第4話 井川 結衣
内田が突然現れた女の子に目を奪われいるとその子が内田の方を見て話し始めた
「初めまして、井川結衣(いかわ ゆい)といいます。
あの、、命を売ってくださいなんてこんなお願い急にして普通聞いてくれる人なんていないかもしれません。でも、私はどうしてもやりたい事があるんです!!
私もお父さんとお母さんの影響でピアノを弾いてるんですけど、いつかプロになってお父さんとお母さんと一緒に舞台でトリオを演奏してみたいんです。
でも、いまのままではもって2ヶ月くらいと言われるくらい病気が進んでしまっているんです、、なのでお願いします!私も出来ることなんでもします!!どうか私にその命譲ってください!!」
内田は、普通に聞いたらとても恐ろしいことをこんなに簡単に頼んでくる目の前の女の子に驚いていた。
そして、考えていた。
余命2ヶ月?そんなに末期の人がこんなに元気そうに立っていられるのだろうか?
もし仮に2ヶ月なら自分の命は1ヶ月あればいい方なのではないか?
目の前の女の子を救う為に余命をたった1ヶ月に出来るのだろうか?
第一それが正しいのか?いや、間違っていたとしても夢があって努力している子を無視してまで、何もかもから逃げて死のうとした自分を生かす価値があるのだろうか?
正しさなんて分からない、どうしたらいいかも分からない僕は、、僕はどうしたら?
「あの、内田さん?どうでしょうか?
よければ、報酬の話などしていきたいのですが?」
目の前の机の天板を見つめほぼパニックになりながら必死に考えている内田に対し、結衣の父親は話を無理やり進めようとしていた。
「あの、余命2ヶ月って本当なんですか?」
「はい。ガンの転移がひどく出来ればすぐにでも移植したい状態ですが、検査のこともありますし内田様の心の準備も必要でしょうので、早くても1ヶ月後を考えています。」
内田の質問に対し医者がそう答えた
「1ヶ月、、」
内田は、どうしたいのか分からなくなっていた。あんなに死にたがっていたのに実際その死が現実になろうとすると息もできないほどの恐怖が脳を支配していた。
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい
ただ、その言葉だけが彼を支配していた。
「あの、何かやり残した事とかありませんか?」
結衣の綺麗で女の子特有の高い声が内田に問いかけた。
「やり残した事?」
「そうです!行ってみたかった所とかやってみたかった事とか、食べてみたかった物とか、何かありませんか?」
やってみたかった事、そんな物は無い。そんなものが、目標があれば死のうとなんかしない。したい事はないが、そうだ、昔から欲しかった物があった。
「愛情が欲しいです。世界一の愛が欲しいです。」
内田の言葉に皆んな固まってしまった。愛が欲しいなんて、厨二病が言いそうな事である。つまり、痛い言葉。
どう反応したらいいか分からなかった。
初めに言葉を出したのは、結衣だった
「えっと、恋人が欲しいって事ですかね?」
「え、あそうですね?そうなりますかね?」
内田自身もよく分かっていなかった。しかし、あながち間違ってはいないと思い「そうだ」と答えた。
「わかりました。しかし、そうなるとどうしましょうか、、お相手がいりますよね、、」
内田の答えにみんな困っていた。何か解決策は無いかと考えるもの、他の案にしてもらえないかと考えるもの、そんなの無理だと諦めるもの。
少しの沈黙の後、井川光一が別の案にしてもらおうと話し始めるのと同時に結衣が話し出した。
「あの、恋人の役、、役っていうか?、私では、、ダメ、、ですよね?すいません!!忘れてください!」
「な、なに言ってるんだ結衣!いいんだ、ここはお父さん達が内田さんに納得してもら得るものを提示するから、そこまでしなくてもいいんだよ。」
「そうよ、結衣!あなたはなにも考えず病気を治す事だけ考えていればいいのよ?」
結衣の唐突な提案に、父親も母親も驚き必死に結衣をとめた
結衣の唐突な提案を聞いて内田も驚いていた。しかし、結衣は顔も芸能人の「広瀬すず」みたいに整っており、自分のためとは言え最適解を必死に考えてくれる優しさや、女の子らしい雰囲気が内田のタイプでもあった。
「あの、いいですよ?」
「え!?」
内田の言葉に井川家全員が反応した。
「いいって?どういう意味ですか?」
まず父親がやや焦りながら内田に聞いた。
「あ、、いや、その、恋人役の話、もし結衣さんがいいならお願いしたいです。」
流石に内田も父親と母親の前では、恋人になって欲しいとストレートには言えなかったが断られてもいいと思い勇気を振り絞って言った。
その言葉を聞いて父親は困った顔で話し始めた。
「いや、今のまなんというか、、勢いで言った事でして、申し訳ありません何か他に欲しい物とかございませんか?
夢を叶えるのに必要なお金は報酬とは別にお支払いいたしますので何なりとおっしゃってください!」
「でも、特にしたい事もありませんし、、」
金に反応しない内田に父親は食い下がった
「恋人が欲しいんですよね?演奏家ではありますが何人かご紹介出来る人が居ます。まずはそちらの人と食事でもしてみませんか?」
「ですが、、」
なかなか、首を縦に振らない内田に母親も説得を始めた。
「内田様、結衣は世間知らずなところもありますし、一人っ子というのもあって少々わがままでもあります。一度他の方ともお会いして決めませんか?」
ここまで止められると内田は、このまま言い続ければ諦められるのでわ?と考えるようになっていた。あんなに死にたがっていた男が目の前の死に負け生きようとしていたのだ。
「いえ、僕は結衣さんがいいです。」
内田の言葉と態度に我慢できなくなったきた父親がキレる直前、また結衣が話し始めた
「分かりました。こちらこそ宜しくお願いします!内田さん!」
結衣は必死に考えていた、ここで帰られるともうドナー候補の人に出会えるチャンスは無いかもしれないという事、父親や母親がなにを言い出すか分からないこと、そして目の前の男と義理とはいえ恋人として接する事が出来るかという事
この決断は、結衣の覚悟の末の答えだった。
「なにを言っているんだ結衣!」
「そうよ!結衣!お母さん達に任せて向こういってなさい!」
2人は、必死だったが結衣は折れなかった。
一度決めたら辞めない。確かに母親の言うとおりわがままである
結局、2人が結衣に折れ恋人として1ヶ月過ごすことを許可された。ここまでされると、内田も断るに断れなくなり流れに流されて報酬の事、手術までの流れの話をし、最後にこの事を外部へ漏らしたり逃げたりしないための監視を2人がするために、健康的な生活と健康維持そして、結衣との時間確保を名目に井川家に住むようにと要求して今回の契約は確定した。
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