。
下には妹が2人、どちらもわがままで手がかかり親は妹のことを大事にしていた。
内田が幼稚園に通う頃、ある違和感を感じる、同じことをしても妹は許されるのだ
わがままを言っても、やってはダメだと言われたことをしても、親に口ごたえをしても、基本何をしても許されそして大事にされていた。
しかし、内田は違った。妹と同じことをするとよく怒られた、妹と喧嘩をして泣かせると殴られ、夜更かしをすると怒鳴られ、口答えをすると胸ぐらを掴まれ持ち上げられた。
次第に内田は、何も話さなくなり常に親の言動に怯えるようになった。
家に居場所をなくした彼は、7歳になると小学校に通うようになった。内田は、小学校が好きだった。友達が多くいつも休み時間に一緒に遊んで、たまに休みの日は友達の家でゲームやサッカーなどをして遊んでいた。
そんな楽しい6年間が終わり、13歳になると中学校に入学した。しかし、それが原因で事件は起きた。
内田は、小学校からよく遊んでいた友達に誘われ同じ部活に入った。そこで初めて先輩というものに出会い、上下関係を知った。
しばらくして、同級生の部員が部活を辞めた。
彼は、「もう耐えられない」と言って辞めていった。
確かに部活は厳しかった、一番厳しいのは、先輩の1年に対してのあたりだった。
内田も厳しいとか辛いと思いながらも、普通のことだと思っていた。その感覚が問題だったのだ
1年目の夏のこと、放課後の部活もそろそろ終わりそうな頃、2年の部員が1年を集めた。
2年は、内田を名指しして他の1年に質問をした。
「こいつ、上手くなったと思うやつ挙手」
それを聞いて誰も手を上げなかった
「どうして上手くなってないかわかるやつ」
そう2年が聞くと、一番2年にヘコヘコしていた1年が答えた。
「真剣に取り組んでないからだと思います。」
それを聞いて2年は内田に聞いた
「お前真剣に取り組んでないんか?」
「い、いえ、、やってます」
そう答えるしか内田には無かった。実際サボっていたわけではない、ただ他の人より上手くなるのに時間がかかっただけだった。
しかし、他の1年が内田を攻撃し始めた。
「嘘つけ、この前練習もしないで休憩してただろ!」
「この前は、部活にも来ずに休んだだろ」
「応援の時の声も小さいよな?出してないんじゃないのか?」
そんな言葉が内田を襲っていた。
それを聞いて2年はさらに内田に追い討ちをかけた。
「おい、皆んなそう言ってるぞ?やっぱりサボってたんか?おい、どうなんや?おい?おい?おい?」
と何度も内田に「おい?」と言うたびボールを内田の体に打っていた。
内田は、ひたすら耐えていた。時間が経てば部活が終わる、そうなれば帰られる早く帰りたいとただ内田は耐えていた。
「なんで、何も答えんのんぞ?」
そう、2年は内田を追い詰めた。
「サボってなんかいません、、」
そう答えるので精一杯だった、内田は、誰かに意見を言うのが得意では無かった。
家で散々自分の意見を否定されてきたからである。
内田は本当にサボってなぞいなかった、休憩はみんなと同じ時間にしてた。つまり、言いがかりだった。
部活を休んだのは、予定があり親に帰るようにと言われていたからである。休む時は毎回顧問の先生に許可を取っていた。
声が小さいのは、周りに意見を否定されて自己肯定感があまりに低かったからである。
実際、内田は応援の時必死に声を出していた。しかし、声の出し方がわからずうまく出せていなかっただけだった。
しかし、それを言う事も誰かに理解してもらうことも出来ず、内田はひたすらに耐え続けていた。
そんな内田の姿を見て、2年は1年に命令をした。
「おい、こいつわかってないから順番にビンタしろ」
そう言うと一番ヘコヘコしていた1年が一番に内田を本気でビンタした。
その子は小学校からの同級生だった。
次にビンタをしたのは、幼稚園からの幼馴染
そして、最後は小学校から一番仲良くしていて、この部活に誘ってくれた友達がビンタした。
内田は、何が何だかわからなくなった。どうしてビンタされるのか?何故誰も助けてくれないのか?目の前の皆んなは友達だったんじゃないのか?
そんな事を考え頭がおかしくなりそうな時、2年が「ワンモアタイム」と1年に指示をし最初にビンタした1年が手を振りかざすのを見て内田は逃げた。
泣きながら何が何だかわからずただ本能に従って逃げた。
逃げている途中誰かが後ろから追いかけ内田の背中を殴った。
内田は、よろけながらもひたすら逃げ階段の手前で上がってきた顧問の先生にみつかり保護された。
そこからは、一気に話が進んだ。
関係部員への事情聴取、内田への事実確認、それらを終えて、後日部員とその親、そして内田を交えての再度の事実確認と会見と内田に対しての謝罪が放課後の学校で行われた。
あまりにも早く進んでいき内田は混乱していた。
内田は、ただ助かったとしか思っていなかった。だから、何故周りがこんなに慌てて色々動いているのか分からなかった。
何故なら、内田にとって学校でのことは普通だったからだ、殴られるのも、怒られるのも、否定されるのも、バカにされるのも傷つけられるのも、内田にとって当たり前だったからだ。
そんな内田がみんなが慌てている理由を理解したのは顧問の先生のある言葉だった。
「あなた、これはイジメよ?あなた、イジメられたいたのよ?」
その言葉を聞いて内田は、驚いた。
イジメ?それって、道徳でよく聞くあのイジメ?
それって、机に落書きされたり、物を隠されたり、人を死に追いやる、あのイジメ?
内田は、分からなくてなった。
仮にこれがイジメなら?こんなものがイジメなら、自分がいままで周りからされてきた事もイジメなのか?
親に妹との男女差別をされた事も、小学校で休み時間ジャンケンで負けてもないのに後出しとか言われ罰ゲームを毎回させられていたのも、変なあだ名で呼ばれてみんなに笑われていたのも、友達の家の犬毎回に追い回されているのを笑われながら見られていたのも、サッカーが毎回キーパーを押し付けられたのも、ゲームで負けてイラついている友達が自分を殴っていたのも?
全部イジメ?
小学科の友達は、自分を友達ではなく、道具と思っていたのか?
オモチャとしてみていたのか?
ネタにされていたのか?
だから、小学校の友達も、幼馴染も、一番仲が良くて親友と言っていたあいつも、2年生に言われてすぐビンタしたのか?
そうか、誰も友達じゃなかった、、誰も味方じゃなかった、誰も僕がどうなろうとどうでも良かったんだ、、
そう思った時、周りの全ての人達が信用できなくなった。
放課後の学校で開かれた会見と謝罪の時間も、誰がなにを言おうと内田は信用しなかった。
目の前で順番に、自分のした事とそれに対しての反省の言葉も、目の前に来て一人一人が謝っている姿も、全てが終わって親友だと言っていたやつが親の目の前で肩を組んできて「これからは、心を入れ替えて親友に戻れるようにします!」と言ってきたことも
なにも信用できなかった。
周りの教師も信用できなかった
会見が終わると次の日にはなにも無かったように皆んなに振る舞い、仲良くするよう言ってきた
内田は納得できなかった
だから、彼は周りと距離を取ったり拒絶したり、時に言い争いをしていた
その度に、教師は「なにしてるの?今度はあなたが加害者になるの?周りのみんなが歩み寄って来てるのに貴方だけいつまでも、そうやって突っぱねて何がしたいの?」と言ってもいた
誰も内田の気持ちを理解しようとしなかった、教師は学校でイジメがあった、だから適切に対処した
それが終われば問題解決、それで終わり
謝ったんだから、許すのは当然?
向こうは殴ってきた、悪口をいった、馬鹿にしてきた
それも、謝れば終わり?
こっちは、泣き寝入りしてそんな言葉だけのもので許してやらないといけないのか?
内田には理解できなかった
全員が敵に見えた、誰も信じれなくなった
だって誰も味方ではないから、誰も友達でなかったから、誰も僕のことなんてどうでも良かったのだから
昔、父親が海で話してきた事をそんな事を思っていた時思い出していた
父親と海のそばを歩きながら聞かされた話
「俺と母さんはデキ婚なんだ。本当は親達から結婚を反対されていた。でもお前ができた
周りは降ろせと言い、母さんは悩んでいたけど、周りの圧に負けて、お前の爺ちゃんと婆ちゃんと一緒に病院に降ろしに行ったんだ、でもお腹の中でお前がデカくなりすぎて、このまま降ろしたら2度と子供ができない体になるか、最悪死ぬって言われて諦めて帰ってきたんだ
周りもその話を聞いて仕方なく結婚を許してくれた。」
内田には、どうでも良い話だった
むしろ聞かない方が良かった内容だった
産むつもりでは無かったが、たまたま産まれた
産まなくてはならなくなったから産んだ
そう聞こえたからだ。
それを思い出した時内田は、ある答えに辿り着く
親が妹との男女差別をしていたの?仕方なく産んだ自分より、欲しくて産んだ妹の方が大事だったから
周りが自分をオモチャにしているわ?
産まれるはずでなかったのに産まれてきから
誰も大事にしてくれないのわ?
もともと価値がなかったから
内田は、中学1年の夏この事件で誰かを信じるのをやめた
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