第5話 井川家
契約を済まし、一度家に帰って荷物をまとめながら内田は不安に駆られていた。
本当に死んでしまうのだろうか?これから人の家に住む事になるが大丈夫なのか?
ただ、ひたすらに不安で気を抜けば過呼吸になりそうな中、必要な着替えと荷物をカバンに詰めてマンションの駐車場に向かった。
駐車場では、内田を勧誘したスーツの男が車の前で待っていた。
「荷物をお持ちします」
そう言い内田からカバンを受け取り、後ろの席のドアを開けて内田を車に乗せるとカバンを荷台に積みスーツの男は運転席に座った。
「もう忘れ物はございませんか?」
「はい」
内田の返事を聞くと、スーツの男は「それでは、井川家まで送ります。」と言いエンジンをかけた。
しばらく沈黙が続き、運転席からスーツの男が内田に話しかけてきた。
「あの、今更ですけど鈴木って言います。内田様の世話係を担当するようにと言われていますのでもし分からない事などがあればいつでもおっしゃってください!よろしくお願いします。」
「あ、こちらこそよろしくお願いします。、、
あの、僕は本当に1ヶ月後死ぬんでしょうか?」
「手術の予定通りならそうなりますね。
あの、こんなこと言っていいか分かりませんけど、、おめでとう御座います。」
内田は複雑な気持ちだった、確かに死にたいと願っていた。生きるのがずっと辛かった毎日が生き地獄だった。しかし、その人生が終わりに近づいていると思った時将来への不安は計り知れないもので現に内田の足はずっと震えていたのだった。
車の中は微妙な空気でいっぱいになり互いに何かを話すわけでもなく東京から高速にのり数十分後、神奈川県に入り高速を降りた。
そこからまたしばらく走りついに井川家に着いた。
内田は、家を見た時驚いた。家の周りには大きな塀がぐるっと囲み、入り口の鉄格子の門はとても大きかった。車が門の前に着くと自動で門が開き車は先に進んだ。門を入ってすぐ目の前には古い日本家屋とかに生えてそうな植木や松が植えてあり、門の外から中が見えないようになっていた。
車は門を入ってすぐ右に曲がり道なりに進むと広場に出た、大きな池や庭がありその先に洋風のまるで漫画に出てくる城のような家が建っていた。
2階建の大きなその家は、1階のベランダの先にバルコニーがあり白いテーブルと椅子が並び2階にも大きなベランダにテーブルと椅子があるのが見えた。
あそこで紅茶でも呑むのだろうか?と内田は思いながら、横に長く奥行きが全く想像出来ない家に圧倒されていた。
車は、玄関の前で止まり鈴木は車を降りて内田を車からおろしカバンを取りに行っている間、内田は玄関の装飾とデザインをただ眺めていた。
カバンをとってきた鈴木は「こちらです。」
と言い内田を先導をした。
玄関前の3段の階段を登りその先の木製のドアの取手を鈴木が握ると、「ピッ」っと音が鳴り鍵が開いた。
鈴木がドアを開け内田が中に入ると、3✖️4メートルほどの広さの玄関が広がりその先に大きな絵画が飾られその横にドアがあった。
靴を脱ぎそのドアを開けると広間があり目の前には豪華な階段、左右には廊下が続き手前には応接室やちょっとした居間があった。
「こちらに内田様の部屋があります。」
と言いながら鈴木は、階段を登った。
内田も鈴木の後に続いた。天井の豪華な照明を見ながらU字型の階段を登ると左右に廊下が伸びていた。
その廊下を左に進み突き当たりの部屋が内田の新しい部屋だった。
中は二十畳ほどの洋室で大きな窓とベッドが印象的な部屋だった。
家具やテレビ、電気のスイッチなどの説明を軽く内田にした後、カバンを部屋の真ん中の机に置き鈴木は部屋を出て行った。
内田は、カバンを開け持ってきた服や小物をタンスや引き出しにしまうと軽く部屋の中を見て周り椅子に座り軽くため息をついた。
これからどうなるのか、どうしていくべきなのか内田には全く想像ができず1人窓から外を見ていた。
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